はじめてAVのスカウトできたとき


渋谷のAV事務所

「田中さん、AVの事務所って知ってます?」
「AVのプロダクション?」

ある日、佐々木から聞かれる。
キャバクラのスカウトをするようになり、1ヶ月ほど経った頃だ。

ほとんど毎日、佐々木とは顔を合わせていた。
連れの高橋は「うまくいかない」と、すでに興味をなくしていた。

今までの仕事は年寄りと話すことが多かったので、若いコのノリは戸惑うことが多かった。

白い目、冷たい視線にもこたえた。
慣れるのに時間がかかった。

だがそれも、ある程度の線を越えると、断られるのは慣れてくるから不思議だ。

それにブローカーよりも気楽なこともあり、なんだか楽しくなってきた。

しかし、最初の1ヶ月は、稼ぎがなかなかついてこなかった。

「AVって、あのAV?」
「そうです。そのAVのプロダクションです」
「プロダクションってあるんだ」
「以前からの知り合いのマネージャーが、女のコいませんかと困ってるんですよ。よかったら紹介しますよ」
「AVのプロダクションか・・・・」
「スカウトバックはいいから、掛け持ちしたほうがいいですよ」
「紹介して」

自分はその時まで、AVのプロダクションの存在を知らなかった。

AVの制作会社が独自に街頭スカウトや募集広告で、出演する女のコを手配してると思っていた。

思えばエリもスカウトでAVに出演した。
それがキッカケで女が信じられなくなった。

女に振り回されるのなら、こっちから先制攻撃してやろう、という気持ちもどこかにあったのかもしれない。

ともかく先方に連絡をして、渋谷駅から歩いて10分程のAVプロダクションの事務所へ。

マンションの一室の事務所にはスタッフが3人いる。
事務机、電話、ファックス、コピー機、テーブル、本棚があるだけの想像より狭い事務所。

マネージャーは30代半ばの真面目。
通りいっぺんの挨拶をして、その真面目がテーブル越しに言う。

「女のコ連れてきてもらえばいいです」
「それだけでいいんですか?」
「ええ、後は私が説明しますよ」
「そうですか」
「ただ、ヌードモデルのプロダクションというのを言ってから一緒に来てください」
「はい。それでスカウト代はどうなりますか?」
「宣材撮りが終ってから、ギャラ売上の10%を月締めで支払います」
「宣材撮りってなんですか?」
「営業に使う写真です。宣伝材料を約して宣材です」

とマネージャーは写真を取り出して、テーブルの上に並べる。
カワイイ女のコばかり。

皆、街頭スカウトで所属したという。
街中で声をかけてAVに出演する女のコがいるのか。
不思議だった。

でも考えてみればエリだってAVに出たじゃないか。
案外いるかもしれない。

ちょっと、やってみよう。
そんなことを考えながら渋谷駅に向かった。

渋谷センター街でスカウトして

翌日になり。
マネージャーと一緒に渋谷センターに。

スカウトできる場所とできない場所を教えて貰う。
一緒に声をかけたが、マネージャーもスカウトはできないみたいだ。

しばらくすると「ちょっと営業が・・・」といって帰ってしまった。

やはり。
独力でやるしかないか。
どう話して連れていけばいいかわからない。

半日で何人か足が止まった。
「ビデオやらない?」と切り出すと一様に警戒をする。

そして皆、話しも草々に立ち去る。
すっかり気分が盛下がった。

その日は収穫ゼロだった。

最初の1週間は1人も連れて行くことができなかった。
渋谷にきたのはいいが、声をかけれずウロウロしてるだけの日も。

キャッチセールスに絡まれたりして、イヤになった日も。
「ここは●●会が仕切ってんだ」と、いわゆる地回りのやくざ屋さんに絡まれた日もある。

騒がしい街中に1人で居ると、なんだか気分が沈んで落ちこんできたりした。
それですぐに帰った日もあった。

いったい自分はなにをしてるんだろうと、その日の昼間もそんなことを考えていた。

するとテクテクといった感じに、ヒマそうに歩いている女のコが目に入る。

近づくと「ナニ?」という表情の目を向けて、スッと立ち止まった。

「すみません」
「・・・・」
「ちょっと、頼まれてカワイイコに声をかけているところなんだけど」
「・・・・」
「モデルプロダクションなんだけど」
「モデル?」
「雑誌とか、撮影会とか」
「どうせ変なのでしょ?」
「ぜんぜん」
「どんなことするの?」
「うん、あのね、会社すぐそこだから一緒に行って社長の話聞いてみようよ」
「えー」
「オレも頼まれているだけだから、うまく説明できないんだよね」
「変なのじゃない?」
「うーん。違うかな」
「それだったらいいけど」
「そう、歩いて10分だから。で、今日はどこかいくの?」

たわいもないことを話しながら、2人で事務所に向かった。
ヌードモデルとは一言もいってない。

というよりも言えなかった。
それを言ったら彼女は一緒に来てくれないだろう。

事務所に行ったら「実はヌードモデルなんだけど」と切り出そう。
あとはなんとか、なし崩しにもっていけるのではないか。

事務所でマネージャーとテーブルにつく。

「彼女にまだあまりよく説明してないんですよ」
「そうですか・・・。ウチはヌードのモデルなんですよ」
「エッ」

俯いた彼女は、無言になってしまった。
やっぱり、いきなりでビックリしたようだ。

「・・・そうゆーのはできません」
「田中さん。・・・まだいってなかったの」

断る彼女に、マネージャーが困った顔をした。
ちょっと無謀だったか。
自分が代わりに彼女に言う。

「あのさ、バイトでやってみない?」
「・・・できません」
「簡単な仕事だから」
「・・・できません」

そして気まずい沈黙。
マネージャーは、さらに困った顔。
やはりムリか。

彼女と2人で事務所を出た。
やはり気まずい。

「マネージャーおかしいな。オレもよく聞いてなかったからさ。よくわからないんだよね」
「うん、大丈夫」
「ごめんね」
「ううん。着いていったのは私だから」

そんな感じでごまかした。
喉が乾いたというので、コンビニでお茶を買ってやり別れる。

結果的には失敗だった。
が、なんというか勢いがついてきた。

その後も声掛けがスムーズにいく。

ヌードモデルとだけは言っておく

その日のうちに、2人目の女のコの足が止まった。

話を聞くと援交をしてる女のコで、どこか澱んだブサイク感が滲み出ていた。

この際、構わない。
ヌードモデルとはいえていた。

とりあえずなんでも連れていこうと、マネージャーに連絡して事務所に向かう。

マネージャーは電話で「今、女のコと一緒で・・・」と言うと「じゃあ、待ってますよ」と明るい感じで言っていたが、彼女の顔を見たとたんに落胆の表情を見せた。

そして、あまりやる気がなさそうに面接に応じる。

「わたし、ブルセラものだったらやってもいいです」
「そう・・・」
「セーラー服だったらやります」
「セーラー服ね」

マネージャーも、やりづらそうだった。
このコはこんなことも言った。

「わたし観月ありさに似てるっていわれるの」
「・・・」

宣材撮影は後日に予定して、面接は終了。
自分は、これでスカウトバックが入ると思っていた。
帰り際マネージャーが「田中さん、ちょっと」と手招きする。

「田中さん、あのコ厳しいね」
「エッ。そうですか?」
「仕事とばすタイプだね」
「そうですか」
「それにはっきりいってブサイクなのに、このコセーラー服でお願いします、なんて営業できないよ」

言ってることはわかるが、はっきりいってムカついた。
だったら自分でやってみろ、と内心思った。

果たしてAVに出もいいよ、という女のコなんて歩いているのか。
しかもそこそこ、いや、けっこう可愛くて。

「お友達価格でいいからさー」と、援交をせまる彼女と渋谷センター街まで行きバイバイした。

どうやったら普通の女のコがつかまるのだろう。
全くわからない。

人通りを眺めながら考えていた。
そして、先週に電話番号を交換した女のコに電話してみた。

断りと番号交換

先週のそのとき、その女のコには、渋谷センター街の入口で声をかけた。

「すみませーん」と声かけると、無言だったが目はこちらに向いて、人懐こくニコニコしていた。

それから歩きながら何言か話した。
しばらくすると彼女は立ち止まる。

22歳のフリーターの彼女。
大西さんという。

22歳の大西さん
22歳の大西さん

落ち着いた綺麗なお姉さんという印象。
バイトは結婚式場。

警戒はしてない様子だったのでAVは切り出したが、「そーゆーのはいいや」と速攻で断ってきた。

「ゼッタイやったほうがいい!」
「えー、なんで?」
「うん、だってO型でしょ?」
「なんでわかるの?」
「でしょう。そして、いて座でしょ?」
「エー。すごい!」
「もうオレわかるんだよ」
「エー。ホントに?」

すべて適当だっただけに、ピタリと当たったことに自分でもビックリした。

こそから勢いがついて「考えてみてよ」と、電話番号の交換はできた。

それ以来だったが、この日なんとなく電話してみた。

「もしもし」
「もしもし」
「田中ですけど」
「エッ」
「先週、渋谷で声かけたんだけど」
「あー。どーもー」

彼女は自分のことを覚えていた。
ちょうどバイトの休憩中。
タイミングがいい。

「で、どうなのよ?」
「なにー、どうなのよって」」
「それでもう一度話聞いて欲しいだけど」
「えー」
「話だけでいいから」
「うーん」
「それでダメだったら断ってよ」
「うーん。・・・聞くだけだよ」
「バイトが終ったあとどう?また渋谷で」
「うん。いいよ」
「明日はバイトはいってる?」
「明日は5時に終る」
「じゃあ、バイト終ったら電話ちょうだい」
「ホントに話しだけだよ?」
「それは約束する」

あっさりと約束できたが、果たしてどうなのだろう?
本当に話をきくだけかもしれない、としか思えなかった。

スカウトの流れ

そして翌日。
5時過ぎても電話はなかった。
5時30分過ぎに電話をしても留守電。

やっぱりダメか・・・と諦めていたら彼女から電話が。
「バイトが長引いちゃって、今からいくよ」とのこと。

しばらくして彼女と南口で会えて、そして事務所に向かった。
今度はヌードモデルどころかAVと言ってるある。

「どーも」とマネージャーもニコニコしていた。
最初は緊張してる様子だった彼女も、マネージャーの説明に人懐こい笑みを浮かべた。

彼女の状況は、今年の秋までフリーターをやると決めているとのことだった。

スケベ話のノリがいいのは以外で、なんちゃって女子高生を友達とやったことがあるとも。

「所属だけしてもらって、後は仕事受ける受けないは自分で決めてもらっていいから」とマネージャーがいうと、彼女は登録用紙に記入をした。

なんだ、半分やる気だったのか。
そんな気がした。

毎日あれだけ四苦八苦したのはなんだったんだろう、というくらいすんなりと彼女は所属した。

宣材は後日に予定。
面接から後は、マネージャーに任せたので、それから彼女には会ってない。

彼女の宣材写真をマネージャーに見せてもらうと、色気がある笑みに、スラッとした健康的な裸に、小振りな美乳。

それから半年間で、30本程にAV出演した彼女だった。
スカウトバックも半年間、ギャラ売上に対して受け取った。

電話で、3回ほど話した。
楽しんでAVをしている様子だった。

レンタルビデオ店にいったときに、彼女の出演してるAVを探してみた。
何本もあった。

一見パッケージでは、あの彼女とはわからないが、よくみるとやはり彼女だった。

あの人懐こい笑顔が、エロいメスの笑みになっている。
ハードプレイな内容で興奮させるパッケージだった。

なぜか回りの客に「このコ、オレがスカウトして・・・」と、ちょっとの自慢したくなったのを覚えている。

あと1点の教訓ができた。

うまくいくときは、何をしてもうまくいく。
ダメなときは、どんなことをしても結局はダメ。

当たり前といえば当たり前なのだけど、このときにスカウトの流れが見えた気がした。

– 2001.1.31 up –