佐藤恵美、19歳、歌舞伎町のホストの掛けが借用証書になって


プロの犯罪者

アルタ前広場
新宿駅東口からアルタ前広場を歩いて

新宿駅東口を出て、アルタ前広場に向かうとき。
耳に入ってきたのは、聞き覚えのある声。

声のする方向を見ると、携帯でなにやら話し込んでいるオヤジの姿が。

宮沢さんだった。
年は40代前半だと思うが、見た感じは若い。

ブローカーの頃からの知り合いになる。
ひょんなところで会うものだ。

宮沢さんも自分がわかったらしく、携帯で話を続けながら右手を上げた。

足元にはアタッシュケースが置いてある。
この人は、いったい何屋さんというのだろう。

いろいろ悪いことをしてる。
まあ、故売屋かな。

プロの犯罪者というのだろうか。
ここしばらく1年程は連絡は取っておらず、会うのは久しぶりだ。

その1年ほど前に、とある運送会社の倉庫からパソコン600台、定価にして1億2000万円相当が盗難にあったという新聞記事が載ったことがある。

しかし翌日には盗った2人はあっさり逮捕され、「マヌケ窃盗コンビ逮捕!!」という続報が載った。

なんと盗ったパソコンの荷主の経営する店とは知らずに転売の話を持ちかけて、そのまま逮捕されたというマヌケな結末だった。

新聞記事を見たとき、運送会社の倉庫にパソコンを600台なんて、これは宮沢さんの仕事かなと思ったので、前回、会った時に聞いてみた。

「この前、パソコン600台って事件ありましたね?」
「ああ、あれね、まいちゃたよ」
「やっぱり宮沢さん絡んでいたんですか?」
「あれ、全部、話がついていたんだよ」
「そうですか」
「あの2人からウチらが1000万円で買取って、今度4000万で●●電鉄の相談役に売るようになっていたんだから」
「なんで2人逮捕されたんですか?」
「それが、その2人がウチらが4000万で売るっていうのを聞いたみたいで、それだったら自分らで転売しようって考えたらしくて。それでへんなところに持ってっちゃった」
「スケベ心が出たんですねぇ」
「そう。ウチら1000万用意してトラックと倉庫借りて待っていたのに。連絡が取れなくなったから、変だなって思っていたらパクられちゃった」

この場合、盗った実行犯は、商品と引き換えに1000万を受け取る。

前科がない者が、だいたい借金の為に請け負う。
もし逮捕された場合。

自分らは下っ端だから詳しくは知らない、と言い切る。
実際にその通りなのだから。

で、裏が取れない自供をして反省の意を見せる。
下っ端の初犯だったら、情状によっては執行猶予になる可能性もある。

他の似たような事件の実行犯とも話したこともあるが、ごく普通の初老の紳士だった。

紳士というのは、温厚な性格が透けて見えたから。
家族思いでもあった。

借金の為というよりも、事情で離れてる奥さんや子供の為にしてる・・・、という感じだった。

それがなかったら、悪いことなどなかなかできないのではないだろうか?

結局、その初老の紳士は捕まらずに、家族と暮らすことになったとのこと。
良いのか悪いのか。

・・・で、先ほどの場合。

実行犯から1000万で買った商品を、●●電鉄の相談役が4000万で買取る。

宮沢グループ(仮)は3000万のアガリになる。
●●電鉄の相談役は通常の流通で儲ける。

盗品の転売は “ 善意の第3者 ” が効かない。
だから、その相談役に手が回らないように、宮沢グループ(仮)が仲介する。

宮沢さん自身は決して実行現場にいかない。
お盗め(おつとめ)に必要な協力者の取りまとめをしている。

一般常識もある情報提供者もいる。
暴力団は一部分にしか絡ませない。

不良外人もからむ。
高額な “ バイト料 ” で手伝う若者も失業者もいる。

一発逆転を狙う債務者もいる。
そしてなんと、お盗め(おつとめ)に必要な資金を提供して、配当を受け取る出資者もいる。

パソコン600台の場合は、宮沢グループ(仮)のアガリ3000万のうちから30%の900万円を、盗った倉庫会社の協力者に支払う。

この協力者のおかげでスムーズに盗れる。
実際、倉庫からどうやって盗るのか聞いてみた。

まず正面玄関を開けてトラックが入る。
そして「オーライオーライ」と倉庫に着ける。

フォークリフトで積み込みをする。
で、「お疲れさまでした!」と倉庫を出発したいう。

結果、2100万円残ったとしても、仕事の経費や仲間内での取分を払うと、3ヶ月に1回は仕事しないと食えないと言う。

そんなことを宮沢さんは5年間続けて、逮捕歴3回の実刑ナシ。
やはりプロなのだろう。

徹底してるのが、1回2000万円以上の稼ぎにならないと仕事をしない。
その辺の会社や個人が500万、1000万持っていても狙わない。

大企業やあくどい事業者、それがたとえ暴力団事務所でも盗りにいく、というのが宮沢さんの方針らしい。

「やっぱりこういう仕事は、信用が大事だから、約束を守って、ちゃんと支払いをしないと成功しない」と。

「まず、安全第一で、2番目が成功だから、安全でなかったらやらない」とも言う。

プロが言うのだから、そういうものなのだろう。

歌舞伎町に集まる犯罪請負グループ

電話が終わった宮沢さんがニコッと笑った。
人懐っこい笑顔がとても犯罪者には見えない。

うさんくさくもない。
自慢ではないが、うさんくさいのは自分のほうが上だ。

で、腹黒さも感じさせない。
粗暴さもない。

よく見ると、目が澄んでいるという印象すらある。
前から思っていたが本当に不思議な人だ。

「宮沢さん、お久しぶりです」
「お、田中くん、元気か?」
「どこか行っていたんですか?」
「いや、九州いってきて。いま帰ってきたところなんだよ」
「仕事で?」
「うん」
「うまくいきました?」
「それがさ、ガセネタで行ったらなかったんだよ」
「モノはなんですか?」
「金庫」
「まるごと?」
「そう。暴力団事務所」
「はぁぁ。よくやりますね」
「メシ食べた?」
「いや、まだです」
「そこの天ぷら屋がうまいんだよ。メシ食べよう」

回りを一瞬だけ見渡してから、宮沢さんは話し始めた。
私服刑事を警戒してるのだろう。
彼らがわかるらしい。

で、この人はメシと女のコが大好き。
ギャンブルはやらない。

酒も飲まないのにキャバクラにいく。
金払いはいいから、口説き率は高いみたいだ。

天ぷら屋に向かい、歌舞伎町を歩いた。
宮沢グループは、歌舞伎町に集まり、金を使い、犯罪の情報交換をし、また全国に仕事にいく。

警視庁の発表では、そんな職業的な犯罪請負グループを歌舞伎町を中心に120ほど把握してるというから驚いてしまう。

この狭い歌舞伎町に、見えない狂気が独特の雰囲気になって充満している。

「最近どうなの?」
「ボチボチやってます」
「だけどな、田中くんもひどいよね」
「エッ、何がです?」
「だって、女のコを働かすんでしょ?」
「そういうことですね」
「オレは田中くんみたいな仕事はできないな。とてもとても」
「え、なにいってんですか!」
「心が痛んでできないよ」
「そうですか?」
「女のコを食い物にするなんてなぁ。鬼畜の所業だね。ハハハッ」
「いやぁ、宮沢さんにいわれるとは、思いませんでした」
「オレはあくどいところだけを狙うから」
「徹底してますね」
「今回、ホテル代とバイト料で50万持ち出しちゃたよ」
「宮沢さん、そんなに稼いでそうするんですか?」
「・・・夢があるからね」
「夢・・・。どんな夢ですか?」
「ん。それはちょっと」
「いいじゃないですか。教えてください」
「・・・いや、人にはあまりいいたくないよ」

宮沢さんの口からの“ 夢 ”という言葉の響きが以外だった。
内心、少しだけ可笑しく感じた。

「やっぱ事業ですか?」
「いや」
「うーん。引退して優雅に暮したいとか」
「いや」
「まさか、ハーレムつくりたいとか」
「そういうんじゃない。そういうのは興味ない」
「なんですか。教えてくださいよ!」
「ん」
「いいじゃないですか」
「・・・・孤児院つくりたい」
「エッ」
「もう土地は買ってある。商売でやりたくないから、あと2億は作らないといけない」
「・・・孤児院ですか?」
「オレのオフクロの夢だったからね。オフクロは神主でね。ずーと孤児院を作りたいといっていた」
「そうですか・・・」
「たくさん悪いことしてるから、たくさんいい事しないと」
「ハハハ・・・」
「ホント天国に行けなくなっちゃうよ」
「天国ですか?」
「田中くん。神様っているんだよ」
「そうですか?」
「ウソだと思ってるだろ。ホントにいるんだよ。ホントに」
「・・・」

正確な例えかどうか解らないが、こういう人をふところが広い・・・、というのだろうか。

「孤児院を作りたい」なんて他の人がいったら、「なにいってんだ」とキレイごとに感じたかもしれない。

不思議な人だとは、前々から感じていたが、人は悪くはないのだろう。

だから、歌舞伎町をうろつく犯罪者でも、澄んだ目の印象を持てたのか。

そのときの宮沢さんの目には、得も知れない輝きがあった。
単純な自分は少し感銘した。

「たくさん悪いことをしてるから、たくさん良いことをしたい」という言葉と目に。

メシを食べ終わる。
別れ際になって、思い出したように宮沢さんは言う。

「女のコ紹介して。ちょっとヒマになるから」
「女のコですか・・・」
「いつでもいいんだけどさ」
「ん・・・、風俗してるコがいるけど」
「うん」
「だらしがないんですよ」
「うん」
「ただ、性格はいいコですよ。紹介だけはしますけど。もしよかったら面倒を見てやってもらえますか?」
「オレは女のコを泣かすようなことはしない!」
「そうですね。ちょっと電話してみますよ」
「おお、すまん!」

「彼女いないからオンナ紹介してくれ」とは、ちょいちょい言われる。

でも自分は、業者以外には女のコは紹介しない。
イヤになるくらい言われるが、業者以外はすべて断ってる。

女のコが男に「やらせてくれ」と言われるのも、こんな感じなのか。

ま、ともかく。
紹介したところで、「またお願いできませんか?」ということになる。

自分本位でしか女のコを見ないヤツが多すぎる。
また、感情的になったりするとめんどくさい。

そんなに自分に都合がいい女のコなんていない。
でも、宮沢さんだったら紹介したいな、というコがちょうどいた。

というか、優しいおじさんでないと面倒みきれない19歳の風俗嬢。
歌舞伎町で店泊してヘルスをしてる。

佐藤恵美という。
電話をすると、店の個室で寝てる最中だった。

ここんとこ、ちょいちょい電話してるので、機嫌は悪くなってない。
休憩中だというので、コマ劇前まで呼び出せた。

さくら通りのルノアールで携帯番号を交換して、2人は明日にでもメシを食べる約束をした。

あとは2人にまかせたので、特に気にかけてなかった。

午前10時のスカウト通りで声をかけたとき

彼女をスカウトしたのは、1ヶ月ほど前。
マンガ喫茶で、つい “ 夏子の酒 ” を読み耽り徹夜をしたあと。

ウチに帰って一眠りしようかな・・・、と考えていた。
午前中の10時頃だった。

セントラル通りは人通りも少ない。
が、歌舞伎町から新宿駅東口に向かう女のコがちらほらいる。

5人ほど声をかけたのだけどリアクションはいい。
表情も、午後とは違うものを感じていた。

話は続かないが、ニッコリとやんわりと断る。
なんだか女のコの表情が輝いている。

スカウトしていて感じるのだけど、男連れ、・・・おそらく彼氏だろうが、その男連れの女のコの表情はすごくいい。

どんな風にいいかというと、やっぱ輝いて見える、というのだろうか。
うれしそうに明るく笑顔で歩いてる。

そんな女のコ達も、日常生活で1人歩きするときは、注意深く警戒して歩くので表情は固い。

ムッツリとした感じ、とうのだろうか。
リアクションも少ない。

それでもスカウトして2、3回会うちに警戒心も解けるのだろうか、ドキッとするような笑顔を見せるようになる。

だから、路上スカウトの場合は顔はそこまで気にしなくても大丈夫。

そしてなぜかこのとき。
わかりやすく輝いている表情の女のコが、3人ほど続けて通りかかる。

時計を見ると10時30分。
それでわかった。

歌舞伎町2丁目のラブホ街から帰りがけの女のコ達か?

昨晩、彼氏とまったりとしたから、うれしそうな表情をしてるのか?

おそらく彼氏は朝早くに会社にいったのだろう。
そして彼女らも、日常生活にもどるところなのだろう。

なるほど、そういう訳か。
などと1人腕を組んで納得していた。

そのとき、1人の女のコが歩いてきた。

ヨレ気味のピンク色のジャケットに、形が崩れた厚底ブーツ。
パサついた髪。

トボトボした歩き方に、人まねしたような服装。
ちょっとうつむき気味。
たぶん風俗のコだろう。

彼女は自分が立ってる事に気がついていない。
近づくと気配がわかったのだろう、顔をあげた。

こちらも軽く手を挙げた。

「ちょっといい?」
「・・・」

彼女は歩調はかえずに目を向ける。
疲れたような表情をしてる。

やっぱ風俗をしている女のコだ。
もう短刀直入。

「きょうは、お店終ったの?」
「・・・はい」
「事務所なんだけど」
「・・・」
「もうどこか入ってる?」
「・・・」
「入ってたらいいんだけど」
「・・・はいってます」
「そう、じゃあしょうがないね、どこはいってるの」
「グレイ」

渋谷にあるグレイ・プロモーションは、AVプロダクションとしては大手。

スカウトバックは買取の最安レベルだけど、金払いがいいから多くのスカウトが連れていっている。

現金をばら撒くようにして女のコを集めている。
もうグレイに所属してる、という女のコには度々会う。

「グレイかぁ」
「・・・」
「じゃ、ムリだな」
「・・・」

すでにAVプロダクションに所属している場合は、スカウトできない。

営業先のメーカーで被ってしまったら問題だ。
だけどグレイの誓約書には、1年間という期限がついている。

「所属したのいつ?」
「ん・・・、去年・・・」
「1年経つ?」
「夏くらいで1年になる・・・」

それにしても、この女のコは暗いしゃべり方をする。
疲れているのもあるだろうけど。

「だったら、1年過ぎたら、またやってみようよ」
「・・・」

かといって、警戒もなく会話は成り立つ。
人通りも少なくて彼女との歩調も合う。

効果的な暴力や威圧が必要な女の子っている

東口まで2人で話ながら向かった。
彼女の足が止まったところで、アルタ前広場の鉄柵に座る。

「グレイは、最近どうなの?」
「・・・最近は仕事してない」

所属したときは美容専門学校に通っていたが、AVのために学校は辞めて、今は風俗をしているという。

実家は千葉県の関宿。
家出中というわけではないが、あまり帰ってないといっていた。

これは後で知った事だが、彼女が小さな頃に両親が離婚。
母子家庭で育った。

「残念だな。ウチでがんばってほしいんだけど」
「・・・今は、電話ない」

携帯電話があり、風俗の仕事をすればとりあえず生活はできるので、半家出というコは多いなとは感じる。

「じゃあウチで考えてくれないかな」
「・・・うん」

学校を辞めたときには、その事務所のマネージャーが彼氏だったので、部屋を借りて一緒に住んだ。

しかしAVの仕事が入らなくなると、その彼氏には、新しい彼女ができたからといって追い出された。
素敵な彼氏だ。

そして、その前の彼氏のウチに、今は居候してるとのこと。
前の彼氏といっても、あまり顔を合わせたくないらしい。

終電で新宿に来て時間を潰して、早朝ヘルスで仕事をして、昼間に帰って寝てるという。

「これから帰るんだ」
「そこのホテルに泊まろうと思って」
「女のコひとりで?」
「・・・うん」
「だったら、ウチきなよ」
「・・・」

自分も疲れていたというのもあった。
そして、彼女からはシャワーあがりの匂いがした。
その瞬間スカウトはいいか・・・、と思った。

「オレもこれから帰ろうかなって思っていたから」
「・・・」
「メシ食べてさ、ゆっくりしよ」
「・・・」

すでに、いきり勃っている疲れマラを、ズボンのポケットでおさえていた。

「いくよ」
「うん・・・」

よく見ると、このコは目がクリクリした感じ。
話し方が暗いせいか、そのクリクリした目が、オドオドした不安そうな目に感じた。

フラフラしてる彼女の状況といい、この感じといい新宿でよくあるおきまりのパターンか。

「借金あるだろ」
「・・・うん」
「ホストの掛け?」
「・・・うん」
「借用になったんだ?」
「・・・・・」
「トイチだろ?」
「・・・うん」

女のコをキャッチして、ホストクラブで飲み食いさせ、高額な料金を請求する。

払わないと、無銭飲食で訴えることもできる。
飲食店の債権は1年なので、第3者の業者が借用証書にする。

こうすれば、債権の有効期限は10年になる。
そして、返済を強くせまり高額な仕事を紹介する。
でないとホスト自身が、サラ金ビルにいかされる場合もある。

借用証書の金利はトイチになる。
10日で1割だからもちろん違法だが、19歳の女のコが弁護士に依頼することなんてことはまずない。

そして、金利と称して女のコからむしりにかかる。
そういう経緯から、“ トイチのコ ” は従順に教育されている。

多少の暴力も受け入れられる体質になっている。
理不尽な要求も受け入れる。

それどころか、効果的な暴力や威圧をしないという事をきかないときもある。

そして、こういうだらしがない女のコは、良かれと思って面倒を見るとこっちが苦労する。

だからうまい事だけをいって、やることだけはやって動かすのがいい。

「おっぱいデカいな・・」とか「アナルできるかな・・」と思いながらもノリよくウチについた。

腹立たしかった宣材写真の笑顔

ウチに着いた。
ベットの脇で彼女がリュックを降ろして言う。

「事務所の宣材、・・・見る?」
「もってるの?」
「うん」
「見せて!」

「見る?」というより、「見て」というような言い方だったから、あえて大袈裟に応じた。

彼女は手帳をリュックから取り出した。
手帳のビニールのページに3枚挟んであった。

この2枚は大事に持っているのだろう。
そして、機会がある度に見せているという気がした。

彼女は取り出して自分に手渡した。

「ウーン・・・」
「・・・」
「・・・これ、いつ撮ったの?」
「1年くらい前かな」
「18歳?」
「そう」

1枚は、小首をかしげて、少しだけおっぱいを隠しているポーズ。

もう1枚は、ポーズはそのままで、一方の手先で髪をかき上げている。

あとの1枚は、背伸びするように体を反らして、おっぱいを突き出すようにして撮っている。

宣材だから、カメラにフィルターをかけて、2灯をあてて撮ったのだろう。

肌が白すぎるのは、現像をトバして白くなっているからだとわかる。

驚いたのは、彼女の笑顔が輝いて見えたからだった。
メイクやキャッチライトの効果ではない。

いたづらっコみたいな笑みにクリクリとした目。
さっき感じたクリクリとした目が、魅力的に写真に収まっている。

よく見なければ、別人にもみえるほど。
若くて元気で、健康な女のコがニッコリと笑顔で写っていた。

今の彼女で、こんな笑顔は撮れない。
輝きというのがあるんだ、と実感した。

何回か写真と彼女を見比べた。

「いまとぜんぜん違うね」
「うん」
「かわいく撮れてるよ」
「フフッ」

彼女は「そうでしょう」という感じで笑んだ。

カワイイという言葉を聞きたかったのか、ニコニコとうれしそうに、そして大事そうに手帳に写真を収めた。

手帳は、キティーちゃんがプリントされていた。
そんな彼女を見て、なんだか急にムネがモヤモヤした感じになった。

「借金はいつツブせる?」
「え・・・。いまちゃんと返してる」
「親はなんていってる?」
「・・・迷惑かけるとコワイから」
「まえのカレシは?」
「・・・もう電話ない」

急に自分の口調が強くなって、彼女はビックリしたらしい。
また伏目がちな暗い表情になった。

「はやくトイチ片付けて風俗アがれよ」
「・・・そうおもってる」
「美容師やればいいじゃねえか」
「うん。・・・普通の仕事やりたい」
「もう、くだらない借金するなよ」
「うん。・・・しない」

彼女もわかっているのだろう。
いってもしょうがないのに、つい鼻息が荒くなってしまった。

「もういい。ねよう」
「・・・」

彼女の服を脱がしラックに掛けて自分も脱いだ。
2人でベットに入った。

彼女を脇に寄せてしばらく上を向いていた。
鼻息が納まらない。

あの宣材を見たせいだ。
なんだかセックスする気持ちが萎えている。

彼女はそんな自分を見て「どうしたんだろう」とでも思ったのだろうか。

無言のまま鼻息も荒い自分を見て、話しかけないほうがいいと思ったのか。

よほど疲れていたのだろう。
気がつけばスースーと寝息をたてた。

寝顔を見ると全く無防備というのか。
自分が兄だったらこのコにこんな事をさせないのに・・・、という考えがわいてきた。

自分はものすごく性欲が強い。
女のコとベットにいてセックスなしで過ごすというのは今までない。

強引でも必ずセックスを求めて、満足な射精をする。
だからベットに入ればその気にもなるだろう、と思っていたが、全然そんな気が湧かない。

自分でもこんなことは始めてだったから不思議だ。
このときは、このコをゆっくりと休ませてやろう、と思うだけで満足だった。

そして、自分もいつのまにか寝た。

その日の夜には、彼女は新しい店に入店した。
寮付か店泊できる店に移って、通し(朝から夜)で稼いで、まずトイチを潰せ、というと彼女はうなずいた。

ホントは、トイチは弁護士に依頼すればすぐ解決する。
しかし、彼女の問題は解決などしないほうがいい。
もっと頑張らせないと、スカウトバックに繋がらない。

彼女には、誰か味方になる男が付いていたほうがいいとは感じたが、1日一緒にいただけで、新しい店に彼女を入れ込んだ。

通しで店泊して稼ぐというのは、相当の根性が必要になる。
大丈夫かな・・・、どうかな・・・、すぐにトブかな・・・とは思った。

1ヶ月経ってみると、以外に彼女はがんばっていた。

宮沢さんに紹介したときは、「もうすぐトイチなくなる」と話していた。
そしたら風俗はキッパリとやめるとも。

やめてどうするのかときくと、実家に戻り真面目にやるとのこと。

それがいいと思った。
彼女のスカウトは終わりだ。

スカウト失敗したかも

しばらくが経った。
その日曜日に、アルタ前でスカウトしていた。

歩行者天国になっている新宿通りが気持ちいい。
ポケットの携帯電話が振動した。

ディスプレイを見ると宮沢さんからだった。

「田中です」
「お、田中くん。今日は何してるの?」
「アルタの近くでスカウトしてます」
「この前のコな」
「ハイ」
「きょう買い物していて。2人で新宿にいるから、田中くんいるかな、と思ってさ」
「なにかありました?」
「いや、何もないけど。3人でメシでも食べようかな、と思ってさ」
「それだったら、オレは今ちょうど動いてるんで、メシはいいです。すみません」
「とりあえず、アルタ前に行くよ」
「ハイ」

なんだろうな、とは思ったが宮沢さんを待つ。
しばらくすると、宮沢さんが恵美と一緒にやってきた。

両手に買い物袋を下げている。
2人のいちゃいちゃした仕草もなんだか自然だ。

恵美のバサついていた髪は、艶が出てしなやかになっている。
これからウチに帰るところだという。

「宮沢さん、ひょっとして一緒に住んでるんですか?」
「うん」
「そうですか」
「通りかかりだからさ、ちょっと、いるかなとおもってさ」
「そうですか」

それでわかったが、宮沢さんは、約束を守ったということを何気に知らせに来たんだと気がついた。

自分は紹介したときは、結果なんてどうでもいいと適当だったのだが。
変なところで妙に律儀な人だ。

脇にいる恵美は「アルタで服を買ってもらった」と、クリクリした目で明るくうれしそうに言う。

夏っぽい生地のワンピースも、足元のミュールも、日差しに映えている。

そのときに恵美が見せた、いたずらっぽい笑顔には、ドキッとさせられた。

-2002.8.4 up –