風俗店の面接の実際


まずはバックの説明と年齢確認

面接は店長の仕事のひとつ。
難しいことはない。

スカウトであちこちの店の面接に女の子を連れていき、その度に同席もしていたから、言うことも手順もだいたいはわかっている。

とはいえ、しばらくの間の面接は、村井に確認しながら。
村井がノートパソコンのキーを叩いて、面接に使用する書面をプリントしている。

“ バック表 ” と “ 従業員名簿 ” と ” 誓約書 ” の3枚だ。

まずはバック表を見せる。
女の子の取り分が記載されている。
40分コースが6500円。
55分コースが9000円。
リピート客の本指名は2000円。

オプション各種と、それぞれのバックも記載されている。
それらの合計から雑費を引いた金額が女の子の1日の手取り。

雑費とは、タオルやローションといった備品の費用負担で、2本までは0円、3本から4本までが1500円、5本以上が2500円。

どこの風俗店も雑費はあるし、金額はこんなものである。
経験者の彼女も金額に目を通して「はい」とうなずいている。

面接のときに、バック表を見せて確めさせるだけで手渡さないのは、出回って他店と比べられたりでもしたらやりずらくなるから。

だいたいどこの風俗店でも、バックは口頭で説明するのが通常だった。

従業員名簿は、名前、年齢、住所、電話番号、メモ欄がある。
記入させてファイルしておく。

いちばん重要なのが年齢確認。
むしろ年齢確認さえできれば、ほかの部分はどうでもいいくらいに重要。

後で確認すればいいということがないように、免許証かパスポートのコピーをとったかのチェックボックスが念入りにある。

免許証かパスポートがなければ要注意。
本番がないヘルスだったらさほど抵抗がないのか、未成年が真っ先に面接にいく業種でもある。

学生証や保険証も合わせて、なにかの会員証やら高校の卒業アルバムやら顔写真入りのものを2点以上は確認する。

素人系ヘルスの誓約書の内容

年齢確認の免許証のコピー。
従業員名簿の記入が終わった。

となると、次は誓約書。
なにやら文言があって、その下には署名欄がある。

文言は3項目。

(1)私は、現在18歳以上で高校通学者ではありません。年齢を証明するために公的身分証のコピーを提出します。
(2)私は、いかなる理由があろうと本番行為はしません。
(3)私は、違法薬物の使用はしておりません。また所持もしておりません。

くどいほど年齢は確認する。
ちなみに、18歳以上であれば高校生であっても法令には反さないが、過去にPTAが騒いだ事例があるので高校生は除している。[編者註07-1]

ここまで年齢の確認と、本番行為の禁止を念入りに確認するのは、もし摘発された場合の罰則にも影響してくるからだ。

風俗店の違法営業は風適法の条例違反となり、略式起訴で罰金30万との相場がある。

ところが、18歳未満の未成年を働かせていたとなると、児童福祉法が適用される。

さらに店側が本番行為を促していたとなると、売春防止法に抵触してくる。

とくに児童福祉法、略して児福法でやっかいなのが、店に在籍していたのが2年前や3年前であったとしても、当時が未成年だったなら事件となり、忘れたころに逮捕となる。

それに児福法や売防法だと、れっきとした刑事事件なので正式裁判を受けることになる。

22日間の勾留のあとは起訴されて、未決囚として拘置所に移送されて、結審するまでの約3ヶ月は檻の中。

保釈申請が通れば裁判の途中で出れるのだが、保証金を用意したり弁護士費用も必要となる。

実刑となれば刑務所へいく。
もしものことを考えたら、誓約書は必要だった。

面接した女の子に源氏名をつけるのも店長の仕事

翌日には、おしとやかなお姉さんといった雰囲気の23歳を、島田は面接に連れてきた。

コートの上からは、推定Cカップの細めスタイル。
セミロングの栗色の髪には、軽くウェーブがかかっている。

薄めメイクの色白な頬には、寒波襲来でピンク色が差している。

面接にきた女の子
面接第一号は百貨店に勤めていた23歳

面接場所となる個室には島田も同席して、バック表を見せて説明をした。

日給3万円の保証は条件付き。
遅刻すればその日はつかない、当欠があれば次の出勤はつかない、アンケートがわるかったら打ち切り、土日の早番も出れる、といくつも付けていた。

ネットと雑誌広告の顔出しOKとの条件は、島田のほうから付け加えてきた。
すべての条件を、彼女は当然であるかのように承諾した。

従業員名簿に彼女が記入している間に、年齢確認の免許証をコピー。
誓約書に目を通させた。

「もちろん、18歳以上ってわかってるけど」
「そんな若くはないです」
「薬物もやってないよね?」
「エッ、やってないです、やってないです!やってるように見えるんですか?」

元デパートの店員だった彼女は、口元にそろえた指先を当てて、目をフニッとさせてクスクスとする。

年齢確認とそれぞれの用紙への記入が済めば、写真を撮ってプロフィールを作成する。

立ち回りがいい島田だった。
「その辺りにいるので、終わったら電話していただいていいですか」と自分に声をかけて、席を外して店を出た。

プロフィールの作成をするのだけど、その前に、彼女に源氏名をつけなければだった。

女の子に新たな名前をつけるのも店長の仕事だったが、すぐには思い浮かんだ名前は限られていた。

「店の名前だけど」
「ハイ」
「ミエコがいいかな」
「ミエコ・・・、ハイ、わかりました」
「じゃ、ミエコだ。うん、ミエコだな」
「ハイ」
「じゃ、ミエコ、写真撮ろう」
「ハイ」

思い入れの女の子の名前をつけてしまった。
5年前にスカウトした銀行員の美咲から紹介された女の子だ。[編者註07-2]

適当ではない。
彼女が店に来たときから、声と体つきが美恵子に似てるなと、記憶のどこかに引っかかっていた。

勤めたデパートは銀座と聞いてからは、名前は美恵子がいいな・・・と呼吸が荒くなりそうだった。

ミエコと名前をつけて、ミエコと呼んでみて、この子はミエコだと念じると、ものすごく優しく接することができそうな気がしてきた。

プロフィール作成して完了

フロントでポラロイドカメラを手にして個室に戻った。[編者註07-3]

ポラロイド写真は、素人系ヘルスの風俗店としては使えるアイテムだった。

コートを脱いだ彼女は、ニットのボートネック。
やはり細い体つき。

プロフィールの写真は、私服姿のまま。
自然なスナップ風に撮る。

まずはポラロイドで3枚撮ってみた。

元デパートの店員だけある。
本体から出てきてた写真には、控えめな笑みがよく収まっている。

デジカメも持ってきて撮ってみた。
10枚ほどで十分に撮れていた。

バインダーに挟んだプロフィール用紙を手渡した。

「これだけど」
「ハイ」
「お客さんに見せるプロフィール」
「ハイ」
「ここにさ、色ペンがあるから、好きにつかって自由に書きこんでみて」
「ハイ」

プロフィール用紙はB4のピンク色の用紙。
記入したらカードケースに写真と共に入れて受付に使う。

右側には年齢、身長、スリーサイズ、得意プレイ、コメント、可能オプションを記入する欄。

プロフィールを女の子が手書きにするのは、手作り感を出してプロっぽく見えないようにするため。

左側は写真のスペース。
ポラロイド写真の隅には、ワードで『みえこ』とプリントして切り取った小さな紙片をセロテープで貼り付けてある。

わざとそうしているのも『修正や加工などしてません』というささやかなアピールも込められていた。

オープンは明後日の2月14日の遅番からなので、早番のミエコは翌2月15日の9時30分に初の出勤となる。

面接は終わる。
島田に電話すると、ほどなく姿を見せた。

動きも早くて、礼儀正しくて、段取りもいい島田に好感を持った。

店側の要望には先回りして、そのうえで面接者には基本の説明もして折り合いもつけて、本人の気持ちも固めて面接に連れて来ている。

スカウトできるのは似たタイプに偏るもので、しっかりとした女の子は、しっかりとしたスカウトでなければ連れてくることができない。

適当な女の子は、適当なスカウトでなければ連れてくることができない。

これからの島田のスカウトには、期待できそうだった。

彼女と店を出る島田に「彼女と甘いものでも」とお茶代として3000円を手渡すと、うれしそうな顔をして「あざすっ」と言っていたのを思いだしていた。

あさっての初出勤は大丈夫だろうと、ミエコのプロフィールを眺めて、フロントのカラーボックスに置いた。

寒波は続いていた。
あと3日は続くという天気予報だった。

– 2018.1.24 up –