源氏名にはどんな意味があるのか?


AVに出演させた理由

また、思い入れがある名前を源氏名に付けてしまった。
はやり安易だったかもしれない。

とはいっても、付つけてしまったものは今さら仕方ない。

ミエコという源氏名は、5年前の、その銀行員の美恵子のことである。
スカウトした美咲から紹介されたのが、市川美恵子だった。

まだ智子とは知り合ってない頃。
以前の彼女のえりが内緒でAVに出演したショックを、未だに振り切れないでいた頃でもあった。

ショックを振り切ろうと、同じ女だという理由があっただけで、次の彼女の真由美をヘルスからソープで働かせて金を取って、あげくAVにも出演させて不幸に追い詰めた自分だった。

すべてが終わったときは胸が苦しかった。
が、同じく苦しんだ真由美のためにも、次の美恵子にも同じことをさせなければ。
そうでなければ、真由美がかわいそう。

だからこそ、美恵子に心地よさを感じてはいけないし、美恵子は不幸にならなければいけない。

自分はそういう理屈で、美恵子には銀行を辞めさせてAVデビューさせるつもりだった。

そんな企てを美恵子は全く知らないし、性技も全く知らなかった。

通常は、エロとは下卑たものとされる。
エロ事に関わる女の子は、男目線の下卑た考えや言動に少しずつ寄せるようになってくる。

しかし美恵子は、そうも下卑た世界には寄ってこない。
住んでいる世界に隔たりがありすぎると、すぐには寄らないのだった。

その分だけセックスが多大に施されたが、美恵子はすべてを受け止めていた。

打ち付ける腰は暴力に似たほど激しくて、言葉責めも加えられて、AF、顔射、ごっくんと解禁されていった。

それらは、愛があるゆえの行為とこじつけれられていて、美恵子は疑いもなくすべてを受け止めていた。

銀座デートがきっかけ

もちろん、セックスがないデートもした。

銀座が好きという美恵子は、山野楽器本店に連れていってくれて、フルートを知らない自分に、どんな楽器なのか見せてくれたりもした。

銀行員ではなくて、楽団員になりたかったという。
楽団員とはなんなのか、想像がつかなかった自分だった。

フルートの品揃えは世界一、と称される店だった。
店員に勧めらるままに、美恵子は30万するという新モデルと吹き比べをする。

フルートを手にして唇をつけたときだ。
優しそうに目を軽く閉じて、気持ち良さそうに吹いた美恵子だった。

フルートを言葉だけで説明してくれたなら、フルートは美恵子の趣味として尊重された。
実際に吹いて見せたのがいけなかった。

フルートを吹く女の子
ある意味、フルートに衝撃を受けた

フルートが、美恵子へのセックスを、さらに偏執にさせたきっかけだったといえる。

フルートを取り上げて踏みつけてやりたい敵意は、明らかに好きの反転からくる妬みからきていた。

フルートによって、なんのかんのいっても、いろいろと企ててはいても、美恵子が純粋に好きなのだとも自覚した。

フルートの音色を耳にしながら、美恵子への妄想も嗜虐となった。

フルートに唇を当てる美恵子に「オレとフルートどっちがいいんだ!」と勃起をつきつけたい。

フルートを吹かせながら美恵子を全裸にして「オレとフルートどっちがすごいんだ!」立ちバックで突きしだいてやりたい。

射精の瞬間には、フルートを吹かせたままの美恵子の顔に向けて精液をぶちまけたい。

たやすい妄想とは、たとえどんな嗜虐であっても、外見とは無関係である。

妄想をしながらも、自分はフルートのなんたるかを理解したかのように「すごい!」と称賛して、美恵子は笑みながら上体を揺らしてフルートを吹く。

後になっても「フルートっていいよね」と称賛するのみで、フルートを使用したプレイの要求は口にはできなかった。

あれほど大事に扱っているフルートを精液で汚したものなら、さすがに美恵子だって理解してくれないだろう。

フルートと勃起と精液をこじつけるのは、安易であってはいけないし、理不尽であってもいけない。
理由がなければならない。

まずは時間をかけて、念入りにフルートへの称賛を揉み潰す。
一転して敵意を以ってフルートを踏みつける態度ができれば、きっと美恵子はフルートを擁護する。

その見返りとしての要求だったら、フルートを吹く美恵子を立ちバックで突くくらいは受け入れられるかもしれない。
フルートに精液をぶっかける機会は狙えるかもしれない。

しかし自分のしたことは、フルートを踏みつけるべく働きかけるよりも、1人だけで美恵子の下卑た姿を思いっきり想像したことだった。

美恵子が全裸で銀座中央通りを安来節で踊っていくのを想像して、フルートの吹き比べを勧めた店員へにぎりっ屁を嗅がせるのを想像して、あげく照明で光るガラス張りのショーケースの上での排便姿を想像した。

フルートを踏みつけるべく過程を経るよりも、それらの下卑た姿の想像をして貶めたほうが、比べものにならないほど簡単だった。

勃起は多感であった。
貶めることからくる勃起ってある。

裸を見たから勃起するという単純なものではなく、貶めることからも勃起するのだった。

性器となったアナル

自分としては、セックスありのデートのほうがよかった。

銀行が終業した美恵子は、しょっちゅう車で迎えにこられて、そのまま自宅に連れ込まれた。

門限が定められてる家庭の美恵子だった。
それを守る名目を、自分は大事そうに口にして、いつもセックスまでを急がせたのだった。

その日、ベッドの上では、スカートを着衣したままパンティーの片足だけ外した。

自分だけは全裸となってのシックスナインを求めると、美恵子は「汗かいてるから」とシャワーを浴びたがった。

が、終業が遅れて待ち合わせの時間が少し過ぎていたのが、着衣のままを続けさせた。

美恵子はおずおずと着衣のままシックスナインとなって、スカートをめくり上げたお尻を戸惑いながら突き出した。

今までにしたことがない、着衣のままのシックスナイン。
清潔感がある美恵子であっても、発汗と粘液の蒸れで匂い立つ股間だった。

が、それが1日の謹直な銀行業務を経て醸し出された匂いだったなら、路上でスカウトしていた自分にとっては貴重な匂いだった。

美恵子の着衣が、肌に擦れるのも心地良い。
片方の太腿にあるままのパンティに頬ずりをしながら、刺激のある匂いをゆっくりと吸い込んでいき鼻に慣らした。

「美恵子、お尻、自分で広げて」
「ンンンン・・・」
「お尻、手で広げてみて」
「ンンンン・・・」

まん丸のお尻。
その中心に、アナルが収まっている。

「ふーん、できないんだ?」
「・・・」
「そうか、残念だな、できないか」
「・・・」

あえて声を尖らせると、美恵子は無言のままで息づかいは大きくなって、四つん這いの背中を揺らしている。

自分の要求に従った美恵子は、両方の手の平をゆっくりとお尻に回し、尻肉に当てられて、わずかに指先が掴んで、割れ目がさらに左右に広げられた。

「もっと、おもいきり広げて」
「・・・」
「力も抜いて。アナルの中がみえるくらいに」
「アァン・・・」

広がりはじめたお尻の割れ目が閉じられた。
指示に抗うと叱声が飛ぶ。

「ダメ!広げて!はやく!」
「・・・」
「見せて!ちゃんと!もっと広げて!お尻の力ぬいて!」
「・・・」

叱声を受けた美恵子は、お尻の割れ目を広げていく。
アナルの力も弛められて、中心には直腸の粘膜の淡いピンク色が広がった。
桜の花びらのようなアナルで、いつだって無味無臭だった。

「そう、ああ、いい。もっと中まで見せて」
「ア・・・」
「ダメ!そのまま広げていて!アナルの力もゆるめて!」
「ア・・・」

広げさせたままのアナルに、舌先がグリグリと捻り込まれた。
ドリル舐めだ。

アナルが性器化される前は、あれだけ抵抗していた美恵子だったが、ドリル舐めには控えめな喘ぎ声を漏らすようになっていた。

しかし今日の美恵子は、ドリル舐めを嫌がるようにお尻をくねらせて「そんなにもイヤ・・・」とつぶやいている。

どんな状況であれ「イヤ」と口にしてしまった美恵子には『ホウコク』が必要だった。

報告、連絡、相談の報連相がそうさせた

『ホウコク』とは『報連相』の『報告』からきている。
報告、連絡、相談というコニュニケーションが業務を円滑にするというビジネス用語。

組織に属する社会人であれば必須事項とされる『報連相』は、銀行員である美恵子だからすぐに理解ができて、自分の主導で理不尽に捻じ曲げられて変化していた。

「美恵子、ホウコクして」
「ウン・・・」
「ホウコク」
「きもちいい・・・」
「どこが?」
「おしり・・・」
「おしりのどこ?」
「・・・」

最初は面白半分で2人の間に導入された『ホウコク』だったが、もはやセックスに使われる秘語となっていた。

「なんでホウコクできないの?」
「・・・」
「どこ?」
「アナル・・・」
「じゃ、アナルがって正確にホウコクして」
「ウン・・・」
「ホウコク」
「アナル、きもちいい・・・」

「アナル」と口にするのを拒んでいた美恵子だったが、もう口にできるようになってきた。

美恵子が『ホウコク』しながら広げているアナルを、舌先は丹念にほじくり返した。

舌先に力を込めてすぼめて突き入れた。
奥の直腸までこじり入れた。
するとそこには、わずかな刺激感が広がっていた。

いつもと違う。
感触も違う。

いつもはツルツルしている直腸の粘膜が、今日は細かなざらつきが付着している。
付着には粘り気があるようでもある。

舌先を口の中で確かめると、刺激感には苦味が含まれている。
すべてを飲み込んだ。

「美恵子、ホウコクして」
「ウン・・・」
「いつ、うんちしたの?」
「・・・」
「ホウコクだよ」
「おとといぐらい・・・」

さりげなく、とんでもない『ホウコク』をさせてることに心臓がドキッとしていた。

それは美恵子も同じで、あまりのことに思わず息を飲んだのが、キュッと締まったアナルと同時だった。

アナルに表情を感じた。
当然のことかもしれなかった。
口とアナルはつながっているのだから。

「今日のさ、美恵子のアナルって・・・」
「・・・」
「なんかザラザラしてる」
「・・・」
「苦味もあるし、ネトッてもしてる」
「・・・」

シックスナインの体勢からでも、美恵子の息が短く吸い込まれたのがわかった。

ぴたっと体の動きが止まっている。
次に言われることを予測できたかのようだった。

「これさ、うんちでしょ?」
「イヤァァァァァァッッ」
「うんちしたの、おとといじゃないでしょ?」
「アァァァッ、イヤァァァァッ」
「イヤじゃない!したばかりでしょ?うんち!」
「ンンンンン・・・」

叱声を浴びせると、お尻は逃げようとした。
お尻は下から鷲つかみにされて、乱暴に引き寄せられた。

「いつしたの?なんで隠すの?びっくりするでしょ?いきなりうんち舐めさせられたら」
「ンンン・・・」
「でもオレは、美恵子のうんちだったら平気だよ」
「ンンンン・・・」
「だって好きだから」
「ンンンン・・・」

目の前にある、締まったままのアナルに向かって、叱声を飛ばした。
耐えるかの返事が、別方向から聞こえてきた。

「じゃ、ホウコクできる?」
「ウン・・・」
「本当はいつ、うんちしたの?」
「今日・・・」
「今日のいつ?」
「午後・・・」

美恵子の戸惑いの声の返事。
その度に、きつく締まったアナルはわずかに収縮していた。

「正確には、オレと会う前でしょ?」
「・・・」
「でなかったら、こんな味しないよ」
「アアァァ・・・」
「え、まさかさ、遅れたのってうんちしてたからなの?」
「イヤァァァァッ」
「そうでしょ?」
「ヤァァァァッ」
「仕事が終わるのが遅れたんじゃなくて、うんちしていたんでしょ!」
「ンンンンン・・・」
「いいんだよ。オレ、美恵子のうんちくらい、ぜんぜん気にならない。わかってくれる?」
「ンンン・・・」

まだ1度も言えてないが、美恵子はAVデビューさせるのだ。
その前振りとして、もっと自分が良識を跨いでみせて、もっと常識を一つ一つ踏んづけてみせて、もっともっと一線を飛び越えてみせて、美恵子にも全て同じことをさせなければだった。

「うんちよりも、嘘つかれたほうがショックだよ」
「ンンン・・・」
「オレの気持ち、わかってくれた?」
「ンンン・・・」
「わかってくれたの?」
「ン・・・」
「だったら、うんちして、このまま」
「エェェェェッ」

このときの自分は、突然の衝動によって、美恵子に排便を見せるように強いることになったと思っていた。

しかし、あとからよく考えてみると、前々から望んでいたのかもしれない。

臆病者が普段から物陰から幽霊を見出してしまうように、自分もあの銀座のフルート以来、普段の美恵子から排便姿を見出していたような気がする。

「なんで?できるはずだよ?好き同士なんだもん」
「でも・・・、それはダメ・・・」
「オレが、美恵子のだったら平気って言ってるのに?」
「だって・・・」
「オレがしてっていってるのに?」
「でも・・・」

自分は前に、美恵子が全裸で安来節を踊ったり、にぎりっ屁を嗅がせたり、排便姿の想像をしたと書いた。
そのうち排便だけが、違和感なく要求できた。

「なんだか、オレのこと嫌いって言われてるみたい、悲しいよ、オレ」
「・・・」
「嫌いなの?」
「ウウン・・・」
「じゃ、できるでしょ?オレのために」
「・・・」

美恵子は無言だが、目の前のアナルは表情があるかのごとく『ウン』と戸惑いながらも収縮している。
しかし要求はうんちなのだ。

お互い無言のあと「でないよ・・・」と美恵子はつぶやいた。
応じる気はあるのだ。

それ以上の返事は確かめずに、シックスナインを解いた。
四つん這いさせて、もっとお尻を突き出すように指示の口調で言い放った。

お尻は突き出された。
ローション容器の注ぎ口をアナルに挿入して、容器を握り、じゅぶじゅぶとローションをアナルに注ぎ込んだ。

はじめてのスカトロ

容器の中のローションが半分ほど注入されたころに、美恵子は便意を訴えてきた。

ここでスカトロについて、両者には見解の相違が生じる。
美恵子はトイレでの排泄姿を見せるのはいいが、排泄物は瞬間でも見られたくないのだ。

「なんで?ここでうんちしてくれるんじゃないの?ティッシュひくから、たくさん」
「ぜったいムリ!」
「オレは平気」
「わたしムリ!」
「美恵子のこと好きなんだよ!」
「好きでもムリ!」
「ううん、好きだったらできるよ、オレは美恵子がうんち見せてっていったら見せれるよ」
「でも・・・」

説得は、トイレに行かせないように抱きながらだった。
時間の限りがない自分が有利だった。

「それが付き合ってるってことでしょ?」
「もう、お腹いたい・・・」
「愛情があるからでしょ?」
「ンン・・・」
「じゃあさ、便器の上にまたがってするのは?」
「ムリ!」

美恵子の限界がくる前に、説得は折衷案でまとまった。

排泄物を見せるのはダメ、室内の床での排泄もダメ、洋式便器の上にまたがっての排泄もダメというのは認めた。

以外に、全裸で排泄するのもダメ、近くで見るのもダメという美恵子の希望も取り入れて、ユニットバスの排水口のカバーを外して、そこに直接しゃがんで排泄し、自分は入口で見るだけとなる。

話がまとまると、すぐに美恵子はパンティだけを脚から外して、ユニットバスに駆け込んだ。

排水カバーを外した自分を外に追い出してから、美恵子は排水口の上にしゃがんだ。

「美恵子、オレ、うれしい」
「アアァ・・・」
「がんばって」
「ンンン・・・」

美恵子の細い肩が緊張で揺れた。
排泄がはじまりそうだった。

「あっ、もうちょっと、お尻上げて」
「それはダメ!」
「でるとこみたい」
「ダメ!ぜったいダメ!」

苦しそうな声で却下された。
あとは大きく息をつきながら、しゃがんだままだ。

「でそう?」
「ン・・・」
「がんばって出しちゃって。恥ずかしくないからね」
「ン・・・」
「オレ、うれしいよ。美恵子がここまで見せてくれて」
「アァ・・・」
「・・・」
「ア、ァァ・・・」
「・・・」
「ア、ア、ァァ・・・、人、としての・・・」
「・・・」
「尊厳がぁぁっ」
「・・・」

美恵子の「尊厳がぁぁっ」との大きな呻きと、ドロドロのローション交じりの排泄物が見えたのと、生物が動いたような液体音が重なった。

排泄物は、そのまま排水口に消えていった。

突きつけられた尊厳

不満だった。
美恵子は頑張ったのだったが、尊厳の一言が不満だった。

尊厳というのは、頭脳明晰な美恵子だからこその、最大の羞恥の呻きなのはわかる。

自分だって面と向かって「うんち見せて」などと口にするのは、さすがに恥ずかしい。

人間としてどうかとも思う。
そういう自覚はある。

美恵子だから曝け出せたのであって、それを受け入れてくれたはずの美恵子が、完結する瞬間になって尊厳などを突きつけてくるとは。

人々の想いとか、人々の願いとか、人類の幸せとか、そういう崇高さの根源にあるのが尊厳だと言ってることは十分にわかるが、たとえば旨いものを目の前にしてるときに世界中の飢えた人々の悲惨さを説かれたような、わかるのだけどやり場がない不満がある。

お互いの好意が基にあっての排泄だったのに、自分が変態な要求をしたからだと一線を引かれたようで、美恵子の排泄物を見逃さないようにと、床面に顔をつける格好をして凝視していた自分をどれほど無様にも感じさせたことか。

まるで便所コオロギだった。
あの、気持ちがわるい便所コオロギ。
便所コオロギ野郎。

忸怩たる思いでいると、美恵子は「ン・・・」と色っぽく呻きながらふんばって、ローションばかりの排泄物を出し終えた。

後始末は見られたくないらしい。
ユニットバスの扉は、無言のまま閉められた。

ベッドに寝て待っていると、後始末を済ませた美恵子がきて、気まずそうに目を合わせないまま、黙って脇に座った。

排便姿を見た相手に、なにか変なことを言われるのではないのかと緊張している横顔だった。

健気ではある。
が、不満は、美恵子が言った尊厳を許さなかった。

『オレと尊厳と、どっちが大事なんだ!』と『オレは尊厳以下か!』と『オレは便所コオロギか!』と問い詰めたいが、さすがにこれは美恵子だって訳がわからないだろう。

それに、せっかく頑張ってうんちに応えてくれた後だし、尊厳ごときに腹を立てている偏狭さは見せたくなかった。

美恵子にはAVをさせるのだ。
まだ1度も言えてないが。

そんな尊厳ごとき。
まずは自分が踏みつけて見せなければ、美恵子だって言うことをきかなくなる。

優しく「おいで」と美恵子を招くと、疲れたようなため息をついて脇におさまった。

「美恵子さ」
「・・・」
「また今度、尊厳しようね」
「え、尊厳?」
「さっき、言ってなかった?うんちでるときに。尊厳がぁぁって」
「やだぁっ」
「オレ、尊厳がぁぁって、あんな大きな声でいう人、はじめて生でみたよ。ふつうは映画の中でしかつかわないよね。感動巨編のような」
「そのくらいはずかしかったの!」
「でもさ、尊厳って、もっと違うものかとおもったけど。なんていうの、人の命にかかわるようなときに使うっていうの?」
「いいでしょ!」
「それを、うんちしながら尊厳がぁぁって、どういうこと?はずかしいのはわかるけど使い方まちがってない?」
「いいの!」
「尊厳の使い方としては、なんていうのかな、ヒューマニズムっていうの?え、どういうことなんだろ、うんちしながらヒューマニズムって。やっぱまちがってるよね?」
「もうぅやだぁ!」

排泄姿を見られたことよりも、今となっては「尊厳がぁぁっ」との呻きのほうが恥ずかしいようだった。

緊急事態だからこそ尊厳がもたげてくるのである。
平時にあっては必要がない、こそばゆい言葉でもあった。

「でも、美恵子の尊厳、よかったよ」
「いいの!」
「がぁぁってのもよかった。心の叫びって感じ。さすが美恵子だ」
「ケンイチさんがさせたんでしょ!」
「うん、ごめんね。だからね、美恵子の心の叫びを聞いたみたいだった。尊厳がぁぁっの一言に凝縮されていたよ」
「ケンイチさんが・・・」
「でも、やってよかったね。もうオレと美恵子は他人じゃないね」
「もう、しらない」

自分はからかう。
美恵子は排泄がなかったかのように、いつもの笑みを見せた。

AV女優に仕立てれる手ごたえありとは?

このときから尊厳の意味は、2人の間で急速に変化して『ホウコク』に次いだ秘語となっていく。

次に会ったときには、イチジク浣腸をすること、目の前で排泄をすること、それらは『ソンゲン』の一言に置き換えられて使われた。

自分は爽やかに「ソンゲンしよ!」と要求をして、美恵子は「ソンゲンするの?」嫌々ながらも笑いを含みながら応じて、2人は楽しそうにイチジク浣腸を扱った。

もう指示の口調はない。
叱声もない。

スカトロプレイとは、お互いに和やかさを持ち寄って成立する。
決して排泄物が『汚い』と言われないという信頼を持たれて、人間性まで否定されないという信頼を持たれて成立する。

それでもイチジク浣腸が注入されてからは、排泄物はどうしても見られたくないという美恵子だった。
すぐさま屁理屈がこねられた。

「美恵子の健康だって確かめたいの!」と「イチジク浣腸を作っている人たちも悲しんでいるよ!」と言い放つまで屁理屈はこねられた。

排水口に直接ではなくて「洗面器にソンゲンして」ともなる。
排泄する瞬間までもが「おもいっきりソンゲンして!」と置き換えられた。

洗面器に排泄された茶色い液体と、固形物そのものまでもが「ああ、すごいソンゲン」と言い表された。

近代社会の根幹を成す言葉が、こんなにも雑に扱われるとは。
古今東西の崇高な思いが込められた概念が、排泄と同等に扱われて、排泄臭をさせながらカジュアルに使われている。

そして、美恵子が口にした尊厳を踏んづけれたことで、そこそこのAV女優に仕立てれる手ごたえはしてきた。

とはいっても、えりみたく、堂々とした立派なAV女優にはしたくなかった。

真由美と同様に、苦役にまみれたAVをさせるつもりだし、今はそれを許容できる気がするし、そうでありたかった。

以前は許容できなかったから、お互いに苦しんだのだ。
スカウトをはじめたばかりの自分には、そのようなこじつけがあった。

美恵子は、スカトロAV女優にしなければだ。
いくら優秀な美恵子であっても、社会復帰できないほどのスカトロAV女優にしなければならない。

– 2018.1.30 up –