由佳、歌舞伎町で援交してた19歳、AVプロダクションに所属済みだったが


スクランブル交差点でスカウトして

時間は夕方6時。
平日のスクランブル交差点。

アルタ前広場
冬のアルタ前広場の街路樹

この時間帯人通りは多いが足はなかなか止まらない。
集中しないとするやる気をなくす。

「ちょっと、い・・・」
「・・・」

足早にスタタタッと歩き去る。
後ろ姿を見送った。

向きを変えて、人通りを見てる。
うつむき気味に歩いてるコがくる。

「ちょーといい?」
「・・・・」
「歌舞伎町いくの?」
「・・・・」

全くの無視。
自分は立ち止まるしかない。

反対側を向いたとたんに、脇を女のコが通りすぎる。
斜め後ろから、ツンツンと腕をつつく。

「・・・」
「・・・」

リアクションなし。
また反対側に向きを変えた。

ウロウロ歩くと、向こうから、よそ見しながら歩いてくるコが視界に入った。

「・・・」
「・・・」

通りの中央にいる自分と目が合う。
1歩だけ踏み出すと同時に、小走りに去っていく。

踏み出した足を止めた。
そのまま人通りを見てる。

前方からスタスタと歩くコが来る。
軽く手を挙げる。

「・・・」
「・・・」

目は合わせないが、歩く向きは変えない。
2、3歩合わせて近づくと、チラッとこちらを見る。

「ちょっといい?」
「・・・」
「あやしい者なんですけど」

もう一度、チラッとこちらを見てからクスッとした。
同時に、早かった歩調は緩んだ。

「これから、歌舞伎町?」
「うん。てゆうかぁ、きょうぉぅ、友達とぉ、店行く約束でぇ待ってたんだけどー」
「そう」
「てゆうかぁ、わたし、チョーアタマきてるのー」
「どうしたの?」
「友達と待ち合わせしていたんだけどぉ、バックレだしぃい。チョーハラ立つー」
「バックレかぁ」
「それでぇ(略)」

よくしゃべる。
ひょっとして、クスリでもやってるのか。

要するに、待ち合わせしていた友達が来ないし連絡も取れない、30分立ちっぱなしで疲れた、とそういう事である。

語尾が長く、異常にチョーを多用して、てゆうかぁになる。

服装はギャル風。
話し方もギャル語というのか。

先入観ではあるが、顔立ちにはおバカさんとしか言いようがない。

「それでさ・・・」
「てゆうかー、チョー足疲れた。どこか座りたいー」
「話聞いてくれる?」
「なに?」
「AVのプロダクション」
「事務所だったら、入ってるよ」
「どこ?」
「アリーナ」
「ああ、恵比寿の?」
「そう」

アリーナは聞いたことあるが、自分は付き合いはない。

スカウトしてると、女の子から度々聞くAVプロダクションだ。

腕のいいスカウトがいるんだろうな。

「てゆうかー、チョー、疲れたー」
「どっか座るか。友達がくるまで」
「うん」
「アリーナのこときかせてよ」
「うん」

コマ劇横のマックで話は続く。

AVプロダクションは横のつながりを好まない

AVプロダクション同士のルールとして、既に他に所属してる女のコには手をつけない。

それぞれが自分勝手でまとまりがない業界だけど、それだけは守られる。

まとまりがないというのは、基本、AVプロダクションは横のつながりを好まないからだった。
自分達さえよければいい、という考え。

以前にAVプロダクションの代表が会合をして、組合を設立しようとしたこともあるらしい。

しかし、あっという間に空中分解したとのこと。

「アリーナさ、入ってどのくらい?」
「うーん・・・」
「だいたい」
「半年くらい?」

誓約書によるが、所属してから1年、長ければ3年が経っていれば話は変わる。

次のAVプロダクションから、先方に1本の電話を入れて了解を得えば、新たに所属はできる。

アリーナの誓約書は、たしか3年だった。

「けっこう、ブイ(AV)やったの?」
「それがねー、チョームカつくのー。わたしー、時間にちょっと遅れただけでー、ギャラ引かれるしー」
「うん。・・・ちなみにギャラはいくらだった?」
「5」
「そうなんだ。それで?」
「それでぇ、本番とレズかスカ(スカトロ)でぇ」
「うん
「わたし、レズできないからぁ、本番とスカだったんだけどー、(略)」

こちらが疲れるくらいしゃべる。
この子のスカトロじゃあチンコは勃たないだろうな・・・とも思った。

「スタジオってどこだった?」
「浜田山」
「うん。それで?」
「それでねー、チョー(略)」
「チョー、それでー、(略)」
「・・・うん」

そのアリーナは、女のコのギャラは安いようだ。
事前に撮影内容を伝えない場合も多い。

「何日の何時にどこそこにきて」とだけ連絡がきて、そのまま現場に連れていかれて本番NGなのに輪姦だった、と別の女のコから聞いたこともある。

撮影を拒むと、高額な違約金の請求をちらつかせる。
けっこう強引でもある。

テーテーテと彼女の携帯から着信音がした。

「もしもし~、おそいよ~、いまコマ~、うん、じゃあ行く~」と話している。

友達ではなくて援交相手のようだった。
彼女のスカウトはタイミングをみよう。

大声で電話する彼女を見ながら、そんな事を考えた。

歌舞伎町から離れた中国人裏社会

数日後。

歌舞伎町のセントラル通りで缶コーヒーを飲んでいると「田中さん」と呼びかけられる。

陳さんだった。
知り合ったのは3年前。

ブローカー仕事で雑貨の転売をしたとき、台湾人との通訳が必要になった。

知り合いから、一番まともな中国人ということで陳さんの紹介を受けた。

通訳は手間がかかったが、快く引き受けてくれた陳さん。

こちらと相手の意図を汲む通訳は完璧だった。
「僕、人との付き合いを大事にしたいんですよ」と代金は受け取らない。

そして一緒にメシを食べて、酒を飲んでからの付き合いになる。

「お、陳さん」
「元気ですか?」
「久しぶりだね」
「いや、もう上海の人、みんな歌舞伎町から離れたんです」
「いろいろ悪いことしたからね」
「いや、そんなにはしてないですよ」
「歌舞伎町を離れたって、じゃ、どこにいるの?」
「はい。みんな西川口のファミレスにいるです」
「えっ、ファミレス」
「今、上海の偉い人も、みんなそこいるですよ」
「ファミレスって、こえぇ」

陳さんは自分と同年だ。
上海出身。

来日して●●大学を卒業し、英語、日本語、北京語やら上海語やらを話せる。

身長が180cmあってスラリとしていて、格好もブランド物を身につけて、仲間も皆おしゃれ。

父親が中国の共産党員だか役人だかで、上海のおぼっちゃまと紹介者からは聞いた。

ヒマがあれば、英文のニュースウィークを読んでいたりしている。

話す内容も思慮深くて「頭が良いな」と何回も感じた。

しかし、陳さんを見てると、日本はやはり差別があると感じる。

知識もあり、能力も人並み以上にあるのだが、“ 中国人 ” というだけで就職はおろか、日本人社会に溶け込めない。

本人はあまり話さないが、日本に来てから大学生活に随分と悔しい思いをした事をチラッと話したことがある。

そして、在日の中国人裏社会に組み入れられ、歌舞伎町をうろつきはじめる。

知り合った当初は “ 石 ” の仕事をしていた。

パチンコの裏ロムのことだ。
毎日集金で関東近辺を飛び回っていた。

陳さんいわく・・・。

「店長も儲かるし、客は損しないだから、いいんですよ」
「・・・」

そして、ポケットに札束が入る。

熱くなる国民性なのだろうか、中国人でギャンブル好きは多いと聞く。

歌舞伎町のバカラ(カジノ)に一晩で200万300万は平気で突っ込む。

“ 船 ” の仕事にも関わっていた。

まず、宝石店や家電量販店を下見する。
そして計画を立て、蛇頭の密入国者を “ 飛び込ませる ” という強盗のコーディネーターとでもいうのか。

陳さんいわく・・・。

「船の人達なんでもするですよ」
「陳さん、さすがに強盗はダメでしょ?」
「いや、僕たち、人殺しとかはしないんですよ。ゼッタイに。これ、みんな決まりなんですよ」
「殺人はまずいでしょ」
「そうなんです。僕たち、拳銃で脅かしたりとかロープで縛ったりしますけど、暴力ふるったりしないんですよ」
「暴力でしょ?それ?」
「絶対に人を傷つけないんですよ」
「いや、陳さん、しっかり傷つけてるよ」
「いや、違うんですよ」
「いや、違くない」

実行犯でないからか。
罪の意識はあまり感じられない。
来日10年で逮捕歴はない。

一方で「レベルが低い仕事してると人間もダメになるんですよ」と話したことがある。

こんなことも言っていた。

「中国では、1流は契約書がなくても約束を守る人間で、2流は契約書を交わして守る人間って言われるんです」
「へぇぇ」
「そして、3流は契約を破る人間って言われるんですよ」
「ふーん」
「でも、最初は3流の人間になれって教わるんです」
「それ、陳さんだけでしょ?」
「いや、中国ではそうなんです」
「いや、聞いたことない、そんなこと」
「いや、中国ではそういうことなんです、そう教わるんです」
「いや、陳さんだけ」

いずれは日本社会で正業をしたいともいっていた。
そして、仲間を信頼し大事にする。

中国の飲茶の習慣なのだろうか、仲間がなにかと集まり、お茶を飲みながら仕事の話を延々とする。

皆で仕事の資金を出し、役割を分担する。

シンガポールの組織の偽造クレジットカード

陳さんとその仲間たちは、ここ1年ぐらい “ 板 ” の仕事をしてる。

偽造のクレジットカードだ。
新聞発表では、被害総額は500億円となっていた。

「資金と労力もかかることを考えれば、大元以外はボロ儲けというわけではないんですよ」
「だったら陳さんさ、もう普通に働いてみれば?英語だってできるし、頭もいいし」
「いや、違うんですよ」
「いや、違くない」

以前、陳さんに詳しく聞いてみた。

クレジットカードのデータは、飲食店や風俗店の店員がこっそり集める。

煙草の箱ほどの “ スキマー ” という装置に、会計時に客のクレジットカードを通す。

それだけで、偽造に必要なデータがスキマーにインプットされる。

陳さんは、仲間と一緒に資金を出し合い1台30万するスキマーを “ シンガポールの組織 ” から何台か買う。

そして、スキマーをキャバクラや風俗店の店員に無料で貸し出しして、1データを2万円で即金で買取る。

それから、“ シンガポールの組織 ”から、何も刻印がないカードを2万円で仕入れる。

仲間のアパートにあるパソコンにデータを入力し、カードに番号を刻印するのに手数料1万円を支払う。

こうして、1枚の偽造カードを作成するのにコストは5万円になる。

使用可能なショッピング枠は平均して30万円ほどになるという。

最新のノートパソコンなど換金性が高い商品を購入し、それらを60%で裏業者が換金する。

買物金額が30万円の場合は、現金18万円になる。
コストを引いた13万円を仲間で公平に分ける。

大元のシンガポールの組織は、技術革新が早く、次々と “ 仕事 ” に必要な高額な新商品が販売されるという。

陳さんいわく・・・・。

「そこの組織、あまり秘密を知ってしまうと、すぐには放さなくなるですよ。だから取り引きだけしてるんですよ」
「シンガポール、こわいな」
「いや、こわくないですよ、シンガポール、連れていかれるだけです」
「いや、こわいよ」
「いや、こわくないですよ」
「いや、こわい」

中国人も日本人も多数関係するが、皆、合法の仕事であるかのような顔をして関わっている。

ボス的な人間が仕切ってるというのはない。
もちろん上下関係もなければ、妙な思想もない。

なにかあれば、あっという間に散らばって、瓦解するのは早い緩い繋がりだ。

まとまりはないが、割合と約束は守られる。
秘密も守られる。

しかし部外者には、結束の固い偽造グループに見えて、陳さんは中国マフィアとでもなるのだろうか。

「偽造カードを使われた本人ってさ」
「はい」
「それって請求がきたら、払わないといけないの?」
「いや、本人の手元に本物カードあるだから、それでコピーされたとわかるだから、その場合は払わなくていいんですよ」
「カード会社がかぶるんだ」
「いや、カード会社は損しないです。保険会社が払うですよ。そのために保険料払ってるんですよ」
「ふーん」
「アメリカの保険会社だから、日本には損させてないですよ」
「いや、損してるでしょ?」
「いや、してないです。それにお店も立替金入るですよ。僕ら行けばお店も喜ぶですよ」
「そうかな」
「それと田中さん」
「うん」
「今、倉庫にスーツが500着あるんですよ。1着5000円でどうですか?」
「へえー、500着?みんなカードで買ったんだ」
「いや、それは・・・。まるごとドロボウなんですよ」
「なんじゃそりゃ・・・」

陳さんの話には突っこみどころがたくさんある。
面白くて、ついつい長話になるのだった。

世界中で儲かるのが麻薬と武器と人

このとき陳さんには、劉さんという連れがいた。

「田中さん、女のコたくさん知ってるだから」と言う陳さん。

「なんとか紹介してください」と切実そうな劉さんも高めの身長で180cmはある。

ミュージシャンみたいな茶髪に、タイトなコートに似合っている。

くっきりとしたモテそうな顔立ち。
陳さんも含めて、日本人の女のコと付き合いたいという中国人は結構多い。

だけど中国人というだけで、日本人の女のコは好感は持たないのではないか。

やはりイメージ的なものだろうか。

「今度、パーティーあるだから、女のコと来てくださいよ」
「どこで?」
「クラブを閉めた後に、集まってコレやるの」
「クスリやるの?」

劉さんは、アタマを横に振るゼスチャーをした。
自分はクスリ関係は好きじゃない。

クスリやるくらいだったら、オナニーしてるほうがいい。

自分が露骨に嫌な顔をしたせいか、劉さんに代わって陳さんがいう。

「いや、ぜんぜん害じゃないですよ。音の響き良くなるだけですよ」
「いや、オレはそういうのはわからないな」
「いや、僕はやらないですよ」
「いや、でも、クスリはな・・・」
「いや、違法ではないですよ。オランダからくるです」

陳さんは、バツが悪そうな顔をしてる。

そして「でも、世界中で一番儲かるのが、麻薬と武器と人なんですよ」と、また、よくわけわからない陳さん流の言い訳をした。

「女のコにブランド物をプレゼントするだから、誰かお願いしますよ」
「どんなの?」
「ビトンのバックたくさんあるだから」
「・・・1人いるな、風俗してるコで、エッチはできるけど、気に入るかどうかはわからないよ」
「できるコがいいです」
「多少ぶさいくだよ」
「はい、いいです」

この前のユカだったら、援交、ブランド、クスリ、というキーワードがあてはまる。

彼女に電話して話してみると、なんか喜んでいた。

なんかポン引きみたいになってしまったが、今回、これで紹介料うんぬんはない。
借りもない。

だけど、付き合いを大事にしたいという陳さんとだったら、久しぶりに合ったし、1回位はこんなことがあってもいいかなと思った。

その日。
ユカと新宿区役所前に行く。
援交が不発だったらしいが、よく聞いてない。

陳さんは彼女を連れてきた。
スラッとした中国美人だった。

しばらくして、劉さんもやってきた。
なんだか、殺し屋みたいなサングラスをしている。

ユカのハイテンションな話ぶりも、暗い区役所前ではちょうどいい位だった。

店はもうこの近くらしい。

「紹介してから雰囲気を見て自分は帰る」と陳さんに伝えると、彼はポケットから小さな封筒を出した。

「田中さん、これプレゼントするですよ」といいながら手渡してくる。

封筒の中を見ると、全く知らない人のJCBカードが1枚入っていた。

– 2002.12.12 up –