風俗店のシフトの組み方


ローション作りはどことなく侘しい

早番のうちに済ますことはまだある。

ユニットシャワーの細かな掃除もある。
写真や、割引チケットや、会員証といったプリント物の作成もある。

プリンターインク、A4光沢紙、L版用紙、会員証用紙、ポラロイドフィルムといったサプライ品を、東口のビックカメラに買出しにもいく。

プロフィールを入れるB4カードケース、カラーペン、ハンドソープやペーパータオル、ゴミ袋や洗剤、ホチキス針といった細かな備品も、東口の富士銀行の裏の百均に買出しにいく。

買出しにいく間は店が1人になって、なにかあってもいけないので、これらは自転車でいく。
もちろん、ママチャリの立ち漕ぎだ。

ローション、イソジン、グリンス、ボディーソープ、歯ブラシ、ティッシュの予備があるか確めて、不足分は風俗店専門のカタログ販売へ注文のFAXを送信する。

欠かせなくて手間がかかるのは、ローション作りだった。
3日に1度は作る。

購入したローションは、業務用のボトルに入って届く。
その時点では、トロトロとはしておらず、ドロッとしている。

濃いのだ。
そのままでも使えなくはないが、シャワーで洗い流しにくいし、使用感が肌に残る。

なので、2倍強に薄めてから使う。
が、ちょうどいいトロトロ感を出すのにひと手間かかる。

ローションのボトルと洗面器を手にシャワー室にいき、靴と靴下を脱ぎ、シャツもズボンも脱いでパンツ1丁になる。

早く作らないといけない。
客とは不思議なもので、こういうときに重なるのだ。

いつまでも、ふたつあるユニットシャワーのひとつを埋めるわけにはいかない。

ローションの原液を洗面器に3分の1注ぐ。
熱々の熱湯を少し注ぎ足す。

片膝をついて「アツッ」とつぶやきながら、洗面器のローションを両手で胸の前まですくい上げて、空中でくるくるくると高速でかき混ぜる。

すくい上げては空中でくるくるくる、また、すくい上げては今度は指を開いてくるくるくるして、トロトロ加減によっては熱湯を足す。

ローションの原液に対して、熱湯は2分の1ほど。

さらに「アッツゥッ」などつぶやきながら、すくい上げたローションをくるくるくるするが、今度は指先で揉みしだくように動かしながらくるくるする。

10回ほど繰り返して、水っぽくもなくいい具合のトロトロ感が出てるのを確認。
丹念に確認する。

ローションが急には垂れ落ちずに、混入した空気の泡が留まるくらいの粘着感がベスト。

ここはしっかり確かめないと、ベテランのアオイなどはここぞとばかりに「ローションが水っぽいですけど」と指摘してくる。

ゆっくりやってもいられずに、このローション作りは一気に行なう。

なにかいい方法はないかと、後日には家庭用のハンドミキサーを購入して試してもみたが、ローションの粘りはけっこう強力。

モーターの回転が止まってしまうので、少量づつしか作れなくて時間は倍かかる。

出来具合も含めると、パンツ1丁の人力で洗面器がベストだった。

ペットボトル5本に充填してローション作りは完了する。

ユニットシャワーには熱気がこもってくる。
ローション作りが完了したときには、全身汗だくになってるのが常。

パンツ一丁だし、慣れるまではどことなく侘しい気持ちもするローション作りだった。

休憩時間にオナニーに耽る

雑用も済んで、面接も体験入店もなく客付けも順調ならば、通しの日は午後に1時間の休憩をとる。

空いている個室でゴロ寝する。

その日、3番の個室でゴロ寝をしてると、向かいのミサキの個室からは漏れだすほどのあえぎ声が聞えてくる。

ミサキは教えた通りに、素股のときは声を大きく出してるのだった。

マユミが客向けの弾んだ声で、隣の個室に客を連れて来て、壁越しにいちゃつく気配が伝わってきた。

しかし、女の子って不思議だ。

個室からあえぎ声が漏れて聞こえているのはわかっているのに、顔を合わせると『わたしじゃないよ』といいたげに接してくる。

講習とはいえ、裸になったしキスもしたしお互いの性器を舐めあったなのに、そんなことなかったかのような笑みで接してくる。

そのときのこっちの目の上のほうには、おっぱいやらフェラ顔やらがチラついているのをわかっているのだろうか?

疑問からくる勃起ってある。

個室には備え付けのローションもあるし、ましてやそれが自分が丹念に作ったローションとなれば、使用感を試してみるべきだと理由もつけて、ついついオナニーしてしまうこともしばしばだった。

躊躇はする。
いい大人が、仮にも仕事中にオナニーなんて。

躊躇はするのだけど、ローションを垂らしてからは、目を閉じて、彼女らの名前をつぶやいてしごく。

エアーシックスナインで舐めて吸って、一方の手は空中を撫でて揉んで、オナニーに耽っていた。

やがて射精が終わる。

こんな間近で、しかも営業時間中に、在籍をオナペットにしていることが発覚したら店長の権威が失墜してしまう、と事後には冷静になるのだった。

しかし、オナニーで解消する疑問もある。
女の子の不思議さはなくなっていた。

早番と遅番の入れ替え

雑用も休憩も、15時までには済ませる。
15時を過ぎてからは、フロントには常に2人いないと手が足りなくなる。

遅番の出勤確認の電話が、かかってきたり。
かけたり。

当欠がないとわかると、それだけでほっとする。

16時15分を過ぎると早番の女の子は受付終了となるし、16時30分を過ぎると遅番の女の子が出勤する。

それから17時30分の間には、早番と遅番の女の子の入れ替えをする。

早番の女の子が同時に上がるわけでもないので、遅番の女の子をフロントの丸イスで部屋が空くまで待たせたりもする。

店の出入り口はひとつしかない。
私服の女の子が通り過ぎると、居合わせた客はジロジロと見る。

それを嫌がる女の子もいるので、客が途切れるのを待ってエレベーター下まで送ったりもする。

どうしても客が途切れないときは、ガードするようにササッと出入りさせたりして、入れ替えには手間がかかるのだった。

客は10人中9人が写真指名をする

遅番となると、ひたすら2人がかりで受付をして、客を入れるのみ。

早番は単独客ばかり。
遅番になると、2人組や3人組が来店する。

1度に2人でも3人でも入れるというわけにはいかないので、こちらを待たせたり、あちらをすぐに入れたり、振り替えたりと調整しながらになる。

20時を過ぎる頃には酔っ払い客も目立ってきて、こっちがカワイイ、これがカワイイと大騒ぎとなる。

客は10人中9人が写真指名をする。

よほどのいい男でない限り、日常生活ではこれと狙った女性をモノにすることはできないが、指名をすれば狙い通りにいける。

そんなこともあるのか、指名は譲り合いで仲良くとはいかなかった。

21時で、遅番は後半となる。
入客には波があって、順序よく来店はしてくれない。

前半が込むと、後半がそうでもない。
前半がヒマ気味だと、後半がひどいラッシュとなる。

23時になると、客のほうも終電があるからと待ち時間を気にするようになる。

同じく終電上がりでなけらばならない女の子も帰していく。

24時になると受付終了。
チケセンでも割引チケットが下げられる。

しかし入客数が平均に及ばない日は、この24時にラッシュがくるものだった。

また、ラストとなると客も入りたがる。
閉るドアには駆け込みたくなるものだった。

終わってみると、わずかに平均に足りないくらいに入客数は収束するものだった。

この日は、前半混んで後半が途切れて、ラストの客を取り込んで、店頭の照明を落として看板も収めたときには24時20分過ぎていた。

客を帰した女の子から順次上がりとなり、ラストの女の子が帰るのは25時30分を過ぎる日もある。

それまでには現金合わせして、締めをして客単価と店落ちを出して、片付けをする。

シフト調整はクビ同然

またこんなときに限って、写真指名はユウカ。

「用事があるし、24時すぎたから、もう上がりたい」と言い出したのを、また竹山が土下座で説得したのだった。

入客が平均を超えている日は、気を遣って24時前には上がりにもしているのに、たまにこんなことがあるとゴネる。

確かに24時を1分だか過ぎてはいたが、ユウカ以外の女の子は、店の状況を察して快くラストの客をこなす。

24時受付終了と24時上がりは違う、ラストは25時を過ぎる、タクシー代支給でラストまで、と何回も言っているのに。

腹立たしいユウカである。

写真映りはいいユウカだった。
実際は暴飲暴食でアゴのあたりには肉が溜まってきて、それをする27歳のくたびれが滲んではいるが。

ユウカのプロフィールを置いた。
自分はやらなければならないことがある。

ユウカの来週のシフト調整だ。

早番のうちに、本指名率上位の女の子のシフトは聞いてある。
新人のシフトも入れてある。

当欠をしていて、本指名ゼロのユウカのシフトは、店からの指定となる。

そうなると、日曜日の通しと水曜日の遅番しか入れない。
これを伝えれば、ユウカは噛みついてくるだろう。

日計表に受け取りのサインをして、現金を財布に入れて、すぐに帰ろうとしたユウカを呼び止めて、シフト表を広げた。

「来週のシフトだけど」
「あ、また月から金の遅番で」

当然のようにシフトを言ってきた。
慣れてしまっているのだ。

店が稼がせて当たり前、客が付いて当たり前、出勤できて当たり前、いつまでも稼げて当たり前、店なんていくらでもある。

そういう女の子に限って写真映りがいいので、客は付くものだった。

「それなんだけど、昨日、当欠したでしょ?」
「したけど」
「それなんで、来週のシフトは今までのようにユウカの都合じゃなくて、店のほうから決めるようになる」
「そうなんですか?」

シフトの決まりは十分に知ってるくせにとぼけた。
当欠を軽く考えている。

風俗店が女性をクビにするときは相当な事態だ

「本指名がある子、当欠がない子が優先になる。それはもう、何回もいっている」
「なんで、わたしだけ?」
「ユウカだけじゃない。みんなそうしてる」
「当欠なんて、みんなしてるじゃん」
「突然の生理のときはする。それは生休になる。当欠とはちがう」
「わたしも生理ですよ。きのうは」
「ユウカさ、月に何回生理がくるんだよ。この前も生理だって当欠したし」
「不順なんです」
「だったら早めに連絡できなかったの?」
「しようとおもってました」
「ん、まあ、いい」

『生理がきそうです』という場合は事前に休みにしているが、シフトが埋まらないときだけ『生理がきたら当欠もあり』として出勤としている日もある。

風邪をひいて体調がわるい日だってある。
裸になるし、空調もよくないのでそんなこともある。

体調がわるいときは無理しないようにしているし、どの女の子も早めに当欠の連絡をするのを徹底している。

突然に当欠となると、店落ちに響くのだ。

早めの連絡だったら、店側も誰かを出勤させることができる。

ユウカみたいに、店から出勤確認の電話を何回かして、やっと出たと思ったら眠そうな声で「今日、体調わるいんで休みます」と電話を切って当欠になったのとは状況が違う。

「なんで、来週は水曜日の遅番と、日曜日の通しの早上がりでどうかな?」
「え、それだけですか?」
「そうなる」
「わたし、日曜日はダメです。それに早番なんてできないですよ」
「じゃ、水曜日の遅番は?」
「ほかの日はダメなんですか?」
「遅番だったら水曜日になるな」
「ちょっと考えます」
「うん、電話ちょうだい」
「はい」

丸椅子から立ち上がったユウカは、露骨にふて腐れたまま帰っていった。

風俗店では「クビ」と告げる必要はなかった。
シフトに入れなければ女の子はやめていく。

ふてくされる在籍
風俗店では「クビ」と告げる必要はなかった

女の子ほうも「やめます」と言う必要もなかった。
店に電話もせずに、かかってきても出なければいいだけだった。

ユウカと顔を合わせないように待合室に隠れていた竹山が「ユウカ、トビでしょうね」とフロントに戻ってきた。

これで在籍は13名。
シフトを組むのにぎりぎりとなってしまった。

まだ在籍していると思うと、出勤が足りないときはアテにしてしまう。
シフト表のユウカの欄に横線を引いた。

<ゆうか、シフト調整にふてくされて帰りました。おそらくトビです>と竹山が連絡メモに書いていた。

– 2019.2.12 up –