森さゆり、27歳、営業職、スカウト通りで声をかけて


歩調と口調のリズムを合わせる

スクランブル交差点から新宿駅東口を見て。

平日夕方の新宿駅東口。
天気は薄曇り。

20度と、気温の電光掲示板に表示されている。
スクランブル交差点付近で目配りすると、紺色のワンピースが向かってくる。

黒髪ストレートの清楚な印象の女のコ。
正面からの風で、ワンピースの柔らかい生地が太ももに張り付いた。
股間にYのラインが浮かびあがるのが卑猥だ。

足を向けると、彼女は敏感にこちらの気配を感じている様子。
決して目を向けようとぜずに、突然に小走りになると、スススッっと脇を通り過ぎた。

これはだめだ。
後ろ姿を見送った。

また目配りをする。
ブラックジーンズにハイヒールの脚が目に入る。

歩調は早いが、自分との合間は計れた。
目を向けて足を向けると、こちらに気がついたようだ。

風が吹いて、彼女の毛先が舞うようになびいている。
軽く手を挙げた。

「どーも」
「・・・」

声は届いてないが、少しの横目がワンテンポだけ向いた。
しかし通行人が邪魔で、歩調と口調のリズムが合わなくて近づけない。

あぁぁ、ムリだ。
自分は立ち止まり、あっさりと素通りされた。

いけそうな気がしたのに。
思わず後ろ姿を目で追うと、小さいお尻のヒップライン。
視姦してやるのがせいぜいだった。

しょうがないと反対側に方向を変えて、気持ちも切り替えた。

5歩か6歩くらい足をブラブラさせて、体をユラユラさせると、前方から背の高い女のコが歩いて来る。

クリーム色のハイヒールに令嬢スカート。
高めの身長に似合っている。

自分が立ち止まると、彼女はこちらに気がついた様子。
もう1度、2歩か3歩ほど小刻みに足を進めて、軽く手を挙げた。

すると彼女は驚いたような顔をして、ハイヒールの音をさせて小走りに。
弧を描くように通り過ぎた。

だめだこりゃ。
ちょっと近づいただけなのに、飛び上がるような驚いた顔をされたということは、よほど自分がうさんくさく見えたらしい。

まあいい。
反対に向きを変えて、足をブラブラさせた。

1人歩きの女のコというのは、どういうわけか続けて姿を現す。
さっきまでは自分の足は止まるばかりだったが、すぐに女のコが歩いてきた。

通行人の中に紅一点、いや黄色一点のミニのタイトスカート。
肩に白いカーディガンを羽織っている。

袖口がヒラヒラと舞っている。
同時に歩を進めて、軽く手を挙げた。

「どーも」
「・・・」

声は届いてないだろうけど、彼女の目は向いた。
瞬間だけ目が合うと、見せつけるようにして小気味よく顔をそむけた。

そむけ方が堂に入っている。
もう1歩進んで声をかけた。

「こんにちわ」
「・・・」
「あや・・・」
「・・・」

ちょうど早足の通行人が壁となってしまい、彼女がガードされる形になった。
そのまま歩いていかれた。

相手のリズムに乗れてないというのか。
自分のペースも出てないというのか。
呼吸も足もバラバラで上手く運べてない。

もう1時間近く動いてるが、こんな感じが度々続いていた。

いきなりの呼び捨てはいいのか?

繁華街のような通行人が多い場所で「声なんてかけれない」というは、このリズムに乗れてないだけ。 何を言えばいいのか、何を話すか、それ以前に路上にあるリズムに乗らないと声をかけるタイミングなんて来ない。

交番前出口には、待ち合わせや飲み会のグループでの人だかりが増してきた。
離れてはいたが、白いニットの女のコが前に見えた。

目が一瞬だけ、自分に向いたのがわかった。
2歩か3歩ほど進みながら、軽く手を挙げてみる。

彼女は敏感にキャッチの類だと感づいた様子。
素早く顔をそむけた。

もう1度歩を進める。
素通りをしようとする彼女の前に、軽く手を差し出して振った。

「どーも」
「・・・」

彼女の歩調は変らない。
歩きに合わせて胸が揺れている。
自分が一呼吸するのと合っていた。

「ちょっといい?」
「・・・」
「あやしい者だけど」
「・・・」

反らしていた目が、もう1度向いた。
口元に少しの笑みが浮かんでる。
自分の足と、いいテンポで合っている。

「キャッチしていいですか?」
「・・・」
「AVだけど」
「・・・ムリ、ムリ」
「今すぐにじゃないからさ」
「・・・ムリ、ムリ」

明るい気分の笑みに、突然の驚きが一瞬だけ見えた。
だとすると、この断りは条件反射なだけ。

もう1度こちらを向いた目には、警戒は含まれてない。
その代わりに、好奇心が浮かんでいる気がした。
彼女の足は止まるか。

「ちょっと待ってよ」
「・・・」

言いながら、自分のほうからゆっくり歩を止めた。
素通りするかと思った彼女は、2歩か3歩ほど歩いてから足を止めた。
半身を向けた目が『早くして』といっている。

「ごめんね、急いでる?」
「うん、遅刻中」
「ごめんごめん、1分ぐらいいい?」
「・・・1分ね」

Eカップ間違いなし、レングスが大人びて見えるが年齢はハタチ前後。
待ち合わせの途中で、学生だろうか。

「でさ、ここ人通るからそっちで話そうよ」
「少しだけだよ」
「うん、約束する」
「少しだけだよ」

人だかりから離れたところを指差しながら歩く。
彼女は念を押しながら付いてきた。

さっきからスカウトしている様子を、待ち合わせをしているサラリーマンの集団が見ていたのだが、この先どうなるのだろうという視線を向けてきている。

「でさ、名前なんていうの?」
「・・・みなみ」
「でさ、みなみさ」
「え、いきなり!」

自分の場合は、呼び捨てするくらいがちょうどよかった。
なんとなく無礼を感じさせる人は、いきなりの呼び捨てはしないほうがいいと思われる。

口調が馴れ馴れしかったりとか。
顔がニタニタしていたりとか。
態度が図々しかったりとか。
最初から『オマエ』呼ばわりしてきたりとか。

そういう人が呼び捨てをすると、元々の態度がなんとなく無礼なのだから、呼び捨ても無礼となる。

どことなく礼儀正しい人は、呼び捨てをしても結局は礼儀正しいのだから、無礼とはなりづらいのではないか。

礼儀正しい上に遠慮がちでもある自分は、あえていきなりの呼び捨てしても不具合はなかった。

「それでさ、今まで、こういう話、聞いことある?」
「・・・ウーン」
「少しぐらいある?」
「うーん」
「ひょっとして、もうどこか入ってるとか?」
「入ってるって?」
「AVの事務所に」
「ない、ない」

彼女は何かを言いたそうな顔をして自分を見た。
AVに対する抵抗感や罪悪感は見えない。

彼女の目に浮かんだものは、やはり好奇心だという感じがした。
好奇心が強い女のコというのは、不思議な、大胆な行動力を持つ。

「だったらさ」
「うん」
「どかんと稼いでみようよ」
「・・・うーん」

お金の話には否定はないが、引っかかりがなく流されている。
後回しでいい。
相手だって、2万3万の金額だとは思ってない。

「やっぱバレたらまずいでしょ?」
「・・・やらないよ」
「大丈夫そうかな?」
「やらない!」

女のコの誰もが気にする『バレ』にも引っかかりが感じられない。
彼氏うんぬんも出てこない。

今の段階で『バレ』を気にするようならスカウトの流れになっている場合が多いが、彼女はまだそこまでいかない。

友達がネットで脱いでいてとか、写真だったらいいとか話しもして、ズバッとあとひと押してからの反応次第・・・という感じだったが、どうしても今は時間がとれないという。

後日か。
また電話すると番号交換をして、バイバイと手を振って別れた。

成り行きを見ていたサラリーマンの集団が、まだ成り行きを見ていた。
彼女の後ろ姿を見送って首を回した。

スカウトってのは、中心で堂々とやらなければいけない。
あえてサラリーマンの集団の目の前で、次の女のコに声をかけはじめた。

裸に自信がある女性のみが脱げる

脱げる女性というのは裸に自信があるもの。 でも最初は、その自信は隠している。

いつの間にか、日が遮られた東口近辺だった。
日が沈みかけるのと同時に、自然音が消えていって、騒がしい人工音が響いてきた。

声をかけてからは、無視と素通りが軽く10人は続いてから、次に足が止まった女のコは、目鼻はクッキリした美形。

20代前半。
服装は派手目だが、話し方はしっかりと受け答えする。

歌舞伎町の風俗店に出勤するところ。
あと10分で遅刻。
一緒に歩きながら話した。

AVは抵抗あると断ってきて、自分はしばらく考えてみてと話すと、もう歌舞伎町交差点だった。
2度3度と会えれば、押せるかもしれない感触がする。

「今度、立ち話じゃなくて、お茶しながらまた聞いて欲しい」ということで番号交換をして別れた。

勢いがついた。
今だったら、すぐに次が揚がるかも。

すぐに目に留まったのは、前から歩いてくる薄手のジャケット姿。
ベージュが似合う20代後半か。
顔を向けると目が合い、同時に軽く手を挙げた。

「どーも」
「・・・」

彼女は少しの笑顔で、自分の手前で足を止めた。
すんなりと足が止まる、というのもよくない。
笑顔のまま、というのもよくない。

スカウトだとわかっていながらも、なおさらよくない。
ただの冷やかしかも。

「AVだけど」
「アハハハッ」

彼女の笑顔は引かない。
この場合は、面白半分のヒマつぶしというところか。
それで話を聞くだけで終了のパターンだろう。

「AVのプロダクションだけどさ」
「ハハハハ」
「脱いでみない?」
「ハハハハ」
「パッと見、雰囲気あるし。なんていうの、エッチッぽいっていうの?」
「アハハハ」
「すみません、おバカで」
「ハハハハ」

いくら美人でも、面白半分のヒマつぶしだとしたら、仕事中の自分にはうざい相手に思えてしまう。
しかし会話は回るのを通り越して、勢いで転がる状態になってる。

「・・・でも」
「どうしたの?」

笑い方は控えめで落ち付いていた。
社会人というよりも、穏やかさがある女性を感じさせた。

「なんだか、コワイかな」
「なにが?」
「どこかに売り飛ばされたりしないのかしら?」
「あのね、それは劇画の読みすぎ」

ジャケットの襟元からは、鎖骨がスッと浮き出てる。
いい鎖骨だ。

鎖骨の浮き出し具合と腰回りの肉付きは比例する・・・という自分の法則を当てはめると、おっぱいからウエストのラインはくびれているのが想像できる。

「今までないの?脱ぎのお仕事したこと?」
「ないわよ」

笑うと小さな目ジワができて、決して若くはない年頃。
だが、裸に自信を持っている女のコの目をしている。
そういう光がある。

「マジでさ、考えてみてよ。脱いでも自信あるでしょ?」
「・・・わたしみたいなオバさんで大丈夫かしら?」

左指には指輪はない。
彼女の語尾の “ わよ ” も “ かしら ” に秘かに和んでいる自身を、どこかで叱咤もしてもいた。

「いいんじゃない?人妻系で?」
「アハハッ。人妻ね!」

どこからか、携帯の着信音が聞こえた。
彼女は目配せしながら、トートバックから携帯を取り出して応じた。

そつがなく相手とやりとりしてる様子から、信頼感がある仕事ぶりが覗えるようだった。
営業職だということがわかる。

今は、仕事中の冷やかし半分、おもしろ半分というところか。
しかし冷やかしだったとしても、裸に自信を持っている女のコは見逃せない。
もう少し時間をかけてから見当をつけたほうがいいと、彼女が電話してるのを見ながら考えた。

携帯をバッグに収めて、また少しの目尻の小シワを浮かべた彼女が言う。

「ごめんなさいね」
「ううん。あのさ」
「なに?」
「どこか座らない?」
「・・・どこに?」
「お茶しよ」
「いいわよ」
「じゃ、イタトマいこ」
「イタトマ?」
「うん、アルタの裏」

彼女の勤務先は新橋の人材派遣会社。
依頼元との細かな打ち合わせが西新宿のオフィスビル近辺になることが多い。

新宿で昼食を摂ったり、サボリ茶をしたり、ときどきは東口を通りかかったりするとのこと。
今日は時間ができたから、散歩がてら歩いていたとのことだった。

下の名前で呼んでみる

アルタ裏にあった『イタリアン・トマト』は1000回は行ったのではないか。

イタトマは、そろそろ込み始める時間だった。
道路から2階を確かめると、窓際席は空いていた。

先に彼女を席に行かせて、自分は2人分のオーダーを持ち2階に上がった。
彼女の腰からお尻のラインが、椅子に納まっている。

いい体してるのだ。
性的にというより、また病的な雑然とした妄想をしてから彼女の隣りに座わり、いたって普通にお茶を飲みはじめて、折を見て続きを切り出した。

「それで、今日はね、話しだけ聞いてもらって」
「うん」
「そういう約束だからさ」
「うん」
「で、ダメならダメでハッキリ断っても、ゼンゼンかまわないからね」
「うん」
「オレ、慣れてるからさ」
「ハハハ」
「で、もし、どうかなって思ったら、ゆっくり考えてよ。オレはいつまででも待つからさ。1年でも、2年でも」
「ハハハ、やらないよ」
「・・・それで、名前なんていうの?」
「森です」
「下の名前は?」
「サユリです」

勤め人らしい会釈しながらの言いかたは、出先で挨拶してるように堅苦しい。
名刺を差し出しそうなくらいかしこまっていた。

名前を訊くのを、うっかり忘れていた訳ではない。
訊くのにちょうどよい瞬間が、それまで彼女と話していた途中にはなかった。

「サユリでいいでしょ?」
「エッ」
「サユリでいいだろ?」
「・・・森さんでも、サユリでも」
「じゃ、サユリね」
「・・・」

呼び捨てしたとたん、彼女の表情が変った。
目を丸くした様子に『アレッ』という感じがした。
人と接することは多くても、名前で呼ばれることがそれほど含まれてない日常生活の印象をうけた。

「そういえば、さっき、売り飛ばされるとか言ってたよね」
「だってあやしいじゃない」
「そうだけどさ、事務所によりけりだね」
「ふーん」

AVはあやしい業界ではないから、事務所のことや撮影のことを話すと、彼女はうなづいて聞いてはいる。

話のサジ加減はしてるつもりだから、彼女の反応はやはり興味本位の話だけのパターンというのが分かる。

『バレ』も口にしない。
十分にほのめかしているのに『お金』の質問も出てこない。

「ここまでだな」と、頭のどこかであとに続く言葉を黙読しながら、お茶をすすって「ゆっくり考えてみて」と切り上げた。

電車で会社に戻るという彼女と、ブラブラと東口まで歩きながら番号交換をして「それじゃ」と言いかけたときに彼女がクスクスする。

「あなたの姿、よく見かけるわよ」
「エッ、そう?」
「このへんよくいるでしょ?」
「そうだけど・・・、声かけたことないでしょ?」
「いつもは知らんぷりして、サッサッと歩いてるから」
「そうなんだ。・・・じゃあ、ここで」
「うん、お仕事がんばってね」
「ああ、・・・ありがと」
「じゃぁね!」
「ああ、うん、それじゃ」

ニッコリして東口に入っていった。
やっぱり冷やかしだったのかなと思った。

彼女の明るいお別れの挨拶に秘かに和んでいる自身を、また叱咤もして深呼吸もして、すぐに向こうから歩いてくる女のコに声をかけた。

女性は『変わる』ことが大好き

好奇心の目を持つ女のコねらい目。警戒を飛び越えて知らないことへ向かってくる。

それから1週間ほどして。
あの日に東口の交番前あたりで声をかけた女のコは、・・・19歳の学生でEカップのみなみは、それからの電話は繋がった。

改めて呼び捨てしても、明るく笑っているだけ。
「どうなのよ」などと挨拶代わりに言っていると「所属してもいいよ」とサラリと返してきた。

電話の向こうで、彼女がスカウト通りで見せてきた好奇心の目をしている気がした。
今になって目の意味がわかった。

『変わる』だったんだ。
女のコは『変わる』ことが大好き。
なんでか知らないけど。

そりゃ、変わりたいというのは誰でもあるだろうけど、コンサバな自分を基準にすればだけど、とかく女の子の変わりたいは極端で突然。
一気にガラッと変りたがる。

それがAVであったとしても、裸を見せることだとしても、かつ痴態を晒すことだとしても、変われることを期待してスカウトできる女のコが一定数いるのだった。

本当になんでか知らないけど。
おそらく自分が話した「プロのメイク」とか「プロのカメラマン」あたりに引っかかりがあったのかもしれない。

この好奇心を持つ女のコは、知らないことへ警戒を飛び越えてくる。
アタリだな・・・と2言3言を返して、メイクをすれば見栄えする顔立ちが頭に浮かんだ。

いずれにしても、電話で詳しい条件は話さないほうがいい。
次に会う日付の調整をするだけ。

今週末に、もう1度会う約束をした。
あとは、お祈りするくらい。
Eカップのおっぱいがいい形をしているようにと念じた。

AVメーカーの要求は厳しい

足がと止まったら今度はさほど話さない。 伝えたいことだけを5分のうちに話す。

その次。
あの日の派手目で美形でヤセ気味の風俗嬢。

名前はせいこ。
3日後ほどしたスカウト通りで、また出勤途中に見かけて声をかけた。

彼女は自分だと気がついて、笑みも見せてきて、足も止まり、今度は遅刻寸前ではなくて、クレープひとつ分だけ立ち話となった。

しつこくさえしなければ、2度3度4度と声をかけ続ければ、最初は断りだったとしても、話くらいは改めて聞いてくれるものだった。

2度目に声をかけて、この反応は早いほうだった。
AVに対してこれといって抵抗感や罪悪感もないし、バレもそれほど気にしてはいない彼女。

躊躇してる理由は、カラダに自信がないというものだった。
詳しく訊くと、アトピーで肌が荒れてるとのこと。

サブナードの階段に動いて、袖をまくり腕を見せてもらうと、肌はかなりカサカサと荒れていた。
背中のほとんどが、その荒れた状態とのこと。

惜しい。
やる気を見せる女のコに限ってだ。
どういうわけか、なにかしら難があるものだった。

AVプロダクションへの所属は微妙というより無理かも。
いや、無理ではない。

事務所へ面接に連れていき、所属して宣材撮影するまではいくだろうけど、無駄になるかもしれない。

3年前だったら、こういう感じの女のコでも営業できたのだけど、今はAVメーカーの要求は厳しい。

AV嬢はかわいくてやる気があるのが当たり前で、プラスで飛びきりカワイイか、ハードができるとか、本数こなせるとか、ギャラが安いかがないと予定が入らないこともある。

このさき、AVプロダクションはどうなるんだろう。

それはそうと。
アトピーだからAVは厳しい、とははっきり言えない。

「大丈夫どうか聞いてみる」と、当たり障りなくすっとぼけた。
そして「お店がんばってね」と、歌舞伎町に向う彼女とはバイバイした。

興味が含まれた答えにはこだわる

親しみというのはスカウトには邪魔になることが多いもの。

その次ぎ。
27歳の営業のサユリ。

あのコは動かない、という見当はついていた。
あのとき話が回ったのは、よくある女のコの気まぐれかもしれない。

それにその後にも見込みがある女のコもいて、そんな気持ちの余裕から、彼女は切りだなと選択させていた。

そんなときだった。
スカウト通りに、ベージュのスーツの彼女が姿を見せたのは。

軽く手を挙げると、少しの笑みで彼女は脇まで来て立ち止まり「会社に戻る途中なの」と話かけてきた。

「ね、今日は何人スカウトできたの?」
「そんな何人もできないよ」
「ホントに?」
「ほとんどがシカトだからさ」
「ははは」
「まあ、1日1人だね。考えてみるってコがね」
「そうなの?」
「そうだよ。簡単にはいかない」
「今日は何時からしてるの?」
「もうすぐ2時間くらいたつかな」

2時間程で5人かの女のコの足は止まりはした。
しかし警戒していたり、まったく興味を見せなかったり、驚いて引いたり。

あと高校生だったり。
皆、バイバイしていた

「何人くらいに声かけたの?」
「数えてないな」
「ふーん」
「人数じゃなくて、こういうのって流れだからさ」
「ふーん」

このときは、もうすぐ揚がる感じがしてた。
集中や緊張の状態、気分や歩調の調子が交ざったコンディションがいい。

あと1時間もすればだ。
いい女のコがスカウトできる、という勢いにもなっていた。

「リズムっていうのかな」
「そういうのってあるのね」
「うん。それにのれてきてるってときに、スパンって決まるんだよ」
「ハハハ、キャッチのひとって感じ」
「・・・」

こんなときの立ち話のときに限ってだった。
目の前を通り過ぎて行く女のコがいい感じに見えるものだった。

ヒマつぶし丸だしの彼女との会話が、持て余し気味に少し思った。
もう彼女には、グイグイと押そう。

「で、考えてくれた?」
「なにを?」
「脱いでみない?」
「ダメよ、ダメ」

断りに違いないが、口調にも表情にも興味が含まれている。
その部分に、まだ自分はこだわりがある。
ダメをもう1回だけ押してみて、動かない様子なら見切ろう。

「いいじゃない」
「ハハ」
「事務所はいれよ」
「やらないわよ」

今はお茶を飲みたくはなかったから「プリクラを撮ろ」というと、ウケたように笑っている。
わかってはいるが、プリクラが似合わないのだろう。

もっと明るく爽やかになりたいとどこかで思いながら、歌舞伎町交差点まで歩いて、お互い仕事が終わったかのようにゲームセンターでプリクラを撮り、出来上がったシートを半分ずつにカットした。

いつものように、自分はつまらなそうな顔で撮れて、それが彼女の自然な笑顔と一緒だとなおさらうさんくさい。
自身で見てどんよりした。

「なんでスカウトなんかしてるの?」

スカウト通りのから歌舞伎町交差点の向こうのドンキホーテを見て。

プリクラを見ながら何気に「かわいいね」と言うと、彼女の表情が微かに揺れた。
このまえ名前で呼んだときと同じく、戸惑いなのか照れなのかが交じった表情をした。

また、アレッと思う。
「かわいい」に反応する女のコには、どことなしに受け身な態度がある。
キレイだと感じさせる女のコは、逆に攻めの姿勢を持つ。

自分から見て後者の彼女が「かわいい」という言葉に以外な反応したとき、もっと押せば、押しきれば脱ぐんじゃないか、という気がした。

彼女は時間のことは言わない。
急ぎの予定はない様子だ。

「最初、AVなんてびっくりした?」
「うん、びっくりした」
「そうなんだ」
「わたしね、真面目なコなのよ。脱ぎだとかお店だとかゼッタイにしないんだから」

大人な彼女が、自身のことを “ コ ” というのがちょっと可笑しい。
若干、受身の態度も見せてきている感じがしたし、女のコが自分語りをしかけたときは心に変化がおきたときだ。

立ち止まったゲームセンターの階段は、ガラス張りになっている。
靖国通りの向こうにドンキホーテが見えた。

「オレもそうだったよ。根が真面目だからね」
「田中さん、以前はなにやってたの?」
「固い仕事していた。AVなんて全然無縁だったよ」
「なんでスカウトなんかしてるの? あ、スカウトなんかって、ヘンな意味じゃないわよ」
「いいんだよ、別に。スカウトは生活のためだけど」
「・・・そうだけど」
「オレね、まえの彼女がさ、内緒でAVにでてさ」
「・・・」
「それで彼女と別れて、仕事もなかったし、スカウトはじめたんだけど」
「そうなの」
「そのときは、彼女に裏切られた感じがしてすごく腹がたったけどさ。今はオレの接しかたがわるかったとおもうなぁ」
「・・・ふーん」

ここ最近になってそう思えてきた。
非があったのは自分のほうだったのではないか。

「うん、女のコって彼氏には大事にされたいっていうのもあるんだろうし、他の男にもカワイイとかキレイだとかも言われたいだろうし」
「・・・うん」
「わがままだけどね、いいじゃない、それで」
「・・・うん」

サユリもそうだろって言おうとしたが、自分を見ながら頷く彼女を見てやめた。

彼女の何かを言いたそうな目は、甘えるのがヘタクソで自身の感情を抑えてしまう女のコが、・・・このタイプもAV嬢や風俗嬢に多いが、そんな女のコが時折見せる目の感じと似ていた。

この前は説明しすぎた。
「こわい」とか「あやしい」などと言うから、ついAVの説明してしまった。

隠れている裸の自信を、もっとバカみたいに明るく突っつくのがよかったのかもしれない。

これはいける・・・とは感じたが、スカウトが成功しかける嬉しさは、ここ最近になって少なくなってきてもいた。

– 2003.10.7 up –