中村理恵、19歳、AVプロダクションの面接の質問で引いてしまった


スクランブル交差点で声をかけていたがさっぱりだった

平日の18時の、新宿駅東口のスクランブル交差点付近。

歌舞伎町から新宿駅東口に向かうとすれば、スカウト通りの出口となる。

歩行者信号が青のときに目配りしていると、正面から歩いてくる女の子と目が合った。

「どーも」
「・・・」

声は届いてないが、彼女はすぐに目を伏せた。
3歩ほど進むと、すれ違うほどの距離となった。

レディースのポロシャツの胸が、大きく形よく盛り上がっている。

「ちょっといいかな?」
「・・・」

うつむいままで早歩きする彼女は、表情は微動だにしないままの完全無視で通り過ぎた。

だめかぁ・・・と、後姿を見送る。

夕方の新宿通り
新宿駅東口の信号から夕方の新宿通りを見て

入れ違いに大きな紙袋を肩から提げた女のコが歩いてきた。
目が合った瞬間に反らしている。

選り好みをしてる間ではない。
すれ違う程の距離で、手を平を軽く挙げた。

「ちょっといいかな?」
「・・・」
「歌舞伎町いくの?」
「・・・」

こちらに向けた目には、くっきりと警戒が浮かんでいる。
早く用件をいって・・・とも目は言っている。

「AVやろうよ」
「・・・」

AVを切り出すと、ぷいっと顔を背けて、そのまま小走りで去ってく。
だめかぁ・・・。

立ち止まって、小さなお尻の後ろ姿を見送って、体の向きを反対に変えた。

信号が青になると、向こう人波がやってきた。
白くて細いサブリナパンツ、・・・今はそう言わないかもしれないけど、カツカツと歩く脚が目に入る。

早めの歩調に合わせて声をかけた。

「ちょっといい・・・」
「・・・」

綺麗に染めてある茶髪で、横顔は鼻筋がスラリと。
表情は変わらずに、目もこちらに向かないまま、そのまま素通り。

早歩きで人波にまぎれた。
だめだぁ。

そうすると、騒がしさのなかに1人歩きする女のコが。
整えた前髪にサラサラ髪のジャケット姿。

ジャケットの首元からは、鎖骨が浮きでている。
鎖骨の浮き出具合と、ウェストの絞り具合は比例する。

ついでに言えば、二の腕の張り具合と、お尻の肉の張り具合も比例する。
多分だけど。

「どーも」
「・・・」

もう近い距離まできたのと目が合うと同時に、手を平を軽く挙げた。

声をかけるタイミングは合っている。

「あやしい者ですけど」
「・・・」

露骨に顔を背けたが、口元には笑みが浮かんでいる。
そうしていながら突然、ヒールの音を立てた身軽な小走りになった。

通行人に遮られて、大きく空いた距離に声は届かない。
アイヤー。

前に向きなおす。
薄いブルーのカーディガンの女のコが、キョロキョロとしながら歩いてくる。

目を向けていると、こちらに気がついた様子を見せた。
ゆっくり歩を進めると、やはり顔を反らすが、緩い歩調は変わらず。

手の平を軽くあげると、彼女は目を合わせてきた。

「ちょっといいかな?」
「けっこうです!」
「おこってるの?」
「ちがいます!」
「おこった顔もかわいいよ」
「いいです!」

彼女は笑んだまま断りながら、歩調を早く進めた。
歩調と表情のリズムがちぐはぐなった。

「お店やらない?」
「やらないです!」
「ちょっと考えてみてよ」
「いいです!」

だめか。
振り切られた。

そのまま立ってると、人の流れが途絶える。
胸元まである黒髪で、クリッと丸い頭をした女のコが向こうから歩いてくる。

軽く手を挙げると、こちらに気がついた様子だ。
2、3歩踏み出す。

「ちょっといいかな?」
「・・・」
「駅まで行くの?」
「・・・」
「それでさ・・・」
「・・・」

彼女は目を逸らして、猛烈な早歩きで去っていく。
上手い具合に、人混みをすり抜けながら。
ああぁ。

それからは、人の流れと一緒に、東口交番の近くにブラブラと歩いた。

半日で80人近くに声をかけても、すぐにはスカウトできない

今日は午後から始めた。

もう80人近くには声をかけて「考えてみる」という3人と携帯の番号を交換してる。
自分からしてみれば、いい感触。

歩道の脇で立ち止まり、この辺りで終わりかな・・・と人の流れを見ていた。

そのとき。
新宿駅へ向う人の流れの中にうつむいて歩く女のコが。

街の雑踏に押されて緊張しながら歩いているのが、なぜかよく分かった。

顔はよく分からない。
最後のキリに声かけて今日は帰るか。

前方からでは通行人の邪魔になるので、こういうときは後ろから声をかける。
が、相手が気がつかないときもある。

気がついても人の流れがあるので、足が止まらないときもある
それなので無言でツンツンして、相手にこちらを意識させてから声を掛ける。

早歩きに人ごみを通りぬけて、斜め後ろからツンツンと肩口をつついた。

チラッとこっちを見る彼女。
ぱっと見かわいい。

もう1度、ツンツンすると、うつむき加減になる。
やはり、リアクションがあった。

肩を並べてから、つとめて明るく彼女に声をかけた。

「あやしい者ですけど」
「フフッ・・・」
「あやしいでしょ?」
「はい」
「駅まで行くの?」
「はい」

黒髪でスニーカーにデニムの彼女は、カットソーの長袖の腕が細い。

ひとつ結びにしたしなやかそうな黒髪が、素朴なが可愛いらしさを感じさせる。
20歳前後か。

「話だけだから、そこまで一緒にいこう」
「・・・」
「話だけだからさ」
「・・・はい」

真面目な返事の仕方が、新宿に不慣れな学生を思わせる。
うつむき気味に、目は合わせずに歩いたままだ。

「あれッ、前川はるなに似てる」
「ハッ・・・」
「オレの中学の同級生なんだけど、知らないよね」
「ハハハ」
「いや、最近バカになったみたいで」
「ハハハ」

チラッと自分の目を見た彼女。
警戒がない愛嬌のある笑顔で、目がフニッとしていた。

「今ね、バイトするコ探してるの」
「・・・どんなバイトですか?」

ここでこの返事は、感触がいいというか話が早い。
多少は、興味があるみたいだから、もっと、突っ込んで話しても大丈夫。

「それでね、ちょっとこっちで話そ、そこで」
「はい・・・」

歩道の脇を指差すと彼女の足は止まった。
人波を抜けて場所を移すと、彼女はついてきた。

足が止まれば1分は話をきく

1度、足を止めて話をはじめたコは、1分は、いや、2分くらいは聞いてくれる。
ゆっくりでいい。

「今、学生?
「ハイ」
「それじゃあね、週に1日だったら、時間取れるでしょ?」
「ハイ」
「今日は、もう時間遅いから、また次の日の話としてね」
「ハイ」

夜の人混みにも雑然さにも慣れてない仕草が、AVや風俗が未経験に思わせる。

AVなんて言ったものなら、飛び上がって驚きそう。
なんだかストレートに切り出せない。

「えーと、名前なんて言うの?」
「中村です」
「下の名前は?」
「りえです」

始めは大まかな話をして、徐々に細かく話していこうか。
バランスを考えながら、積み木を詰むように話をする。

多少ぐらぐらしても、崩れない程度の高さまで積み上げれば良い。

「それじゃね、りえって呼ばせてもらうよ」
「はい・・・」
「いいでしょ?」
「はい・・・」
「オレがりえちゃんなんて、なんか気も持ち悪いし」
「はい・・・」

このタイプの場合、外見や話の節々からでは、状況がつかめない。

中には清純そうな顔して「AVやってます」「風俗やってます」というコもいる。

「ひょっとして、もう、店とかやっている?」
「・・・今日、面接いってきたんです」
「アッそう、なんだ、偶然だね」
「ハイ」

新宿のスカウトが「時給850円で・・・」なんて話するほうが不自然だ。

スカウトする上で、この新宿という場所は重要なポイントとなる。

「それで何屋さん?」
「キャバクラです」

キャバクラ志望にしては地味すぎる。
普通にかわいいけど、どこかあか抜けない、というのか。

「それでどうだった?」
「やっぱりやめようと思って」
「どうして?」
「前に1度、中野のキャバクラに入ったんだけど・・・」
「うん」
「なんか合わなくてやめたんです」
「どういうとこが、合わないって思ったの?」
「えっ、・・・うーん、なんとなくですけど」

キャバクラは出勤表を出させて、遅刻は罰金などの時間のマネージメントをする。

指名、同伴、ドリンク、でポイントを付けノルマをこなせるようにしたり。
電話させて客を引っ張ったり。

その辺が苦にならない女のコはしっかりとこなせるが、要領を得ない女の子は勤まらない。

彼女の場合、変に良いコすぎて客を食うことができないのだろう。
店にしても良いコすぎるというのも困る。

が、しかし。
AVプロダクションに所属させて、稼ぐAV嬢にするには良いコのほうがいい。

「そう、キャバクラはバイトだとうまくいかないからね」
「・・・」
「それはしゃーない」
「・・・」
「で、今、AVのプロダクションの社長から頼まれていて」
「・・・」

言った瞬間、ビクッとしていた。
驚きの目をした彼女は、その意味はわかっているようだ。

「AVね?わかる?」
「・・・」
「で、カワイイ女のコを探していたところなんだけど」
「・・・」

目には咄嗟の拒否反応が出てこない。
足も止まったまま逃げ足にならない。
距離も空けようとしない。

もっと押して大丈夫だ。

「今すぐにというわけじゃないし。ちょっとだけ考えてみて」
「・・・」
「やっぱりダメと言うのならそれはそれで全然かまわないから」
「はい・・・」
「AVは見たことある?」
「はい・・・」
「どんなの見た?」
「エッ、普通の・・・」
「じゃあ、エッチじゃん。あぁ、びっくり。見たことないっていうコ、けっこう多いよ。あぁ、びっくり」
「そうですか」

未経験で「AVに出てみない?」と訊いて、「はい、やります!」という女のコはいない。

このコは、イエス、ノーで話を進めると、途中でポキッと折れてしまいそう。

「学校はちゃんと行かないといけないから、週に1回くらい予定してさ。月に40万目標にしてやってみよ」
「40万ですか・・・」
「最低40万ということだよ」
「はい・・・」
「足りない?」
「いえ、いえ」
「どう思ったの?」
「・・・ちょっとびっくりして」

学校は高田馬場の専門学校。
いろいろとバイトをしたみたいだが、高給のバイトと言うのを意識にいれているらしい。

「撮影はね、楽だから」
「そうですか」
「かしこまっても疲れちゃうからね」
「はい・・・」
「打ち合わせしたり、バカ話したり、ご飯食べたり、スタジオに移動してエッチして、休憩して。それで、ギャラ受け取って『おつかれさまー』で終るから」
「そうですか」
「けっこうね、みんなしてるんよ。ほら、今月スカウトしたコなんだけどね」
「はい・・・」
「このコも学生で、このコも学生。みんな内緒でAVしてるの。バレない様にするのが、この仕事だからね」
「こんなにもいるんですか・・・」

女のコの名前やら電話番号を書いた手帳を、サッと見せた。
リアクションから見て、「やっても良いんだけど、どうしようか・・・」と、どこか思っているのが見え隠れしてる気がした。

バレは、あまり気にしてないらしい。
となると罪悪感があるのか。

あとは、多少不安があるのだろう。
男がらみの仕事に、踏ん切りがつかないのもあるのか。

いずれにしても、もう、それほど自分から話さなくても大丈夫。

「オレ、見た目はあやしいけど、話するとそんなに変な人じゃないでしょ」
「う・・・ん」
「メーカーの人も、プロダクションの人もみんな真面目だよ」
「そうなんですか?」
「うん、あやしいのは、多分、オレだけじゃないかな」
「ははは」

このコの場合、押したり引いたりして宣材撮影までいけば、AVといえどもキチンとこなすタイプだ。

そして、1回やれば、2回3回と続ける。

「で、今日は、夜遅いし、オレ、口ベタだから、何言ってるかよく分からないと思うんだよね」
「はい・・・」
「また、いつでもいいんだけど、近いうちに社長を紹介する」
「はい・・・」
「それで、社長まであやしそうな人だったら、この話なかった事にしてくれていいから」
「はい・・・」
「なにがなんでもとか、すぐにって訳じゃないから考えてみてよ」
「はい・・・」

彼女は、水曜日に学校が早く終るとのこと。

水曜日に待ち合わせをして、事務所に行ってからお好み焼きを食べる、と約束をした。

携帯番号の交換をしたのだけど、彼女は事務所に持っていけるだろうか。

これで水曜日に待ち合わせできたら、だいたい気持ちが固まっている状態だ。
気持ちが固まるよう、あとはお祈りするしかない。

連絡が取れなくなったら、それはそれで一旦あきらめ。
気持ちが変わるのを、さらにお祈りするしかない。

自分の場合、後日に会う約束というのは、半分以上キャンセルになる。
だから、見込みのコはたくさんいないといけない。

もっと自信をもってAVプロダクションの面接にいってもいい

翌週の水曜日の16時。

それまで2回ほど電話で話して、新宿駅東口で待ち合わせができた。

どうやら、気持ちは固まっているようだ。
お祈りは通じた。

ストレートにした艶のある黒髪は、胸までの長さ。
宣材を撮るかもだからと、髪はひとつ結びをしないようにと言ったのをキチンと守ってきてる。

前髪を整えた黒髪ストレートと、人懐こい笑顔が思ったより雰囲気を変えた。

新宿駅西口の事務所までは、歩いて10分ほど。
彼女は栃木県出身。

東京に来て、1人暮らしをはじめて、まだ1年経ってない。
カレシは同い年の20歳で、時々会って遊んだりしてるとか。

彼女が言うと、なんだかほほえましく思える。

「それでね、仕事上でいろんなプライベートな質問がよく出てくるけど」
「うん」
「例えば、どんな体位が好き?、とか男性経験は何人?とかね」
「うん」
「そういう質問には、全部正直に答えなくていいんだよ」
「そうなんですか?」
「仮に男性経験100人位有ったとしても、実は1人なんです、今のカレシが始めてなんですって答えたり。エッチが好きでも、よく分からないんですって答えたり」
「うん」
「自分をつくるということは必要だからね」
「そうなんですか?」
「そうだよ。りえは素直そうだから大丈夫かな?心配だなぁ」
「大丈夫ですかね?」
「りえは、はっきり言ってカワイイから、もっと自信を持った方がいいよ」
「そうですか」

そのうち、事務所がある雑居ビルについて、エレベーターで上がった。

面接のあとに宣材撮影も可能と、社長には連絡してある。
ただ、今日は社長がどうしても体が空かない。
代わりとして、面接は新人のマネージャーがする。

挨拶をしてテーブルに座り、少しの雑談のあと、改めて新人マネージャーが仕事の説明をした。

それから、所属のプロフィールに記入して、持参させた年確(年齢確認)の学生証のコピーをとる。

女のコが緊張しないように、冗談も交えて明るく話を進める。
しかし、彼女は途中で引いてしまった。

「それでNG事項ですけど、何かあります?」
「NG事項ですか?」
「まあ、レイプはやめたほうがいいですけどね。ハハハッ」
「エッ、レイプはイヤです」
「じゃ、SMはできますか?ハハハッ」
「・・・できません」
「そうですか。スカトロはできますか?」
「エッ、なんですか?」
「あ、スカトロを知らないですかぁ?うんちですけど。ハハハッ」
「エッ、できません」
「うんちするだけですよ?それでお金になるんですよ!ハハハッ」
「・・・できません」
「じゃあ、アナルはできますか?」
「エッ・・・」
「あ、アナルってお尻の穴のことです。そこでしたことあります?ハハハッ」
「エッ、ないです・・・」
「じゃあ、中出しはできますか?ハハハッ」
「・・・できません」
「じゃあ、オシッコだったらできますよねぇ?ハハハッ」
「・・・できません」

彼女は顔を伏せ、無言になってしまった。

新人マネージャーも困った顔して、自分のほうをチラリと見る。

すべてが未経験だと言ってあるのに。
マネージャーがドンくさいので、せっかく積み上げた積み木が崩れてしまった。

ここまでくるのに、どれだけ労力をかけたのかわかってるのか?

笑いかたも癇にさわる。
なんでも笑えばいいというものではない。

面接中にこれをされると、こっちまで小馬鹿にされてる気がして腹立たしい。

意味なく笑うなと、いつか本人に言ってやる。
やはり、社長でないとダメだ。

社長だと未経験の女のコには、あえてSM、スカトロ、アナルのいわゆる “ 3大NG ” は確めない。

もう彼女は脱がないだろう。
今日は宣材撮影までは無理そうだ。

詳しい話をするなら歌舞伎町で

彼女は無言でうつむいたまま。
面接のときは口を出さないようにしてるのだけど、彼女に助け舟を出した。

「もう1回、よく彼女と話し合ってから来ます」
「そうですか・・・」
「申し訳ないけど」
「彼女、できないですか・・・」

面接は中断されて、無言のままの彼女と事務所を出た。
どちらともなく、新宿駅に向かう。

面接を中断したのを気にしてる感じが、素直さを感じさせる彼女。

自分のほうも、あせらずにいこうと思えた。
少しフォローが必要だ。

「マネージャー困ったヤツだな」
「・・・すみません」
「いや、謝ることないよ」
「・・・」
「いろんな人がいるからね。中にはね、100人くらい経験があるってコもいれば、なんでも大丈夫ですというコもいるからね」
「・・・」
「だけど、りえは、そういうコじゃないからさ。いきなりハードな話になっちゃったら、やっぱ引くよね」
「うん・・・、びっくりした」
「お好み焼きでも食べようか?」
「うん」

西口から歌舞伎町に向かう。

トンネルを抜けてスクランブル交差点に出て、スカウト通りを抜けて、靖国通りを超えた。
歌舞伎町で続きを話したかった。

多少いかがわしいはなしをしても、歌舞伎町の騒がしさがあれば違和感を感じない。
そんな空気が歌舞伎町にはある。

セントラル通りを歩いた。
もう、改めて話しても大丈夫だろう。

とりあえずハラもすいたので、お好み焼き屋に入り、瓶ビールとミックス天を注文する。

「オレはね、こういう仕事を女のコに勧めるけど、お金の為にやるんだったらやらないほうが良いと思ってる」
「エッ、そうですか?」
「ウン、必ず目標作ってやるように言っている。どんなくだらない目標でもいいの」
「うん」
「例えば、海外旅行に行くとか、豪遊したいとか」
「うん」
「そして目標をクリアしたら今度は辞める様に言ってる。いつまでも続けると疲れちゃうからね」
「うん」
「りえは、どんな目標を考えてるの?」
「・・・わたし、貯金したい」
「いくら?」
「20万円」
「エッ、20万円?」
「うん」
「なにか買いたい物があるの?」
「わたしね、親に世話にならないといって学校に行ったんだけど。・・・毎月、お金を送ってもらっていて」
「うん」
「自分で20万貯金して、卒業まで学校行きたい」

親から送ってもらったお金は、そのまま貯金しておいきたいと。
で、いつかプレゼントにして返したいと。

「エライね。でもね、せっかくこの仕事やるんだったら、貯金は50万にした方がいい」
「エッ、50万ですか?」
「ウン、その位、あっという間に貯まるよ。中には500万貯めたコもいるよ」
「すごい・・・」
「りえは学校があって卒業しないといけないから、50万を目標にするか?」
「ハイ」

よくあるパターンの遊ぶ金欲しさや、エステや買い物の借金がある、とかだったらまだしも、「親の世話にならずに学校に行く」という彼女の言葉に少しだけ心が痛んだ。

ただ、それも一瞬だった。
そこを超えたところにスカウトバックが発生する。

「AVはやはりどうだろう?」
「考えています・・・」
「そう、エッチ系の店は?」
「それは・・・。やっぱりできません・・・」

思いっきりが悪い。
本人にその気があるうちに、現金を握らせるのが必要だ。

手っ取り早く稼がせるのには風俗がいい。
これ以上は言葉で言って効かせるより、もう風俗の面接に連れて行こう。

3万でも4万でも稼げれば、後は自分で動く。
しかし、風俗で稼ぎ始めるとAVで動かなくなるコが多い。

宣材撮り、打合せ、メーカー回り、連絡、バレの心配などAVは面倒な事が多いから。

スカウトバックは風俗よりもAVのほうが大きい。
しかも、この黒髪で幼さも残る彼女は、媒体受け(AV、雑誌)するタイプ。

風俗店で動かされたらもったいない。

「食べたし、いこうか」
「はい」

お好み焼き屋を出てからは、花道通りを歩く。
いこうか・・・とはいったけど、どこに行くかは決めてない。

彼女もこれで帰るとはいわないし、どこにいくのかも聞いてこない。

歌舞伎町は騒がしくなる時間になっていたし、自分はビールを飲んで勢いはついている。

コマ劇の裏で立ち止まると、歌舞伎町2丁目のラブホテルが並ぶ通りが見えた。

– 2002.2.1 up –