AVスカウトの結果を出す方法


お金の価値を教わっているのか

谷口が食いつくように質問してきた。
この前、サンパークでメシを食べたときに「生きるってなんだろうと・・・」と語り始めた谷口にとっては大いに関心があるのだろう。

「田中さん」
「んん」
「その、3者の生のパワーバランスってのですけど」
「んん」
「母親の生の塊がいちばん重い、で、それを基準とするとカレシの生はそこまで重くない。けど、カレシのりっしんべんの性のほうは、一定の要件で相対的にいちばん重くなる場合がある」
「ああ、そ、そうか」
「そうすると、あと1者の父親っていうのは、どのような要件と重みがあってバランスが生じるんですか?」
「そ、うだな」

理系の谷口は、手振りをつけて質問してくる。

大卒の半導体の設計のエンジニアをしていただけあって、重さとかバランスという話が好きなのだろうか。

「父親は生と性の重みってよりも、価値だな。価値の重みだな」
「価値ですか?」
「ん。とくにお金の価値を教えてる教えてないになる」
「お金の価値ですね」

傾向があった。
すべてではないが、スカウトできた女の子に傾向はあった。

お金の価値と父親の存在が結びつく傾向があるのだ。
そこに気がつくには、必死こいてスカウトして2年以上かかった。

簡単に一言でまとめてるが、実地で2年以上かけてる、と谷口に言いたい。
授業料を払ってほしいくらい。

十分に理解がある違いが価値になる

お金の価値観と男の性への疑問は連動している

それはともかく。
お金を持っているから価値を教えれるのではない。

金持ちだとか、貧乏だとかは関係ない。
お金を稼ぐこと、お金の使い方から始まり、その延長線にある仕事のあり方や向き合い方にも、お金の価値というのは及んでいる。

こういうお金は幸せになる、または不幸になる、こういうお金は喜ばれる、あるいは悲しむ人がいる、という価値観の部分も含まれる。

こういった、お金の価値を教わってない女の子はスカウトしやすい。
いや、お金の価値を教わってないとまではいわない。

もっと曖昧さがある。
お金の価値を教わったようで教わってないというのか。

父親から教わってないといっても、母子家庭というわけではない。
しっかりと父親はいる。

酷い父親というわけでもない。
きちんとした勤め人で、年収もそこそこあるだろうし、社会的地位というものもあり、教養も良識も学歴もあるだろう一般以上の父親から養育されていても、お金の価値を教わってない女の子っている。

教わってないと、常識があって学力もあって知識がある女の子でも、AVで得たお金も風俗で得たお金だって、お金はお金でお金でしょっていう理屈が通用する。

お金だし、お金なんだから、お金を払ってるんだから、お金になるんだから、という極論も通りやすい。

スカウトのほうからいちいち言わなくても、本人が自らそう考える。

もっと細かく付け加える。

価値とはなにか?

価値とは違いでもある。
十分に理解がある違いが価値となる。

理解ある違いは価値を押し上げているが、十分に理解が加えられてなければ、価値は埋まって見えなくなってしまう。

お金の価値を教わったようで教わってないかを確めるのは、この違いの理解の部分となる。

男の性への疑問

このときは遠藤と谷口に、以上を話せるほど頭は回ってない。
すべて日記に書いて補足している。

「実際の話でいこう」
「はい」
「風俗の場合は、なんのかんのいっても父親が大好きな女が多い」
「え、そうなんすか?」
「うん。たとえ、どんな父親でも、多少の文句があっても大事には想っている」
「そうすか・・・」
「けど、AVの場合は、父親を憎んでいるっていうのか、恨んでいるっているのか、そんな女が目立つ。・・・いや、違うな。憎んだり恨んだりまでいくと、男そのものが嫌いになるな」
「・・・」
「苛立っているというのか、嘆いているというか。責めてもいるな」
「・・・」

根掘り葉掘り確めたわけではない。
父親とその女の子の間になにがあったのかまでは知らないが、こういう女の子は、彼氏にも疑問を抱いていたりもする。

大きくいえば、男の性に疑問を持っている。

「ちょっと、まとめてみるか」
「はい」
「バレたら誰に怒られるってのから、はっきりしない女がいると」
「はい」
「まず、これは経験者か、ひやかしの類だと見当をつける」
「はい」
「で、カレシに怒られるって答えてくる女で、明るい表情の女は、カレシからの性教育は否定しない。そうだねって肯定していくところから入る」
「ああ、はい、明るい表情は否定しないっすね」
「ん、肯定ってよりも補足だな。補足して知らない部分も示していく。さりげなくね。冗談っぽく。軽く。太陽作戦を試してもいい。話は先導する」
「はい」
「同じカレシに怒られるって答える女でも、その中でも、なんかこう、口調に迷いっていうのか、目に疑問っていうのか、そんなのを感じたら、え、お父さんはって1回だけ振ってみる。クロスチェックしてみる」
「はい」
「そうすると、女の目に今度は光みたいな、強い発光だね、そんなようなものが出たとする」
「そこまではわからないっす」
「そこは感覚だな。あとは場数か。でも今だって、女がなにかいいたそうな目とか、迷っている目とか、そのくらいはわかるでしょ?」
「なんとなくわかるときはあるす」
「だったら、そのうち目からの光もわかる。今は見逃しているだけだな」
「そうすか」
「で、なんの話だったけ?」
「目から光が出たっていってたっす」
「そっか。んで、光が出る・・・。そうか、その女はAV向きだな」
「なんでっすか?」
「その女は父親にわだかまりがある。ということは、母親からの生教育も不十分だなと疑う」
「・・・」

遠藤は首を少しひねっている。
わかるように説明できないのがもどかしい。

「どういうことかっていうと、さっき、3者のパワーバランスっていったけど、母親の生教育には、父親の存在も含まれる。どのようにして生まれたかの半分は父親だからね」
「・・・」
「簡単にいうと、母親が父親をバカにしてるようだと、生教育は不完全。父親もお金の価値を教えきれてないという見方ができる」
「・・・」
「そこにカレシの性教育が加わって、セックスね、それにどこまで女が感化されているかってとこだな」
「感化ってなんすか?」
「さっきもいったけど、母親の生教育が強力だったら、女がカレシを感化できるけど、不完全だったら逆に女がカレシの性教育に感化される。もし、その女が、俗っぽい性教育に感化されていたらスカウトはやりやすい」
「俗っぽい・・・」
「俗っぽいってのは、やらせてとか、女の体はエロだとか、どちらかっていうと女を軽く蔑んだ性教育。だから生教育が十分でないと見当がついたら、まずはそういった俗っぽい性教育を軽く否定する態度から入る。相手の頷きをみながら話していく。そこで、そうだねって話が少しでもできたらスカウトできかかっている」
「田中さん・・・」
「なに?」
「いってることが、よくわからないっす、すみません」

まだまだ、ざっくりと話しているつもりだったが。
もっと見方は細分化される。

生と性とか、お金の価値といっても、そこにはセックスも性癖も含まれるし、体験も人間関係もあるし、結びつきがいくつもある。

結びつきは多様で、複数が組み合わさって重さが形成されている。

「ここがな、うっすらでもわかればなぁ、ちょっとだけ、スカウトが簡単になるけどな」
「え、そうすか!」
「うん、早い段階で見当がつく」
「見当ですか?」
「うん、AVはやるけど風俗はやらないって女だとか、その逆でAVはやらないけど風俗だったらやる女だとか、AVも風俗もいける女だとか、AV向きに気がついてない女だなとか、ちょっと時間かかるなとか、やらないといってもタイミングでやるなとか」
「・・・」

結びつきは多様だが、全てを知る必要はない。
1つか2つ、せいぜい3つも知れば、スカウトで結果を出すには十分だからだ。

自分の場合をまとめてみると、好奇心、生教育、お金の価値、といったあたりか。

たかが3つである。
知るといっても、おぼろげながらでも十分で、それだけでも使えて結果が出せる。

大金への興味を示す女性の特徴

「AVに軸足を置いて動く女ってさ」
「はい」
「さっきいった、男の性をこじらせてるっていうか、父親にわだかまりがある女が多いっていうか目立つ」
「はい」
「だから、最初のほうで、パワーバランスがかたむいてるな、カレシ側の性ほうが重くなってるなって1点読みができたら、やるとしたらAVで動くなって見当がつく。で、話だけきいてよとか、座って話そから、AV向けの話をしていく」
「そう、それっす。AV向きの話ってのはなんすか?」
「細々した話はあるけど・・・、隠れた自信を褒めたり、あとは怖いことないって不安を正して、そう、不安なのは、ほとんどが女の妄想だから」
「はい」
「で、バレもメイクで変わるし、ほとんどは本人が話すからバレるっているっていう実例で溶かしていく。こんな細々した話はノリで話せばいい。明るくね」
「はい」
「で、向こうからギャラっていくらなのって言わせる。そしたら、条件も付けやすい」
「はい」
「で、AVで注意しないといけないのは、大きくまとまった金額で話すこと。もちろん条件を滑り込ませながらね」
「まとまった金額って、なんですか?」
「たとえば、半年で500万とか、1年で1000万とか。そう話すから、まず事務所で契約して、宣材撮りして、メーカーに営業してから予定が入るっていうまどろっこし段取りでも動く」
「そういうことすか」

父親にわだかまりがある女性は、大金が放つ得体の知れなさに興味を示す。

だから大金を想像させる。
大金への興味と「カレシが好き」というのは、別の感情らしい。

「カレシが好き」やら「カレシが大事」と口にしている女の子でも、おそらく本当に想っているだろう女の子でも、立派なAV女優となる。

結局はあれこれ話すよりもお祈り

AVの場合は、お金は煽る材料に使う。
『お金がないと不幸になる』とか偏った決め付けをして『AVのギャラだってお金だ』と極端な考えに沿って話す。

人の頭の中を覗くわけではないのではっきりとはわからないが、お金の価値を教わってない女の子に、それを変えさせることは以外と易しく出来る気がする。

「で、AVはやらなくても、風俗はやる女」
「はい」
「なんのかんのいっても父親が好きな女。パワーバランスは母親よりもカレシと父親側が重くてかたむいている女」
「はい」
「この女には、お金の煽りが効かない。お金で煽れば煽るほど話を聞かなくなるから。お金よりも言い訳づくりだな。女にとっての」
「ああ、言い訳すね」
「うん、そこから。で、お金の話は刻んで1日単位でする。1日5万はいくけど、がんばれば8万はいくとか、でも日によって3万のときもあるって」
「はい」
「そこまで話せばいい。あとはもう、やるやらないはお祈りするしかないとしてもさ」
「ええ、結局は、お祈りすか?」
「そりゃ、そうだよ。無理やりってわけにはいかないだろ。うまくいきますようにってお祈りするんだよ。でもね、その辺まで話せば、あとはやるやらないは半分半分だな。ベラベラ話すよりも、お祈りしたほうがいい」
「そうすか」
「そんなに一生懸命に詳しく話す必要はない。これだけはってとこは話して、あとは納得させることもない。いい人だとおもわせたらいい。安心させるのが第一だな」
「えええ!・・・ということは、いい人とおもわせて、安心させて、あとはお祈りですか?」
「そうか。結局はそういうことだな。んで、とりあえずこうしてみようって小さな約束と小さな秘密ができれば、もう決まりだよ」
「なんとなくわかったっす」
「うん、ここらあたりまで10人に話せば、1人はそこそこのAV女優になる」
「はい」
「で、あと、1人か2人は撮影会とか成人誌だったらやってみるとか、1回だけ本番なしのAVやってみるとか、そんな曖昧に事務所へは連れていける。割合と簡単に。で、こういう曖昧な女って化けるときが多い」
「はい」
「で、残りのうち3人は風俗って話にもなる。そんな推さなくても自然になる。女のほうから言ってくるよ、スカウトっていう態度してれば。そうなったら、もう、おっパブは、おまけのおまけだな。しょうがねえなぁみたいなノリで決まるから。キャバクラだったらいいよっていう女は、じゃあ、いいや、またねって、バイバイってなるから」
「はい」
「これが自分の数字を持つってことだな」
「はい」

自分は何者なのか?

スカウトの上達は階段状となると、この前の日記に書いた。

どうしても、なにをやっても、うまくいかなかったことが、ある日に突然にできるようになる。

階段は多くはなく、三段か四段ほど。
「どう声をかけるか?」と一段目とすれば、もう遠藤と谷口は上がっている。

この一段目には、発生練習をして街路に出てリズムにのることで上がれる。

まとめてみると、チラ見を逃さずに、目と手を足を使い、手を視界に入れて、歩調を合わせる。

声は挨拶のように自然に出す。
姿勢をよくして、浅く広く当たる。

「どう話すか?」が二段目とすると、ここは実践を繰り返して自分の数字を持つことで上がれる。
スカウトの目的を決めて、方向と距離を定める。

実地で計れるものは計る。
計れないものは計れるようにして、なんでも数字をだしてみる。

自分の数字ってある。
必ず見つかる。

三段目には、スカウトの方法で迷うことがなくなると上がる。
それは、路上でせわしなく交わす会話の中から、スカウトした女の子たちが少しづつ態度で教えてくれて、教えてくれたのが一定の量を越すと、突然に感じるところが生じる。

ある日に『自分はなにをいうのか?』に気づくことができる。
その気づきから、その人にしかできない、根拠は自分自身にしかない言葉と話し方が一つか二つは出来上がっていく。

言葉も話し方も熟成されるのだ。
自分の中で、知らないうちに言葉と話し方が熟成されていたのだ。

四段目があるとすれば『自分は何者なのか?』がおぼろげにわかってきたときかもしれない。

今までの階段を見下ろすことができてくると、なぜ自分はこういうことをするのか、なぜ自分はこんなことをしてしまうのか、と気がついてしまう。

スカウトとなった者のその時の気づきは、おそらく少しの反省が含まれた苦いものである。

ともかく、この最後の階段は、あえて遠藤にも谷口にも明かさない。
反省すればいい。

「じゃ、話はこれぐらいにするか」
「あ、はい」
「まあ、いろいろいったけど、なにかひとつでもヒントにすればいい。で、違うなってところは変えてみればいい」
「はい。で、勝負しますか?」
「ん。今、イチイチでイーブンか」
「はい」

そのときに3人の脇を通りかかった女の子に、いのいちばんに谷口が歩を進めた。
まさか、勝つつもりでいるのか。

ただの評論家だと思っていたのに、1人目のスカウトは近いかもしれない。
それぞれがスカウト通りに歩を進めた。

勝負は10分ほどでついた。
遠藤の勝ちだった。

女の子の足を止めて「AVなんてやらない!」と断るところから「誰に怒られる?」から「カレシに怒られる」と言わせて、今度、ギャラの話をする約束をして電話番号を交換したのだ。

完コピというやつだ。
キャバクラ勤めの21歳だった。

「もう、だいたいわかったな?」
「なんか、いけそうっす」
「あの女、カレシに怒られるには真顔だったな。あんな感じはAV向きだ。キャバ嬢とAVの組み合わせっていいからな。ギャラの話までいけば、あとはお祈りでやるやらないは半々だ」
「ホントっすか?」
「これで見込みが、何人になった?」
「そうっすね・・・。今の女で、8人か7人くらいっす」

遠藤は携帯のメモリーを見て、指を折って確かめた。
今の1名に、ホストが彼氏の風俗の女の子、ロシア料理の女の子に、お茶をした女の子が3名。

あと2名の見込みがいるというので8名だ。
このペースだったら見込みが10人を超えきったあたりを境目にして、4人目のスカウトができる気はする。

大化けする女性の特徴

そんなことを話していると、遠藤の携帯が鳴った。
ディスプレイの名前を見て「女から折り返しがきたっす」と驚いて目を見開いている。

スカウトに勢いがついているのだ。
勢いがつけば、なにをやっても決まるものだった。

遠藤は街路樹の脇で話し終えた。
谷口は電話がきたのを目にしてからは、再びスカウト通りに歩を進めて声をかけている。

「約束したまま電話なかった女っすけど、今日、新宿いくけどいるのって。たぶん、面接いけるっすよ、おっパブの」
「おおぉぉ」
「ぜんっぜん、やる気がなさそうな女だったんすけど、なんか、やる気になってるっす」
「ああ、そういうの多い。ダメだろうなってくらいのほうが、決まったときには大きい」
「いやぁ、声かけたときはツンケンしていたんすけど、なんか、今、やさしくなってるっす。なんなんすかね。これって、まさか俺に気があるってことっすか?」
「ジタバタするな。そんなわけねぇだろ。焦るな。いいか、強気でいけよ。ズバッとビシッとバシッっていうノリでいけよ」
「あ、はい」
「で、ブレるなよ。ブレたら離れるぞ。女にはひとつ以上の目的を振っちゃいけん」
「はい」
「で、女の動きは重なるからな。どの女に手をかけるかよく状況みろよ」
「はい」
「もう、遠藤だったらAVだっていけるな。店でもAVでも流れは同じだからさ。言うことをちょっと変えるだけだから」
「はい」
「これは、いそがしくなるぞ。こうなると、今度はこっちから女を選べるようにもなる。量から質だ」
「はい」
「だけど、声をかけても無視されるのが基本だからな。それだけは少しづつでも続けないと。それがあるから、オマエがダメなら他に女はいるって態度もできる」
「はい」
「だけど、これで勝負は最終戦だったな。オレも店の準備があるからな」
「そうすか?田中さん、もう、体が空かなくなるんすか?」
「ん、店の準備がいそがしくなる。だいじょうぶ、できる」

遠藤の笑顔が少しばかりぼやけた。
声をかけ続けていた谷口は、女の子の足を止めて話し込んでいる。
やがて携帯を取り出していた。

– 2022.9.19 up –