略式命令の罰金刑で釈放


裁判所からの出頭命令の通知

季節を感じない空間で早寝早起きして、自由がなくじっとしてるだけの日々。
テレビもなく、ネットもなく、音楽もかからず、時計も携帯もない。
粗食に読書の静かな日々。

慣れてくると、仮にあと20日間の勾留延長となっても、このまま過ごせるだろうな、という心境にもなってくる。

酒を飲まなくても平気だし、運動のとき支給されるタバコも吸わないが苦にならない。
刺激もないので、食欲も性欲も沸いてこない。
あぐらをかくのも慣れて、ケツも足首も痛くなることもなくなった。

座禅でも組んでみようかと実践してみたのは、借りた官本に古代中国の老子の瞑想法が記載されていたからだった。

《 あぐらをかき目を閉じて、宇宙を感じながら大気を複式呼吸して、心を無にすると諸欲が去る 》と書いてある。

悟りでも開いてしまったらどうしようとやってみたが、どうもしっくりこない。
そもそも宇宙を感じながらって何なんだと、続けていると勾留期限の2日前になる。

この日、部長が房の前まで持ってきて示したのは、裁判所からの出頭命令の通知。
釈放となるだろう日付を実際に文字で目にすると、もう待ちきれなくなって、すぐにでも外に出たくなる。

座禅などしてる余裕もすっ飛んでしまった。

釈放前日がきつい

釈放日の1日前の朝となった。

起床のあと布団を倉庫に運ぶと、その日は窓が全開になっていて、新宿警察署を背にした位置にあるマクドナルドの真っ赤な看板が、鉄格子の向こうにドアップに迫っていた。

これが、もう、しびれるほど。
本当に全身がわずかにしびれた。
コンクリートの壁の日々には、真っ赤な看板だけでも刺激が強すぎる。

明日だ。
明日には、ギトギトした脂っぽいテリヤキバーガーが、明日は好きに食べれる。
塩気がたくさんのポテトも。
コーヒーも炭酸飲料も。

1度、想像をしてしまったら、もう頭の中から振り払うことができない。
なにがキツイかといえば、この釈放前日。
けっこうキツイ。

房内には、先々には拘置所送りも、さらにそこから刑務所送りとなる者もいるので、自分だけが明日が釈放だとうれしそうにするのも気が引ける。

午後には詰め食の残り全部を皆にふるまって、読書も身に入らずに、あとは屁をこいてゴロゴロしているだけだった。

鬼畜は称号の現代

夕食が終わり洗面をして布団を敷いて恒例の座談会となった。
座長の205番が話を振ってきた。

「でもあれだな、332番は、出たらまた風俗をやるんだろ?」
「やりたいですね。まだ、できるかわからないですけど」
「女にムチ打って働かすんだな。鬼畜ってやつだな」
「そんなにヒドイことはしないですよ」

前科3犯のヤクザ屋さんに面と向かって鬼畜といわれたら、なんと応じていいのかわからない。
思わず否定した。

「なにいってんだよ。いまの世の中、鬼畜ってのは称号だぞ」
「称号ですか?」
「そうだよ、称号だよ。鬼畜でなければできないことってあるだろ?」
「あります」
「だろ?その点、俺はやさしいからな。すぐに情にほだされてこんなことになっちゃう。はははは」
「なんといっていいのか」

205番は気がよく笑う。
そして歌舞伎町の花道通りにあるお好み焼屋の店名を挙げて、もし未成年を扱ったり売春をやるのだったら、そこを訪ねて○○の名前を出せば手を貸してくれるからと、闇の職業安定所の相談員のような勤めも果たした。

蛍光灯がパッと小さくなった。
「じゃ、これでお開きで」と205番が言い、各自が「おやすみなさい」と布団にもぐった。

明日、釈放となる。
歌舞伎町へ行く。
そこでオーナー達が店を再オープンの準備していたらどうしよう?
違法営業は、もう危ういとわかってくれるだろうか?

やっぱ再オープンはないかも。
村井も逮捕されて22日勾留となっているのだから、今までとは様子が違うのはわかる筈だから。

ひょっとして解散して、店は跡形もないかも。
そうすると慰労金100万円も、今月分の給料も払われなかったりして。

支払いはオーナーと2人だけの口約束のみだし、支払われる保証はなにもないし。
そのときは、205番のお好み焼屋にでもいってみるか。

いやいや、205番には申し訳ないけど、ヤクザ屋さんを絡めてもいいことはない。
それに、オーナーの実直な性格からして、解散はあっても未払いはないか。

店がなくなったとしたら、またスカウトをやるかなと、とりとめもなく考えているうちに寝た。

留置場でオナニーは禁止されているのか?

そして、夢精をしそうになって飛び起きた。
オナニー問題が、釈放寸前になって噴出してきたのだった。

留置場ではオナニーを満足にできる時も場所もないので、禁オナ日数が自己最高記録を更新していた。

しようと思えば布団の中でもできるが、する気もおきないし、やっぱり同房者に気まずいから控えていたのだ。

確かめてはないが、規則に反してるかもしれない。
いい大人がオナニーで叱責などされたらヤバイではないか。

夢精は無理がないとしても、夢が強烈だった。
常に蛍光灯がついているはずの房内が濃い闇の中となっていて、自分は1人で真ん中で寝ている。
全裸で仰向けだ。

どこからともなく女の子が現れたが、そちらも全裸だ。

全裸の女の子
どこからともなく全裸の女性がくる・・・のは男の夢ではないのか?

全裸の女の子は、襲うようにして自分にまたがってくる。

いきなりシックスナインの体勢でだ。
ずいっと白く浮かび上がる丸いお尻を目の前に突き出してくる。

なぜか自分は、シックスナインの迫るお尻から逃れようと体を動かす。
女の子は逃れようとするのを許さずに、お尻を小さく揺すりながら、グイグイと弾力ある尻肉を顔に押し付けてくる。

ミサキだ。
ミサキのお尻だ。
ミサキが房内まで全裸で差入にきてくれて、シックスナインをしてくれてるのだ。

自分は逃れるのをやめて、シックスナインを受け入れて、尻肉を両手で鷲掴みにして股間にむしゃぶりついた。

未処理の陰毛に囲まれて、ギトギトに光る粘膜の肉汁を音をたててすすり、口に含んで味わって飲み込んでいる。

甘味も塩気も酸味もある。
「てんちょ・・・、おいしい?」と、ミサキの甘ったるいスマイル声。

自分は口のまわりを肉汁でビダビダにして「おいしい、おいしい」と呟いている。

釈放前日に夢精しかけた

シックスナインは続く。

やがて顔面にまたがったミサキは、大きく開けさせた口の中におしっこを注ぐのだが、それが炭酸飲料みたくシュワシュワしていて、自分は夢中で飲み干している。

出し尽くされたおしっこの、チョロチョロと陰毛に絡まり垂れ落ちる分まで「おいしい、おいしい」とすすり取っている。

なにしろ夢精しかけてるのだ。
おいしいのレベルを超えている。
味覚の全てが強烈で、頭の芯がじーんとして痺れて、くらくらと酔っ払った感じ。

さらに味覚を求めて「こっちもちょうだい・・・」と掴んだ尻肉を広げて、半開きのアナルに舌先を押し入れている。

「こっちもほしいの・・・?」と、ミサキが戸惑った囁き声で訊く。
自分はねだる口調で返事してからは、大きく口を空けたままになっている。

ミサキのため息を感じると、目の前のアナルの中心が少しばかり開いた。
ぽっかりと開いた穴の奥は暗い。

そのぽっかりを押し広げて、めりめりと粘着がある音を細かくたてながら排泄されるこげ茶色の塊は、一本状で極太。

一度では入りきらない長さの塊が口に入り込んできて、自分は「うううぅ・・・」と呻いている。

くどくなるが、味覚の全てが強烈で頭の芯が痺れるほど。
どんな味なのかわからなかったのは、その便塊を咀嚼しようとした瞬間に目が覚めたからだった。

ハアハアしながらビンビンに勃起していて、夢精してないかパンツの中を確かめて「凄かった・・・」と息をついた。

夢とはいえ、うんちを食べて射精するところだった。
ついにハードスカトロにまで手を出してしまった。
オナニーを覚えたころに感じた、罪悪感に似たが苦々しさが微かにあった。

釈放前になんて夢を見てんだ!
そんなにもスカトロが好きなのか!

自分を叱咤したし、あのマクドナルドの看板のせいだと言い訳もした。

通常は食欲がくると性欲は引っ込む。
食欲が満たされてから性欲がくる。
逆もあるが、両者は順番にはなっている。

それが釈放を前にして、両者がお互いに割って入ろうとしてきて、融合してスカトロが体現されたと思われる。

そのように、冷静になって分析もしてみた。
とにかく夢精しなくてよかった。

外廊下の窓には、明け方の青さがぼやけていた。
もし店がなくなっていたら、ミサキみたいな女の子を中心にして細々とデリヘルをやってもいいなと、天井を見つめながら起床の号令がかかるまで考えていた。

釈放手続きの流れ

朝8時30分を過ぎた。
日直のチャッキーの様子から、送検や出廷する者の出房がはじまるのがわかった。
房内の皆に挨拶をした。

「お世話になりました」
「おお、元気でな」
「体には気をつけてください」
「おお、そっちもがんばれよ、はははは」

とりわけ205番が応じた。
これからの刑務所送りなど気にしてないように、ニカッと笑っていた。

罰金刑で釈放となるとは留置係は知らない体となっているが、検察からは処分方針は伝えられているらしい。

出房してからは、身体検査室に入る。
逮捕時のときの服に着替えて、革靴を履き、私物を入れたバッグを手にした。

日直のチャッキーにお礼を述べて、手錠と腰縄をして、護送バスに乗り込んだ。

霞ヶ関の中央合同庁舎へついてからは、地下の警察官詰所で待機することはない。
法廷で裁判長に判決を言い渡される、という大袈裟なこともなかった。

連行の警察官に腰縄と手錠を外されて、合同庁舎の簡易裁判所のこぢんまりとした一室の机の前に座っていると、向こうのドアを開けて現れた裁判官が対面に座る。

罰金30万と記載された書類が机の上に差し出された。
確か署名と指印ぐらいをしただけで、5分ほどで事務的に釈放された気がする。

釈放手続きをあまりよく覚えてないのは、裁判官が女性だったので、そっちに目がいっていたからではないか。

その問題の女性は、年の頃は40歳手前、いや、40歳前後くらい。
肩に振りかかる黒髪はハーフアップにされて手入れされた艶があり、ノースリーブの白いブラウスからの二の腕との相性が格別だった。

二の腕は真っ白で熟して毛穴が埋まり、すりすりしたら滑らかそう。
知的な雰囲気を感じさせる鼻筋の細面にも、スラリとした首元にも、指先にまでも、陽が当たったことがない白さがある。

罰金が記載された書類にある “ 雨宮凛子 ” というしっとりとした名前は、人妻AV女優みたく文句なしに似合っている。

左手薬指にプラチナリングをつけた彼女と対面して、裁判官そのものの清々とした口調で略式命令を述べる声を耳にしたときは、留置場の房内の日々から抜け出したばかりからか、なんというか、文明社会に触れた衝撃。

「わかりましたか?」と訊かれたのだが、もう、自分は呻き声を洩らしそう。
困り顔にも見える表情で、伏し目がちに略式命令の説明をされた頃には、文明社会に触れた衝撃は野蛮さと同化したらしい。

雨宮裁判官は理不尽に視姦されていた。

ノースリーブのブラウスの襟元から覗ける鎖骨の浮き出し具合は、お腹の皮下脂肪の厚みと比例している。

もっといえば、あごのラインとウェストのラインが描く曲線には相似がある。
ノースリーブのブラウスの胸のふくらみを考慮して、雨宮裁判官の上半身を、まず下着姿にした。

服装の色使いからすれば、下着は白の上下。
さらに自説を唱えれば、二の腕の肉質と裏太腿の肉質は相関する。
年齢が上がるほど、2ヵ所の肉質の柔らかさの相関度は高まる。

この二の腕の張り具合からすると、机の下に隠れている裏太腿からお尻の肉感はきっとシックスナインをしたものなら・・・と、視姦の途中で「もう、行っていただいて大丈夫ですので・・・」と退室を促された時点が釈放だった。

釈放されてから有楽町駅まで歩いて

釈放となった瞬間から、扱いがまったく違う。
もう連行の係もいないし、手錠も腰縄もなく自由に館内を歩ける。

罰金納付の窓口は1階。
1週間以内に払いますという旨の書類を提出して、合同庁舎の正面入口を出たのは12時前。

冷房もいいが、むわっとする熱気もいい。
22日ぶりだ。
直射日光と外気を全身に浴びた。

合同庁舎の目の前にある日比谷公園を歩いた。
樹木の深緑に、真夏の青空に、白い雲に、全てが眩しい。
これを晴天白日の身というのか。
自由っていい。

タバコの1本でもゆっくり味わいたいが、これを機にやめると決めている。
こんなにも自由の空気をありがたり、かつ自身を律することができるのは、やはりどこかが生まれ変わったのかもしれないと、期待してる自分がいる。

日比谷公園を抜けた。
帝国ホテルの前を歩き、向かいの東京宝塚劇場を見ると、入口付近には真夏のお出かけの装いをした女性がたくさんいる。

20代、30代、40代も50代も、60代まで揃っている。
でも、もう視姦などしないし、真っ直ぐに歩けている。
真面目に品行方正にできている。

JRの山の手線の高架脇の通りまでは、合同庁舎から歩いて計10分ほど。
いくつもならぶ飲食店の看板に、電車の車輪音に、一気に食欲が刺激される。

汁物が食べたい。
温かい米飯が食べたい。
生モノも食べたい。
肉も。
甘いものも。
脂っぽいものも。
酒も飲みたいが久しぶりだから効くだろうし、まだ食べたり飲んだりする前にやることがある。

オーナーにも智子にも連絡をしなければだ。
とはいっても、携帯の充電はゼロだし、コンビニで充電器を買ってからだな、と有楽町駅まで歩くと、ガード下の『後楽そば』が目に入って立ち止まった。

『後楽そば』は歌舞伎町にもある。
化粧濃いめのいい感じの熟女が、鉄板でやきそばを手際よく作っている店だ。
食欲には抗えない。
立ち食いそばを食べるくらいは許容範囲。

もう悩まずに飛び込んで、やきそばと天ぷらそばのセットにカツ丼を単品で追加注文。
ビールをちょっとだけとも迷ったが、やはりそこは我慢した。

まだ、自分にはやるべきことがあるのだ。
とりあえずメシはこれでいい。
ともかく新宿まで戻ろう。

JR山の線だと、ちょうど新宿は反対側になるかと、有楽町駅の改札口を通った。


– 2021.08.22 up –