スカウト方法を教えて欲しいという質問


スカウトは無口ぐらいのほうがいい

久しぶりに、ヒロシとナンパをしようということになった。
「勝負しよう」ということで、アルタ前広場で開始した。

夏の夜のアルタ前広場
夏の夜のアルタ前広場

2人とも、職業は会社員と詐称した。
スカウトのときは、ビシッと、バシッと、ズバッと・・・、という態度で女に接しないと、後々に動かすことができない。
だからスカウトは無口ぐらいのほうがいい、というのが自分の持論でもある。
その日も、とある若者にそんな話をした。
AVプロダクションのマネージャーから、スカウトを教えて欲しいと紹介された若者だった。
今日だけじゃない。
今までスカウトやってみたいという80人ほどを、紹介されたというか押し付けられた。
結果、フリーとして食えたのはヒロシだけだった。
そこからの教訓として。
まず最初から『スカウトできないだろうな』と思わせる者の特徴がいくつかある。
まずひとつ目に興味だけの者。
「最初になんと言って声をかけるのか?」「断られたらどうするんですか?」などと質問してくる。
そんなことくらい、路上にくる前にイメージできてない時点で、まずダメ。
スカウトなんて最初から最後までわからないことの連続なのだから。
人から教わるというよりも、自身で勝手に先回りして、考えたり動いたり話したりするくらいでないと厳しい。
「わからないので」「考えられないので」などと、さらに応えてくる者もいる。
ほとんどが感じのいい笑顔で応えてはくるが、その場合は教えるのも時間の無駄。
真剣じゃない。
真剣な人間は一種の怖さがある。
感じがよかろうとわるかろうと、笑顔になんてならない。
とはいっても、笑顔が素顔なだけの真剣な者もいるので、ワンポイントアドバイスくらいはする。
人から教わるのではなくて、声をかけた女のコのみが全てを教えてくれる。
そう思って声をかけて、状況を観察すればいい。

スカウトとナンパの違い

簡単な努力すらしない者もほとんどになる。
スカウトを名乗りさえすれば、向こうからくるものだと勘違いしている。
「街中で声が出せません」とか「いきなり話せません」などで終わってしまう。
いきり声が出せないのは当たり前。
雑踏にはパワーがある。
そのパワーに飲み込まれると声は出なくなる。
声を出せるようにするには、街中に立つ前に発声練習をするといい。
身振り手振り付きの発声練習を約2時間。
3日間繰り返してから、街中に出て声をかけてみる。
そうすると、自然にいつでも声が出るようになる。
だけど、今日の若者も明日からは来ないだろう。
ずっと半日、道端に立っていただけだから。
発声練習だって理由をつけてやらないに決まっている。
教えていたヒロシも苛立っていたので、気分転換のナンパ勝負だった。
スカウトに対して、ナンパはコミュニケーションが必要になってくる。
コミュニケーションって、ノリがよくない自分はウザく感じるときがあるが「こんにちわ」などと声をかけていた。
勝ったのはヒロシだった。
あっけなく、24歳のOLと23歳の看護師の2人組を確保したのだった。
合流すると、片割れの彼女が腕を組みながら言ってきた。

「田中さんって」
「うん」
「仕事ってなにしてるの?」
「え、会社勤めしてるよ」
「なに関係?」
「不動産の営業してるよ」
「そうなんだ。でもな、最初に声かけてきたのが田中さんだったら、ゼッタイについていかないよね」
「そう?」

もうひとりの彼女がクスッと笑う。
『そうだね』という感じで、2人でうなずいている。

「えぇ、なんで?やっぱ顔面がマズイか?」
「なんか・・・」
「いってみ」
「どこかに連れて行かれそうな感じ・・・」
「そんな、人さらいみたいにいうなよ」
「ハハハ・・・」

女ってなんでこんなにするどいのだろう。
内心、ドキッとした。

電車での痴女

夜の22時過ぎた。
24歳と23歳の看護師の2人組は、結局は2杯か3杯おごっただけ。
どうにもならなかった。
約束していた智子のウチにいこうと、新宿から地下鉄に乗っていた。
車内はそこそこ混んでいた。
座席は疲れきった通勤者が席を占めていて、つり革も全てが埋まっていた。
自分はドア付近に立ち、目の前に座っているOLの女のコを見て「このコ、スタイルいいな・・・」とボーと考えていた。
そんなときだった。
ドア脇の手摺をつかんでいる自分の手の甲に、後ろにいる乗客の手の平が当たるようにして擦れた。
電車も揺れていたこともあり、特にはどうにも思わなかったが、わざとらしさは感じた。
そして再度、その手の平が太腿にピタッと当てられた。

『ん、もう、なんだこの手は?え・・・、触っているのか!?  いや、触ってるな・・・。触ってるぞ! 触ってるって!触っている・・・。 痴女か!痴女なのか!なんですと!』

しなやかな感触の手は、明かに自分の太腿を触っていた。
冒頭からわずか3秒後ぐらいだったと思う。
その短い時間に、自分は突然であまりの出来事に驚愕し、状況を掴むのに錯綜し、それでも内心ガッツポーズをしたいような気持ちになっていた。
痴女に触られて気分を害す男ってあまりいないのではないか。
その数日前。
こんな事があった。
AVプロダクションのマネージャーと、スカウトの件で打ち合わせていたときだった。
少し間が空いたあと彼が言う。

「田中さん、今日・・・、なんか・・・」
「ん、どうした?」
「なんか、ツヤっぽいね」
「そう、そんなにも脂ぎってる?」
「いや、そうじゃなくって」
「なに?」
「なんていうのかな。・・・ツヤっぽいって普通は女の人に使うんだけど」
「ああ、精力が湧いてるような感じ?」
「そんな感じかな。色気があるっていうのか・・・」
「えっ、色気?」
「うーん・・・」
「・・・」
「・・・」

そんな会話をしたら、なんだかお互い気まずいというのか、こそばゆいというのか。
「色気がある」なんて始めて言われたものだから、なんだか照れくさくなった。
そんな事があった数日後だろうか。
痴女の手は股間ちかくに進んでいたが、そのままの状態で『なんだ・・・、オレもやるな・・・』と感慨に浸っていた。
さらに5秒ぐらいは触られていただろうか。
指先は絶妙な力加減で、金玉の位置に進んでいた。
くゆらせるようにして、指先が金玉を擦るのだ。
くすぐったさが、気持ちをさらに楽しくさせた。
うさんくさいだの、オヤジだの、あやしいだの、ヘンタイだのいろいろと言われたが、やっぱりわかる女はわかるんだ!!と至福のときを感じていた。
よし、次の駅で彼女の手を引いて降りよう、という結論に至る。
智子との約束は、また今度にしよう、だいたい、智子と一緒にいるから所帯じみるんだ、これでオレも、男の色気がある30男といってもいいんじゃないか。
人間がとっさに考える力ってすごい。
「つぎは、茅場町~、つぎは、茅場町~」という、車内アナウンスが合図のように振り向いた。
その痴女は川島なおみのような雰囲気で、ニコリと笑みを浮かべて、・・・例えていうならばだが、すでにここまで妄想は膨らんでいた。
しかし背後には見当たらない。
反対側から振り向いてもいない。
ただ、吊革につかまった背の低いサラリーマン風のオヤジが、顔を伏せて立っているのが視界に入っただけだった。
酔っ払っているのだろうか、電車の揺れに合わせて膝をガクッとさせている。
髪がボサボサだったのが、みすぼらしさを感じさせた。

「・・・」
「・・・」

自分は、以外にも冷静だった。
前に向きなおして『オレ、なにやってんだよ!痴女なんているわけねーだろ。この、バカ!』と自身を叱咤して『このオヤジふざけやがって・・・』と拳を握った。
こういうときは、どうすればいいんだろう。
「痴漢です!」と大声を出すのも勇気がいる。
ほんとに。
すると再び指先が、・・・しなやかな指というのは全くの勘違いだった、ともかく指先がケツのほうに動いた。
『オヤジ、ナメやがって・・・』と手を掴もうとすると、素早くサッと引っ込む。
思わず舌打ちをしたときに気がついたのが、自分の目の前に座っていたスタイルのいいOLが、向けていた視線を反らしたのがわかった。
あれは、いけない光景を見た、という反らしかただった。
目撃されていたの・・・。
どこから見ていたんだろう。
あああぁぁ。
そのとたん、酔っ払いのオヤジと自分が2人で、触ったの触るなと言い合う光景がとてもブザマに、第3者からみれば滑稽に想像された。
ホームに電車が停まるまで長かった。
電車が茅場町のホームに止まると、痴漢オヤジからというよりも、目撃されたOLから逃げるようにして電車を降りた。
敗北感のまま、次の電車で智子のウチに向かった。

– 2003.5.24 up –