正月の風俗客の特徴


風俗店従業員の正月

正月らしかったのは、智子からのおせちを受け取ったくらい。

これから子供たちと出かけるという智子に、おせちを要求。
で、最寄り駅まで呼び出した。

おせちを持ってきた智子を、ガード沿いにある古ぼけたラブホテルに連れ込んで、ベッドの上でおせちを食べ散らかしながら突き回してやった。

智子を解放したその帰りには、銀座の伊東屋でボールペンを買った。
適度な重量感があってバランスもよくて、8角形の軸が小指で握りやすくて手になじむ。

回転式でペン先を出すのも扱いやすく、カシャッというスイッチ感はすべてのボールペンの中で一番によかった。

イタリア製ボールペン
ボールペンは店長の仕事道具のひとつ

値段を見ると52000円。
イタリア製で、軸に不具合があれば全世界保証とある。
値段にたじろいだが、仕事道具だし、大入りもあったし。
思いきって買ったのだった。

営業開始は1月4日の10時。
西向天神社の境内を通ったときには、正月だしな・・・と賽銭箱に50円を投げた。
それだけの正月だった。

明治通りを渡る。
歌舞伎町の街路には、もう人出がある。

店では竹山が開店準備をしていて、正月の3日間はスロットと風俗で過ごしましたと自虐の笑いを見せた。
待機所の掃除から戻ってきた久保も同じようなことを言っていた。

今日はこの3人で早番と通し。
遅番になれば、実家で過ごす組の小泉と西谷もくる。

有線放送は、ユーロビートチャンネルに。
風俗店らしくなってきた。

すでにダーさんは、元旦の夕方からシグナルを営業していた。
歌舞伎町の風俗店は、半数以上が無休だったからだ。

ほとんどのチケセンも無休で、すでに遊興客がパネルに見入っていて、割引チケットに手を伸ばしている。

今になって新年の挨拶をする雰囲気ではない。
出遅れた。
これは早めにオープンしなければ。

まだ9時30分前だったが「オープンするんで割引チケットを出してください」とだけ伝えて、走って店まで戻った。

1年に1回だけの風俗客

裏口から鉄階段の音がして、ミサキとミエコが姿を見せた。
同時に、チケセンからの問い合わせの電話はすぐにきた。

「はい、ラブリーです」
「おつかれさまです!歌舞伎町ファラオです!」
「おつかれさまです!」
「今って、何名出勤ですか?」
「10名です」
「10名ですか!」

口ぶりからすると、たぶん他の店は10名もいないのかも。
本当は5名出勤なのに、つい勢いあまって10名などと口走ってしまった。

電話の向こうで、遊興客がはしゃいでいる喚声がしている。
アルコールが十分に染みた声が、正月の朝らしい賑わいを感じさせた。

「パネルの女の子って、誰がいますか?」
「ミサキちゃん、ミエコちゃん、カオリちゃん、シホちゃん、あ、あと、サクラちゃんもいます」
「わかりました!また、電話します!」
「おねがいします」
「あ、ちょっと、まってください・・・、あ、いまからいくそうです!」
「わかりました。ありがとうござます」

電話を終えるころには、カオリとサクラとシホと姿を見せた。
早番の5名の出勤が揃った。

シホだけはいつもと変わりなく、顔を合わせて「おはようございます」とだけいうと待機所に向かっていた。

新年の挨拶は、形だけあっただけ。

「もう、お客さんくるって」
「もう?」
「準備しよう。体調はだいじょうぶ?」
「うん」
「今日は忙しいよ。ムリさせるかも。もう最初に謝っておく」
「はい」

ミサキが返事をして、ミエコが裏口のドアを開けた。
ダミーの5名は誰にしようかと、竹山がプロフィールをせっせと選定しはじめると、人感チャイムがピンポーンと鳴って、年明け最初の客が姿を見せた。

受付は自分がする。
新しいボールペンを使いたくて仕方なかった。

3人組の客で、友人と連れ立ってきたという様子。

「いらっしゃいませ!」
「これを・・・」
「はい、ありがとうございます!」
「・・・」

それぞれが手に持っている割引チケットの差し出してきたが、それは風俗に行き慣れてない仕草だった。

正月には、1年に1回だけの風俗という客がくる。
抜き始め、というやつだ。

「では、こちらのチケットの割引料金でやりますので」
「もう、ぼったくらないようにしてよ、新年早々」
「だいじょうぶです、当店、優良店でやってますので」
「ほんとかなぁ」

酒が入っている客は笑いながら言っている。
今の歌舞伎町の風俗で、ぼったくりなど聞かない。
なのにそれを気にしているところなど、3人は3人とも普段から歌舞伎町には来ないのだろう。

「だいじょうぶです!しっかりやります!まず、写真を見てください!」
「はい」
「どうぞ、こちらに!おかけになって!」
「・・・」

テーブルにプロフィールのカードケース10枚を並べた。
ダミーは竹山チョイスで5名交ぜて、10名出勤としている。

座り込んだ3人が覗き込む。

「指名料込みなんで、好みのコ、いっちゃってください」
「・・・」
「待ち時間もあるコもいるので、気になるコがいたらいってください」
「・・・」

もちろん待ち時間などないが、すでに混んでいるのを装っている。
『全員すぐです!』よりも『混んでまして・・・』のほうが客も焦る。

「もし、指名がかぶったら、そこはゆずり合いでおねがいしますね」
「・・・」
「指名は早いもの勝ちでいいんじゃないかと」
「・・・」
「このコなんかどうですか?」
「・・・」

それぞれが遠慮しがちに、無言のままプロフィールを回し見している。
思ったより食いつきがわるい。
こちらのやる気が空回りしてるような間があった。

「このコもどうですか?」
「んん・・・、どのコも若いなぁ・・・」
「このコなんかも、若いですよ」
「ハタチィィィ!」

プロフィールに書かれた20歳という年齢に、目を見開いて素っとん狂な声で驚いているのは、スポーツ刈りの50がらみ。

昭和のころの、千葉県知事になる前の森田健作みたいな健全さに溢れている。
剣道の練習で一汗かいてからきました、という爽やかさがある。

健作は、プロフィールをひと通り見てからポツリという。

「俺はいいかな・・・」
「えっ、どうしたんですか!どのコも間違いないですよ!」
「30とか40はいないの?」
「ええ!先輩!熟女が好きなんですか?」
「ははは・・・。いや、ハタチは娘と同い年だからな・・・」
「あ、おめでとうございます、成人式ですね」
「あ、いや、だから・・・、ハタチのコを年明けから抱くわけにはいかないでしょ?」
「まあ、そこは、せっかくの歌舞伎町ですから」
「でもなぁ・・・、ハタチはなぁ・・・」

健作は言いながらも、腕を組んで首をかしげて、どうしようか真剣に悩みぬいている。
こんな正直者が風俗遊びをするのも、正月ならではだった。

悩みぬいた末に、健作はハタチとなっているシホを指名した。
健作の指名が済むと、後の2人はサクラとミエコを指名した。

なんにしても、年明け一発目にこぼさなくてよかった・・・と伝票に指名を書き込んで、3名分45000円を長財布に収めた。

地方からきた風俗客は派手さを求める

正月の特徴としては、1年に1回の風俗客がくる以外に、地方からの客が目立つのがある。
彼らには苦戦した。

まず地方だと、風俗店の規制が未だに緩やかなまま。
なので、受付型ヘルスという新しい形態の意味がわかってない。

「レンタルルームでのプレイです」と説明すると「え、ここじゃないの!」と、やはり素っとん狂な声を上げる。
歌舞伎町浄化作戦など知りもしない。

条例遵守してるのに「あやしい店じゃないの?」と怪訝そうな顔をする客もいる。
「今は条例で個室がダメになってしまって・・・」と、いちからの説明を添える必要が多々あった。

あと正月に限らず、地方から遊びにきた客は、派手な女の子を求める傾向がある。
東京の女の子は派手な印象があるらしい。

『せっかく東京にきたのだから・・・』と、意気込んでいるのか。
しっかりと普段の早番では敬遠される、金髪やらブロンドやらギャルメイクやらのダミーに食いついてしまう。

黒髪の色白の薄化粧で、地味な私服のミサキなどには目が留まらない。
写真指名がミサキにいかない。

このタイプは、普段はサラリーマン客には放っておいても写真指名されるのに、正月は食いつきがそれほどでもない。

「萌え系です!」と推してみても伝わらずに、ただの地味な女の子と見てとられる。

去年の流行語大賞には『萌え』が選ばれて、流行にのったつもりで推したのだが、意味も使い方も知らない客のほうが多かった。

「モエってなんですか?」と不思議そうな顔をされる。
まだまだ『萌え』とはアニメオタクの専門用語だった。

正月の歌舞伎町の風俗店の割引料金

チケセンからは、問い合わせの電話が集中して続いている。
年末よりは客数は少ないが、どの風俗店も女の子が少なくて待ち時間が出ている様子だ。
出勤が1人でやっている店もあると、ダーさんが教えてくれもした。

早々に割引チケットを切り替えた。
45分ルーム代別指名料込み16000円、60分ルーム代別指名料混み19000円。
入会金2000円のみの割引。

それでも客は来た。
女の子は、休憩なしで客がついている。
5人組の受付をしている久保が声を張り上げている。

難しいところだった。
10名出勤を装ってはいるが、実際は5名出勤なのだ。
5人の指名をピッタリとはめ込まないといけないが、ダミーに食いついているようだった。

団体でやってきて、そのうちの1人がダミーで食いついてしまったときは厄介だった。
ダミーの指名を回避するために悪態をつくと、他の客も「こっちのコはどうですか?」と詳しく聞きたがる。

騒がしくなってきたところで「ちょっと時間たしかめてきます」と久保がリストに戻ってきて、カーテンから半身を入れた。

「ダミー地獄です」
「だれに食いついてる?」
「アリスです。いったんユウカをかわしてキョウコをかわしてアリスです。ボスキャラなんですよ。60分待つっていうんです」
「先にいったん全員の料金を取ろう」
「取りますか?」
「で、そいつ1人にしてから、また振り替えよう」

ボスキャラの興が醒めて『ほかの店いこう』となったものなら5人全員がこぼれてしまう。
それだけは回避したい。

不思議なもので、不本意なこぼしをすると、そのあとの客入りの勢いが落ちる。
気のせいといえば気のせいなのだが、客商売には大事なことだった。

また戻ってきた久保が、10枚の1万円札をリストの上に置いた。

「ミサキ以外で60分で、オール1000円バックです」
「これ、6000」
「はい」
「これ部屋番号」
「じゃ、4人出します」

まずは料金をとって受付をいったん終わらせて、他の4人をレンタルルームに送り、待合室に1人となったときに写真指名を振り替える。

作為で振り替えるとしても、ダミーというインチキが基にあるとしても、優良店には間違いなかった。

これがもし悪質店だったら、振り替えなど面倒なことはしない。
手っ取り早く、すぐいける女の子にダミーの名前を名乗らせればいいだけ。
『写真とちがう』となっても誤魔化すのみ。

さも、店にも女の子にも非がないかのように、偶発してことが起こったかのように小芝居を打って指名を振り替えるのが、いかに風俗店においては優良であることか。

団体客が売上と入客が伸びた要因

受付型となって、3ヵ月目となっている。
年末に入客数の最高額の記録をつくれたのは、受付型になったからだった。

団体客だ。
店舗型では3人組までが限度だったのが、受付型では5人組や6人組という団体客を取り込めるようになった。
これが入客数が伸びた原因となっていた。

ただ、5人組や6人組の団体客は受付するのが大変。
ほとんどが酒を飲んで勢いをつけて来るから騒がしい。

7人組や8人組となると、収拾がつかなくなるほどの大騒ぎとなる。
写真指名だって順序良くとはいかない。

来店したときには行儀よくて、お互いに遠慮していた客も、写真を目にすると取り合いになる。

本人にその気がなくて、付き合いできた客であっても、いったん写真を目にすれば声を大にして譲らない。

プロフィールを奪い合いになるのをとりなして、こちらも声を張り上げてなだめたり、別の女の子を推したり、お願いしたり、笑いとばしたりしながらの受付となる。

多くがじゃんけんによる解決しかなかった。
店内では、大人の真剣なじゃんけんが繰り返された。

正直いって、団体客は面倒だなという気はあるが、客というものは入れれるときに入れておかないといけない。
あとになってから「あのとき入れておけばよかった!」となる。

それだから、目の前の客はなにがなんでも入れるという気構えは皆にあった。
入客数が伸びたのは団体客の存在もあるが、そういう気構えがあってのことだった。

写真指名の振り替えのプレッシャー

5人組の指名が決まったときには、来店から20分経っていた。
その間に、リストの白丸はいくつか塗りつぶされていた。

15時を過ぎている。
遅番の出勤確認も済んでいて、遅番出勤のプロフィールも2時間待ちで交ぜた。

先に4人をレンタルルームに送り、女の子が入室したところで、ボスキャラの指名を振り替える。
なんといって指名を振り替えようか、と久保が考えている。

自分も、ボールペンの回転を無用にカシャカシャやっていた。
いったん指名を決めた客は、気分が落ち着くものではある。

その上で料金を払った客は『返金してくれ』とか『じゃあ、やめる』とはそうそうはならない。
というよりも、まったくない。

そうはいっても、振り替えるのは、ダミーだとはバレないようにという一種のプレッシャーがあるものだった。

「田中さん、そいつ、なんていって振り替えましょうか?」
「そいつか。いきなり生理になりましてだと、どこの店も使っているからな」
「そうですよね」
「そいつ、女の子が階段から転げ落ちましてでいくか?」
「それはなんかウソっぽいような・・・」
「そいつだから、もうちょっと、インパクトあったほうがいいな」

本当にアリスは、12月の週末の体験入店初日に、階段を踏み外して膝を擦りむいていた。

怪我というほどのものでもなかったが、まだ混雑に慣れてない12月の週末のごった返しで、こちらの対応が雑だったのか。

受付型ヘルスというのも乗り気でなかったし、初日でケチがついた店で働きたくなかったのか。
5万2000円を稼いだのだが、初日でトビとなってしまった。

スカウトした遠藤からの電話もとらないというから、トビの理由はわからない。

「うーん、アリスが本番強要されて、いや、ムリやりやられちゃって・・・、でも、これだと大ごとすぎるな」
「あっ、でも、そいつ、いいヤツそうだから、いいかもしれないです」
「んん。そいつ、本強でなくてレイプでいくか」
「はい、レイプされたでいいかもです」
「じゃ、そいつ、実はアリスさんがレイプ中出しされまして、いま警察にいってましてってあたりにするか」
「で、そいつ、店長から連絡あって、ほかのおススメにするようにいわれたと」

客を “ そいつ ” 呼ばわりしているが、敵意があるわけではない。
一種の鼓舞である。
そうでもしないと、なかなか振り替える踏ん切りがつかないものだった。

「そいつはそれでいいか。まあ、そいつ、アリスで食いつくってことはおっぱい好きだろうからな、美乳ですって、セイラでいくしかいないな」
「セイラ、だいじょうぶですか?」
「いま向かっている。もう着く。さっきアルタ出たから」
「じゃ、セイラで激推しします」

昼過ぎから遅番の出勤確認の電話をしていて、アルタで買い物していたセイラだけが15時からと早出させたのだった。

緊急事態だからと、この埋め合わせはするとがなりたてると、電話の向こうで「ええ~」といってはいたが断りはしないセイラだった。

「むずかしかったら、そいつだったら、最悪、指名料2000円サービスで返してもいいか。それでも単価9500円は切らないし」
「いや、そいつ、そのまま振り替えます」
「おお、じゃ、あとは、そいつ、サーセンッっていくしかないな。ヘッドスライディングぐらいの勢いで」
「じゃ、そいつ、次の曲に変わったらいきます」

有線の曲が次になると、セイラのプロフィールを手にした久保は、サビの部分で大きく息を吸い止めた。
必死で1分以上も息を止めて、顔が赤くなってきていている。

有線からは大塚愛が流れている。
年末にレコード大賞新人賞となった歌手なのは知っていた。

突然に「ええ!」と音量に負けない声でと叫んだ久保は「サーセン!」客のもとへダッシュした。
息継ぎをしながら、事情を話してるのだろう。

今度は客の「ええ!」という小さな叫びがして、大塚愛の甲高い歌声の途中に細切れで「パトカー」だの「逮捕」だの「懲役」だの聞こえてくる。
店内にはほかに客はいないからいいが、ちょっとばかり凝りすぎだ。

大塚愛のサビの部分で続きが聞こえてきた。

「こんなことは1年に1回あるかないかなんですけど・・・」
「あああ・・・、女の子はだいじょうぶなんですか?」
「いや、だいじょうぶじゃないです。いま店長が警察いってるんで」
「あああ・・・」

客が心配そうな声をしている。
やはり久保が言った通りいいやつだった。
すべてを真に受けている。

「あ、それで、このセイラさんですけど」
「え、このコ?」
「いま、出勤してきたばかりで」
「うん」
「当店ナンバーワンの美乳です」
「美乳?」
「はい、Dの美乳です」
「じゃぁ・・・、このコで」

レイプの前振りがあってから、あっさりとセイラに振り替えできた。
戻ってきた久保は「いいやつなんで」と、会員証のスタンプを追加で3つ押している。

「こんなことは1年に1回あるかないか」というのは、実のところは散々と使い回されている。
年末にも1日に3回は使っていた。

もう封印しないといけないな・・・とセイラに白丸をつけた。

風俗店の新人とはいつまでか?

セイラは入店して1ヶ月が経とうとしている。
遠藤のスカウトで12月の半ばに面接にきた。

以前は歌舞伎町の店舗型ヘルスに在籍していたが、浄化作戦で店がなくなったのだった。

その1店舗のみで1年間やっていたという経験者だったので、受付型の流れだけは教えて、実技の講習はしないで体験入店。

体験入店の日のうちにサービスチェックはした。
「当店ナンバーワンの美乳」の推し文句は、サービスチェックをしたオーナーの評からきている。

もちろんサービスチェックは伏せて行なわれて、すでに客から本人に美乳と推しているのは漏れ伝わっているが、そこは他の客から聞いたとしている。

セイラこそ、すぐにトビになると思っていた。
面接のときの印象は、どちらかといえば悪い。
容姿というより、面倒な癖がついている経験者に見えた。

女子バックのプリントを目にすると「写指(写真指名)はバックにつかないんですか?」と意外そうに聞いてくる。
前の店では、写真指名に1本1000円のバックがついたというのだ。

その店が指定するスタジオで、女の子は自費で写真を撮る。
本人が選んだ写真をお店に渡す。
そのまま写真は掲示されて、店側はなんの推しも調整もすることなく客付する。
店からすれば手間要らずだ。

この店では写真指名のバックはつかないとだけ説明すると、少しばかり口を尖らせてから「これをつかってください」と前の店で使っていた写真を取り出した。
女の子にとっては、最初の店が基準になるようである。

修正をぐいぐいしてある写真だった。
少しばかり目が釣り上がっているのと、八重歯あたりも修正してある。
キラキラ感だけが増えて、だいぶ本人と雰囲気が変わっている。

女の子が好む写真と、客が好む写真は違う。
写真は店で撮ったものを使うとだけは説明した。

そんなことだから、すぐにトビになるかなという印象だったが、1ヶ月が経ってみるとなかなか可愛い。

動物に例えると猫。
目元と口元が猫っぽい。
すぐに腹を見せてくるような人懐こい猫でもあり、やはり猫みたいな愛嬌を見せてくる。
在籍させたといっても、店としては特別なことをしたわけでもない。

遠藤から聞いたのだが、セイラをスカウトとしたときの条件は、あちこちの店を転々とすることはしたくないという1点のみ。

どうしてかまでは知らない。
上手い具合になのか、たまたまなのか、この店に遠藤がはめ込んだので在籍となった気がする。

仕事始めの日の売上が前半期の一番となる

裏口の階段からヒールの音がして、セイラが出勤してきた。
新年の挨拶などなく、すぐに連絡用のプリペイドの携帯を手渡した。

「セイラ、ムリいったな」
「うん」
「でさ、いま、ちょうどお客さんついて」
「え、もうですか?」
「うん、いけるでしょ?」
「あ、はい」

客からレイプのことが伝わるかもしれない。
事前に一言だけ伝えておかなければだ。

「そんでさ、ダミーの指名を振り替えたんだけど、ダミーがレイプされたことになってるから」
「え、レイプですか?」
「うん。もし、お客さんから聞かれたら話合わせといて」
「あ、はい」

ダミーも振り替えも意味がわかっているセイラは、いたずらな目をして「はい」とうなずいて待機所へ向かった。

もう、セイラは新人じゃなくてもいいか。
プロフィールの『入店しました!』の紙片は外した。

客足は遅番になっても変らない。
混んではいるが、年末とは違うちょうどいい混み具合で、女の子の待ち時間も2時間はあっても3時間にはならないし、部屋が足りないということもない。

だた年末とは勢いが異なっている。
年末の風俗客は解放感に溢れて騒がしかったけど、正月の客は騒がしくてもどことなく淋し気である。
黙々としている客も交じっている。

男子従業員にしても、客にしても、女の子にしても、正月から風俗に関わる者は孤立しているのかもしれない。

いや、孤立はしてない。
まったくの無縁者ではない。

家族という一緒にいる者がいても、実家という過ごす場所があっても、どこか落ち着かない居心地からくる孤立というのか。

なんにしても、この1月4日の店落ちは、5月の連休までの最高店落ちとなる。

– 2023.06.24 up –