新風俗のシステム


司法改革の手始めとして

釈放されたら、まずはオーナーに連絡をするつもりだった。
皆が待つ店に戻るつもりだった。

しかしながら、JR大塚駅で途中下車して北口にある老舗の熟女ピンサロに寄ったのは、決して意志が弱いからではなく、まだ時間に余裕があるからちょっとだけと計算してのことだった。

ピンサロであればシャワーの形跡もないから風俗に寄り道したのも隠して皆と合流できる、そのくらいは礼儀として配慮しなけければ、とよくよく計算しての判断だった。

留置がんばっちゃたしなと、つい3回転コースにして、ユーロビートが響く暗い店内のボックスシートに案内されたところだった。

こんなことしてる場合か・・・と今になって躊躇もしたが、もう料金も払ったことだし、ここまできたら引き返せない。
やることをやるしかない。

隣に座ったのは40がらみの熟女で、この年代の特有の鼻にかかる甘い声で「こんにちわぁ」と股間に手を置いてきた。

「お外は暑かったでしょう?」
「うん」
「まだ、お仕事中?」
「まぁ、そんなようなとこかな」
「やだぁ、ちょっと鼻息あらくない?」
「うん。我慢してるの」

語句に「お」を付ける奥さん言葉だ。
股間に置いた手をくねらせて、軽く鼻で笑いながら「じゃあ、おズボンをおろしてくださぁぁい」となって、すでにガチガチのチンコをおしぼりで拭かれたところだ。

たしか5年ほど前までは、まずはテーブルには麦茶のグラスが置かれて、いっときの会話をもう少しまったりしてからだったのに、すぐにといっていいほどチンコを出すように促されたのだった。

それはいいとして、丁寧なチンコの拭き方からして相当な技の遣い手とみた。
「ガマンしないで、まず1回だしちゃおうね」という口元の笑みをしてから、パンティーを脱いだ熟女は前屈みになった。

いきなりだ。
太腿に顔を埋めるような金玉へのキスだったのだ。

熟女ピンサロ嬢
語句に「お」をつける奥さん言葉がいい

裏筋へと唇を這わせた。
熟女はシートの上に膝をついて首をゆっくり振りながら、舌だけは小刻みに先端まで這わせていく。

髪の毛先がサワサワと内腿を撫でているのも、敏感に体内に響いていく。
なんてたってオナニーを22日もしてないのだ。

自分は息を詰めて軽く歯を食いしばり、目をぎゅっと閉じた。

… チュルヌチャッチュパロルペチャペヌルッピチャッ …

ああぁぁ、自分は今。
あの人妻の雨宮さんに責められている。

柔らかい唇が、温かい口内が、細やかな舌の動きが、勃起を優しく持つ指先が、人妻生活の充実を表している。

・・・否。
ちがう。
ちがうぞ!
そうじゃない!
自分の勃起は、そんなのを求めてない!

そう、自分は今、裁判官の凛子に性欲処理を命じたのだ。
むろん、法に基づいた命令だ。

合同庁舎などは、強権を発動して接収。
邪魔となった検事どもは、まとめて地下の詰所の檻の中だ。

彼らの罪名だと?
生意気罪に決まってるだろう。
どの法に基づいているのかなど、どうでもいい。
強権を発動した自分が、いったい何者なのかも関係ない。

とにかくも、ここは、合同庁舎の一室。
司法改革の手始めとして、昭和風ピンサロ『サイバンカン』に改装したと宣言した。

心の中で。
ズボンをおろしたガニ股のままで。

スケスケキャミソールからの太腿に手を伸ばすと、柔らかく熟成された皮下脂肪がとろっと程よくのっている。

肌質は、手になじむしっとり感があって、熟女ならではの毛穴が埋まった上質なものだ。
すべて証拠書類のとおりだ。

日本の法曹界はどうなっているのか?

チンコの感じるツボを、舌先がチロチロと探っている。
亀頭を唇で包んでからは、カリ裏を集中して舌先がチロチロと責めてくる。

同時に指先は、金玉をサワサワとフェザータッチで焦らしながら撫で上げていく。

久しくオナニーをしてなくてヒクヒクしてる怒張を、あの略式命令を下した唇でゆっくりと咥え込んでいく凛子裁判官。

目を薄く閉じて頬を凹ませて、温かい口腔で根本まで包んでいく。
フェラ顔を見てるだけでも、あっさりとイってしまいそう。
拳を握り、空中を見上げた。
ここは精神統一だ・・・と歯を食いしばった。

今度は自分のほうが、この件を謹厳実直に審理をしてやる。
まず、この凛子裁判官のテクニックについてだ。

裁判官であろう者が、清廉潔白であるべき者が、まるでベテラン熟女ピンサロ嬢に匹敵するテクニックとは。
一体、日本の法曹界はどうなっているのかね。

けしからん。
けしからん。
けしからん。
けしからんぞ。
まったくもって、けしからんぞぉぉ!

心の中で凛子裁判官の罪を断じると、射精感はわずかに後退した。

ミラーボールに当たるハイビームが反射されて、カラフルな光彩がクルクルと壁と天井を回る。

「はい、5番シート!お時間少々、はりきって!」と店内アナウンスが流れて、昭和系ユーロビートが安室奈美恵MIXに。

すると、凛子裁判官のお口の動きが仕上げに向かった。

… ジュルルルッチュルロルルルッジュルルルルゥッゥゥゥ …

垂れた涎を啜り上げるバキューム音をさせながら、チンコを絡めとるように舌がグルグルと回っている。

柔らかい舌に温かい口腔。
敏感になっているチンコが溶けそうだ。

目を閉じると感度が倍増して、「あぁぁ、溶けちゃうぅ・・・」と小さく呟いた。
さらに歯を食いしばった。

なんという形骸化した司法制度

安室奈美恵MIXは、初期の曲をセレクトしている。
ソロ活動をはじめたばかりの彼女が、ポンキッキで着ぐるみで踊っていたころだ。[編者註52-1]

安室という苗字を初めて耳にした人も多くて、安室といえばガンダムのアムロをイメージする人も多くて、そういえば母親も殺害されたりして、そこからぐんと大人っぽくなって、・・・ああぁ、もう、なにを考えてみてもダメだ。

チンコにまとわりついていた唇と舌の動きが、安室奈美恵MIXとシンクロしたのだ。

… ジュポッジュポッジュポッジュポッジュポッジュポッジュポッ…

もう、我慢できない。
もう、コントロール不能。

「んんん・・・」と呻いて、大きな呼吸で胸が膨らんだ。
持っていきようがない怒りが沸いたときに似た呼吸だ。

ちっくしょうっ・・・と叫びたい気もして、そこにある尻肉を揉む。

こんないやらしいフェラ顔に。
すごい舌遣いに。

あんな澄ました顔をしていても、実はチンコ大好き裁判官だったのか。
これでは、性欲処理命令の体裁を成してないではないか。

なんという形骸化した法制度なのだ。
この事実は書類に記入して、署名指印しなければ。

繰り返すが、どうして書類なのか、誰がなんで署名指印するのか、そんな細かいことはもういい。

ガニ股の下半身がプルプルと震えている。

「ああっ、いっちゃう」
「ン・・・」
「いっちゃうよ」
「ンンッ」
「あ、あ、凛子っ」
「ンンンッ」
「サ、イ、バン」
「ンンンンッッ」
「あっ、カンッ」
「ンンンンンッッッッ」

じゃあぁぁぁと、ホースで放水する感覚の射精だった。

まさかの放尿と勘違いしたのか。
口内で精液を受け止めた横顔が、びくんっと驚きの震えを見せた。

射精の脈動は、幾度も大きく繰り返されて治まった。

彼女は静まった勃起を口に含んだまま、鼻から大きく息を抜いた。
「ンンンンッ」と喉元でうなって、精液の多量さを訴えてから、唇で亀頭を拭った。

精液を口元からこぼしそうになりながらも、丁寧にお掃除フェラを終えた。

「ごめんね」
「ううん」
「いっぱい出ちゃった」
「ほんといっぱい・・・」
「ごめんね」
「こんなに出す人いないわよ」
「久しぶりだったんで、つい・・・」
「ううん、いっぱい出そうな人だなって最初に見たときからおもったけど・・・」
「わかるの?」
「わかるわよ。でも、びっくりしちゃったぁ」
「ごめんね」
「こんなにも、いっぱい出るんだもん」

もう1枚のおしぼりを手渡されて、もう1枚はまだ勃起してるチンコに被せられた。

2言か3言を交わしてから、パンティーをはいてキャミソールの裾を整えて、シートから立った熟女。

「5番シート、ブイです!」
「はい、5番シート、お時間ちょうど、はい、ブイ、はい、ハッスルありがとう」

店内アナウンスで、男性従業員が応えた。
妙に低い美声だった。

裁判官に下された命令

老舗熟女ピンサロの花びら3回転というサービスとは、容赦がないものだった。
3人が3人とも、イカせようとテクニックを駆使してきた。

自分も容赦なく、あの夢の中で差入れにきたミサキも、そしてセブンイレブンの女の子も、・・・購入物を届けにきて留置場を覗こうとしてキャッキャしていた女の子だ、・・・彼女らも凛子裁判官と同様に性欲処理命令を下されて正義の射精を受け止めたのだった。

3連続射精をして店を出た。
夏の日差しがまぶしい。

コンビニを探して銀の鈴商店街を歩くと『うな鉄』が目についた。
携帯の充電器は買った。
が、充電をする時間が必要だった。

それならば充電の間だけ、休憩がてらちょっとだけ、外は暑いからちょっとだけ、本当にちょっとだけと、絶対にちょっとだけと自分に言いきかせながら『うな鉄』に入ってしまった。

懸念とおりに、やはり、ちょっとだけでは済まなかった。

一端が崩れるとあとはダダ崩れで、瓶ビールを飲んで呻いて、肝焼きも追加して、ささやかな宴を張った。

脂が旨い。
やはり人間、食べたいと欲するものを食べなくては不健康でいけない。
蒲焼をもう2人前に、肝焼きも追加した。

焼き台は大忙しだ。
香ばしい煙もビールを進ませる。

満足したところで、ささやかな宴は終わった。
携帯の充電は、とっくに完了していた。
意思が弱い自分だった。

歪んだ自己弁護に徹し司法制度を侮辱

大塚駅前を走る路面電車を眺めながら、オーナーに電話をしようと携帯の電源を入れた。

もし電話に出なかったらショックだな、と発信ボタンを押した。
オーナーはワンコールで出て叫んだ。

「田中君!」
「あ、おつかれさまです」
「心配していたんだよ!」
「今、釈放になって・・・」
「いや、よかった!電源も切れたままだし、なにかあったのかとおもって心配していたんだよ!」
「ええ、裁判所が混んでいたみたいで・・・」
「体調は大丈夫?」
「はい」
「いや、よかった、よかった。今、どこにいるの?」
「ここは・・・、日比谷・・・、ですかね」

なぜか大塚とは正直に言えず。
向こうからはチンチンと鐘の音を鳴らしながら走る車両がきていて、慌てて小走りになって路面電車の軌道から離れた。

「みんな、お店で待ってるから、なにか、うまいものでも食べよう。メシ、まだ食べてないでしょ?」
「ええ・・・」
「なにがいい?暑いからうなぎもいいし、寿司でもいいし」
「あ、寿司、いいですね」
「酒も飲んでさ、慰労金も渡すからね」
「はい」

村井も昼前には釈放されていたのだった。
すぐさま彼は、オーナーに報告の電話を入れていて、彼女が待つ自宅へ一旦帰ってから、皆と合流するために店に向かっているところだった。

対して自分は釈放されてからの4時間あまりに、自分に優しく甘い性格がありありと露呈していただけだった。

自分の都合だけを優先して、物のはずみで行動して、真っ当な社会生活を穿ってみて、歪んだ自己弁護に徹し、あまつさえ司法制度を侮辱。

女性蔑視を正当化すべく異常性欲を満たし、務めを果たさないまま飲酒。
あげく、少なからずオーナーの良心を疑い、責任転嫁をして嘘をつく。

冷静に自身をあげつらうことができて、あまりのことにおののいた。
今度こそ、新宿に戻ろうと言い聞かせながら、大塚駅の改札を通った。

違法風俗店の名義人の慰労金

新宿駅東口から歌舞伎町へ戻り、さくら通りを早歩きした。
うなぎのタレなど口元についてないか確かめた。

店のあるビルのエントランスを踏んだとき、あぁ、ぐるっと1週して無事に戻ってきた・・・とホッとしたのと、もう店はないのだな・・・と悲しいのが入り交じった。

エレベーターで3階に降りて、半開きとなっているドアを開けた。
待ち構えていた竹山と小泉が、腰を落として足をガニ股に開いた膝に両手を置いて、漫画の中のヤクザ屋さんみたく「おつかれさまですっ」と大袈裟に頭を下げたところで、一同で笑った。

この店の者は、全員ともヤクザチックな言動を嫌っていたのが、このときは笑いを大きくさせた。

村井は到着していて、缶コーヒーを片手に無事を確かめ合い、警察の文句をひと通り吐いた。

店内は片付いていた。
剥がされた壁紙は修復されて、外された個室のドアも取り付けてある。

オーナーが「飲みにいく前に、屋上へいきましょう」というので、バッグを持って2人でエレベーターに乗った。

この雑居ビルに、こんな屋上があるとは知らなかった。

多数のエアコンの室外機が乱雑に設置されていて、そこから排出される熱風が立ち込めている屋上だが、コマ劇場の緑色の丸い屋根と青空が見えて、ちょっとした歌舞伎町の風景を眺めるスポットの穴場となっている。

オーナーもこの風景を見つけたばかりで、自分に教えたかったのかもしれない。
タバコを勧めてくれたのだが「これを機にやめました」と伝えた。

それから慰労金100万や罰金30万や給料90万だとか、当日の店落ちや預かっていた支払い分の180万など、お互いに現金のやり取りをした。

オーナーはタバコに火をつけて「今後だけど・・・」と深刻そうな顔をした。

村井は、今後のことは彼女と相談してから決めたいとのこと。
前々から風俗をやめるように彼女に言われているし、今回で抜けるかもしれないと予想はついていた。

歌舞伎町のみのデリバリーヘルス

まだ詳しいことはなにも決まってないけどとオーナーは前置きをして、摘発されてから今までの間、営業形態を変えて店を続ける方向で竹山と小泉と話していたという。

新しい営業形態は、まずデリバリーヘルスの届出をして歌舞伎町で営業をする。
女の子の派遣エリアは、店から歩いて1分か2分まで。

派遣する場所は、レンタルルームという風営法でも定められている簡易休憩所を利用するというもの。

浄化作戦が先行した池袋では、その新形態がはじまりかけているという。

「田中君は・・・」
「やりますよ」
「えっ、そうですか」
「誰が店長をやるんですか?」
「まだ、そこまでは決めてなくて・・・」
「じゃ、オレ、店長やらせてください」
「えっ」

その新形態は初めて聞いた。
デリヘルというのは、広域を車で移動するものとの先入観があって思いもつかなかった。

派遣エリアが歩いて1分以内だったら、店舗を事務所に転用できる。

これなら新宿警察署で係長が繰り返し言っていた、次にやるなら届出をして歌舞伎町限定でという条件に合致するとすんなりと理解できた。

オーナーが口ごもったのは、自分のやる気ある返事が予想外だったからか。

「でも、田中君」
「はい」
「たぶん、次は届出するから大丈夫だとはおもうけど、もしだよ、もしも・・・」
「はい」
「もし、次に何かあって逮捕ってことになったら、累犯で処罰は重くなるだろうし・・・」
「わかってます。でも、竹山くんも小泉も、店長をやるって手を挙げてないですよね?」
「うん」
「だったら、オレ、やります」
「ほぉ」
「それに届出してもダメってなったら、もう次は最高裁まで争いますよ」

自分は少し興奮した。
今朝までの留置は懲りてないのか。

「それに、田中君」
「はい」
「給料なんだけど・・・」
「ええ」

なんだ、そんなことか。
給料が下がることは言われなくてもわかっている。
まがりなりにも警察に届出をして営業するのだから。

「今まで通りの金額は出せないかもしれないけど・・・」
「やだなぁ」
「え、やだって?」
「給料を目当てに、やるっていってんじゃないんですよ。このまま閉めるなんて癪じゃないですか」
「ああ、うん」
「給料はお任せします。都合で決めてください」
「そういってくれるなら、うん、わかった」

もちろん金も欲しい。
でも応じたのは、金だけではない。
風俗店を続けたかった。
細かいことは後日にと、屋上を後にした。

– 2021.8.27 up –