熟女について


四十路熟女の魅力

早番を終えて店を出た。

自分に合わせて明日は休日をとったという智子と、新宿駅東南口のエスカレーター下で待ち合わせていた。

上から降りてくる智子の姿が見えた。
ラベンダーのカーディガンに花柄の膝丈スカートだ。

手を振ると、気がついた智子が微笑んだ。

子持ち熟女
熟女が好きだとは店では言えないものだった

風俗ではババアと蔑まされる40代だが、19歳や20歳の女の子と比べると微笑みはしわしわだが、それなりの魅力が熟女にはある。

着けている花柄の膝丈スカートなど、熟女だと映えてみえる。

からかい交じりで「花柄がチャーミング」などと褒めて、ウチに向かい歩きながら、その日の朝に目にして驚いた小学生の話をした。

胸の中に収めていたその驚きを話せる相手は、智子しかいなかった。

その日の朝、元電車道と明治通りの交差点で信号待ちをしていたとき、目の前にいた小学生の男の子2人組の会話が聞えてきて驚いたのだった。

クラスで学級委員長を決めるらしい。
一方が片割れを候補者として推薦したみたい。

「近藤くんは、人望もリーダーシップもあるからだよ」と一方の推薦人が理由を言う。

推薦を受けた近藤くんは「僕は人望やリーダーシップよりは、合理性でモノを考えるタイプだからさ」と思慮深く答えている。

せいぜい、小学校4年か5年くらいにしか見えない男の子2人だ。

よくも小学生同士で、そんな小難しい話を朝っぱらからサラリとまぁと驚いて、ランドセルがお似合いの男の子2人をまじまじと見入ったと話したが、「うんうん」と聞いていた智子はそれほどでもないらしい。

熟女の肉の柔らかさは生温かくなりすぎたイチゴ大福に似てる

智子には詳しく話せないが、そこまで小学生に驚いたのは前振りがある。

前の日の早番で、20歳の新人の講習をして、射精はしたのにどういうわけか余韻でムラムラしていて、どうにも収まらなかった。

早番を終えたあとは、西武駅前通りのビデオボックスに直行。[編者註24-1]

熟女AVを6本借りて、15時間コースで入場。[編者註24-2]

個室に入ると直ちに全裸。
股間にローションを垂らしてからは、熟女AVで3発のオナニーに耽り、事後、ゴロ寝。

起きてからは、再度オナニーに耽る。
事後、またゴロ寝と繰り返した。

今朝になってビデオボックスを出てみると、爽やかな快晴だった。

通勤通学の時間帯で、開店するにはまだ早い。

いったんウチに帰って、シャワーを浴びて、着替えてから店を開けようと花道通りを歩いて、20歳の弾力がある肉もいいけど40代の柔らかい肉もいいなぁ・・・と空を見上げて、ポケットに手を入れるとグニャとしたものがある。

イチゴ大福だった。
昨日、コンビニで買って、ポケットにいれたまま忘れていた。

餅とあんことイチゴが、体温で温まりすぎて、グニグニしている。

そうか、これか、と発見をした気分だった。
あの熟女の肉の柔らかさは、この生温かくなりすぎたイチゴ大福に似てる。

そうかそうかと、そのイチゴ大福を手の平で揉みながら歩いているときの小学生2人組の会話だったから、自分は大人になって一体なにをしてるのだろう・・・とショック交じりの驚きだった。

こんなどうでもいい話をできるのは智子だけだったのに、その智子が驚きをわかってくれない小さな不満がまくしたてた。

「だってさ、オレはさ」
「うん」
「小学生のころって、そんな人望だの合理性だのって言葉は知らなかったよ」
「昔と今をくらべたらダメよ」
「ううん、昔だろうが今だろうが、もっと小学生ってアホなはずじゃない?」
「新宿の小学生なのよ。昔の千葉の田舎の小学生とちがうのよ」
「いや、今でも昔でも、平成だって昭和だって、新宿でも千葉の田舎でもアホなヤツはいるよ」
「じゃあ、たまたまできる子たちだったかもね」
「そうだったのかなぁ。アイツら」
「そうかもね」
「だからね、そんな小学生見てたら、日本の将来っていうか、オレの将来はどうなるんだろって落ち込んだ」
「あなただって、頑張ってるじゃない」
「そう?」
「そうよ」
「ふーん」
「それでいいのよ」

目尻に小じわを浮かべた智子が優しくうなずいた。
鼻にかかる声の、語尾が尻上がりの、熟女しか発せない口調で。

すぐに小さな不満はなくなっていった。

気持ちを逆撫でする子持ち熟女の声色

楽しい気分になって新宿通りを歩いていると、いつの間にか小学生で驚いた話は、子供繋がりで、智子の子供の話へと変わっていた。

もう3年は、智子の2人の子供たちとは顔を合わせてない。
2人の子供たちは、それぞれ大学と高校を卒業して就職して忙しいらしい。

陽が落ちかけた新宿通りの突き当たりには、夕焼けらしきものが見える。

その空を見上げて、目を細めて子供たちの話をする智子が満足そうに見えた。

「あの子ったらね」
「うん」
「社会人になってから急に頼もしくなって」
「うん」
「もうバイトじゃないって。おれの仕事は管理することだって、そんなこというのよ」
「うん」

目尻に小じわを寄せて、子供たちを応援するかの声色に変わった智子からは、もう自分に目線が向けられることは一切ない。

もう自分には関心がないようにも見えて、さっきまでの楽しい気持ちが逆撫でされた感覚が秘かにある。

久しぶりの秘かな感覚だったが、もちろんこちらがひねくれているだけで、全く智子には非はないのは自覚しているので、自分は「うんうん」と最もらしく頷いて聞くだけとなっている。

「でもね、あの子」
「うん」
「そんな偉そうなこといっても、朝が弱いのよ」
「うん」
「忘れ物もするし。いっつも、なにか忘れるの」
「うん」
「もう、昔っからそうなの。あの子。そういうところは変わらないなぁって」
「うん」
「今日もね、忘れ物ないっていっておきながら、ハンカチ忘れたって戻ってきたの」
「うん」

ハンカチくらい忘れたっていいだろ、という腹立たしさがあった。

3年前は大学生だったあのぶっきらぼうな息子は、小売大手の外資系企業に就職。

勤め先の会社は六本木にありやがる。
いや、六本木にある。

あの小生意気な娘は、高校生のうちからマイ栓抜きを持っていて、パーティーコンパニオンのバイトをしていた。

高校を卒業してからは、進学や就職という選択はせずに人材派遣会社に登録。

よくよく聞いてみると、その人材派遣会社とは芸能プロダクション系列。
イベントコンパニオンの派遣が主だった。

容姿でAクラスからCクラスまでクラス分けされており、Aクラスがレースクィーン。[編者註24-3]

Bクラスは、有明メッセや幕張メッセなどの大会場で開催されるイベントのコンパニオン。

Cクラスは、街頭でのティッシュ配布までも含めたイベント全般。

Aクラスは身長165cm以上が条件。
なので身長160センチの智子の娘は、Bクラスに属している。

で、先日に、東京モーターショーのオーディションにも受かったという。

それらのイベントがない期間は、丸の内のオフィスビルに派遣されて受付嬢などしてやがる。
いや、していると聞いていた。

受付嬢をしていると、テナントの若手の社員から合コンに誘われるという。

さまざまな会社を見てみたいし人の話も聞いてみたい・・・というのがイベントコンパニオンをしてる理由なので、ちゃっかりと合コンにも参加しているとのことだ。

ちゃらちゃらしてやがる。

そう憤るのは、自分などには合コンの誘いなどないとの僻みもあるのは認める。

が、それは言えないまま、自分の頃は高校を卒業したら進学か就職かの2択が99%だったと、就職だったらなんできちんと会社に就職をしないのか、そんなので大丈夫なのかと、いつだったか智子に問うたときもあった。

子供たちを責める言いかたをすると、保護者として態度が全開になる智子だった。

わたしの娘だし、娘には娘の考えがあるし、昭和と平成の世代の違いもあるし、都会の東京と田舎の千葉の違いだってあるし、そういうあなたは高校を中退して、きちんとした就職もしてないじゃない、とピシャリと断じられただけだった。

敵意を感じさせる息子

付き合ってる女性の子供たちだから、節々でなにかお祝いをしてあげたい気もある。

知らん顔をするのもどうかという迷いもあったが、30代前半の自分は、20代前半の2人の子供たちと今更どういうスタンスでいればいいのかわからなかった。

当の智子は「なにもしなくてもいいの」とは言う。
子供たちのほうからすれば、自分の存在は不快なだけなのは伝わってきていた。

顔を合わせていた3年ほど前は、大学生の息子は、悪い男がきたという敵意の目で最初から見てきたし、高校生の娘には愛想もなく無視されていた。

そんな態度もわからないでもない。
母親が、ひと回り以上も年下の男と付き合うのは嫌なものだろうから。

ただどこか腹立たしくて、かといって自分を納得させていると卑屈になってくる。

それらの腹立たしさも卑屈さも、元ダンナが自殺した2年前からは消えてなくなってたようだった。

離婚していたとはいえ、家族の空気を少なからず乱した自分も元ダンナの自殺の原因のひとつの気もして、子供たちからは恨まれてるだろうなとの謝意が、なによりも神妙にさせたのもかもしれない。

そうこうしているうちに、2人とも自立した23歳と20歳となっていたのだった。

「でも、あの子たちね・・・」
「うん、どうしたの?」
「あのね」
「うん」
「やっぱり、もう少し、見ていてあげないといけないなぁって」
「そう?」
「今日も、ちょっとさびしそうな感じだったし」
「ふーん」

こういう子供たちを心配したり、気遣ったりする眼差しの表情が、優しさがあって安心を感じさせて好きなのに、今は背中合わせで自分が邪魔者になってるような、また卑屈な気分になる。

でも智子がそれに気が付いて、子供たちへの柔らかい感情を剥き出しにするのを抑えつけたら、それはそれで魅力が半減するので表には出せない。

けどまた瞬間で反転する。

さっき出掛けの智子と電話で話したとき、明日は早起きして江ノ島神社に商売繁盛のお参りにいこう、参道でソフトクリームも食べて、野良猫に餌をあげて、島頂のお食事処でビールを飲んで焼ハマグリもサザエの壷焼きもバンバン食べようと計画を話すと「たのしみだわぁ」と鼻にかかった声の尻上がりの喜んだ口調で言いながら、置いていく子供たちの様子を見て、実は気乗りしてなかったのではないか。

自分に気を遣って、その場は喜んだふりをしていたのではないのかと、なんだか嘘をつかれたつまらない気分にもなる。

この卸したてのスカートの花柄がいいなどと褒めることもなかった。

どうせラベンダーのカーディガンだって、いつだったか「熟女のカーディガンっていいなぁ」と洩らした自分の言を覚えていて、勃起を誘発させるのを知っていて着てきたのではないか。

そこでまたくねっと反転して、いや、でも、そうじゃない。
なんでも勃起に結びつけるものではない。

自分はいい年して、子供たちに妬いて僻んでいるだけだと、と言いきかせてもみる。

でもまた瞬間でくねっと反転する。

どこまで堪えればいいんだろう、子供が腹立たしいならそれでいいじゃないか。

また瞬間でくねっと反転。
子供は関係ないじゃないか、ここは大人にならなければ、と言いきかせて、また瞬間でくねっと反転。

くねくねくねくねくねと歩き方までミミズのようになる気がして、また、ミミズ男になってるのか、と自分で自分を叱咤する。

自問自答はなかなか通り過ぎることなく、どうしたらいいのかわからない。

子供たちへの腹立たしさ

ウチに帰って酒を飲みはじめても、智子はキッチンを往復しながら子供たちの話を続けた。

酒よりも、すぐにセックスをしたかった。
セックスの回数が急増したことが、派遣バイトから風俗の店長になってから智子に対して変化したことだった。

智子と会う時間は減ったが、セックスの回数は以前とは比べものにならないほどに増加していた。

それまでの2年間は、さほどセックスをしてなくて、セックスをしなくても一緒にいるだけでもよかったし、たまにセックスをするとお互いに照れるほどしてなかったのに。

やはり、身近にいる若い女の子のなにかが、勃起中枢が刺激するのだろうか。
今では、智子と会うたびにセックスをしていた。

すぐにでもセックスをしたいのに、智子は「鳥わさつくってあげる」と鍋をセットしている。

キッチンを往復しながら子供たちの話を続けた。
息子は外面がいいから、会社ではけっこう話す人で通ってるみたいとか。

娘は東京モーターショーに向けて、メーカーやメカニックの知識を覚えていて、案内やナレーションの講習も受けるのに一生懸命になってるのよ、と聞いてもないのに続けている。

ここ2年間は、子供たちのことを話す智子の笑みにうんうんと頷いて通常に接することができたけど、今日は腹立たしいだけだ。

自分の話のときには表れることがなかった目尻の小ジワも気に入らない。
変わっている声色も気に入らない。

風俗の店長になってから、智子に対して変化したことはもうひとつある。

元ダンナの自殺から、心のどこかで冷凍保存されていた子供たちへの卑屈も妬かみも僻みも、すっかり解凍されたことだった。

「ふーん、ナレーションの講習をがんばっているんだ」
「そうよ」
「講習っていえば、オレも昨日、店で講習をしたよ」
「あらっ」
「講習、がんばちゃったな」
「あらぁ、熱心なのね」
「う、ん・・・」
「講習するなんて、すごいじゃない」
「・・・」

店で講習をしたのを明かしたのだが、意外なことに智子はにっこりとして心地のいい褒め言葉を口にした。

すぐさま激怒すると思ったのに。

講習のフェラくらいは許容範囲

性風俗店がどういうものなのか知ろうともしない智子は、世の中にある講習の感覚で、座学の講師のような姿を想像したのに気がついた。

ホワイトボードの図を示して「これがチンコです」と説明するとでも思っているのか?
子供のことばかりで、自分のことなどどうでもいいのではないか?
自分への褒め言葉だって、だだ言っているだけではないのか?
セックスよりも子供たちの話か?

すべてが面白くない、と酒をぐいと飲んで、さらりと話してやった。

「ああ、講習は疲れるよ」
「おつかれさま」
「講習となると、お互いに服を脱いで全裸でやるしさ」
「えっ」
「フェラを教えたりするから、ちゃんと立たせないといけないし」
「・・・」
「つい、イッちゃったりもするし」
「・・・」
「でも、セックスするわけじゃないよ」
「・・・」
「キスもするし、抱き合いもするし、シックスナインもするけど、でもチンコは入れてないから」
「・・・」
「最後は、お口に出したし」
「・・・」
「ぜんぜん許容範囲でしょ?だって、入れてないんだもん」
「・・・」
「フェラでイクくらいは普通だよね」
「・・・」
「オレは智子のこと好きだし。その子も彼氏いるっていってたし」
「・・・」

智子は目を丸くして、立ったまま体を硬直させている。
そんな講習なんて本当にあるの・・・と驚いている。

– 2019.4.19 up –