脱法営業の風俗店とは?


罰金30万を法務省の収納口座へ振込み

釈放の翌日に、法務省の収納口座へ罰金30万を振り込んだ。

その翌日には、打ち合わせと称して村井を除いた皆で酒を飲み、再オープンの準備がはじまれば忙しくなるし、せっかくだから、この機に遅めの夏休みをとるとだけは決まった。

で、1週間ほど、智子と軽井沢などに行ってみる。
帰ってからは歌舞伎町に集合して、打ち合わせと称して酒を飲み、村井のお別れ会をすることだけは決まって、せっかくだからとおっぱいパブを巡る。

村井はやめるのだ。
あさってには、彼女の地元の茨城に引っ越す。

その茨城県真壁町というのは石の産地で、彼女の親戚が営む石材店で働くとのことだった。

「都落ちですよ」と苦笑いしてるが、好きなゴルフもいつでもできるし、いうほど東京には未練はないようだ。

酒を飲んで顔が真っ赤になった村井は、また彼女がついていくときかずに、またあずま通りのルノアールで待っていることを早めに明かした。

この風俗店の男の集団も、そこに村井が関わるのも、ついでに歌舞伎町も、彼女は本当に嫌いらしい。

それでも彼女も交えてカラオケにいこうとなると、村井は渋々と電話をした。

最後なので、彼女に頭が上がらない姿は曝け出してもかまわないという感じだ。

それは彼女も同じで、今まで我慢してきたらしいが、もうやめるとなれば遠慮がなくなったようだ。

お誘いは、前回とほぼ同じ結果となっただけだった。
拳を握りながら歩いてきた彼女は、村井の制止もきかずに敵意を剥きだしにして挨拶をしてきて、2人で言い合いをしながら帰っていった。

2人の姿を見送りながら「愛されてますねぇ」とオーナーが呟いて、今回はすぐにおっぱいパブにいこうとなった。

前の店のシステムは、村井がつくったようなものだった。
今度の新しい店は、村井抜きで運営できるだろうか?

とにかく村井はやめてしまった。

大手の風俗店グループの歌舞伎町撤退

夏休みは、9月の中ごろまで続いていた。

暑い寒いも彼岸まで。
いつまでも夏休みではない。

もうそろそろ、年末を見越して、再オープンの準備に動かなければだった。

新形態での再オープンに一気に動かなかったのは、浄化作戦の様子見をしていたからだった。

8月中には、3つの大手の風俗店グループが、歌舞伎町から撤退していた。

そのうちの “ A ” と呼ばれるグループは、許可店も無許可店も交えて全国展開をしていた。

どの店舗も優良店には間違いないのだが、歌舞伎町の3店舗は無許可の違法営業となっていた。

それらの無許可の店舗を全て閉店にして、許可店のみの運営とした。

名古屋から進出してきた “ B ” と呼ばれるグループは、歌舞伎町での違法営業に見切りをつけて、元々の名古屋での営業を続けると撤退している。

“ C ” と呼ばれるグループは、郊外を中心に無許可の違法営業の店舗で展開していたが、今後は浄化作戦が及ばない地域のみで続けると歌舞伎町から撤退した。

違法風俗店の排除は、歌舞伎町だけの一時のことではなくて、これをモデルケースとして全国へと広まっていくらしいが、まだまだ郊外や地方では続けられる余地があるのだという。

3つの大手の風俗グループとも、歌舞伎町浄化作戦では集中的に摘発されていて、その度に当然のように再オープンしていたが、8月になった途端にあっさりと撤退してしまった。

大手グループ撤退の決定打となったのは、8月初旬の全国新聞4紙に掲載された警視庁の広報だった。

違法営業の性風俗店を入居させていたビルオーナーも適用法令違反の幇助の疑いで立件する方針、との旨。

摘発の際の『私は知りません』だの『私は被害者です』というビルオーナーの逃げ口上が通用しなくなり、今までの風物詩的な摘発とは異なっているのが確かとなったのだった。

都庁と警視庁が主導して、新宿区役所に歌舞伎町商店街に町内会といった地域社会も、ビルオーナーへの違法風俗店排除を促す働きかけをしているとのこと。

以上の状況は、『ラブリー』が営業していた雑居ビルの管理をしている不動産屋からの提供だった。

親切で提供してくれたのではない。
ビルオーナーからの退去要請も告げられたのだった。

歌舞伎町の違法営業は止まっていた

風俗業者は、いつだってまとまりがない。
浄化作戦の矢面に立っているこんなときですら、横の繋がりを持とうともせず、お互いに様子見をして、他を出し抜こうとしているばかりだった。

だからこそ風俗店が増えたのだろうし、そして治安回復というお題目の浄化作戦の標的にされたのだろうけど。

とにもかくも、大手グループの歌舞伎町撤退を目にして、中小から零細泡沫まで、優良から悪質までの違法風俗店が営業を停止。

自分が留置場にいる22日間に、ぴたりと歌舞伎町の違法営業は止まっていたのだった。

「でも、僕たち」
「ん」
「最後の最後で挙げられて、運がわるかったですねぇ」
「まあね」

ウーロンハイのグラスを手にして竹山は、焼き鳥のたれを口元にだらしがなくつけたままボヤいた。
酔ったトロ目となっている。

大久保公園の脇にある焼き鳥屋だった。
こだわりの部位だけを提供して品が切れれば22時には閉まってしまう、という歌舞伎町には珍しい焼き鳥屋だった。

すでに歌舞伎町では、今まで通りに違法営業をして摘発に対抗するのではなく、法令で認められている性風俗の届出をしてから新形態での営業を始めよう、という動向にはなっているようだった。

これらの動向をオーナーに伝えてきたのは、元オーナーのジュンさんに、不動産屋の営業だった。

自分にはスカウトの島田が、チケセンスタッフの井上に営業の春日に、高収入求人誌の営業の丸山が、熱心に電話をしてくる。

ちなみに新宿三光会の代行も電話をよこして、いろいろと状況を伝えてくる。
代行に限っては、又聞きばかりで、大した内容はなかったが。

それぞれが、親切で電話してくれたとは思わない。
再オープンした折には、新たな契約と支払いをよろしく、という含みがある。

歌舞伎町では、すでに新形態へ移行した店が、3店舗は営業を始めてもいた。

視察と称して、オーナーと竹山と小泉とで4人で新形態の風俗店へいき、その後に飲んでいたのだった。

新形態の風俗店の開業方法

新しい店は、まず、無店舗営業のデリバリーヘルスの届出をする。

チケセンと契約してパネルを掲載して、割引チケットを置いて営業を開始する。

今までと同様に、割引チケットを手に遊興客が店に訪れて、女の子の写真を見せて、指名なりフリーなり決まって料金も頂く。

大きく異なるのはここから。
そこに女の子が登場するのではない。

店は歩いて1分以内を派遣エリアとしていて、客はそのエリア内のレンタルルームで女の子からのサービスを受ける。

気ががりなのは、この新形態は脱法とされていること。
違法ではなく、脱法だ。

脱法とされるのは、無店舗営業のデリバリーヘルスとして届出をしておきながら、客の受付を対面で行なうのだったら実際には店舗ではないかという点。

対して店側としては、あくまでも無店舗営業の事務所です、店舗ではありません、という主張だ。

事務所に人が出入りするのは当然のことです、法令には事務所に客が出入りしてなけいとは明記もされてないじゃないですか、と主張は続く。

お客さんが未成年者かどうか確認するために事務所に来ていただいているのです、という健全な名目も取って付けられた。

警察OBの行政書士のお墨付きのシステムらしい。
しかし視察と称して遊びにいった店は、今までの違法営業の店舗となんら変わりがないのだった。

違法営業だった元店舗の入口の脇に、届出をした無店舗営業の事務所を開設。

間仕切りの向こうにある既存の個室を、無届のレンタルルームに転用。
個室には女の子がそれぞれ待機。

やってることは違法営業の店舗と変わらないが、理屈では派遣型の無店舗営業となっている。

横着といえば横着すぎる気がしたが、この方法だったら手間もかからずに、事務所部分を設ける改装をするだけで届出できて、早めに再オープンできるなと思った。

現状では、脱法営業での摘発もなければ、警告もきていない。
自分も竹山も小泉も、これで大丈夫だと考えていた。

決めるのはオーナーだ。
初期費用の全てを出すのだから。
オーナーは誰よりも慎重派だった。

検討している数日間にも、店舗を転用する方法でさらに5店舗はオープンしている。

慎重派のオーナーも「これでいこう」と、そろそろ準備をと打ち合わせた翌日だった。

チケセンスタッフの井上からの電話で、脱法営業の摘発第1号が2店舗同時であったのを知った。

歌舞伎町をひと回りしてみると、残る店舗は全て閉めている。
1ヵ月ほどの営業期間だった。
脱法とはいっても、あからさまな脱法では通用しないのだ。

届出さえすれば、あとは拡大解釈で営業できると考えていたのは改めなければだった。
細部まで確める必要がある。

新宿警察署の生活安全課

新宿警察署の生活安全課に出向いた。
正面入口からだったが、ここへ来るのは1ヵ月ぶり。

悪いことはしてないが、また来てしまったと、うな垂れる気持ちも少しはある。

エントランスで受付をして、入館証を胸に安全ピンで留めた。
エレベーターで5階で下りた左手に廊下があり、4つあるドアの向こうに風俗営業を管轄する生活安全課がある。

『申請窓口』と張り紙がしてある手前のドアを開けると、カウンター代わりのくすんだ長机がある。

先客がいて待ちがあるのなら、廊下の長椅子に座ることになる。
長椅子には、誰も座ってないのでドアを開けた。

長机の向こうのスチールデスクに座っている係に来意を告げると、長机の前に座るように手振りされる。

課員はあらかた出払っている様子。
ここからは係長の席は見えない。

オーナーとも考えたのだけど、係長と顔を合わせなければ、特に挨拶をしないつもりだった。

係長は「なにかあれば、またくればいい」と言ってくれもしたが、あとになって来署が知れたとしても「いそがしそうなので」とかわすつもりだ。

係長を敵視してるのではない。
警察も敵視してはない。

逮捕されてから係長や留置係と接して、警察官は一般市民の感覚もわかっているし情もある人達とも感じている。

それと生活安全課は、生業がらみの事件を扱うためか、その後にも住人として顔を合わせる機会もあるからだろうか、刑事課と比べてみても割合と丁寧に被疑者として扱ってくれたとも感じていた。

だからといって係長に対して『これから脱法で風俗をやります』と面と向かって相談しても、それはそれ、これはこれとばかりに余計な口出しをされそうだ。

いや、絶対に反対される。
制限速度40キロの道路を41キロで走っていいですかと、バカ正直に警察に相談したところで『ダメです!』『法律で決まってます!』と断ぜられるだけ。

どうしても41キロで走りますと言ったとしたら『検挙します!』と当然の対応となるだけ。

それはともかく、となると変なところで正直者の自分は嘘をつきづらいし、後々のごまかしもやりずらくなる。

窓口を飛ばすのもよくない。
なので今回は、申請窓口で公式な方針をまずは確認するのみとしていた。

脱法営業の規定はない

スチールデスクの係が対面に腰を下ろした。
しかめっ面に見覚えがある
4ヶ月前の警告で出頭した際、亀井静香とあだ名をつけた係だ。

「相談でうかがいました」
「どうぞ」
「いま、デリバリーヘルスの届出をして歌舞伎町内で営業しようとしてます」
「はい」
「で、事務所までお客さんにきてもらって、料金説明して、写真もみせて、で、料金もいただいて」
「はい」
「それで、近くのレンタルルームでのサービスとなる営業方法をしますけど」
「・・・」
「これって、なにか問題でもありますか?」
「・・・」

気のせいか、話している最中から亀井氏のしかめっ面にうんざり感が滲んでいる。

すでに同じような相談を繰り返し受けているのかも。

「えぇ~、まず、事務所にお客さんを呼ぶことについては、現在はなにも規定はされていません」
「えっ、じゃ、問題ないですね、よかったぁ!」
「現在は、なにも規定されていません」
「その、現在はって・・・、じゃ、ゆくゆくはダメってことですか?」
「その件に関しては、警察が決めることではありません」
「警察がって・・・、じゃ、誰が決めるんですか?」
「警察は法律に基づいて、捜査なり取締りなり行なうだけです」
「えぇ、ホントですか?」
「ホントかって・・・、警察が法律をつくるわけじゃない!」
「あ、はい」

やはり、もうすでに多くの風俗業者が確めにきているのだ。
亀井氏は同じやり取りを繰り返しているのが伝わってきた。

構造が別になってないといけない

もっと細部まで確めようとすると、亀井氏は先回りするように言ってきた。
棒読みで。

「えぇ~、その際のレンタルルームとは、風営法が定めるところの届出がされている施設であること」
「はい」
「えぇ~、事例としてあげると、ワンフロアを区切って、手前が無店舗営業の事務所、奥をレンタルルームとしたもの、これは届出の受理ができません。届出をしたあとに改装したとしても、店舗営業として行政指導の対象となります」
「はい」

ある程度の線引きはあるようだ。
それを政治家の答弁みたいに説明する亀井氏。

亀井静香は自民党の実力者なので、このあだ名は全くの悪口ではないが、このしかめっ面で名前が『静香』はないだろうと心の中で言ってみる。

「それって、なにがどういけないんですか?」
「えぇ~、構造が別になってないといけません」
「構造?」
「内装工事で間仕切りにした位ではいけません」
「ああ、やっぱ、ブロックでしっかりと仕切らないとってことですね」
「あぁぁ~、ブロックでもダメ!」
「え、ブロックでもダメ・・・、じゃあ、コンクリ打ちして、ガッチリとやらないといけ・・・」
「あぁぁ~、コンクリでもダメ!同じフロアはダメ!構造が別!同じフロアがダメ!」
「同じフロアがダメってことですね、わかりました」

うんざり気味に、奥歯にものが挟まった言い方で説明していた亀井氏だったが、慌てて「同じフロアがダメ!」を強調する。

勘違いされるのは困るようだ。
それなら、細にわたり微にわたり訊いてやろう。

「たとえばですけど」
「はい」
「レンタルルームが4階で、事務所を3階に開設するの大丈夫ですね、別フロアですし」
「あぁぁ~、提携はダメ!」
「提携?」
「お客さんに、このレンタルルームなりホテルなりに行ってくださいと、店から、いや、事務所から特定の場所に案内するのはダメ!」
「それが提携ですか?」
「そう、お客さんの自由に、お客さんの希望する場所に、女性を派遣すること」
「自由に・・・」
「特定のレンタルルームの個室に女性を待機させて、事務所のほうから、ここに行ってくださいというのはダメ!」
「ああ、そういうことですか」

提携はいけない

亀井氏の答弁は続いた。
やはり同じような相談を繰り返し受けているのだった。

「えぇ~、あとレンタルルームと無店舗型風俗の事務所、双方の経営が同一でも提携になります」
「経営・・・」
「えぇ~、物件の契約や届出の名義を別々に代えたりしても、人的な繋がりがあれば同じ経営とみなします」
「人的な繋がりって・・・、どの程度ですか?」
「えぇ~、一般的には、身内であったり、影響力が及ぶ関係であることです」
「影響力・・・、ああ、顔見知り程度だったらいいってことですね」
「えぇ~、顔を知っている知らないであっても、経営が同じは提携になります」
「知っていても知らなくても・・・。それって、お金のやり取りがあったら同じ経営ってことですか?」
「お金のやりとりがあってもなくても、同じ経営は提携になります」
「資本が同じって、ことですか?」
「資本が同じであっても同じでなくても、同じ経営は提携になります」
「ちょっと、同じ経営の意味がよくわからないんですけど、・・・結局は、警察が判断するってことですよね?」
「警察は経営に関係ありません」
「いやいや、警察の判断ですよってことですよね?」
「警察は経営に関係ありません」
「まあ、いいですけど」
「えぇ~、仮にですが」
「はい」
「今から歌舞伎町のホテルに提携をしてくださいと回ったとしても、どこも提携はしないはずです」
「そうですか?」
「はい、提携などしません。提携はしてはいけません」
「わかりました」

風俗業者とホテルが提携するのがダメについては、今に始まったことではなく、かなり前からの既定方針だと伝わってきた。

確かに、ホテルが風俗も経営しているなんて聞いたことがないし、逆も聞いたことがないし、たとえそうであっても気がつかない。
そういうことなら、そういうことなのだろう。

事務所に女性を待機させてはいけない

亀井氏はたたみ掛ける。
こっちから質問ばかりすると、本気で怒りそうでもある。

「えぇ~、その他の点としては、事務所に女性を待機させないこと」
「え、じゃあ、どこに待機させんですか?」
「えぇ~、待機するのは女性の自由に」
「自由たって、自由すぎますよ。それじゃ、逆に女の子が困りますよ」
「いずれにしても、事務所に女性を待機させてはいけない」
「いやいや、あのね、女の子は事務所にだって顔出しますし、少し休憩するときだってありますよ、フツーに。それも行政指導ですか?」
「それも女性の自由に。待機はいけない」
「ああ、ちょっとくらいだったらいいってことですね?」
「ちょっとの間でも、待機はいけない」
「え?ちょっとでもいけないって、じゃ、出入りしてもいけないってことですか?」
「待機はいけない」
「だから結局は、警察の判断で摘発しますよってことですか?」
「警察のって・・・、もう、わからない人だな!待機はいけない!」
「わかりました」

後になって整理して考えてみれば『構造が別』『待機はいけない』は、違法営業を止めた元店舗をそのまま新形態の事務所やレンタルルームに転用させないためだろうな、と推測できる。

『提携はいけない』は、係長が話していた店側が女性の管理をしすぎないための予防策だとも分かる。

受理はする

亀井氏の様子からは、相談に訪れたどの風俗業者の内容も、そこに至るまでの発想も似たか寄ったかで、繰り返し説明しないと理解しない者も多いことがうかがえる。

それならそれで、いけないの趣旨をはっきりと説明すればいいのに、不都合でもあるのか、断言を避けるようにしか話さないので混乱させる。

「じゃ、その、構造が別と、提携してはいけないと、待機を自由にってのを守れば、この方法でやっても大丈夫ですね?」
「反対はしません」
「反対は・・・、しないでしょうけど、行政指導にはならないですねってことです」
「反対はしません」
「え、え・・・、届出しても大丈夫ですね?」
「受理はします」
「受理・・・、を、すれば、もう、大丈夫ですね?」
「受理はする」
「いやだから、こっちが準備して、届出したらダメですってことにはならないですねって訊いてんです」
「受理はする」
「受理・・・、は、するんでしょうけど・・・」
「受理はする」
「あのね、あとになって、これはダメとなったら困るんで、費用もかかるんで、なんで、これでいいですねって事前に確認をしてんです」
「いいですねもなにも、警察がデリヘルをやるんじゃなくて、君がデリヘルをやるのだろう!」
「そうですけど・・・」
「そんなにいうんだったら、ムリしてやってほしくない!もし、ホテルで女性が殺されたらどうするんだ!」
「どうするんだって、そりゃ、殺人事件じゃないですか!オレにどうしろっていうんですか!代わりに捜査しろっていうんなら、そんときはやりますよ!」
「だから、やるのは反対はしないっていってるだろ!ホンット、アンタもわからない人だなぁ!」
「わかりました!」

結局のところ。
届出して脱法営業をはじめて、その後はどうなるかなど亀井氏にも誰にもわからないのだ。

こっちはもうやると決めているのだから、警察がどうのこうのはなるようにしかならない。

新宿警察署の生活安全課の職員
新宿警察署の生活安全課の亀井氏

それにしても、人が殺されたらどうするんだとは、なんという言い方だ。
悪意がある。
警察の本音か。

もし運送会社をやりますと話したら、人を轢き殺したらどうするんだとは言わないだろう。
風俗だから言ってるのだ。

窓口を出てからも腹立たしさが治まらずに、ふんふんと鼻息が荒くなっていた。
やはり警察は敵だ。

もし係長がいれば顔を出して『挨拶料を包んできました!』とでもしれっと大声で言ってやって嫌がらせしてやろうか、と廊下を歩いた。

しかし、係長も亀井氏と同じで、はっきりしたことは言えないのかもと想像がつくようだった。

警察からしてみれば、法令に基づく営業であれば脱法であってもやるなととも言えず、法令の不備を突く細部の質問には断定して返答もできず、というのがあるのかもしれない。

係長には会うことなく、新宿警察を出た。
歌舞伎町に戻る。

それらを『うな鉄』で飲みながら打ち合わせて、もうちょっとは様子を見たほうがいいかもと迷っているうちに、夏休みはちょっとだけ延長にしようというところだけはしっかりと決まっった。

途端に「ちょっとだけおっぱいを揉んでみよう」とも全員一致で決まり、おっぱいパブに向かっただけだった。

– 2021.9.10 up –