アルタ前広場で声をかけて
平日午後の新宿駅東口。
人影はそれほど多くない。
人通りは少なくても、この時間は足が止まりやすい。
アルタ前広場を<、ブラブラとしていた。
斜め前方からも、ブラブラと歩いてくる女のコがいる。
立ち止まり、そのコの方を向く。
髪を2つ結びにして、眼鏡の雰囲気がかわいい。
その女のコもこちらを気がついたように目を向けた。
2、3歩近づいて手の平を挙げる。
顔を背けたとこに声をかけた。
「ちょっといい?」
「・・・」
完全無視。
歩調も早くなり立ち去った。
だめだこりゃ。
東口交番のほうに向かう。
カラージャケットを着た女のコがテクテクと歩いてくる。
こちらに気がついた様子。
こちらも歩を進めて間を詰めてから、手を軽く挙げた。
「ちょっといい?」
「・・・」
目を向けたままの表情は警戒してない。
少し足を進め、前を指差しながら、もう一声入れる。
「歌舞伎町まで行くの?」
「・・・」
「あやしい者だけど」
「フフ・・・」
表情が緩んで笑顔になる。
これは話が転がる。
「ちょっと聞いてよ」
「なんですか?」
ん、この感じ?
この顔つき。
高校生か?
そう感じた。
「ひょっとして高校生?」
「ハイ・・・」
「そうなんだ。じゃあ、仕事のだから、いいや」
「ハイ・・・」
「ごめんね、それじゃーね」
「ハイ・・・」
バイバイする。
ガキ(18歳未満)は反応はいいが、相手にしない。
スカウトすれば、皆に迷惑がかかる。
しばらく立ってる。
スクランブル交差点が青になり人波がきた。
白いハーフコートのコが視界に入る。
ハーフコートから生脚がスラリと伸びている。
うつむいて目は会わせないが、こちらを意識してるのがわかる。
歩調は緩かった。
「ちょと、いい?」
「・・・」
「はなしだけだから」
「・・・」
ムシするように通りすぎるが、腕をツンツンと軽くつつく。
リアクションなしだと思った。
が、2、3歩あるいたところで、突然に振り向きざま立ち止まる。
「なんですか!」
「おおお」
内心、その勢いにこっちが驚いてしまった。
振り向くまで気がつかなかったが、ドキッとするくらいかわいい。
微笑からこぼれる白い歯が知的な感じがする。
このコはなにか違う。
「いやーバイトしない?」
「 どんなバイトですか?」
「夜の仕事なんだけど」
彼女の返事に打って返す。
心の中ではとまどいがあったが、なぜかいつもの言葉が。
「そういう仕事はできません」
「そうだよね。いや、もうバカでごめんなさい」
「フフ」
「それでさ、ここ通り道だから、こっちに寄ろう」
「えっ、はい」
道路脇に寄る。
彼女は大学4年生で現在は就職活動中。
アナウンサー志望との事だった。
やっぱりという感じだ。
そんな雰囲気がある。
大学は都内だが実家の山梨県から通学しているとの事。
厳格な家庭で育ったのだろう。
しかし、こういうタイプのコが、AVでも店でも一旦はじめると一生懸命やるというのも事実として多い。
真面目さというのも、両刃の剣という側面もある。
こういう女の子は、一流企業で仕事しても、たとえ、なにかの間違えで風俗で仕事しようが、それなりの結果がだせると思っている。
どんな仕事でも、携わる人間によって意義のある仕事になったり、無意味になったりするのではないか。
と、偉そうにいってみる。
タレント事務所の仕掛け
それはそうと。
他のスカウトマン経由でタレント事務所のスカウトをしてくれないかという話があった。
タレント事務所といっても、実際にはエキストラの仕事のみ。
女のコの登録は無料。
やる気がある女のコは、宣材写真を撮るのに7万円を払う。
このうちスカウトバックが5万円。
こんなタレント事務所が、新聞に詐欺事件として載っていたのを見たことある。
もっとも新聞の事務所は、お金だけ取るインチキだったのだけど。
しかしこのタレント事務所は、ここから仕掛けがある。
宣材写真の後は、ローンに通りそうな女のコをこっそり予備審査する。
それから、ドラマの撮影で急に欠員がでたと、エキストラとして現場に送り込む。
その撮影現場に制作会社のプロデューサーが登場。
ちなみに金に困っているプロデューサー。
「君はテレビ向きだ」とさんざん持ち上げる。
「でも、レッスンは受けないと」と、レッスンの説明をしてくれる。
事務所に帰ってきた女のコは、金欠プロデューサーのことを話す。
事務所のマネジャー一同は大げさに驚く。
「あの、伝説のプロデューサーがそんなこというなんて!」と。
「これは、またとないチャンスだ!」と。
あっちで持ち上げ、こっちで持ち上げで女のコはやる気になる。
で、実は提携してる、別会社のレッスンの契約を自発的にする女のコ。
平均200万のローン。
このローンは100%組める。
事前に調べて、ローンを組める女のコしか、撮影現場に送り込んでないのだから。
高校生でも、親の承諾がとれて、親がローンが通ればOKとのこと。
その200万に関してはスカウトバックなし。
プロデューサーも噛んでるし、レッスンにはある程度の有名人が先生としてくるし、いろいろ手が込んでるから仕方がないのかも。
そのレッスンは、たくさんの生徒で盛況みたいだ。
タレント事務所のマネージャーいわく、ローンがキツイようだったら風俗に入れて欲しいと。
提携先のクリニックで美容整形のローンを組めさせれば、バックも出ると。
まわりくどい話だった。
この時点で風俗をやる女のコは、もっと早い時点でやっている。
うさんくさいプロデューサー
そう思っていたら先日。
今度は、違うスカウトマン経由で。
民放の制作会社のプロデューサーが、CMタレントとして使える子はいないかという話をしてると言う。
よくわからないが、こういうのが流行りなのか?
話を聞いてみると、面白そうだなとは思った。
なんでも、今、動いているのが、●●製薬のCMで総予算は●●●●円。
スカウトバックはタレントのギャラ総額の●●%程。
一応オーディションはあるのだが、芸プロに根回しをして制作サイドから選出したい。
その後、出版に強い人間がいるので、出版関係に持っていきたい。
本人の資質を見てレッスン、移籍等は考える、等の話だった。
自分がいうのもなんだけど、うさんくさいプロデューサーだった。
が、テレビ局の会議室で、その話を聞いたものだから、どうなのかなというのはあった。
自分としては「期待しないでください」と答えてはいる。
なんか、すべてがまわりくどい。
路上のスカウトの身としてはせいぜいフリーターをAV嬢にするのが関の山だ。
そう考えてその話は全然動いてない状態だった。
彼女にはまだ、AVという言葉は出していない。
どうせAVも店もやないだろう。
この話をぶつけてみるか。
「それで、テレビの制作やっている人間から頼まれていることがあって」
「なんですか」
「(略)~こういうわけで、1度プロデューサーに会って欲しい」
「えっ」
「勉強になると考えて」
「うーん」
「どこかの事務所みたく登録料くださいとかプロフィール代くださいとかの話じゃないから」
「うーん」
「確かにうさんくさいのはわかるけど、顔は生まれつきだから勘弁してよ」
「そういうわけじゃないけど・・・」
このコはちがうな、と一気にまくし立ててしまった。
どういうわけか目が輝いている。
表情や話し方からにじみでる雰囲気は、独特のものがある。
「こういうコだったら自信を持って紹介できる」と思った。
たとえ稼ぎにならなくても、路上をうろつくスカウトマンの端くれとして、タレントの発掘ってなんかいい。
“ ●●●●をスカウトした男 ” と1度は言われてみたい。
それと、結果はどうであれ、紹介してどうなるんだろという無責任な興味もあった。
「うーん、来週。時間が合えばいいですよ」
「そう。先方に連絡して、スケジュール合わすから都合のいい時間だしといて」
「はい」
「今日の夜10時に連絡するから」
名刺を渡して、携帯番号の交換をする。
彼女はこれから電車に乗り自宅に帰る途中だったらしい。
声かけた後、最初に夜のバイトと切り出したのは失敗だったと反省。
最初の一声で後の流れが左右する。
もう2つ3つクッションの言葉ぶつけてから話せば良かった。
案の定、夜10時に何回か電話したがでない。
その後も、電話が返ってこない。
やっぱりあやしい者にみえたのか。
それでよかったかも。
– 2002.3.20 up –