歌舞伎町浄化作戦の摘発


歌舞伎町の風俗ビル

金曜日の今日は早番で小泉と。
晴れ日。
暑くもなく寒くもない4月の風。

いつもよりも早めに店に向かい、一番街にあるドトールコーヒーでテイクアウトしようと歌舞伎町の街路を歩いた。

歌舞伎町には、風俗店のみがテナントとなっている雑居ビルがある。
いわゆる風俗ビル。
15棟から20棟はある。

そのうちのひとつで、1週間前に摘発された店舗がある風俗ビルの前を歩いて様子を見てみた。

2階から6階まで、すべてに風俗店の看板がある。
どの店も無許可の違法営業。

この風俗ビルの店は、歌舞伎町浄化作戦がはじまったときから集中して摘発されていて、閉めては開けて閉めては開けてが繰り返されていた。

摘発で閉店しても、ビルエントランスの壁面の大きな看板はそのままになっているのが『また再開します』との意思表示みたい。

歌舞伎町には違法営業の風俗店が多すぎて、警察としては予算も人員も足りなくて摘発しきれないというのが、これらの風俗店が存続する理由のひとつなのに、今回の摘発はなかなか収まらない。

ラブリーは、ここまで目立つ風俗ビルで営業してないし、まだ警告が来るまでは大丈夫だなと、店に向かった。

早番は4名。
コハル、ミエコ、ミサキ、ソラ。

セントラル通りのチケセンから電話がかかってきたのは、オープンしてから1時間もしないうちだった。

どこかで摘発があったのかな、と出てみる。
やはりそうだった。

「いま、○○ビルにガサが入ったみたいです」
「え、またですか」
「またですね。今度は4階です」
「わかりました。ありがとうございます。また、なにかあったらおねがいます」

気をきかせてくれたのだった。

歌舞伎町で仕事をしてるとはいえ、ビルの5階の店の中にいるのだから、街の様子はわからないものだった。

先週には3日連続で、こんな電話がチケセンからあった。
今週もこれで3日連続となる。

摘発された風俗店の様子

摘発された4階の風俗店は、大手グループ系列の性感ヘルスの店。

去年の浄化作戦の開始と同時に、手始めとばかりに摘発されて、今年になってから1月に再オープンしたばかりなのに、早くもまた摘発となっている。

小泉に「ちょっと様子を見てくる」と店を出た。

出掛けに1階のエントランスに置いてある立て看板は、一応の対策として、5階の店の入口に置き直した。

セントラル通りの○○ビル前には、ワンボックスの覆面パトカーが3台停まっていた。

摘発の捜査車両
歌舞伎町浄化作戦は止む気配がなかった

○○ビルのエントランスの壁面には、その店の派手で大きな看板が設置されている。

歌舞伎町浄化作戦など石原都知事のパフォーマンス、どうせすぐに終わる、とタカをくくったみたいに新しい店ではいっそう派手な看板が設置されていたのだった。

2人の捜査員がバールの先を、その看板のアルミの枠に差し入れているところだった。

「シャアッ」と不必要な掛け声を上げて、乱暴にアクリル板が外される。

まずは取り外されたアクリル板は壁に立てかけられて、バールを叩きつけられて、いくつかの破片となって散らばった。
床面の散らばりは、バールの先端で突かれて粉々になっていく。
もう1人の捜査員は、壁に打ち付けてあるアルミの枠をガツガツとバールでこじって外そうとしている。

アルミの枠は外れることはなかったが、変形するまでこじり続けられた。

同業者らしい白ワイシャツのネクタイ姿の野次馬が10人ほどいて、黙ったまま遠巻きで見ていた。

見せしめだとはわかっているが、商売敵の店ではあるが、捜査員の行いが勘に障った顔をしてる者が目立った。
不安交じりの思案顔の者もいる。

これは、今までとは違うのではないか。
まだまだ摘発は続けられるのではないか。

通行人がそれらの様子を目にして、なんだろうといった感じに足を止めて、野次馬の輪は大きくなっていた。

野次馬の輪から離れた。
摘発の様子など、見ても見なくても状況は変わらないのだ。

あれと同じだ。
たびたびニュースで流れるあれと。

大雨の日に、年寄りが川の水の様子を見に行って流されて行方不明になるのと。

年寄りが1人様子を見に行ったところで、川の水が1ミリでも少なくなる訳ではないのに。

それと同じ無駄なことをやっている。
やることはやってるんだ。

当初の予定通りやってやろう。
くるならきやがれだ。

店に戻ると、引っ込めていた立て看板をエントランスの元の場所に戻した。
看板を引っ込めたところで、気休めにしかならない。

歌舞伎町では違法店舗が多すぎるというのが、違法店舗が存在できる理由の筈だとしたら、こんなときこそ看板は出して置くべきなのでは。

歌舞伎町浄化作戦で早番の入客数が平日20名以上に

この日からさらに3日間、大手グループの店舗ばかりが6店舗は摘発されて、目立つ看板は壊された。

看板の枠だけが放置されて、バックライトの蛍光灯が剥き出しのままとなっているのが、摘発の痕跡となっていた。

目立つ看板は摘発されるとばかりに、パッと目に付く風俗店の看板が自主的に取り外されていった4月から5月だった。

風俗店側は自粛ともいえる状況だったが、一方でチケセンからの新規客は微増していく。

大雨の日に川の水を見に行きたくなるのと同じで、・・・いや、混んでいるときに来店した客が入りたがるのと同じで、摘発で風俗店が閉まるとなると入りたくなるのか。

特に歌舞伎町に来る遊興客は、またそれも風俗・・・といったように、突然の摘発を嗜んでいるようでもある。

早番の客数は、目に見えて増えた。
今までは、平日の早番は15名、土日祝日は20名を目安としていた。

歌舞伎町浄化作戦で摘発が激しくなるにつれて、平日でも20名を下回る日がなくなったのだ。

ほとんどの客は、摘発など気にすることがない。
もっとも摘発を気にする者は、最初から歌舞伎町にこないのかもしれない。

来店して指名してからは「最近、大変そうですねぇ」などと呑気に話して、待合室に座って漫画など読んでいた。

熱心な風俗客は「○○の○○ちゃんって、どこにいったか知りませんか?」と、摘発で閉まった店のお気に入りの女の子の移動先を、あちこちの店に訊いて回っている者もちらほらといた。

いってみれば、風俗難民も発生してもいた。

客の評判さえよければ男子従業員への態度などどうでもいい

17時に遅番の村井と竹山が姿を見せた。
自分と小泉はチケセンを回る。

チケセンのパネルに貼り付ける新人の女の子の写真があるのだ。

2名分。
カエデとシホ。

島田のスカウトで入店したカエデは26歳。
見た目は若く見えて、プロフィールは23歳。

写真は、薄い黄色のカーディガンでおしとやかに笑んでいるのが撮れている。

カーディガンが柔軟剤でふわっと仕上がっているのを感じさせるのが、風俗歴4年の疲れを滲ませてなくって素人っぽさがある。

面接のときには「講習はします」と告げてみたのだけど「はい」と素直に返事をする。

とはいっても全員に講習をしていたら他の仕事ができない。
経験者なので講習はなしということで入店したが、オーナーによるサービスチェックはした。

オーナーの評は上々だった。
アンケートもとったのだが全く問題ないので、2日目にからはしてない。

もうひとりの新人のシホは、3週間ほど前に求人広告で入店。
自分は休日だったので、村井が面接して源氏名もつけた。

23歳で風俗経験は3年。
黒髪の白肌に薄い化粧で、服装は色気がないネルシャツで地味。

写真を撮ると、カメラに角度をつけて笑みをつくっている。
なかなか映りがいい。

目力があるというのか、するどい目つきというのか、近くで見ると深い黒目をしている。

横着している地味ではなく、本人が考えて作っている地味さらしい。

シフトは曜日も関係なく出れるし、早番でも遅番でも店で決めてくださいという。

こちらで決めたシフトは二つ返事で了承して、もちろん遅刻も当欠もない。

経験者なので、最初から講習をするつもりはなかったが、試しに「講習はします」と告げてみたのだけど「わかりました」と返事をしてくる。

カエデのときもそうだったが、やるからには講習をするのは当たり前という考えを面接のときに見せる女の子は、サービスは問題ない気がする。

シホも経験者なので、講習はなしということで入店した。
入店から2日間は、すべての客からアンケートをとったが不可はひとつもない。

サービスチェックをしたオーナーは、サービスがいいのもあるけど、なによりも愛嬌があるし面白いし楽しいしと絶賛する。
そんなふうには見えない。

普段はツンケンしていて、あの深い黒目が怖いほどだからだ。
自分も含めて店の従業員に対しては、全くといっていいほど愛想がない。

もちろん客の評判さえよければ、男子従業員への態度などどうでもいいことだし、村井も竹山もあからさまに男子従業員に媚を売るような女の子だと、内心では客へのサービスの悪さを要注意とする。

余計な煩わしさがない分、愛想がないくらいのほうがいいのだが、気をつけてないと扱いが雑になる。

稼げないのは店長のえこひいき

シホについては、新人の頃にある、お互いに遠慮しがちに接するのは早いうちになくなった。

入店して1週間も経つと、返事するままにオープンラストの通しもシフトに入れた。

週末はシフトが薄くて、どうにもならずに頼んでみると、通しをラストまでやってから明けの早番も出た。

これだと、家に帰ってからの睡眠時間は6時間を切るはずなのに、しっかりと出勤してくる。
その上に休憩なしで客が続いても、文句のひとつも言わない。

村井が面接したときに前の店をやめた理由を訊くと「店員に嫌われたから」といっていたらしいが、その店で雑な扱いを受けたのは想像できた。

自分だって正直いえば、いや、正直いわなくても、在籍の中ではマユミとミエコとミサキが可愛い。

思い入れがある名前をつけてしまったからだと思われる。
とくに未経験で入店して、講習もしたマユミとミサキが可愛い。

付いたお客は大丈夫だったか、体調は変わりないか、疲れてないか、ハラはすいてないかと何かと気にかける。

そんな彼女らが店で顔を合わせたときに、にこにこと愛嬌もって接してくると、なおさら可愛いとしみじみする。

しかし、マユミとミサキへの態度には気をつけなければ、他の在籍から『店長がえこひいきする』と女の子から言われかねない。

スカウトのときにも、女の子が店を辞める理由のひとつに“ 店長のえこひいき ” を多く口にしていた。

よくよく聞いてみると、遅刻の常習だったりして当人にも落ち度があるにもかかわらず、稼げないのは “ 店長のえこひいきのせい ” とするものだった。

マユミとミサキへの態度にはもっと気をつけよう・・・と街路を歩いてチケセンについて、彼女らの写真はパネルの真ん中から隅へ張り直した。

パネルからユウカの写真を剥がして、シホの写真と差し替えた。

ユウカはトビとなった。
あれからユウカからは電話が来ずに、店からも電話をせずに、もうシフト表には名前も書いてない。

もうユウカは、新しい店で働いているのだろう。
前の店の店長のえこひいきがひどいだの、従業員がバカだのと、ボロカス言われてるのだろう。

剥がしたユウカの写真は捻られた。
ポケットに押し込まれた。

歌舞伎町の悪質店

チケセン『もっこり』のスタッフ井上が「内緒ですよ」とA店のパネルを指差して言った。

A店のパネルは、プリクラを拡大した写真がベタベタとパネルに貼り付けられている。

どういうわけか歌舞伎町では、プリクラを拡大した写真を使う風俗店は悪質店と決まっていた。

「この店、ヤバイです」
「ここ?」
「ええ、ワキガの子がいるんですよ」
「ワキガはヤバイな」
「強烈らしいです」
「やだぁ」

ワキガの苦情を井上が受けたのだろう。
店や女の子に直接は言いづらいのか、チケセンにそれらの苦情を持ち込む客も多くいた。

指名した写真はスレンダーなのに、巨体が明るく「ゴメン!太っちゃったの!」と現れるのは、まだ笑えるほう。
というよりも基本。

出勤8名のうち、どの女の子を写真指名しても「え!うん、わたしだよ!」と同一人物が登場するらしい振替店もある。

あげく「時間ないよ」と急かされて、「まだぁ?」とがしがしとした手コキで終了となる。

追加料金などの、料金トラブルだけはそれほどない。
『ぼったくり防止条例』に抵触するのを避けるためだ。[編者註26-1]

これらの店は、割引チケットに記載している料金が写真指名料込み30分9800円からと、他店と比べてぐんと安い。

「安さにこだわる客は行ってしまうんです」と井上は苦々しくA店の割引チケットを指先で弾いた。

よほどクレームを受けているのだろう。
歌舞伎町の風俗の基準だと、激安店が写真をごまかしたり、女の子のサービスが悪い、あとはワキガでした巨デブでしたという程度は、まだまだ許容範囲で悪質店にはならない。

激安店なので仕方ないです、激安店とはそういうものです、でしたらもっと料金が高い店にいかれたらどうですか、で済ますことができる。

歌舞伎町では、そんなしょうもない店も頑張っているのだ。
頑張っていると一種の敬意を表したのは、そんな店があればあるほど客は優良店を求めるからだった。

いかに優良店のサービスが、気が利いていて、手の込んでいるものか。

風俗店が10件あったら、8件くらいは悪質店でもいいなと意地悪な思いもする。

ただ、あからさまに悪質店だと、特に料金トラブルが多い店だと、『優良店のみ!』との看板を出しているチケセン側もパネル掲載の契約は断わらざるを得ない。

それなので、本当のぼったくりや、ぼったくりまがいの悪質店はキャッチが連れていくのだった。

熟女が好きな自分が嫌になる

早番を上がったあと、小泉とは九州ラーメンにいく。
向かいながら、小泉は「ちょっと、かあちゃんに電話します」と携帯を取り出した。

普段から小泉はなんの衒いもなく「かあちゃんが・・・」と口癖のようにいうし、絵文字入りのメールで毎日やり取りもしているのも隠さない。

母親と仲がいいのだ。
茨城の地元にいる母親は、上京した息子を心配しているのだ。

小泉は中卒で、15歳から大工をやっていた。

3年前に飲酒運転で免許取り消しとなったが、車がないと仕事にならないので、かまわずに無免許運転を続けて逮捕される。
次に無免許運転をすると、1年ほどの実刑になるという。

大工仕事は好きなのでいずれはやるが、免許がないので休業して、村井の知り合いの知り合いというツテで茨城から上京して、歌舞伎町の風俗の従業員となっている。

大工をやっていたとはいえ、女の子の扱いは見るからに慣れている。

風俗店の従業員として改めて教わったとかではなくて、最初から持ち備えていた。
女性に対しての目線が明色なのがいい。

100人斬りを20代の前半で達成しているというのもあるのか、風俗の女の子を特別視してなくて、中にはそういった女の子もいるというような広い許容があった。

風林会館の交差点を渡り、九州ラーメンについた。

「ビール飲むか?」
「かあちゃんが酒は飲むなっていうんですけど・・・」
「じゃ、やめとくか?」
「いや、飲みます。かあちゃんには黙ってます」

その小泉の母親は、智子と年がそうも変わらないのは以前に聞いた。

そんな小泉の母親に、ほのかに、ほのかになのだが、勝手に、本当に気がつくとなのだが、自然に興味を持ってしまう自分が嫌だ。

興味といっても、明らかに性的な興味なのは自認できている。
本当にこんなときは、熟女が好きな自分が嫌だ。

もちろん小泉には少しでも感ずかれたくないので、熟女好きは隠しているし、どんな母親なのかは詳しくは訊けない。

性的な興味を持っているのを感ずかれたら、関係が悪化してしまう。

「それにしても、小泉って、かあちゃん大好きだな」
「仲はいいですけどね」

いいことだし、珍しいことだった。

母親を大事にできない男は、だいたいにおいて、女性のやることなすことに僻みっぽい意見を持つ。

スカウトもAVも風俗も、性をいじる職業に携わる男は、母親に鬱屈してるヤツばかり。

歌舞伎町で働く男も、ほとんどが鬱屈組だ。
もちろん自分も、そちら側の筆頭に含まれるのだが。

だからこそ言えるところもあるけど、この鬱屈組は表面は明るく普通を装っていても、実のところは女性を暗い陰から覗いているばかりで、目線は暗色である。

歌舞伎町での小泉は珍しいタイプだった。

100%女とやれる方法とは?

小泉で気にかかるのは、20代前半で達成したという100人斬りだ。

中卒の大工ではあるが、お洒落には気をつかっているし、アメ車にもバイクにものり、サーフィンもやり、ギターも弾けてバンドもやってたというし、ついでにゴルフも100切りというし、モテそうなことは一通りできる。

以前に、どうやって100人斬りしたのか訊いてみた。
酒を飲んだ小泉は、少しの茨城のイントネーションで話した。

「100パーやれる方法があるんです。はい。先輩がいて、ボンボンなんですけど、カマロに乗ってんですよ。で、女の子を夜景を見にいこうってナンパして、ダムにいくんです。で、ダムのへりの暗いところで、こっから突き落とされるのと、オレらとやるのとどっちがいいって訊くと、100パーの女がパンツ脱ぐんです。ええ、100パーです。すぐ脱ぎますよ。え、田中さん、そういうのやったことないんですか?ええっ!ないんですか!以外に真面目なんですね」

こんなにも爽やかにレイプを話す者がいるとは。
アメリカンポルノみたいな陽気さがある。

どこまでも女性に対しての目線は明色なのだ。
自分とは違うのだ。

付き合っていた彼女が内緒でAVに出演したのがきっかけでスカウトをはじめて、必死にスカウトしてある程度の経験を得た自分が、いかにじめじめと暗くて、うじうじとしてることかを思い知らされた。

歌舞伎町浄化作戦の対策

九州ラーメンで「おっぱいパブにいこう」となる。
チケセン『もっこり』に向かった。

金曜日の夜らしく、花道通りは人通りが増えていくている。
食べて飲んだあとの、これから1時間ほどしてから、騒がしくなっていくのだ。

まだ混んではない『もっこり』の場内で、スタッフ井上に勧められるままに店を決めた。

「この、キャビンアテンダント、どうですか?新規オープンしたばかりです。なんか僕は気になるんですよねぇ」
「キャビンアテンダントって、スチュワーデス?」
「ええ、そうです」
「じゃ、ここにするかな」
「ありがとうございます」

そのキャビンアテンダントの店に行ってみたのだが、真っ暗な店内には女の子が3人しかいなかった。

3人とも、キャビンアテンダントの制服ではなかった。
というようりも、太っていて制服が入らなかったかもしれない。
なぜか、ふてくされ気味でもあった。

おっぱいパブを出てからは、小泉とは「やられた」と街路を歩いた。

歌舞伎町浄化作戦の対策として、壁面の派手なネオン看板は自主的に取り外されてはきていたが、見わたせば雑居ビルの袖看板は様々残っている。

一見して店が増えた錯覚になるのは、摘発されて閉った旧店舗の看板の横に、新たにオープンした店舗の看板が取り付けられているからだった。

《シャ乱ピュー》《椎名淫語》《モムサッピュー》などの看板の店はハードプレイ。[編者註26-2]

《ロデオギャル》はギャル系。
《新妻直子》は人妻系。[編者註26-3]
《NUDY》は、ギャルと人妻の中間のお姉さん系。

目立つのは学園系だ。
《なかよし》《いけない優等生》等々。

そこから派生したイメクラが《ワクワク女学園》。
趣向を変えたイメクラが《OL同好会》。

競合となる素人系の店も多数ある。
《萌え娘》《スイート》《オレンジ倶楽部》等々。[編者註26-4]

マニアな専門店も各ジャンル揃っている。
《桃尻電鉄》は痴漢専門店。
《尻太郎》《ドキドキ アナル塾》はAF専門店。
《放尿の瀧》は、おしっこ専門店。

どの店も、無許可の違法営業となっていた。
これだけ店も多いし、客も多い。

歌舞伎町の風俗がなくなることはないな・・・とセントラル通りを歩いた。

「田中さん」
「んん」
「摘発も続いてますけど、大丈夫ですよ。警告もきてないですし」
「なに?心配してくれてるの?」
「まあ、そうです」
「心配してるように見えた?」
「はい」
「まあ、大丈夫だよ」
「だったらいいんですけど、がんばりましょうよ」
「いや、がんばってるよ」

小泉も摘発ラッシュを気にしているのだ。

在籍の女の子も摘発について訊いてくることはなく、それでも1回か2回はあったかもしれないが、まったく深刻ではなく雑談の類で話しただけだった。

自分が心配そうにしていてはいけないんだ。
なにが歌舞伎町浄化作戦だ。

対策もないもない。
やってやろう、とは気持ちは固まっていた。

– 2019.6.16 up –