店長として期待が薄くなる面接の質問
高収入求人誌の広告の問い合わせがあった。
昼過ぎに面接にきたのは丸山さん。
22歳。
普段は学生をしている
待ち構えていた風俗未経験。
面接してから体験入店希望。
ちょうどよかった。
遅番は4名の出勤となっている。
3番の個室で、面接をはじめていた。
バック表をみせると、なにか計算のつぶやきをした。
「なにか訊きたいことあります?」
「今日って、いくらぐらい稼げるんですか?」
訊き方が切羽詰まっている。
いのいちばんに、身を乗り出して訊いてきた。
お金のために風俗をやろうとしてる表情が見てとれた。
もちろん、誰もがお金のために風俗をする。
しかし同じお金のためにという目的でも、稼ごうとお金を追いかけて面接にくる女の子と、支払いでお金に追われて面接にくる女の子では表情が違ってくる。
前者はしっかりと続く。
後者は言い方がわるいがポンコツとなっていく。
後者のタイプにはオーバートーク気味で単刀直入で話さないと動きが悪い、というスカウトの記憶が頭にかすめた。
とはいってもスカウトはそうだとしても、店長となると少しのオーバートークができない。
したところで後が続かない。
とりあえずというようにしてだった。
対応の口調からは、丁寧さは取り払われた。
「いくら稼ぎたいの?」
「今日中に3万って稼げますか?」
「ラストまでできる?24時受付終了で」
「う・・・ん」
ひとつの事情も聞くことなく面接を進めた。
お金に追われている状態の女の子の面接では、余計な気を遣う必要はないからだった。
「じゃ、終電のちょい前は?」
「それだったらできます」
「だったら3万はいくよ」
「あ、はい、わかりました」
事情などを親切に訊いていたら面接が進まなくなってしまう。
すぐに従業員名簿の用紙を差し出して、記入させて、さっさと年齢確認のコピーをして、誓約書の署名も済ませた。
ゴムフェラ希望などは解禁する
年齢確認の学生証の写真は、いい笑顔で撮れていた。
だけど、ポラロイドで3枚撮った写真は、どれも表情が堅い。
初めての風俗に緊張している堅さ・・・ではない。
嫌々ながら風俗をするのを我慢している表情だ。
こういうのって写真から伝わるものだった。
客にも伝わるだろう。
この嫌々がある限り入店しても続かない気がしてきた。
が、やることはやらなければだ。
ため息を押し潰していると、プロフィールの用紙に手書きしていた彼女のペンが止まった。
「あの・・・」
「うん」
「基本プレイって」
「んん」
「生フェラですか?」
「うん」
求人広告では “ ゴムフェラOKだよ! ” と可愛いイラスト付きで掲載してあるのだ。
もし『やっぱやめます』となったら『じゃ、ゴムフェラでやろうね』と引き止めるつもりだったけど、そうはならないだろうと強気で突き返した。
「ゴムフェラ希望なんですけど」
「ゴムフェラはバックが500円マイナスになる」
「あ、はい・・・」
「それにお客さんの付きがわるくなるんだよ」
「・・・」
「まいったな、今日の3万はきびしいな」
「・・・」
「だいじょうぶ、できるって」
彼女は目線を落として、わずかに、ほんの5ミリほどの頷きを見せた。
瞬間で、生フェラ解禁させた気持ちよさがあった。
「あの・・・」
「うん」
「キスって、基本なんですか?」
「ああ、基本だよ」
「・・・」
「キスするのが、ちょっと嫌なんでしょ?」
「はい・・・」
「やり方がある。あとで教える」
「あ、はい」
面接にきた時点で、ある程度のことをするのは覚悟ができているものだ。
それなのに確めてくるのは『もしかしたらしなくていいのかも・・・』という気があるから。
強気で声を尖らせて『もしかしたら』も砕いてやった。
少し勃起の兆しがある。
面接ではミリ単位の頷きを見逃さない
彼女につけたい名前が思い浮かんだ。
以前にAVにスカウトした女の子の名前だ。
目元と輪郭が似ていたし『本番はいいけどキスはイヤだ』という断りでウダウダしていた記憶が重なった。
20歳の歯科大学生の女の子で、以前には歌舞伎町のキャバクラでバイトしていた。[編者註14-1]
携帯にメモリーした日付を確める。
3年前だ。
キスなしのAVだったら1回だけやってみると、AVプロダクションの面接に連れていったのだった。
「店の名前だけどさ」
「はい」
「きょうこ、はどうだろう?」
「んん・・・、子がつくのはちょっと・・・」
「ん、それじゃ、レナはどうだろう?」
「レナがいいです」
「じゃ、レナだ」
「はい」
その3年前の女の子は、本名が恭子。
でAVではレナという名前で出演した。
恭子から連絡がきて2回目に会ったとき「彼氏と沖縄にいきたい」と話してきた。
テレビのCMでは、沖縄の海が最高だとしきりに宣伝されていた季節だった。
でも親には、彼氏と沖縄にいきたいと言えば反対される。
かといって彼氏も学生。
「費用をなんとかして彼氏と沖縄に行きたい」と笑顔を見せた恭子だった。
内心では『なにが彼氏と沖縄だ』と癪に障ってはいたが、もちろんそんな余計なことは表情には出さずに「沖縄はいいよ、ぜったいに行ったほうがいい」と話を煽った。
「行かないと後悔するよ」との断言に、彼女はわずかに目だけで頷いた。
スカウトするのには、このわずかな頷きを見逃さない。
「わたし、AVやります!」と、最初から明言して動く女の子はまずいない。
いたとしても、脱ぎさえすればギャラがポンと100万も200万入ってくると勘違いしている場合がほとんど。
この曖昧と警戒が交じり合わさった小さな頷きがスカウトバックを生む。
話がとんだ。
スカウトのことは今はいい。
『このコは恭子だ』と念じると、優しくできそうな気がしてきた。
検索した彼女の携帯のメモリーは消去した。
却下されたキョウコという名前は、せっかくなので別の女の子が入店したときに付けるとする。
『講習はありません』と求人広告に掲載してあるけど
プロフィールの用紙への手書きは完了した。
カードケースにポラロイド写真と一緒に用紙を差し入れる。
客に見せるプロフィールは出来上がり、これで面接は完了となる。
個室の外からは有線放送の楽曲に交じって、ミエコの声がどこからか漏れ伝わってきている。
「じゃ、レナ、がんばろうね」
「はい」
「それじゃ、今から講習をして、それからお客さんを案内するからね」
「え・・・」
求人広告には、やはりポップなフォントで『講習はないよ!』と記載してある。
またそれを言ってくる気はしていて、やっぱり言ってきそうなので、瞬間で「講習がイヤなら帰れ!」とぶん投げたくなりもしたが、さっき優しくしようと念じたばかり。
「どうしたの?」
「あの、講習はなしじゃないんですか?」
「講習はある」
「広告にはないって・・・」
自分がスケベ心で、したくてしたくてしたがっていて、性欲を解消するための講習だと勘違いされるがの嫌だった。
確かに前回のマユミは、面接のときからしたくてしたくて講習の名目で早く脱がせたかったけど、レナはそこまでしたいとは思ってないし、正直、現時点ではそれほど勃起は強いものでもなかった。
「お客さんは本番したがるよ。どうやってかわすの?」
「・・・」
「女の子ははじめてでも、お客さんははじめてじゃないし」
「・・・」
「ウチは本番をする店じゃないから、そこは教えないといけない」
「・・・」
とりあえずは客のせい。
『広告代理店が勝手に講習ないって載せちゃってさ』とごましてもいいか。
いっそのこと笑いとばして『それ信じて面接にきちゃったんだぁ』としょいしょいでチンコを出そうか。
が、うつむくレナにはそれもしづらいし、優良店の店長としてはやるべきではない。
「未経験の場合はやっぱりね」
「・・・」
「そこは店として、ちゃんとしないといけないし」
「・・・」
『やっぱ今日はやめとこうか』と突き放してみるか。
それとも、バイブを使うとか、自分はパンツを脱がないとか、折り合いをつけてみようか。
高収入求人誌には月に37万を払っているので、1人でも多く入店させなければ採算が合わない。
「講習といってもソフトなものだし、流れをやってみるだけだから」
「・・・」
「女の子のためでもあるんだよ」
「・・・」
目線を落として黙っているだけ。
でも、拒否する素振りはないし、迷っている様子も見えない。
『やっぱり講習ってあるんだ・・・』と、諦めの呼吸をしたようでもある。
個室のドアごしに、客を帰すマユミの甘えた声が聞こえた。
「基本はわかってないと女の子がイヤなおもいするだけだからさ」
「・・・」
「そうでしょ?」
「・・・」
「じゃ、早くして、早く稼ごう」
「・・・」
レナはわずかに、ほんの3ミリほどの頷きを見せた。
これ以上は説明はしないでいいだろう、と立ち上がって照明のつまみを回して暗くした。
体験入店のはじまり
前回のマユミの講習の反省は、2時間以上かかったこと。
それというのも、2年以上ぶりのシックスナインに没頭してしまったからだ。
19歳のおっぱいと太腿の弾力に驚いて、夢中になって抱いて腰を打ち付けていたのもある。
反省ばかりだったが、トビにならなくてよかった。
が、よくよくスカウトのときを思い起こしてみれば『講習がきつかったから店をやめます』という女の子もそうはいないものだった。
なんにしても、前回の講習は、いってみればリハビリみたいなものだったんだ。
リハビリは完了した。
レナでなくても、今回からは、ソフトな講習にするつもりではいた。
実技やテクニックやコツだけではない。
所作とか、気遣いだとか、知識だとか。
歌舞伎町の優良店の素人系ヘルスとして、教えることはいろいろある。
それでも1時間30分以内には終わらせたい。
すぐに自分は全裸になって、全裸になるしかできなくて、無言のまま勃起をさらしてやった。
「じゃ、レナさ」
「あ、はい」
「ざっとお客さんがついてからの流れをやるから」
「はい」
「じゃ、脱いでみようか」
「・・・」
レナの表情は曇ったままだったが、以外な従順さを見せて服を脱ぎはじめた。
ブラジャーをはずして、パンティーも脱ぐのも無言のまま。
自分は脱衣カゴやバスタオルなど用意している。
全裸となったレナは、股間の前を手で隠していた。
「手、どかしてみ」
「・・・」
「もぞもぞしないの!」
「・・・」
手を除けさせると、恥ずかしいのを堪えてる表情をした。
羞恥プレイをしたかっただけかもしれない。
いや、これは講習なんだ。
羞恥プレイなどしてはいけない。
バスタオルを手渡した。
薄暗い中でも光沢があったレナの濃い陰毛が、巻いたバスタオルで隠された。
22歳の若い陰毛は、生えてるという勢いを感じさせた。
40代の熟女である智子の、しなしなとした陰毛とは違う。
いや、陰毛を比較してる場合じゃない。
どれだけ陰毛が好きなんだ。
お客さんがついてからの流れ
まずは店のお約束だ。
接客調でなくイチャイチャ感を。
そのために、客の仕事はきかない、家族の話はしない、社会の出来事も話題にしない。
「ウチのお客さんは、30代や40代が多いのね」
「はい」
「みんな、家庭とか仕事から離れたところで楽しみたくてきてる」
「はい」
「だから、それに関する話題はこっちからしないこと、わかった?」
「はい」
あとは禁句。
いらっしゃいませ、ありがとうございました、という接客調は禁句。
またきてください、という営業調も禁句。
説明を聞くレナのうなづきは適当ではない。
いいのではないか。
「じゃ、お客さんがついてからの流れね」
「はい」
「これ、内線ね、フロントに繋がってるから」
「はい」
「これ、鳴るまでは、ここで好きにしていて、寝ててもいいし」
「あ、はい」
お客さんが付くと、壁にある内線が鳴って準備が伝えられる。
次には「案内のカーテンまできて」と内線がある。
そこで客に挨拶をして、手を引いて個室に連れていく。
「それから、時間スタート。そうそう、タイマーをセットを事前にしといて、これね」
「はい」
「45分コースは25分にセットね、で、ここ押すと。そしたらお客さんを脱がしてシャワーにいって出るまでが10分、」
「はい」
「で、サービス時間が15分。そしたらタイマーがピピピッって鳴るから、そしたらシャワーね」
「で、シャワーを浴びたら着替えるのに10分、合わせて40分、押しても45分まで。けっこう忙しいでしょ?」
「・・・はい」
「まあ、このあたりはやってるうちにわかるよ。こっちからも内線いれるし」
「はい」
全裸になってからのレナの返事は軽快。
表情も、声も、面接のときとは変って明るい。
惜しい。
いかに、今日中の3万が暗く圧しかかっているのか。
お金に追いかけられる前であれば、写真だってもっと可愛く撮れただろうに。
もっとも風俗店の面接にはこないだろうけど。
うまくいかないものだった。
「でね、服を脱ぐのがはずかしいってお客さんもたくさんいるからさ、女の子がリードしてあげて」
「はい」
「さっきのオレみたいに、パッと脱いでチンコ出す人のほうが稀だから」
「あ、はい」
「お客さんが脱ぐのを必ず手伝ってあげて」
「はい」
「いい、で、客を瞬間でも放置しない」
「はい」
「上着を脱がせたら、ハンガーにかけてあげて」
「はい」
「どんな服であっても、それを大事に扱ってくれる女の子って、それだけでいいなってと思うから」
「はい」
「ズボンもね、このハンガーにかけようか。ベルトループに通しちゃおう」
「はい」
ハンガーにかけた上着の衿を、レナはちょんと引いて整えて、またすぐにズボンを受け取る。
手つきがいい。
慌しくもなく雑でもない。
サービス精神はある。
客にはちゃんとするのかもしれない。
この分だったら、嫌がっていた生フェラもこなすだろう。
勃起がひくっと動いた。
– 2018.7.2 up –