ホストのカケに、AV事務所に、風俗専門の闇金に


スカウトバックの明細

新宿コマ劇場前を背にして左を向いて

のぞみが入店してから、1ヶ月経って。
すっかり秋になっていた。

店にスカウトバックを受け取りに行くところだった。
彼氏がいる女のコが入店した後は、自分からは連絡をとらないようにしてた。

店長に電話したときは、しっかりやってますよと、スカウトバックは店員にわかるようにしときます、機嫌がいい。

が、AVプロダクションのほうは、成人誌の撮りを2回しただけ。
あとは返事がうやむやで予定が入ってないです、マネージャーからは連絡があった。

店で稼いでいるのならそれでいいか・・・、と思っていると、出勤途中の彼女と3回ほど東口でバッタリと会った。

学校はどうしたのだろう? 
いつまで風俗を続けるのか? 

気にはなったが「なにかあったら電話して」と軽く立ち話した程度で突っ込んだ話はしなかった。

店の受け付けのカウンターには、ハタチ前後くらいの店員がいた。

「どーも、田中です」
「あー、どーも。おつかれさまです」
「店長から聞いてる?」
「あっ、聞いてます。こちらです」
「ハイ。確かに」

封筒を受け取り金額を確認すると、思ったより金額は多い。
この店のスカウトバックは、出勤日数と指名の本数を歩合計算したもの。

明細を見ると、以外にも指名が多い。
彼女のようなタイプは、風俗店の客にはウケるとは感じてはいた。
やはり客は戻ってきてるな・・・と少し満足した。

カウンターのすぐ横には、在籍の女のコのポラロイド写真が15枚ほどはってある。

「彼女、カワイク撮れてるね」
「あー、彼女ですか。そうですねー」
「学校は行ってるのかな?」
「いやー。いってないみたいですよ」
「やっぱり。・・・カレシがらみは?」
「あー、ホント、バカですよね。完全にダマされてますよ。いつ気づくのか・・・」
「けっこう、突っ込んでるって?」
「ああ、バーですよね?ほとんど持っていかれたみたいですよ。ホント、バカですよね」
「いいじゃん。ウチらが損するわけじゃないから」
「そうですね。ハハハ・・・」

風俗店の店員として、彼氏の話を聞かされたのだろう。
彼の笑いかたから、彼女と同年代だけあって、気にやんでる様子が覗えた。

サンパーク三平で

『サンパーク三平』は食品サンプルが絶妙だった。

さらに2ヶ月程経って。
すっかり冬になっていた。

スカウトをしてると、ポケットの携帯が振動した。
ディスプレイを見ると、のぞみだった。

「どーも」
「アッ、田中さん、今どこですか?」
「新宿だけど」
「どの辺りですか?」
「アルタ前広場」
「わたし、いま、東口だけど」
「見えるかな?」
「あー、わかった!」

彼女が向うで手を振ってるのがわかった。
なにか用事か?

「のぞみ、何してるの?」
「ちょっと時間あったから」
「また、カレシの店いくの?」
「うん、9時になったらいくけど・・・」
「メシは?」
「食べてない」
「ごちそうさまでーす」
「ナニ言ってんですか!」
「のぞみ姉さん、ゴチになりまーす!」
「やめてくださいよ!」
「冗談だよ。どっか食べいくか?」
「うん」
「なに食べたい?」
「なんでもいいよ」
「なんでもいいとなると、2人で定食を食べることになるけど」
「あっ、でも、ゴハン食べたい」
「じゃーさ。三平で食べるか?オヤジが結構いるけど」
「三平?」

“ サンパーク三平 ” は靖国通り沿いの古ビルにある。
創業50年くらいはあるのかな?

新宿のど真ん中にあるのに、いつもすいていて田舎のドライブインというか、定食屋に来たような気分になる。

自分は気に入ってる。
女のコを連れていく雰囲気の店ではないが、彼女だったらそんな気を遣わなくてもいいだろう。

窓際の席がいい。
靖国通りの向こうに、夜になりかけている歌舞伎町が見える。

とり立てて用事ないみたいだった。
時間つぶしで電話したのだろうか。

彼女は午後から店に入り、夜になるとカレシの店に行き、始発でウチに帰り寝るという毎日を送ってるとのことだった。

カレシの店で撮った写真を見せてくれた。
50枚くらいはあっただろうか。

「こんど誕生日会があって。ボトル入れていれっていわれてるから、足りないんだよね」
「カレシも大変なんだよ。主任だったけ?」

バカ騒ぎして盛り上がり、楽しんでる雰囲気が、写真からはよく伝わってきた

「うん・・・」
「カレシはのぞみに感謝してると思うよ」

こんな会話が、うっとうしい。
稼ぎはほとんど店で使ったという。

というよりも、使わされるというのか。
1度そういう状態になると、カレシに見切りをつけることが、なかなかできないのか。

見切りをつけたところで「じゃあ、バイバイ」で終わってしまうかもしれない。
あとは楽しかった思い出が残るだけになる。

カレシを信じてるというよりも、信じたいというのがあるのだろうか。

「しっかり稼がないとな」
「でも・・・」
「なにかあった?」
「お店、辞めようとおもって・・・」
「どうした?店でヤなことあった?」
「ううん」
「客か?」
「・・・ううん。いい人ばかり」
「カレシにわるいか?」
「それもある・・・」
「続ける辞めるは、のぞみが決めなよ。オレがとやかく言えないからさ」
「・・・うん」
「どうしたんだよ?」
「・・・」
「辞めてどうするの?」
「また、スーパーのバイトしようと思ってる」
「エッ。スーパーのバイトじゃ、そんなにも稼げないぞ」
「・・・」
「貯金できなかっただろ?」
「・・・」
「カケ(売掛)は?」
「・・・今は10万だけ」
「それも払わないといけないし、・・・カレシの店にもいけないだろ?」
「・・・うーん」
「・・・なにがあった?」
「・・・」
「言ってみ」
「今の仕事は充実感と達成感がない!」
「はい?」

彼女がいうと、ものすごく難しい言葉に聞こえた。
そして、思い付きで言ったのではなく、ずーと感じていた事を彼女なりにまとめてみたのだろう。

言い方はわるいが、くさっても短大生だな・・・と一瞬思った。
予想外の言葉に、なんと応えていいのか自分が黙ってると、彼女はもう1度「充実感と達成感がないのよ」とつぶやいている。

なんとなく言ってることは解る。

「まいったな。そんなこといわれたの初めてだよ」
「フフ・・」
「難しいこといいますな。のぞみ先生は」
「充実感がないの!」
「だけど、そんな仕事なかなかないよ。オレだってそんな仕事したことない」
「スーパーのときはあったよ」
「うーん、そうか」
「うん」
「だけどね、それは自分で見つけるしかないね。充実感と達成感を条件に出されたら、オレだって困っちゃうよ」
「フフッ」
「それは、オレはチカラになれない!ゴメン!」
「フフッ」

胸に支えていたことを言ってスッキリしたのか。
笑い飛ばして終わりになった。

それから、彼女は歌舞伎町へ、自分は新宿駅へ向かった。
雑踏の中を歩きながら、彼女は以外だな・・・と考えた。

アルタ前広場で、腰掛け人通りを眺める。

店に入れ込んでから、学校にもいかず、勤めてる状況を考えれば、3ヶ月経ったいまがちょうど彼女のモチベーションは最高潮に達してると思っていた。

ポンと100万近くも稼いで、周囲にチヤホヤされて「もっとがんばろう!」と “ ハマッてる ” 状態にしなければいけない。

こうなれば、わき目も振らない。
人の意見も聞かず働く。

そして稼ぐコになる。
そうやって今までに何十人も動かした。

だけど、今日みたいなときはそれも限界を感じるが、自分はスカウトに徹するしかない。

しかし、企業でも消費社会でもスポーツの世界でも、こうした女を動かす法方には通じるものがあるという気がする。

皆、なんのかんのいっても、すべて自分のためでしかないと思い込んだ。

風俗嬢専門の金融業者

セントラル通りからコマ劇場を見て。2000年くらいの冬。

結局、彼女は店を年の終りに辞めた。
1回だけ会って理由を聞いた。

彼女の状況は変わってない。
店のスタッフとの関係がギクシャクしてきたとも。

彼女のほうはどう思ってるのかわからないが、自分のなかではセックスしたのが引っかかっていた。

ここで突っぱねたほうがいいのか。
新しい店の相談はしなかった。

風俗をあがる訳ではないから、他のスカウトに動かされるだろうが、それもいいか・・・と思う。

「相談があって・・・」と彼女から電話があったのは、正月が明けてしばらく経った頃だった。

「正月はどうしてたの?」
「うん、元旦からお店に出てた・・・」
「がんばってるな」
「うん・・・」

声には、疲れが交じっているのは感じた。
新年早々なのに。

「でもさ、家の人はなんにもいわなかった?」
「お兄ちゃんが・・・」
「なんだって?」
「ウチに帰って来いって」
「のぞみも、大人だからね、大丈夫だよ」
「うん・・・」

なにが大丈夫なのかわからない。
が、彼女はつぶやくように返事をしている。

今、本当に彼女のことを心配してくれてるのは、そのお兄ちゃんだなとは感じた。

でも自分はさほど心配することなく、夕方6時過ぎにイタトマの2階で彼女と会った。

新しい店は歌舞伎町で、彼女ははっきり言わないが、やはり他のスカウトで入店したらしい。
あえて、店名は聞かなかった。

「きょう、お店、稼げなかったの」
「そうだったんだ。最近はよく聞くね」
「それで、きょうカレシの店に15払わないといけないんだけど足りなくて」
「15か」

カレシが張り切っているようだ。
スカウトしたときにはスーパーのバイト代の程度だったのに、支払いペースが早く高額になってきている。

「いくら足りない?」
「5」
「5か、なんとかしてやりたいな」
「・・・」
「だけど、オレもカツカツでやってるからね」
「・・・」
「客から引っ張れる?」
「それは・・・、ちょっと・・・」
「カレシからバックレるのは?」
「そういうことはしたくない・・・」
「どこかで借りるか?」
「・・・うん」

同じお金の話でも、AVと風俗では言い方が異なる。
AVは、興味や好奇心でスカウトできる女のコが目立つ。

ざっくりとした大金をチラつかせればよくて、だいぶ先の支払いでも話は進む。
対して風俗は、その日の稼ぎでスカウトできる女のコが目立つ。

目先の額を刻んで示なければならない。
それと借金の相談も多くなる。

10万、20万だったらすぐに稼げると思ってか平気で100万、200万の借金をする。

こういう女のコの行動パターンは、ほとんどが同じ。
ブランド品などの買い物やら、エステや海外旅行のローンやら、ホストの売り掛け。

そして借金を増やすのは簡単でも、返すのは苦労するのもパターンになる。
そででも、風俗だからといって順調に稼げるというわけではない。

そんなとき、親にもいえないカレシや友達にも言えない、というときに「なんとかなりませんか?」と相談される。

そのうちアドバイスしたり、他の女のコから借りやすい業者を聞いたりしてるうちに、そこそこ使えるメモができあがった。

新宿の大手サラ金3社、準大手サラ金3社、下位サラ金4社、ヤミ金2社の特色と連絡先や所在地を把握してる。

「のぞみは、いま、どこかから借りている?」
「うん・・・」
「どこ?」
「学生ローン」
「そう、武富士とかアコムは?」
「うん・・・、電話したけどダメだった・・・」
「未成年には貸さないんだよね、大手は」
「うん、そういっていた」
「支店によっては貸すところもあるよ」
「そうなの?」
「だけど、勤め先が法人とか、親の承諾が必要とかあるからね」
「それは・・・、ムリ・・・」
「他のサラ金も似たような感じだね。風俗で100万稼いでますといってもムリなんだよね」
「そう・・・」
「基本的にはサラリーマン対象だからね」
「ウン・・・」

本当は未成年の風俗嬢でも貸すサラ金はある。
日立信販やエイワなど。

それらのサラ金は年利で40%だが、彼女にはもっと高利で借りさせるつもりだった。

他のスカウトで新たな店に入りながら、都合のよく自分を利用しようとするペナルティーの気分だった。

「風俗専門業者ってあって」
「ウン・・・」

風俗専門業者といっても、ヤミ金のトイチ業者になる。
利息は相手を見て、1週間から10日で1割から3割ぐらいとる。

「そこは、必ず貸してくれるよ。未成年でも。すぐに」
「ホント・・・」

1業者は貸しても10万程度しか貸さない。
住民票は必ず必要になる。

「うん。24時間受付けで、今から申し込んでも大丈夫だし」
「ヘエ・・・」
「いまは、なにか身分証ある?」
「学生証」
「後日、住民票差入れなければいけないかもしれない」
「うん・・・」
「だけど、利息は高いよ」
「うん・・・」
「でも、少ししか借りないからすぐ返せるでしょ?」
「ウン」
「短期で返すって約束してくれる?」
「ウン」
「番号教えるから電話してみたら?」
「・・・ウン」

貸すときには、担保と称して運転免許証や保険証を預かったり、指輪やネックレスを外して置いていかせる。

高価でなくても、本人には大事なものだったり、ないと困るものだったら担保になる。
もちろん返済できないと、それらはどっかに売られる。

そんな悪徳業者でも、コンビニで売られている高収入情報誌の裏表紙には『誰でもすぐ借りれます!』『24時間親切対応!』などと広告を出していた。

金利は記載されてない借用証

問い合わせしてからの順序としては。

まずは、駅からそれほど遠くないマンション事務所で、個人情報を細部まで聞き取られる。

借用証にサインをするが、金利は記載されてない
借入金は10万円でも、金利先付けと称して1万引いたり、文書作成料として1万引く。

相手を見て、手数料だか名目をつけてさらに1万を引く。
そして実際は、7万か、8万を個人名で貸し出しす。

「番号は、えぇとね・・・、あぁ、あった。●●●●の●●●●ね」
「なんていえばいいの?」
「風俗なんですけどって最初に言ってみ」
「それで?」
「そしたら、名前とか、住所とか言って、学生ローンと同じだよ」
「・・・ウン」
「どうして知ったのかきかれるかもしれないけど、そしたら、人から紹介されたっていえばいいから」
「ウン・・・」

彼女は電話して、しばらく業者とやり取りしていた。

金利はあってないようなもの。
10日で1割のときもあるし、相手によっては『何日に(7~10日後)3万円持ってきてください』となる。

1回目を返済すると「また何日に(7~10日後)3万円を持ってきてください」となる。

何回か支払いを繰り返しても、すべて利息として受け取ってるので元金はそのままになってると言い張る。

一括返済はさせない。
させるときは、遅延損害金などの理由をつけて高額を要求する。

女のコによっては、暴力団をちらつかせて脅したりする。
遅れると怒鳴りまくり、少しでも持ってこさせるようにする。

多少荒っぽくても、個人の金銭の貸し借りは民事不介入。
警察はタッチできない。

無免許での貸付営業は違法だが、小額の個人の貸借りが建前なので立件は難しいらしくて、怒鳴って脅すくらいでは捜査されない。

警察に相談したとしても、せいぜいが「やめなさい」との注意の電話を1本いれるだけ。
それも「すこし言葉が過ぎました。スミマセン」で済んでしまう。

弁護士に依頼すれば解決する。
高額な利息を取れば、元金の支払い義務もない。

しかし業者は領収証も出してないし、逆に元金の返済は要求する。
弁護士だって「元金だけは払いなさい」という。

人権派弁護士以外は、しっかりと依頼費用もかかる。
それに、風俗で働いてることを内緒にしてる女のコがほとんどになる。

「親の職場に行って返してもらおうかなぁ」とでも業者がやんわりと脅せば、彼女だったら支払いを拒めないはず。

金融業というよりも恐喝業でもある。

「どうだった?」
「3分したら、折り返し電話します、だって」
「借りれるって?」
「ウン」

入れ違いのようにして彼女の携帯が鳴った。
カレシからだ・・・と彼女は困った顔をする。

「カレシも、いま、大変なんだよ」
「ウン。上の人にいわれてるっていっていた」

話している間も、電話は鳴り続けている。
が、のぞみは出ることなく鳴り止んだ。

「でしょ。のぞみが頼りなんだよ。しっかり支えてやらないと」
「ウン・・・。こんど、店まかされるっていっていた」

カレシも役者だ。
きっと、上の人の台本がいいのだろう。

「すごい!のぞみにかかってるんだよ!のぞみが必要なんだよ!」
「ウン・・・」
「今から借りれたら、ちゃんと15払えるでしょ?」
「ウン」

それから、カレシからの電話はもう1回かかって来た。
彼女は出ることがない。

トイチからは、3分も経たずに折り返しの電話があった。
そっちは彼女はすぐに出た。

カレシもトイチも、自分の存在には気がついているだろう。
顔を合わせたことはないにしても、こんなときには妙な連帯感があるものだった。

話しぶりからすると借りれるようだ。
彼女は電話を終えた。

「今から会社に来てください、だって」
「そう」
「ついてきてくれる?」
「ちかいでしょ?」

もし、他の2者のほうにも連帯感が湧いているのだったら、それは楽しさを伴うはずだった。
自分のほうは楽しくなどない。

「ウン、ガード抜けたマンションだって」
「だったら大丈夫だよ、平気だよ」
「・・・」
「やさしそうだったでしょ?」
「・・・ウン」

内心は彼女に苛立っていて、このときは早くバイバイしたかった。
そうではないのか。

カレシは張り切っていて、トイチもホクホクとやる気を見せているのに、自分だけがスカウトバックも切れているのにボランティアで彼らの下働きしてるのだ。

イタトマを出てからは、一緒に西武新宿駅前まで歩いた。

帰宅する足早の通行人の中では、お互いに無言だった。
別れ際になってから、彼女は「これあげる」と、バッグから包装紙の平箱を取り出した。

「え、なんだろ?」
「正月におばあちゃんちにいったお土産」
「え、いいの?」
「ウン、カレシに渡そうと思っていたけど」
「え、いいよいいよ、せっかくだけど、カレシに渡しなよ」
「いいよ、付き合ってくれたから」
「そう?」
「ウン」

ニコッと笑った彼女だった。
あれほどカワイイと感じた笑みだったが、どういうことだろう、このときはうんざりした気持ちになった。

「ありがと・・・」と受け取り、騒がしい人混みのなかで彼女と別れた。

東口に向かう途中で平箱は二つに折られて「バカやろう!」と歌舞伎町交差点のゴミ箱に突っ込まれた。

– 2003.2.2 up –