風俗の体験入店ってなにがどうなのか?


しっかりとした内容だったら3時間講習はあり

風俗の女の子って、初めての客をよく明かしてくる。

初めて目の当たりにした男の性に衝撃が伴ったほど明かすようで、それがもしベテランだったら、どこか懐かしそうな表情をするものだった。

講習にしても客にしても、初めての1人は乗り越えなければだ。
遠慮がちな平坦な講習だったらやらないほうがいい。

だからもっと正上位素股で抱きたかったし、もっとクリトリス責めだってしたかったし、まんぐり返しだってしたかったし、アナル舐め解禁くらいは試したかった、と力がこもる思いで初めての客がついたノゾミを待っていた。

でも、あれもこれもすると、講習が3時間を越えてしまう。

風俗未経験に実技も細かな所作も教えるのだから、決してやりすぎではなく、3時間でも足りないくらい。

そりゃ、ただの本番店だったら講習なんていらないが、素人系ヘルスの客はさほど本番を求めてないので講習は必要だとは感じている。

だからといって、3時間以上になると、お互いに集中力っていうのが途切れる。

やっても3時間か。
なかなか3時間の講習なんて聞かない。

全国展開している○○グループは『鬼の3時間講習がある』と女の子から度々聞いたことがあるくらい。

鬼の・・・といっても悪評はない。
それをいう女の子も自負を見せる。

しっかりとした内容だったら、3時間講習はありなのだ。
すべてを時間内におさめるには、どれかを省かなければだとすると、シックスナインは省くべきか。

実際にやってみなくてもわかるのだから、教えるも教わるもない。

次回の講習からは、シックスナインは省くか。
クリトリス責めも省くべきだし、まんぐり返しも必要ないか。
アナル舐め解禁も、素人系ヘルスでいかがなものか。

もう昼過ぎになっていた。
雑居ビルの階段の踊り場でノゾミを待ちながら、結局は講習ってどこまでやればいいんだろ・・・と今さらながら悩んでいると、向かいに見えるレンタルルームのドアが開いた。

ドアからは、ノゾミと客が出てきた。
エントランスの外まで歩いてからは、客と手を振りあってバイバイしている。

30代のサラリーマンの客は、満面の笑みで小首などかしげて、かわいらしく手を振って帰っていく。

イチャイチャ感はできたようだ、というよりも自然にできていた。

いかん。
講習のときには見ることがなかったイチャイチャ感を目にしたら、胸がモヤッとしてきてしまった。

擬似3Pが風俗のサービスにはある

客を帰したノゾミが辺りを見回しているのは「この辺にいるから」と言ってあったからだった。

この元気な感じの見回しかたからすると、問題なく最初の1人目が済んだようだ。
階段を降りた。

「どうだった?」
「うん・・・」

あえて訊いてみたのは、少しのガス抜きのつもりだった。

ノゾミは彼氏に内緒の風俗なので、圧がこもらないよう気をつけなければだった。

「うん、お客さん・・・」
「ん」
「よろこんでいた」
「あぁ、よかった、それでいい」

髪がちょんっと跳ねているのが、男と体を接した直後の気が昂ぶりを感じさせる。

バッグを持ってあげて、店に戻りながら歩いて、2人目の客が待っているのを切り出そうとしていた。

「お客さん、なんていっていた?」
「うん・・・、彼女にもこんなにもしてもらったことがないって」
「がんばったな」
「がんばったよぉ」
「フェラでイカせたか?」
「ん・・・」

チラッと自分の目を見たのは『もう!』とにらんでいて『聞かないで!』と言っている。
そこを訊いたのは、ただの意地悪だった。

講習がなかったかのような態度になる前に、まだ1人目の客がついたくらいのうちに、ノゾミにも胸のモヤ感があるのかを確かめてみたかった。

「いっぱいイカせたか?」
「・・・」
「なんだよ。どうだっのか確かめてんだよ」
「イカせたよぉ・・・」

風俗のサービスとは、擬似3Pでもある。

男性は、他の女性を想いながら射精に向かう。
女性は、他の男性を想いながら施す。

もちろんノゾミは、彼氏のことばかりを考えていただろうけど、少しでも自分が割って入れていたなら講習をした甲斐があった。

「でも・・・」
「どうした?」

角まで歩いたところで、ノゾミは少し目線を落とした。
気が落ちているのではない。

声は熱っぽい。
精一杯にやったのだ。
その分だけ気持ちが擦り減っている。

「どうした?」
「そのお客さん・・・」
「うん」
「彼女いるっていっていたのに・・・」
「ん」
「男の人って・・・」
「ん」
「彼女じゃなくても、こういうことしても平気なんだって・・・」

精一杯に擬似3Pをしたノゾミの声は、答えを求めている。
答えというか、線引きが必要となっている。

どこまでがよくて、どこからがよくないのかという、風俗嬢となった女の子からは引きづらい線だ。

風俗嬢となった女の子に必要なこと

この線を引いてあげるのを、風俗嬢というものになった女の子の傍らにいる男はしなくてはいけない。

彼女じゃなくても平気なのが男は普通だと言えばそこが線となるし、体はそうでも気持ちが変らなければいいと言えばそこが線となるし、男の下半身は別だと言えばそこが線となるし、風俗は別だと言えばそこが線となる。

本番がないからいいと言えばそこに線が引かれるし、客がよろこべばいいと言えばそこに線が引かれるし、金銭を介してるからいいと言えばそこに線が引かれる。

根拠も理由もなく、たとえ出来合いであっても、ただのごまかしであっても、誰かが言い切るのが必要だった。

いったん線が引かれれば、あとは女の子自身が実地で補完していってくっきりとした線となっていく。

「そうか」
「なんか・・・」
「・・・」
「複雑・・・」

ああ、店長でなければ。
がんばったな・・・と頭を抱いてやりたい。
手っ取り早くもある。

しかし、店長としては不適切すぎる衝動は見せないようにして、あえて難しい顔をした。
「仕事だから」で済ませたくはない。

風俗が彼氏公認だったら、すぐさま「がんばらないと!」と「彼氏のためでしょ!」と根性をぶつければいいのだけど、内緒のノゾミにはできない。

まだ、初めての客が済んだくらいで根性をぶつけるのは早すぎる。

「そうか、複雑だな」
「・・・」
「いろいろだ」
「・・・」

曖昧に答えたほうがいいのか。
わからないほうが頑張る。
天気もいいし。

今だけは、わからないままにしておいたほうがいい。
今は言葉よりも、客を次から次へとつけるのみ。

それに、この程度の、風俗の基本のような線引きだったら、この体験入店の1日だけで自身でできるのではないのか。
今は甘いものだ。

「ノゾミ」
「うん・・・」
「小腹すいただろ?」
「ちょっと・・・」
「シュークリームたべるか?」
「うん・・・、たべる・・・」

コンビニへ寄ってからは、次の客が続いていることを伝えて店に戻り、あとは竹山に任せた。

ノゾミを待っている間に、遠藤から電話がきていたのだった。
不思議なことに、面接も体験入店というのも順序良くこない。
重なるものだった。

初めての1人がけっこう重要

歌舞伎町浄化作戦で生じたスカウト特需は続いているようである。
スカウトによる面接は続いていた。

島田が面接に連れてくる女の子は手間がかからなくていい。
的確な説明をして、気持ちも固めて面接に連れてくる。

ホストからの紹介、あるいは元ホストといった類の男からの紹介が多々あるので、良くも悪くも一癖ある風俗経験者も目立ったが、年末年始には即戦力となって助かった。

遠藤のスカウトは、いい方向にはなっていた。

最初の2人組などはドンキのピカチュウの着ぐるみで「とりあえず連れてきました!」という状態で、次の1名は「すっごく稼げるよ!」というオーバートークでありきたりにトビになったが、11月末にはカオリが入店。

やはり初めての1人が入店すると、なにかしら要領を掴んだようで、次のアリスこそ体験入店でトビとはなったが、12月半ばにはセイラとジュリが入店した。

店からの12月のスカウトバックの16万5千を手にしている。

AVには2人を入れ込んだのは聞いた。
スカウト通りには毎日きて声をかけているようだし、これから収入はもっと増えていくだろうから、もう立派なスカウトといえる。

で、谷口である。
実家住まいの失業保険があるから生活はできるのだが、スカウトを名乗りながらいつまでも実績ゼロでは格好がつかないと本人も言ってはいる。

実績ゼロとはいっても、全くできないという状態は脱して、声をかけて足を止めて、AVの話をするところまではいっている。

そこからおっパブの面接に4名を連れていって体験入店もしているが、スカウトバックが発生する5勤(5日勤務)の前に全員ともトビとなっている。

その流れから全員がトビとなるのは、スカウトがブレていると見当はつく。

ハードルが高いAVからは、ハードルが低くなるおっパブの面接くらいは簡単に振れる。

女の子が口にすることに乗っかりすぎているから、安易に低いハードルほうでのスカウトとなっている。

状況からいえば、その4名の中にAVに入れ込める女の子も1人はいただろうに。

そもそも谷口は、女性経験がほとんどないのだから、おっかなびっくりでAVの話をしているのは想像がついた。

これも初めての1人なのだ。
経験を積むというより、初めての1人をAVでも風俗でも入れ込むことができれば、何か変化がおきる。

ドタキャンの解消方法

「女がドタキャンばかりするんです」と「約束してもドタキャンばかりなんです」と谷口は嘆く。

ドタキャンは免れない。
それはわかってはいるが、ドタキャンされるとイラッともする。

2人3人とドタキャンが連続するとイラッと徒労感がかけ合わさってくる。
それが女の子に伝わり流れが悪くなる。

谷口にアドバイスしたのは「1度に5人と待ち合わせしろ」ということだった。
1人に絞るから、期待をしただけドタキャンされたと落ち込むことになる。

もっと鷲つかみでいい。
現状だったら平日の夕方だったら5名の約束はなんとかなりそうかな、という時間帯の見当をつける。

そしてAVプロダクションや風俗店の都合も考えて、すべてこちらの都合で、例えば水曜日の15時と決めたら、その時間で5人と待ち合わせてみる。
かつ、すべてを新宿に来させるようにする。

2人か3人の約束だったらなんとかなっても、5人と約束するとなると難しい。
ましてや、平日の15時ともなればもっと難しい。
しかし、スカウトだったら、そのくらいはしなければだ。

「もう1回聞いてみて、もしよかったら面接にいこう」という仮の約束でもいい。
「もう1回聞いてからはっきり断って」という後ろ向きの約束でもいい。

「改めて話を聞いてほしい」という軽い約束でも「続きを聞いてほしくて」と言い訳してでも、まずは5人と約束してみる。

「この前のお詫びにケーキをおごらされてほしい」と下手に出た約束でもいいし「この電話で最後だから」と強気の約束でもいい。
「誤解してるとおもって」と見えすいた名目でも約束してみる。
「もし都合がわるくなったら電話ちょうだい」という、とりあえずの約束も1人にカウントしてみる。

その約束に至るまでは相当に絞っているから、5人が全部ドタキャンということはまずないが、1人か2人か3人はドタキャンするし、当然のように連絡もとれなくなる。

それでも1人か2人は、約束した場所と場所へ向かってくる。
対応できるのはせいぜい3人まで。

1人は時間早めに待ち合わせて面接に直行して、1人は1時間ほど遅らせて、もう1人はカフェなどで待たせる。

約束するまでの流れ

恐ろしいことに、軽くした約束でも、5人とも待ち合わせに向かってきている状況になるときもある。

時節があるのか、たぶん学者だったらバイオリズムがどうのなど解明できるのだろうけど、なにがあるのかわからないが女の子の行動は重なる。

また、軽く約束するくらのほうが来るものだった。
いずれにしても、そのままだと大変だ。
谷口だったら、遠藤に場つなぎしてもらってもいい。

優先順位をつけて、こっちは直接話して、こっちは遠藤に面接に連れていってもらって、こっちは1時間ずらして、こっちはさらに遠藤に場つなぎしてもらおうと段取りを組む。
そうしたところで女の子は帰らないものだった。

不思議だ。
今度は自分のほうが約束を守れてないのに、守らないほうがいい方向に変化する場合もあるのだった。

なにがそうさせるのかというと、少なくとも1人は確実にどうこうなるのだ、という心の余裕が生まれるからと思われる。

ドタキャンのイライラが全くなくて、余裕を持って「じゃあ、いいよ、ごめんね」と「いいよ、いいよ、またにしよ」と軽く流せる。

こっちから断ることで相手の態度も変わることもあったりして、次回に繋げることもできるものだった。

優先順位をつけて相手を選べる状況に持っていくと、思いきりもよくなる。
この思いきりがスカウトには大事。

ズバッとビシッとバシッというようなテンポでいくと強気が生じて、強気が強気を生んで勢いが出る。
勢いもスカウトには必要。

去るもの追わずどころか、去るものなんて突き飛ばしてその先を走っていくようなわけのわからなさでいい。

ともかく、5人と待ち合わせができるように、浅く広く当たる。
広く浅く。
やるやらないは決めなくていいし、すべてを説明もしなくていい。

次がある前提で話を止めておいて、ゆっくり考えてみてという約束、1回は電話で話す約束、はっきりと断ってという約束、またいつか新宿で会う約束、こういう小さな約束ができればいい。

で、谷口は、平日の14時に5人と待ち合わせができた。
とりあえずの約束の5名だったが、2人が重なった。

店には遠藤が連れてきた。
もう1人は、谷口が「とりあえず話だけ聞いてみよう」とAV事務所に連れていっている。

店のほうが優先順位が下がっているようだが、そこはとやかくいえない。

AVのほうがスカウトバックが高い。
谷口も初めての1人を経てスカウトになったのだ。

芸術系の女の子はAV女優の1角を占める

ノゾミが2人目の客を帰すくらいになって、遠藤は女の子を連れて店にきた。

客を帰したばかりのノゾミと竹山が合流して、待機室に連れていっている。

ノゾミが店に戻ってきて、別の女の子の面接してるのを見られるのは避けたいからだった。

それが仕事だとしても、もし少しでも面白くないと感じられるようなことは体験入店の日だけはしたくなかった。

西谷がノゾミに準備の電話をしていて「次のお客さんついて・・・」と伝えているが、それはサービスチェックのオーナーだった。

それらの電話のやりとりをしている同室のソファーに遠藤と彼女は座り、面接がはじまろうとしていた。

「こんにちわ、店長の田中といいます」
「あ、はい・・・」
「すみませんね、ちょっと散らかっていて」
「いえ・・・」

緊張はしてないようで、おなしいめというか、落ち着いた雰囲気。

栗色の髪には艶があってさらさらしていて、前髪がくりんとしていて、体つきはすらり。

22歳で風俗は未経験。
今日の体験入店希望。

それ以外に谷口から聞いていたのは、講習はなしで、AVは本番がイヤだからしたくなくて、でもそれは今の彼氏とは別れるから罪悪感などではなくてただしたくないだけで、都下にキャンパスがある美大の学生でCGを専攻していて、初体験が19歳で男性経験が30人超えていて、誘われると断れないからその人数で、山梨出身の小田急の飛田給で1人暮らししていて、風俗をして一眼レフのカメラと最新のマックのノートパソコンを買いたい、というもの。

よくもまあ根掘り葉掘り聞いたものだと感心するし、彼女もよく答えたものだ。

AVのスカウトに絞って話し込めてない。
だから話がブレて聞き込んでしまい、話が広がるからAVを推す圧がかからなくなってしまう。

まあ、今は谷口のスカウト方法のアドバイスはやめておく。

「谷口くんから話は聞いてるとおもうけど、なにか、改めて聞きたいこととかあります?」
「え、とくには・・・」
「わからないことでも、要望でもなんでも」
「ええと・・・」

ないとは思うが、スカウト初心者の谷口がオーバートークをしてるかもしれない。
「かんたんだよ!」とか「1日20万は稼げるよ!」とか。

オーバートークはできればしてほしくないけど、やっちゃったのだったら仕方ない。
話が思いっきり変わるときは人が代わるとき。

オーバートークを彼女が鵜呑みにしての面接だったなら、まずはひとつひとつ話し変えていかないとだった。

「遠慮なく。ささいなことでも」
「えっと、本番ってないんですよね?」
「ないない、そんなの、手と口のサービスのみ」
「あっ、はい・・・」
「ほかには?確かめたいこととか?」
「ええと・・・」
「罰金とかあるんですか?」
「ないない、そんなの」

いいのではないか。
やる気がないような返事だけど、この時点で『いくら稼げますか?』という質問が出てこない。
こういう気負いがない女の子はいい。

「じゃ、まずはやってみてだね」
「あ、はい」
「今日は体験入店でいいのかな?」
「あ、はい」

美大生というのもいい。
絵画やら楽器奏者やらの芸術系の女の子って、AVの一角を占めている。

真面目さと、理知さと、落ち着きを感じさせる雰囲気なのに、男性経験が2年余りで30人を超えてしまったというアンバランス感も、場違いのような歌舞伎町の風俗の面接にきた思いきりのよさを持ち合わせているのも、芸術系の女の子には目立つものだった。

彼女も一角のほうかもしれない。
谷口がブレずにAVをしっかりと推していればやったかもしれないが、今さら知ったこっちゃない。

「なにか、年齢を確認できるものってある?」
「あ、はい、学生証があります」
「じゃ、それは年齢確認のためにコピーするけど、それはファイルして保管しとくだけだから、ほら、そこにあるでしょ?」
「はい」
「持ち出したり、誰かに見せたりするものじゃないからね」
「はい」

彼女はなんの警戒もなく、学生証をバッグから取り出した。

コピーをとりながら、大学では油絵をCGで書くだかなんだか話したけど、すごく専門的に聞こえてなんのことだかさっぱりわからなかった。

女子バックの説明する。
従業員名簿の用紙に記入をしている彼女を見ながら、講習なしという希望をどうやって了承させようか考えていた。

未経験で講習なしだといいことがない、というよりも無理だ。
どうしても講習がイヤと言い張ったらどうしようか。

記入された従業員名簿の用紙を手にした。

「ラストまでOKってなっているけど、今日もだいじょうぶなの?」
「あ、はい、だいじょうぶです」
「タクシー代は出すからね」
「はい」

返事には力がこもっている。
やる気はあるのだ。

面接に来た時点である程度のことは覚悟してるから、今になって『講習があるならやめます』とはならないだろう。

10人いたら9人は『講習はイヤッ』と言うものだが、絶対に嫌な女の子は入店が決まる前に確かめてくる。

誓約書に署名を終えた彼女に切り出した。

「あと谷口くんから聞いているのが、講習をしたくないってことだけど」
「あ、はい・・・」
「講習はね、女の子のためでもあるんだよ」
「あ、はい、わかりました」
「え、だいじょうぶなの?」
「はい、あの・・・」
「うん」
「講習はないほうがいいでしょって聞かれたので、うんて答えただけですけど・・・」
「あ、そうなんだ」
「するものだったらします」
「あ、そうなんだ、みんな勘違いしていたんだね」
「はい」

彼女は当然というように講習を了承した。
いいのではないか。
こういう気構えで、おススメにならなかった女の子はいない。

それにしても、谷口は余計なところでオーバートークしている。
遠藤はその辺りまでは同席していたが、自分のスカウトでないと気が入らないのが見てとれる。

面接が通ったのを確かめると「じゃ、店長、あとはおまかせしていいすか?」と腰を上げた。

路地に出たところで「谷口と1杯やれ」と5000円を渡したのは、谷口の初スカウトの祝儀も兼ねてだった。

遠藤は「あざっすっ」と5000円を掲げてお礼をいって帰っていった。

スカウトとセックスの関係

記入するものを終えて、確かめることを確かめたら、プロフィールの作成になる。
ポラロイドを撮って、デジカメでも撮ってみる。

彼女がプロフィールの用紙にカラフルなペンで記入している間、デジカメをプレビューしてみた。

写真映りはいい。
撮り直すこともないくらい。

細い眉毛と大きな目が、口角を上げた笑みと似合っている。
あとは源氏名をつけて面接は終わりだ。

浮かんでいた名前がひとつある。
眉毛の描き方と細面の大きな目が、その名前の彼女に似ている。

さっきの「するものだったらします」という返事も似ていた。
芸術系の女の子が見せる、厳しいレッスンを受けてきた女の子が見せる、瞬間だけ人が変ったかのような礼儀正しい返事。

5年前にスカウトしたその彼女は、どの名前もはっきり覚えている。
本名は純子。
右近純子。

風俗の源氏名はシエナ。
たぶん、そのいたって古風というか昭和テイストな名前の反動だろうけど。
で、風俗は3ヶ月でやめた。

AVでは、三ツ矢ノエルでコケる。
倉橋ショコラで売れた。

純子はAVにスカウトもできて、ときどき顔を合わせたりしてセックスもできて、つかず離れずに長く続いたという自分にとってはすごく稀な女の子だった。

声をかけてからはセックスもできて、そのままAVにスカウトできるのが一番いい。

そのくらいは、誰でも考える。
でも自分はその流れは、うまくいった試しがなかった。

もちろんスカウトのなかには、セックスを済ませてからAVプロダクションに連れていくという、男の夢を実現している者もいる。

でも自分の場合は、セックスができるとスカウトが確実といっていいほど失敗した。

セックスができると、女の子の態度が変わって言うこと聞かなくなる。
半歩先を行く距離を保ったままのほうが、スカウトは成功するのだった。

女の子の態度が変わるというと、さも自分のほうが余裕ぶっているように聞こえるが、実のところは自分の態度のほうが変わってしまうようでもある。

そもそもがそんなにもセックスまで持ち込めないし、もともとの気持ちがミミズ体質の湿った自分は、セックスなどしてちょっとでも女の子が優しいなと感じてしまうと、すぐに知らずに素を曝け出してしまうようで、良くも悪くも女の子の態度が変わってしまう。

素をさらけ出すというと、とてもいいことのように感じるが、自分の場合はダメ感だけが漂うのだろう。

女の子は、その匂いを敏感に嗅ぎつけて態度が変わるようである。
男の夢だとか言ってる場合ではなかった。

純子をスカウトしたときには、このことはもう十分にわかっていた。

もっとも智子もいたのでウチにも連れ込めないし、早いうちからセックスに至ることはなかった。

– 2023.07.31 up –