風俗店の売上アップの方法


店落ち、入客数、客単価の意味

女の子が全員あがると、各個室の使用済のバスタオルを集めて、専用袋に詰めて店の入口に置く。
掃除機をかけて、ごみ箱を空にする。

あとは締めをする。

まずは数字を出す。
店落ち入客数客単価の3つの数字だ。

店落ちは、売上から女子バックを引いた金額。
一般の商売に当てはめれば、営業利益に相当する。
その日の店落ちは392,000円。

入客数はトータルの員数。
その日の入客は42名。

店落ちを入客数で割った数字が客単価
その日の客単価は9,333円。

この3つの数字をだしたら、オーナーにヤフーメールを送って、現金管理をして締めは完了となる。

現金と電卓
集計をして現金合わせをして終了となる

長財布には早番の釣銭5万5千分、・・・げん担ぎの5万5円で、千円札55枚を入れてファックスの裏に置いておく。

あとの現金は、リストのコピーと一緒に封筒に入れてホチキスで封をして、1日おきに店にくるオーナーに渡す。

それまで封筒は、店内のトリッキーな場所に隠しておく。

例えば待合室のソファーの裏とか、トイレの洗面台のパイプの裏とか、ユニットシャワーの床下とか。

連絡メモ

『連絡メモ』の記入もする。
A4のコピー用紙をバインダーに挟んだのが『連絡メモ』だった。

全員に洩れなく伝えたいこと、共有しなければならないこと、相談したいこと、日常業務の注意点を、それぞれがなんでも自由に記入する。

自由に記入といっても、もしもの摘発に備えて書いてはいけないこともある。

オーナーに関してはもちろん。
数字と金額もそうだ。

違法営業とはよく知らなかったのを装ってもいるので、摘発の対策に関することも。

それらは一切は口頭で行なわれて、連絡メモには残さないよう徹底した。

なので『連絡メモ』は、ほとんどが在籍の女の子について書かれている。

その日でいえば、<ユイ、TELあり、生理がきて日曜日は休みになりました。シフトの調整をおねがいします。>と、電話を受けた自分は早番に向けて書いた。

<ユウカ、受終のちょとまえに客が付いてふてくされました。明日はヒマの方向でどうかと・・・>と竹山は書く。

ラスト1本の客を受付したとき「約束がある!」と首を振った彼女に、半土下座の勢いでご機嫌とりをした竹山の鬱憤がこもっている。

<ダミーリエ、食いつきがよすぎて、2人でさんざん悪態をついてしまいました。前歯が1本ない、彼氏になぐられてタラコくちびる、かんしゃくもち、前歯が2本なくなった、ひきつけおこした、店長がクビにするなどです。そろそろダミー引退かもしれません。>とも竹山は書いていた。

連絡メモに書き忘れがなかったら、遅番は終了となる。

「竹山くん、メシ食べていこう」
「ええ、つかれましたねぇ」
「九ラーにしようか?」[編者註18-1]
「そうしましょう」

とにかく腹が空いていた。
休憩なく、ひたすら受付をしていた日はなおさらだった。

「入客、40超えたし」
「やりましたねぇ」
「あれだけ、リエに食いつかれて、よく振り替えたよな」
「ダミーの人選に失敗しましたね」

入客は早番で15本、遅番で27本。
オープンしてから入客数が40名を超えたのは初。

遅番のシフトが固まってきて5名出勤ができたのと、ベテラン揃いで回転が早かったのがよかった。

有線放送を消した。
電気も消して、ゴミ袋を持ち店をでて、入口ドアの鍵をかけた。

客入りがいい風俗店には厳しさがある

深夜のさくら通りにでると、ざわつきは収まってない。

ちなみに歌舞伎町には、ゴミの収集日が毎日となっている。
分別もされないゴミ袋が、もう集積所には山となっていた。
ゴミ袋は放り投げられた。

花道通りの路肩には車が停まり、まだ人でごったかえしていた。

竹山とは、九州ラーメンで大生で餃子でつまんだ。

メシのときには、村井も竹山も、在籍の女の子の名前を挙げては文句を言ったり毒を吐いたり小バカにはしていた。

しかし在籍の彼女らを「風俗嬢は」とか「風俗嬢だから」と、一括りで話すことはなかった。

「女ってのは」とか「女だから」と、一括りにすることも、決めつけることもなかった。

あくまでも、その女の子のみであって、10人いれば10通りの文句があって、毒を吐いて、小バカにはしていた。

それに村井も竹山も、風俗の女の子には一定量の理解も持っていて、ある種の敬意じみた気持ちも持っているのは感じていた。

文句は前向きなもので、店の運営に役立つように話された。

人への文句を聞きながらの酒はまずいものだが、これらの文句では決して酒はまずくならなかった。

毒を吐くのも、自身を卑下することで最大限に面白おかしくしていたし、小バカにするときは一定量の理解が下敷きにあったので斬新さがあった。

むしろ、わずかでも女の子に好感がなければ、毒を吐くこともなく、小バカにもしない態度だった。

しかし、その日の竹山のユウカへの文句は、好意はないものだった。

竹山が大生をおかわりした。

「でも、竹山くん、よく土下座したな」
「あ、僕、そういうのにプライドないんで」
「おお、すごい」
「でも、ユウカには、もう土下座も効かないですね」
「そうだな」
「次は田中さんに任せますので」

客がつかないならつかないで文句を言う、混めば混んだで文句を言うユウカではあった。

26歳で風俗歴7年のユウカは、本当は村井としては呼び戻すつもりはなかったのだが、現状では在籍が少なくてシフトが薄いので仕方がない。

村井はため息をついてから電話して「ぜったいに稼がせます」と頼み込んで呼び戻していた。
頼み込んだ立場は弱い。

機嫌がわるそうに「フンッ」と憎々しげに鼻を鳴らして、現金を受け取っていたユウカを思い出した。

お礼をいってほしい、感謝をしてほしい、そんなことは竹山ともども微塵にも思ってはないが、手渡した現金をひったくるようにして受け取られると気分はいいものではなかった。

「でも、田中さんって、女にぜんぜん怒らないんですね」
「そう?」
「けっこう女にひどいことする人って聞いたんで、すぐブチ切れるとおもってたんですけど」
「はははっ、誰がそんなこといってるの」
「村井さんが、あのヒロシさんからきいたみたいですよ」
「ろくなもんじゃないな」

酒が好きで、飲むとよく話す竹山だった。
ウーロンハイをぐいぐいと飲んで、とろ目となって、口元からだらしがなく定食のチャーハンをこぼしている。

「正直、店の女ってイラってするときあるじゃないですか」
「まあね」
「ユウカだって、約束があるなんていっても、あれホストにいく約束ですよ」
「だろうな、今の時間だからな」
「でも、田中さん、うんうんって聞いているじゃないですか。辛抱強く」
「そうかな」
「我慢してるんですか?」
「まあね」

実のところは我慢はさほどしてない。

30歳を過ぎてから女の子に対して変わってきたのは、わがままを言ったり、ムキになったり、イライラしたりする姿も可愛らしく感じるようになったことだった。

場合によっては、うっとりしてしまうときも。
しかし、うっとりを女の子に感づかれるのは気恥ずかしいし、なによりも店長としてはそれではいけない。

在籍女性の管理方法とは?

混む店の店長というのは、女の子には厳しさがある。
つぶれる店の店長は、女の子と仲良くしすぎる。

それはスカウトでわかっていた。
だから店長としては、スパルタでなければと意識はしていた。

「僕は、女の子に怒るのって苦手なんですよ。土下座はできますけど」
「うん」
「村井さんは、言い過ぎてしまうんですよねぇ。それで、女がよくトビになったんで」
「そういってたよ」
「なんで、ここってときは、田中さんにガツンとやってほしいんですよねぇ」
「うん、村井くんもいってた。でもな、オレだって言い過ぎるかもしれないな」
「そうですか?」
「言ってるうちに、自分で盛り上がって言い過ぎるってやつだな。それでいつも後になって、しまったぁってなるから」
「大丈夫ですよ。田中さん、やさしいじゃないですか」
「やさしくはない」
「やさしいですよ」
「あまり、やさしすぎてもダメだろうし」
「いや、いいんですよ。だから、たまに怒ったときに効くんじゃないんですか」
「そこまでは計算できないな」

怒ると叱るはちがう、と識者はいう。
怒るは下級で、叱るが上級との位置付けがされているようでもある。

しかし、女性を扱う仕事には、たとえ下級であろうと怒るのも有効なのは確かだった。

「んで、田中さん」
「んん」
「僕と村井さんの場合は、もし女を怒ってほしいときは、僕が村井さんに話まわしているんです」
「んん」
「で、タイミングみて村井さんがガツンというんです。その後のフォローは僕がやるんで。怒りっぱなしだと、すぐにトビになっちゃうんで」
「うん」
「なんで、田中さんとのときも、僕も話まわしますので、そのときは田中さんからガツンとやってもらえますか?」
「いいよ」

口にはしないが、もっと店の女の子に怒って見せたらどうか、とも竹山は言ってきている。

ラストの客でユウカがふて腐れたときには、自分がガツンと怒ってみせたほうがよかった。
頭ごなしであっても。

そうすれば、竹山の土下座のお願いも通じやすかった。

現金を受け取るときのふて腐れた態度にも、自分からガツンと一言あってもよかった。

『オマエがダメでもほかにも女はいる』という強気の態度を見せなければ、女の子は言うことを聞かない。

理不尽であっても、怒ってみせたほうがよかった。
店長は嫌われ役をしなければいけないんだ。

「で、田中さんのほうでも、女に怒るときは突然じゃなくて、こういう理由でこんな感じにいまから怒るって、事前に話まわしてほしいんです」
「うん、わかった」
「おねがいしますね。そうればフォローも効きやすいんですよねぇ」
「でもな、なんでもないところからガツンと怒るって難しいな、なにかこう、怒る気持ちが盛り上がってこないとな」
「あぁ、わかりますよ。でも、うまいことおねがいしますよ」
「んん」

自分の中では、女の子に怒る基準はあった。

言わなくてもわかる女の子、言えばわかる女の子、言ってもわからない女の子がいる。

言わなくてもわかる女の子は、なにがあっても絶対に怒らない。

むしろ、我慢して頑張り過ぎているので「がんばらなくていいよ」とこちらから声をかけてあげる。
このタイプは、風俗の女の子に目立つようである。

良くいえば、心根が優しいというのか、敏感で繊細というのか、感受性が強いというのか。
ある人から見れば、バカで鈍くさくもなる。

2番目の、言えばわかる女の子は「がんばろうね」と期待をかけて、それが出来たら大袈裟に褒めてあげる。

3番目の、言ってもわからない女の子には怒らなければだ。
それがユウカだとわかっていても、ぱっと切り替えるのはできないものだった。

風俗店の男性従業員は使い捨てが基本

竹山はウーロンハイに切り替えた。

すすったラーメンを口元からこぼしながら、また同じことを繰り返した。

「でも、田中さん」
「んん」
「うちのオーナーは、ホントに良心的ですよ」
「オレもそうおもってるよ」
「じゃ、がんばりましょうよ」
「がんばってるよ」
「ホントにオーナーは良心的ですよ」
「だから、オレもそうおもってる」

オーナーは良心的だと繰り返している。

風俗店の男子従業員として、いくつかの店舗で働いたことのある竹山だった。

前の店では売上のごまかしが頻発していて、売上を持ってトビとなる男子従業員も度々いた、とも以前に話していたこともあった。

一部なのはわかっているが、トラブルが絶えないのが風俗店のようでもある。

風俗店オーナーが、ニュースで騒がれる事件を起こしたりもしていた。

風俗店の店長が、金銭目的で男子従業員に刺殺された事件もある。

「だいたいの風俗店のオーナーって、男子従業員なんて使い捨てだとおもってますからねぇ」
「いるな」
「そういうのって、見ればわかりますからねぇ」
「そういう店は、スカウトなんかもクズ扱いだからな」
「そうですよね」
「こういう目、クズがきたって、目の底のほうで見る目」
「僕の前にいた店のオーナーは、男子従業員なんてゴミを見る目ですよ。こう目を薄くして端っこで見る目ですよ」
「ん、ある」
「話すのだって、ゴミと口きいてやったっていう感じですよ。信用なんかしてませんしね」
「うん」
「いま、僕が生活できてるのも、オーナーがここまで信用してくれてるからですよ」
「んん」
「それなんで、田中さん、がんばりましょうよ」
「がんばってるよ」
「ほんと、がんばりましょうよ」
「だから、がんばってるって」
「ホントにオーナーは信じれる人ですよ」
「だから、オレもそうおもってるよ」
「風俗のオーナーで、こんな人いないですよ」
「だから、わかってるって」

オーナーには、人を利用してやろうという態度がなかった。

そういう態度は少しでも見えればわかるものだが、オーナーにはそれが全くなかったから、自分も名義人を引き受けたのもある。

人を見下すというところがなかった。
いくら鈍感な自分でも見下されればわかるものだが、オーナーにはなかった。

風俗店の男性従業員の給料の詳細

ちなみに、村井も竹山も給料は50万。

よく耳にするのが、風俗店の男子従業員は高給というイメージ。

だが、実際はどうだろう。
男子従業員の4人の勤務体系は、朝9時30分から早番で2名。
遅番の2名が17時に出勤して、申し送りをしてから早番の2名は17時30分に上がる。

遅番は25時が終業の目安。
勤務時間は、早番も遅番も8時間が定時となっている。

休日は週1日のみ。
日、月、火、水で1人づつ休日をとり、木、金、土は全員出となる。

となると、1人づつ休日をとる曜日は3人体制となる。
なので1人が『通し』の勤務をやる。

9時30分のオープンから25時過ぎのラストまでの、15時間30分の勤務だ。

もちろん通しには休憩はいれて、様子をみて個室で横になりはするが、そんなときに限って客が混み合う。

重なるようにして面接の電話がきたして、そうもじっくりと休んではいられない。
状況によっては、休憩なしの通しにもなる。

ここでよくよく勤務時間を計算してみる。

定時が8時間で週イチ休みの週イチ通しだと、週間で55.5時間、月間で224時間となる。

そして、給料50万を224時間で割ると、約2,232円。
時給換算すると、2,200円なのだ。

給料40万の小泉となると、時給換算で1,700円となる。

一切の税金は払わずで、そのかわりに社会保障もなしで、摘発となると収入は途絶えるのを考えてみても、決して待遇はよくない。

取り立てて高給でもはない。

たしかニュースで、東京都の最低時給が710円と聞いた。
それと比べると高給ではあるが。

客単価の把握は常にしておく

風俗店の男子従業員の実態は、日給月給の長時間労働者であった。

決して待遇はよくない男子従業員だが、この店に限っては、ひとりひとりがやってやろうと意識はあった。

「でも田中さん、今日の客単9300って、なかなかの記録ですよ」
「今まで9000こえるってなかったんじゃない?」
「ええ、初です。オープン以来」
「1000アップが効いたのか」
「この様子だと、来週の週末も1000アップでいいかもしれないですね」
「けっこう、こぼしたからな」

客単価が、いちばん気にする数字かもしれない。
目安としては8,000円を切るとまずい、8,500円以上だったら上々。

バカをいいながら、ふざけて受付しているようでも、営業中はこまめに伝票をめくり電卓を叩いて、暫定の客単価が幾らなのか出していた。

その数字はリストの余白に記入されて、口頭で伝え合ったりして、常に把握するようにしていた。

客単価を把握してどうするのか?

8,000円を切らないように受付していくのだった。

例をあげてみる。

まず1人目の客を45分写真指名込み14,000円で受付したとすると、女子バック6,500円を引いて、店落ちは7,500円。

2人目の客を45分フリー12,000円で受付したとすると、女子バック6,500円を引いた店落ちは5,500円。

通算の客単価は7,500円プラス5,500円割ることの2でイコール6,500円、と下がる。
8,000円からはどんと落ちる。

そしてまた、3人目で45分フリーの12,000円で受付したものなら、客単価は6,500円プラス5,500円割ることの2イコール6,000円、とさらに下がる。

成り行きで客を受付してると、客単価は7,500円から6,500円となり、それが6,000円と下がっていくときもあるのだった。

客単価は、1度でも下げると後が大変だ。
元の数字への回復がなかなかできない。

なのでプロフィールに目を巡らせた客が「この中からだったフリーでおまかせします」と、あっさりとフリーとなっても、客単価によっては「この子を指名したほうが絶対にいいです!」と写真指名料の2000円はとるようにしていた。

それでもフリーとなってしまったら、次の客からは60分コースを推して、回転よりも客単価を上げるように試みる。

実際は、女子バックから引いた雑費分が店落ちに上乗せされるので、正確な客単価は締めをしてから出るが、概算の客単価は8,000円は切らないように受付はしていた。

あとは客単価を把握していると、その日の店落ちの見当が早めにつく。

客単価に入客数をかけると店落ちになる。
これから入客が、この人数あるとすれば、そしてこの客単価を落とさなければ、今日の店落ちは目標の金額にいくなとペースがつかめる。

平日であったり、女の子の出勤が3人か4人だったりして、このペースだと1日の目標金額にいかないとなると「これ以上こぼしはできないな」とか「なんとかこの客は60分でいれよう」と受付してる間は声もかけ合った。

売上の目標は月間900万

現場の4人は、店落ちの目標金額を、1日30万としていた。

オーナーのいう月間店落ちの目標金額900万を受けて、自主的に設定した1日30万の目標金額だった。

月間店落ち900万は、決してノルマではない。
それらの数字を達成したとしても、何かあるわけでもない。
だけど、月間900万は越えてやろうと励んだ。

『店落ちが上がれば皆の給料をあげる』という約束をオーナーは口にしているが、それだって900万を超えたからといって、すぐさま給料が上がるわけではないとはわかっている。

未達だったとしても、オーナーは何もいわないし、やはり何かあるわけでもない。

オーナーの方針は、それらの数字を全てオープンにして、現場の1人1人がどうやればいいのか自ら考えて店舗の運営をしてくださいというもの。

隠されるよりも明らかにされるほうが、やってるこっちも面白味があった。

なによりも、信頼されて任されているのを現場の4人とも意気に感じてもいたので励んだ。

自分も月間900万を超えたら、その分くらいは遠慮なく旨いメシを腹いっぱい食べさせてもらい、気持ちよくいい酒を飲ませてもらえば十分だと思っていた。

九州ラーメンを出た。

竹山は、大久保までママチャリで帰る。
「がんばりましょうね」とママチャリにまたがり、ヨロヨロしながら帰っていった。

– 2018.10.11 up –