高収入求人誌の反響は増えていた


問い合わせが20件以上の面接が5名という反響

歌舞伎町浄化作戦は飛び火した。
去年の夏から年末までの間、埼玉の西川口でも違法営業の風俗店の摘発が続いていた。

都内近郊の一帯で、風俗店が急激に少なくなった時期だった。
歌舞伎町と大久保を合わせたエリアでいえば、1年前の半分以下の店舗数となっている。

となると、高収入求人誌の広告の反響にも変化がある。
発売日からは、問い合わせの電話は増えていた。

「お電話ありがとうございます。岡田観光グループ歌舞伎町本店、田中がお受けいたします」
「あの・・・、ユカイをみたんですけど・・・」

もちろん、岡田観光グループなども、歌舞伎町本店なども、この瞬間しか存在しない。
さも全国展開してるグループかのように、なんとなく詐称していた。

言ったところで、どのような効果があるのかはわからない。
広告の紙面は店舗型のときとほぼ同じで、電話番号だけが変更しているだけだった。

「ありがとうございます。それでは面接をし・・・」
「あの・・・」

対応で変ったことは、すぐに面接の予定を決めるようになったことだった。
今までは急ぐ素振りを見せれば「ちょっとかんがえます・・・」と逃げられることもあったので、丁寧に「ご質問や要望があればどうぞ」などとワンクッションを入れていたが、問い合わせが増えたことで対応もショートカットに変ったのだった。

「はい、だいじょうぶです」
「そちらは店舗型ですか?」
「いえ、受付型となってます」
「そうですか・・・」
「はい、だいじょうぶです!」
「じゃ、いいです」

確かめるだけ確かめると、あっさりと電話を切られた。
すでに、5名ほどは同じような問い合わせと反応があったが、それでも惜しくも感じないほど反響は増えていた。

発売後1週間で、およそ20件ほどの問い合わせがあって、相変わらず「はい、だいじょうぶです!」は繰り返す対応をして、面接にきたのが5名といった状況だ。
半年前と比べると、およそ倍である。

ちなみに『そちらは違法営業ですか?』といった善良な問い合わせは、後にも先にも1度だってない。
たとえ善良な女の子であったとしても、そこは全く重要ではなかったのだった。

高収入求人誌の《バンスあり》はいくらまでか?

問い合わせは、経験者からが増えているようである。
風俗歴が長い経験者が、これからのシステムである受付型を嫌がっていた。

店舗型と比べると、受付型は手間がかかるのだ。
移動して脱衣してプレイになって、終わればまた着衣をして退室しなければならない。
手間がかかるだけでなく、稼ぎも今までよりも落ちるのは誰だって予想がついた。

また電話が鳴る。

「お電話ありがとうございます。岡田観光グループ歌舞伎町本店、田中がお受けいたします」
「ユカイをみたんですけど」
「ありがとうございます。それでは、面・・・」
「28歳ですけど、だいじょうぶですか?」
「はい、だいじょうぶです!」

また、かぶせて訊いてきた。
求人誌の広告には《 年齢 : 18歳~28歳位 》と記載してあるが、年齢だけで落とす落とさないはない。
28歳でも20代前半に見えるのもいるし、28歳でも30過ぎに見えるのもいる。
見た目次第でとしかいいようがない。

「バンス(前借り)はできますか?」
「はい、だいじょうぶです!」
「え、だいじょうぶですか?」
「はい、だいじょうぶです!」

本当は大丈夫じゃない。
高収入求人誌の広告では、ほとんどの店が《 バンスあり 》と当たり前のように記載してあるが、ソープは別にして、ヘルスではバンスなどはしてなかった。

「いくらくらいまでだいじょうぶですか?」
「はい、面接してから決めてます」
「かならず借りれますか?」
「はい、だいじょうぶです!」

もし20万をバンスしたいといわれれば、とりあえず面接にこさせてから『じゃ、3日ほどがんばろうね』となるだけ。
50万だったら『じゃ、1週間ほどがんばろうね』と入店させて、スパルタでいけばいいだけ。

健全な生活をしている女の子だったら、今すぐにお金がなければどうかなってしまうという状況には、なかなか至らないものだった。

なにがなんでも今すぐにと食い下がってくる女の子あたりになると使い物にならない。
わるい男の類がくっついている。

「あの、100万って・・・」
「・・・」
「だいじょうぶですか?」
「はい、だいじょうぶです!」

今回の発売の問い合わせで、バンス希望者がこれで3人目だ。
うちは金貸しじゃないと、ぶった切ってやりたい。
くそう・・・と歯軋りするが、とりあえず面接だ。

とりあえず面接をして、やはり使いものにならなければ『今、本部に確かめたら枠がいっぱいだった』などと、わけがわからない理由をつけて『ごめんね』で面接を打ち切って帰せばいい。

「そちらは店舗型ですか?」
「はい、受付型です」
「受付型ですか・・・」
「はい、だいじょうぶです!」
「・・・」

なにが大丈夫なのか、よくわからないのだろう。
つい、言ってやったら無言になっている。
ともかく、28歳は受付型と知りトーンダウンしている。

28歳の経験者の100万のバンス希望。
どうせ、ホスト通いのカケが払えないのだろう。
微かに徒労感が沸いてきて、こっちがトーンダウンする。

その隙をついて、また確かめてきた。

「稼げますか?」
「はい、だいじょうぶです!」

受話器を握った自分は、直立して少し斜め上を向いていて、なぜか笑顔で返答している。
ひきつった笑顔ではあるが、トーンダウンは少しは解消できている。

「じゃ、今日って面接ってできますか?」
「はい、だいじょうぶです!何時くらいですか?」
「今、セントラル通りにいるんですけど」
「では、コマ劇のタバコ屋わかりますか?」
「わかります」
「では、その前で。お迎えにいきますので」
「はい」
「お名前を・・・」
「新井です」

受付型ヘルスでも仕方がない、というような新井さんだった。
とりあえず面接といっても、無駄になりそうな気がしてるが、対応する声だけは張り切っていた。

「じゃ、新井さんですかって声をかけますんで、それ以外の人にはついていかないでくださいね」
「あ、はい」
「なにか、目印になるようなものってありますか?服装とか持ち物とか?」
「ええと・・・、ビトンのバッグです」

おおよそ適当さがある対応ではあるが、この店が・・・ではなくて、ほとんどの店が・・・でもなくて、風俗の求人広告というものがそういうものだった。
知らないほうに非があるという態度もできたし、なんら後ろめたい気持ちはない。

どうにもならない面倒な女の子だったら軽く面接して落とせばいいだけという特殊な無責任さが、慣れてくれば快い。

面接の採用基準は状況で上げたり下げたりする

歌舞伎町にはあれだけ風俗店があった中で、当局に許可されている店舗型ヘルスは、たったの8店舗のみ。[編者註79-1]
新規に許可はでないので、減ることはあっても増えることはない。

それらの許可店の店舗型ヘルスでは、どれだけ面接が集中しているのだろう。
採用基準のハードルが上がっているのは、島田や遠藤からも、面接をした女の子からも聞いていた。

問い合わせの電話をしたときには、逆に細かく質問されて、採用基準を1点でも満たしてなければ面接を断われるのだった。

『講習はちょっと・・・』と質問に口ごもった時点で『それでは入店できません』と電話を打ち切られた女の子もいた。

『タトゥは指にワンポイントだけあります』と質問に応えた時点で『タトゥがあるとムリです』と電話を打ち切られた女の子もいた。

『週イチのバイトで』と伝えたとたんに『バイトでは入店できません』と断られたという女の子もいた。

その面接落ちの次に、この店の面接にきたのが癪ではあるが、なんといっても許可店にはかなわないのでよしとしよう。

すでにセントラル通りにいる新井さんも、今から面接をというパターンからすると、すでに店舗型で面接落ち、いや、面接に至らずに電話を打ち切られた後の率が高い。

その新井さんらしき28歳は、コマ劇のタバコ屋の前に立っていた。
ビトンのバッグだから間違いない。

女の子は25歳を境にして、劣化の具合に個人差が大きくなる。
最初に物陰から、どの程度の28歳なのか、見てくれだけは確かめようとしたのに、新井さんは気配に感ずいて、ずい分と遠くから先手を打つようにしてぺこりとしてきた。
じっくりと考える時間が欲しかったのに仕方がない、自分もぺこりとして歩を進めた。

「こんにちわ。新井さんですか?」
「はい」
「さきほどの田中です」
「あ、はい」

28歳といえば28歳。
ぽっちゃり、いや、太っては見える。
が、太っているといってもいろいろある。
服の加減もあるし、巨乳だって太って見える。

体系的な分類をすると、骨太系のガッチリ型もあるし、アスリート系のムッチリ型もあるし、熟女系の皮下脂肪型もある。[編者註79-2]
新井さんは、不摂生系の内脂肪型か。

いや、格闘技系からくる力士型か。
首がない。
肩の筋肉なのか、その盛り上がりに首が埋まっている。
また笑むと目が細くなるのも力士型を感じさせる。

そうなると、可愛いはずのクリンとしたおでこの形まで力士型を感じさせてくる。
脱いでも太っているのが想像できる首回りだった。

もちろん見た目だけで決めるのは、風俗の店長としては拙速すぎる。
できればしたくない。

見た目は並かそれ以下の女の子でも、人気がでるパターンはいくらでもある。
以外と写真が映える女の子だっているし、見た目が落ちるのを愛嬌とサービスでカバーできる女の子だっている。
先入観なしで、個人的好みもなしで、判断は慎重にしたい。

高収入求人誌で多くを在籍させたいので採用基準は低くしている

面接してから決めるか。
店だったら、第3者の採用基準も参考にできる。
なにか秘めているぽっちゃり程度だったら、1人か2人くらいは在籍でもいい。

「じゃ、お店、こっちなんで」
「あの、店長さんですか?」
「ああ、そうだね」
「でも、なんなんですか?」
「え、なにが?」
「浄化作戦って。あの石原でしょ?ちょうめいわくじゃないですか?」
「まあね」
「女の子のこと、なにもかんがえてないよね。店舗でないと危なくないですか?」
「まあね」

明るいというか気がいいというのか、悪くいえば慣れなれしい新井さんだった。
多くの風俗の女の子は、店にいるときと以外のときでは異なる顔を持ち合わせているものだけど、長年の経験がある新井さんの場合は表裏一体化している。

そんな新井さんが笑ったが、突飛もなく、声はしわがれ気味だった。
このタイプ、ガハハ系の風俗嬢か。
こっちが気を遣ったりしても、なにが楽しいのか、ガハハと笑いながら接してくる。

ちっとも面白くないことでも、ガハハとなって『ちょうウケる~』などと手を打ち、足をだだだっと踏み鳴らして笑う。
黙っていれば、ガハハと笑いながらよくしゃべってくる。

ガハハ系はサービスは期待できない。
自分は鬱々とするばかりなのに、すでに新井さんは、お友達口調となっている。

「でも、受付型で稼げるの?」
「女の子次第かな」
「5万は稼げる?」
「ウチの在籍のコは、それくらいは稼いでるよ」
「あーあ、わたし・・・」
「・・・」
「17歳で風俗はじめて、そのころはいっつも100万くらいは財布にはいっていたのに」
「そうか」

判断は慎重にしたいが、断るなら早いうちがいい。
店に連れていってからだと、やはりどうも面と向かっては断りきれなくて『本部のシフト担当者から電話します』といったまどろっこしい断りになってしまいそう。

「バンスって100までなの?」
「ちなみに早番?遅番?」
「遅番」
「週に何日でれるの?」
「うーん、5日。でも金曜日と土曜日はムリ」
「どうして?」
「約束があって」
「ホストでしょ?」
「うん」

1月が半ばを過ぎる。
年末年始ほどの入客はない。
まだ20名足らずの在籍だが、シフトは組めてはいる。
面接の基準は上げてもいい。

「バンスもホストのカケでしょ?」
「あ、バレた?ぐぁはははっっっ」

それに、遅番希望の経験者は多いので、ガハハ系程度は落としてもどうにでもなる。
花道通りに差しかかるところで足を止めた。

「でね、新井さん」
「うん」
「ちょっと、お店の雰囲気に合わないので、今回は見合わせてください」
「・・・」

すっかりと、今から面接して体験入店すると思っていたのか。
いきなりの路上での面接落ちに、言葉に詰まっていた新井さんだったが仕方がない。
今のうちにはっきりと断るのが、お互いの時間のためだ。

「うちは素人系なもんで」
「・・・」
「じゃ」
「・・・」

これで、高収入求人誌の広告で、4名を面接落ちにした。
連続してである。

高収入求人誌からの入店コストは、長く在籍すればスカウトと比べて安くなる。
どれだけ在籍しても、広告の掲載料金は月に357500円の固定。
対してスカウトだと、人数が増えれば月々の支払いがそれよりも高くなる。

高収入求人誌からは多くを在籍させたいので、採用基準は低くしているつもり。
その上で、4名を連続して面接落ちにするなど今までにないことだった。

他店で面接落ちした女性には強気の面接となりがち

高収入求人誌の広告では20件ほどの問い合わせがあって、5名が面接にきて、4名が面接落ち。

ガハハ系の新井さんに。
どうしても今すぐ200万が必要なんです、と切羽詰まった松浦さんに。
とりあえず150万バンスできなければ入店しない、という顔が歪んでいた岩崎さんに。
あとは、今から5万は稼ぎたい、と21時になってから面接にきた巨体の川崎さんの4名が面接落ち。

面接落ちの女の子
面接落ちとなった川崎さんはガハハ系でもあった

残りの1名が、20歳になったばかりの風俗未経験の早番希望者。
問い合わせの電話があった翌日に面接にきて、ソファーに座っている彼女は、薄い化粧の色白でキューティクルな黒髪。
肉感がない細身で、脱がせばおっぱいは B カップあたりか。
早番の風俗客には好まれるタイプだ。

イオンのパンコーナーで働いていたというが、貧血気味で、立ち仕事が続かなく辞めましたとのこと。
千葉の船橋市の実家から通い、お金を溜めて、都内で一人暮らししたいですとも。

ラブリーの前に、店舗型ヘルスの面接を受けたのだが「店の雰囲気に合わない」ということで落とされてもいる。

その店は、プロフェッショナルな派手めのお姉さん系がカラーなので、彼女では落とされるだろうなと納得できた。

「無理しないでやってみよう」というと、おそらく前職の売り場で見せていただろう接客用の笑みを丸出しにして「はい」と心地いい返事する。

女子バックの説明をして、従業員名簿の用紙の記入を終えて、誓約書への署名を済ませた。
ほかの店で面接で落とされたあとの女の子は卸しやすい。

「今日は体験入店でいいね」
「はい」
「じゃ、面接であれこれ説明するよりも、講習で教えるからね」
「・・・」

早い段階で、講習を告げてもみた。
さらりと当然のような講習の一言に、はっとして目を大きくしたあとは、顔を伏せて無言まま。
頬が赤くなっている。

勝手に妄想が先走ってもらっては困る。
とはいっても、つい、軽く言葉責めしてしまう自分だった。

「オレが講習をするから」
「・・・」
「もちろん、お互いに脱いでやるからね」
「・・・」
「全部」
「・・・」

彼女は顔を伏せたまま、返事はなにもない。
広告には《 講習はないよ!》とポップな字体で記載はされているが『ホントは講習はあるかも』と予想して面接にきたのはわかる。
了承した無言のうつむきだった。

源氏名を決めるのだけは適当ではない

ポラロイド写真を撮るとなかなかいい。
3枚撮ってみたが、どれも使える。
講習を告げられたあとの緊張の笑みが、ポラロイドの暗いタッチに相まって撮れている。

彼女はプロフィールを用紙に手書きしていて、これでもう面接は終わるのだが、その前に源氏名を決めておかなければ。

「店の名前だけど、なにか希望はある?」
「いえ、とくに・・・」

ポラロイド写真を見たときに、候補の名前は浮かんでいた。
前職が総合スーパーで、色白の細身の19歳の未経験つながり。
本名はノゾミで、初めての店の源氏名がエミリ。

「じゃ、オレがつけるよ」
「はい」
「ノゾミは?」
「はい」
「え、いいの?」
「はい。いいです」
「じゃ、ノゾミにしよう」
「はい」

あっさりと名前が決まった。

小沢のぞみをスカウトしたのは、もう5年ほど前になる。[編者註79-3]
無修正動画の現場に入れ込んでからは、携帯も解約されて、スカウト通りで姿を見ることもなくなったのだが、今頃はどうしているのだろう。

そんなことより面接だ。
『このコはノゾミ、あのノゾミ、いいコなんだ』と念じると、優しくできる気がした。

– 2023.6.30 up –