AVスカウトの実際


スカウトに偶然はついて回る

午後のスカウト通りに向かったのは、一週間後。
店の再オープンの準備もあったが、もう1度は遠藤にスカウトを教える必要もあった。

遠藤からも「あと少しだけ教えてください」と電話が1回だけきていた。
島田はスカウト特需に追われている。

女の子からの電話やホストの紹介からの面接で動いていて、スカウト通りに毎日は出れなくて、遠藤の様子ばかりみてられない。

あれからの遠藤は、3日間連続でおっパブに計3名の面接をして入店させたとのこと。

谷口はというと、相変わらずスカウト通りにきては立って眺めてるばかりで、それでも1時間に5人か10人ほどは声をかけて無視されると凹んでいる、と島田は苦笑いで話してもいた。

谷口はともかく、これから遠藤がスカウトするだろう女の子は、どの店よりも優先して面接に連れてきてほしかった。

顧問料を払っている島田とは、他のスカウトからの面接の申し入れがあった場合、すべて島田を通す取り決めはしてはいた。

スカウトバックも一括して島田に払い、彼はそれぞれに割って払うようにはなっていたが、遠藤だけは店と直接やり取りすることにも決めた。

西向天神社の石段を下りた。
暑い寒いも彼岸まで。
これからは寒くなるだけだった。

通行人がまばらなスカウト通りでは、谷口は主のように立っていた。
遠藤はというと、街路樹の根本にへたりこむように座っていた。

気落ちしている。
わかりやすいヤツだった。
自分に気がつくと立ち上がって、バツが悪そうに挨拶してきた。

「3人、おっパブに入れたんだって」
「はい」
「もう、できるな」
「あ、はい」
「ウチの店も頼むよ。島田君からきいた?スカウトバックの条件」
「はい、・・・でも」
「どうした?」
「その店に入れた3人も偶然の気がして・・・」
「いいんだよ、それで」
「田中さんは、この女、AVや風俗やるなってわかるんすか?声かけたときに」
「いや、まったくわからん。声かけてからは、ほんと偶然だよ。それこそ」

スカウトに偶然はついて回る。
偶然は、強力な援護もしてくれる。

たまたまスカウト通りを歩いた、初めて歩いてみた、つい立ち止まってしまった。
前の店をやめたばかり、彼氏と別れたばかり。
などなど話しているうちに偶然は見つかる。

ただ、偶然にスカウトできたとなるまでに、1歩2歩と踏み出しての繰り返しがないと、偶然すら降りかかってこない。

3人とも偶然にスカウトできたとは、理想の状況である。

モチベーションは必要ない

3日間で3人の面接が続いたのなら、もう、偶然ではない。
実力となる。

4人目も間もなくだ。
しかし、遠藤は肩を落としている。

「どうした?」
「もう、3日間、あがってないんす」
「丸3日間か、そんなときもある」
「でもなんか、手ごたえがなくて」
「それで、へこんでるんだ」
「はい、やっぱり、あの3人は偶然だったのかなって」

傍らにいた谷口が歩を進めた。
女の子に手を挙げて近づいて、1言2言の声をかけている。
彼が、ここまで堂々と声をかけているのをはじめてみた。

「1日に何人に声かけた?」
「昨日は、100人は越えていたとおもうす。数えてはないすけど」
「足を止めたのは?」
「10人以上はいたっす」
「それで、手ごたえっていうか見込みがいなかった?」
「はい」
「あがってない日は、どのくらい声かけた?」
「うーん、1日目は30人いくかいかないかす、2日目は50人は超えたっす」
「足を止めたのは?」
「1日めは5人ほどと、2日目は7、8人くらいす」
「それで、手ごたえがないってことは、なにか間違ったことをやってんな」
「・・・」

まずは、動作がチグハグになってるとは思う。
手の振りと姿勢と歩調と口調のリズムが狂っている。

焦りか。
焦りで、前屈みのバタバタ歩き、いきなり近づいての早口にも知らずになってるかもしれない。

「やり方を変えないといけないな」
「なにを変えるんですか?」
「変えるというか、元に戻さないと。発声練習を、もう1回やってみ」
「はい」
「それと気分かな?」
「気分ですか?」

傍らに戻っていた谷口が、「モチベーションを上げるんですね」と呟いて、腕を組んでうなずいている。

スカウト評論家でもある谷口が解説すると、余計に難しくなってくるようだ。

「モチベーションでも気分でも、ムリに上げるのは必要ない」
「はい」
「上げたものは、また下がるからさ。そんなことやってたらつかれる。もっと自然に」
「自然すか」

やってることも話すこともいつも通りなのに、連続してスカウトできる日がある。
知らずにリズムにのれていて、気分がよくなっているのだ。

大事なのは、その場のリズム。
モチベーションでも、テンションでも、自身の中で先に気分の類を上げるとリズムにのりずらくなる。

「1日、2日だったらともかく、3日も4日も手ごたえなしだと、やっぱ、オレもへこんだな」
「そうすよね」
「オレ、ダメなのかなっておもうけど、その気持ちを変えないと女に伝わって逃げられる。AVだとか風俗だとか関係なく」
「・・・」
「この女がダメでも、ほかにもたくさんいるんだって気持ちで、ビシッとズバッとバシッといかないと」
「・・・」
「自信を持って、オレにまかせとけって感じで、おもいきりよくいかないと女はついてこない」
「・・・」

とはいっても、自信があるのとスカウトできるのは、ニワトリと卵の関係で、どっちが先かわからない。

自信があるからスカウトできるのか、スカウトができたから自信が湧くのか。

リズムとか、自信なんていう、目に見えない曖昧なことではわかりずらい。
なんていえばいいのだろう。

根拠は自分の数字

根拠はなんだろう、と少し考えた。
やはり数字だと思い至った。

「もっと数字を意識してみ」
「数字ですか?」
「自分の数字を持つんだよ、なんでも」
「数字っていっても、おれ、数字とか苦手なんす」
「オレだってそうだよ。足し算と引き算と九九はできるだろ?」
「できるっす」
「じゃあ、問題ない」
「そうすか」

どんな数字でもいい。
ただ人から聞いた話とか、頭だけでひたすら考えて出しただけの数字だと、自分の数字とはいえないかも。

今の遠藤だったら、必ず自分の数字が見つかる。
回数でも、人数でも、日数でも、時間でも。

数えれるものは、なんでも数えてみる。
当たった回数もそうだし、立ち止まった人数もそうだし、話を聞いた人数もそうだし、番号交換した人数も。

計れないものは、計れるようにしてみる。
時間を見込みの人数で割ってみてもいいし、当たった人数を番号交換した人数で割ってみてみてもいい。

実地に動いて得た数字は密度が高い。
そういう自分だけの数字を持つ。

「このまえもいったけど」
「はい」
「オレの場合だと100人に当たれば10人の見込みができて、その10人の中からは1人はAVをやって、3人は風俗っていう数字を持ってるけど」
「はい」

イケメンだったり、話題が豊富だったり、女の子の扱いが達者な人だったら、この倍はいけますって言うのかもしれない。

それでも自分は、ぱっとしない顔面と風体に、つまらない話し方に乏しい話題で、不粋な女の子の扱いで、この100の10の1という数字がある。
これ以上も以下もないと信じてもいる。

「この数字が不思議でさ」
「はい」
「ある日さ、ここにきて、すぐに1人目に声かけただけなのに、その1人がAVやることになったこともあるけど」
「そんなこと、あるんですか?」
「うん、以外にある、最初の1人目って。2人連続ってのもある」
「へえぇ」
「でさ、100発100中でしょ?」
「はい」
「もう、これはバンバンいけるなって勢いついても、次からはさっぱりで、次の日もさっぱり、その次の日もダメ」
「ああぁ」
「必死こいて10日目近くになって、やっと事務所(AVプロダクション)に連れていくことができてさ」
「はい」
「そんなことを1年2年3年と繰り返して、数字を見返してみると、なんだかんだで100人に10人に1人ってペースになってるんだよ。不思議なことに」
「不思議すね」
「要は、女があがるあがらないは、ばらつきがある。大きくばらつく。間もあくときもあれば重なるときもある。そんなに順序良くはあがらない」
「はい」
「だから、自分の数字でペースを計ってみる。というか、自分の数字を追いかける。それがペースになる。モチベーションなんて変える必要がない」
「・・・」

数字は収束する。
やればやるほど、100人に10人に1人に近づいてくる。

スカウトに秘策はないが、あえて秘策らしきものを挙げるとすれば、この100人に10人に1人という数字になる。

時間の使い方

まったく上がらない3日間で、1日目と2日目に1人づつ、計2人の見込みができたと遠藤はいう。

詳しく聞いてみると、1日目は風俗の帰りがけの女の子が1名。

2日目はおっパブの出勤途中の女の子が1名。
両名ともイタトマにいってお茶をしたのだった。

「女とお茶してたから、100人まで当たらなかったんだ」
「そうす」
「なにが間違ってるかっていうと、時間の使い方が間違ってるな」
「・・・」
「まず、今の遠藤は、広く浅く当たる時間を持ったほうがいい」
「・・・」

座って話せばどうこうなるものではない。
路上で見極めないといけない。

この前、自分がわかなを連れていったのを見て真似たのだろう。
あれは失敗例なのだ。
でも、そこは言えない。

「なんでもかんでも、時間かけて話せばいいってもんじゃない。最初の5分くらいでダメだなって感じた女に、そのあと1時間かけて話しても時間のムダになる」
「・・・」
「1日目の、話聞くだけだったらいいよっていう現役の女は、お茶はいらなかった。後回しでいい」
「・・・」
「風俗やってるのにおっパブの話きくなんて大したことない。今の店かせげないぃぃとかいってなかった?」
「いってたっす」
「その程度の女だったら、またすぐにつかまる。番号交換してバイバイして、あと70人に声かけるほうをとったほうがよかった」
「はい」
「あと70人に声かけてみて、ダメだったらやめると。それでも、見込みが1人か2人はできていたな。そっちの見込みに期待したほうがいい」
「・・・」

あれっと感じて、無条件で時間かけてもいい感触のある女の子に当たるまでは声をかける。

感触を得れない女の子は後回し。
後日の約束をして、電話番号を交換すればいい。

「2日目だって、50人ほど当たったところで、話だけきくでお茶をしたと」
「はい」
「それも、冷やかしみたいなものだな。お茶する時間がムダ。というか流れが変わっちゃっている」
「・・・」
「目の前の女に飛びつきすぎているな。見切るのができてないな」
「・・・」
「いい、スカウトできるのは、足を止めた目の前の女の子と、今までの見込みの中の女の子からしかできないんだから。その時点で自分の数字を交えて、すぐに判断する。相手がどうのってよりも、自分の数字を優先する」
「・・・」
「正解は、あと50人に続けて当たってみるほうをとったほうがよかった。見込みだって1人が2人はできていた」
「・・・」

目の前の女の子の感触がわからないときは、その日に声をかけた人数と、昨日までの見込みの人数といった自分の数字の面から、時間をかけるかけないの判断もしてみる。

結局は女の子の心の中はよくわからないのだ。
自分の数字を頼るしかない。

トークを変える

ブレてない強引さは少しは通るが、ブレている強引さは跳ねのけられてしまう。

3人の脇を、ヒールの音が通りすぎていった。
考えこんだように黙っている遠藤に代わって、谷口が質問してきた。

「トークを変えたほうがいいのかなっておもったんですけど」
「そうか」

『トーク』だなんて、谷口らしい語句だ。
なんでもかんでも、英語にすればいいってもんじゃない。

でも、遠藤もうなずいている。
2人でさんざんと、ああでもないこうでもないと話したのだろう。

遠藤があがらなくなったのは、谷口の理屈が足を引っ張っているのかも。

「最初に、食いつきがいいようにするのはどうですか?」
「たとえば?」
「普通のパブということにして、あとからおっぱいパブにしてみたらどうですか?」
「いや、いいずらいことは先に言ったほうがいい」

確かに、最初にいいことだけを言って相手の要望も聞けば、話は進むかもしれない。

けど、あとになってから本当の目的を明かすと通らない。

「田中さんは、AVやろうって最初からいうんですよね?」
「んん。AVですけどとか、AVどうっていうな」
「AVっていったとたんに、ダメとかムリってなるんでやりずらくないですか?」
「やりずらいのはやりずらいけど、おいおい、しっかりしてくれよ。やりずらいことをやるから、スカウトバックが高いんだからさ」
「・・・」

動機が弱い谷口だった。
だからブレていく。

これで食っていくという遠藤と、失業保険があるしなんとかなるという谷口の違いだった。

「モデルです、テレビです、とかいってやっていたスカウトもいるけどな。もちろん、うまくいくときもある」
「そうですか」
「でも、手間がかかる。スカウトバックとの兼ね合いだな、そこは」
「そうですか」

場所にもよる。
スカウト通りは耕されているので、目的は先に切り出すほうがいい。

「それに女の子は、話がブレたとたんにひく」
「そうですか」
「話をきかなくなる。最初から、これが目的だったんだって感ずくよ」
「・・・」

ブレてない強引さは少しは通るが、ブレている強引さは跳ねのけられてしまう。

それに、そのブレた時点で違う話が通る相手だったら、最初から切り出しても半々くらいで通る。

やはり、どっちが良いのではなくて、時間の使い方だ。
あれこれと話していたら、1日などすぐに終わってしまう。

ハードルが高いほうを先に話す

教えかたがまずかったのか。
なるべく実地で繰り返して、自身で考えさせるほうがいいと教えたつもりだったが中途半端だった。

遠藤がポツリといった。

「おれも、トークを変えたいです」
「どう、変える?」
「どうしたらいいすか?」
「今は、なんていっている?」
「こんにちわから、お店のスカウトですっていって、で、断られたらAVもどうって」
「変えるもなにも、なにをしたいかがブレているな。女って話がブレると嫌がるし」
「・・・」

突然上がらなくなったのは、遠藤がブレてきているからか。
混乱しているのだ。

2人には、島田がおっパブから預かっている以上は、自分からは余計なことは教えないほうがいいという配慮があったのがいけなかった。

完全歩合のフリーなんだ。
AVスカウトもしっかりと教えたほうがいいか。

それにスカウト通りでは、風俗もおっパブもキャバクラの女の子も通るので、AVだと被らなくていい。

「AVスカウトをやってみるか?」
「はい」
「じゃ、話し方を変えよう」
「はい」

目的が始まりを決める。
教えるとなれば、目的はひとつを示さないといけない。

「だったら、逆のほうがいい」
「逆すか?」
「なんていうんだろ。AVのほうがハードル高くて、おっパブはハードル低いでしょ?女の子からしてみれば」
「はい」
「それなんで、ハードルが高いAVから推していけば、結果、ダメだとしても、じゃ、とりあえず、おっパブでもやろうかってなりやすいし、女のほうからもおっパブだったらってなりやすい」
「ハードル高いほうからすか」

AVを目的にスカウトを始めると、風俗はおまけのようにすんなりと決めることができる。

おっパブあたりは、どうでもいいという態度で決めることができる。
逆に、おっパブを始まりとすると、AVはおまけのようには決まらない。

とりあえずAVでも、とはならない。
AVにはAVの、風俗には風俗の、おっパブにはおっパブの話し方がある。

すぐに「AVやります」という女性は使い物にならない

「それで、田中さんは、AVですけどからなんて話すんすか?」
「相手の反応を見てだな。とはいっても99%がムリとかダメとかイヤとかの断りだから、そこからだな」
「AVですけどっていって、それでも、中にはOKの女がいるんすか?」
「いるけど」
「いるんすか?」
「それはそれで喜べない。すぐにOKな女は、ほとんどが使いものにならん」

最初から「いいですよ」とか「やります」と返事する女の子にも出くわす。
ありがちなのが、今日、明日のホストの掛けの支払いに困っている女の子。

次にありがちなのは、すでにAVプロダクションに所属していて、予定を守らなかったり適当だったりして、使えないと放置されている女の子。

あとは、前の2者と重なるが、ずっぽりと心が病んでいる情緒不安定な女の子。

病的な美人っているし、明るさのある病みだってあるし、病んでるからこそのエロさってある。

しかし彼女らはトビが多い。
いい条件を口にする者の言うことを、嘘でも聞いてしまう。

それなりに真面目にスカウトをしてる者の言は耳に入りづらいし、事務所がマネージメントするにも不向きだ。

あとありがちなのが、AVを勘違いしている女の子。
勘違いしたままOKの返事をしてるだけなので、手放しで喜べない。
たとえば、1回のAV出演で簡単に100万200万のギャラが入るとか。

この情緒不安定と勘違いの一群は、基本は見切りとなるが、時間があるとか数字合わせとかいう自分の都合のみで判断して、そのあとを試してもみる。

同じ言葉でも言い方によって伝わり方が異なる

第一に狙うのは『ダメダメ!』とか『ぜったいムリ!』と、最初は全力で断ってくる女の子の一群。

ここの女の子が、スカウトバックは大きくなる。

「同じダメダメでも、いろいろあるでしょ?」
「はい」
「とっさに条件反射で言うだろうし、ビクッとしてダメダメもあるし、驚いてダメダメもあるし、笑いながらのダメダメだってあるし」
「そうすね」
「目は興味がありそうなのに、口はダメダメっていってるときもある」
「ああ、はい、そういうのあるっす」
「それがわかればいい。話だけ聞いてとか、ちょっと考えてみてとか、いってみればいいんだよ、バーンと」
「はい」

そうはいっても困ったことに、こう言えばうまくいく、こう言えばこうなる、という一言は自分は知らない。

その人だから、その人でなければ、その人が言うから伝わる一言ってある。

言い方に依るのだ。
「AVですけど」の一言でも、言い方によって相手の受け取りが異なる。

「そのとき、ヘラヘラしながら言うなよ。真剣に言えよ。目を見て。当たり前のように」
「はい」
「御用聞きのように軽く言うなよ。かといって気合をいれすぎるなよ」
「はい」
「姿勢を正して、ゆっくと、しずかに」
「はい」

とんでもない一言だろうが、常識外れの一言だろうが、いきなりであろうが、相手に通じてしまう不思議でしぶとい言い方ってある。

しかし今、この場で、最良の言い方を遠藤に教えることができない。
その言い方は、スカウトした女の子が少しづつ教えてくれるからだ。

どれほど自分で考えてもわからくて、他人に聞いてもわからない。
スカウトした女の子のみが教えてくれる。

– 2022.7.5 up –