スカウト方法の変化


スカウトの流れは四段階

なんだか、気分がのらなくてやる気がない。
それでも東口に行く。
気を入れて「ちょっといい?」と、スカウトを始める。
何人かの女のコは、無視をして素通り。
何人かは、白目にも見える怪訝そうな横目をしてから小走り。
リキの入れすぎのあやしさ全開に、女のコが敏感に引いている。

新宿アルタ前
新宿アルタ前の街路樹

少し前から茶パツのコが歩いて来た。
目を向けていると、あちらも目を向けた。
1歩踏み出して軽く手を挙げ左右に振ると、あっさりと足が止まった。
ナンパ慣れしてる足の止めかただ。
この場合は、アプローチに入ったほうがいい。
「AVだけど」と切り出すと、とたんに表情が曇る。
『なんだ、AVか・・・』とでも思っているのが、顔にありありと浮かんできて、視線が足元に落ちた。
あー。
メンドくさい。
「じゃあ、いいや、それじゃーね」とバイバイした。
空回りするかのような、声かけが続いていて、スカウトの流れに乗らない。
調子が合ってないなと、20人ほど声をかけたところで切り上げてイタトマに向かった。
スカウトの動きには流れがある。
この流れは、スカウトの前提ともいえて、目的が脱ぎ(AV)だろうが、店(風俗やキャバクラ)だろうが、紹介(他業者等)だろうが共通する。
1時間でスカウトできようが、半年かかろうが、スカウトマンがどのような人間でも、何をどう話そうと、女のコがどのようなタイプでも、スカウトの流れは変わらない。
自分なりにまとめて、格好よく横文字をくっつけてみた。
状況に沿って四段階まで動く。
最初の始まりに、コンタクトがある。
直接の声かけや知り合いの紹介でもなんでもいい。
浅く広く接触する。
第二段階は、アプローチになる。
どこかフックする部分があるのか。
相手の状況やタイプを見極め見切りの繰り返しになる。
第三段階は、レクチャーとなる。
認識させ、確認させ、決断させる。
で、第四段階のマネージメントでスカウトは終了する。
一旦、覚悟を決めた女の子はやるのだ。
理由などなくても、きっかけがあればやるのだった。

偶然を作為的に変えていく

それぞれの段階は、設定や状況などの場合に応じて様々なポイントが加除修正される。
しかし流れは変わらないと今までのスカウトから確認できる。
あとは見えない要素がある。
重要な要素が全体にある。
流れの始まりのコンタクトは、偶然さの割合がほとんどを占める。
それに加えて、女のコの状況や独特の気まぐれで反応がその都度変化して、自分には未だ理解し難い唐突さや意外さにぶつかる。
それでも、偶然さ、唐突さ、意外さの流れを変えて、壁を超えないとスカウトの動きにならない。
偶然さがある流れを作為的に変えていく訳だから、偶然さの対極にある必然さのある流れにする、といえるのかもしれない。
この必然さを取扱うことがスカウトの動きで、また女のコを動かす見えない要素になっている。
必然さを高める行動力が、スカウトの価値ではないのか。
価値がなければ、スカウトなんていらないし誰も必要としない。
もっとうまく書けないのが残念。
それはそうと。
イタトマでお茶をしていたら、薄暗くなってきた。
切り上げてイタトマを出た。
ブラブラとアルタ前を歩くと、さっきよりも人通りが多くなってきている。
東口交番前で立ち止まり、背筋をのばすと前方が見渡せた。
1歩踏み出すと、歩き方が変わった。
重心をスッと後ろに移し、微妙に歩調を緩め、スッと前を見る。
そしてスッと目線を通行人の足元に落として、小股で歩調を早めて通行人を抜く。
自分を自身で運転しているように発進して、ブレーキをかけた。
少し前に女のコが目に入って、スッと歩調を緩めた。
それだけで、彼女もこちらに気がついた様子だ。

「ちょっと・・・」
「・・・」
「あのさ・・・」
「・・・」

速攻、といった感じで歩き去った。
こんなもんか。
立ち止まってから、脇に目を移すと、女のコが歩いてきた。
こちらも歩を進めて軽く手を差し出した。
彼女はすぐにこちらに気がついた。

「ちょっといい?」
「・・・」
「いま、帰り?」
「・・・いいです」
「アッ、OKなんだ」
「・・・ちがいます」
「待って」
「・・・」

彼女は軽くアタマを下げながら、少し笑みを浮かべながら通りすぎた。
自分はなんとなく立ち止る。
あぁ。
あのコいけたな。
あと1歩踏み出せばよかったな。
まあいい。

出会い系サイト攻略法

金曜日の夜の7時だった。
歌舞伎町へ向かう人混みで、スカウト通りは動きづらくなってきていた。
「AVはムリだけど、風俗を考えてみる・・・ 」という女のコにアプローチできたのを機に、スカウトは切り上げた。
交番前の鉄柵に腰掛け、ヒロシと缶コーヒを飲んでいた。

「田中さん、メル友できました?」
「ウン。きのう、やっと返事が1件返ってきてさ。いま返事を書いてるところ」
「エッ、きのう?」
「うん。慣れないから、時間かかって。ちょっと誠実な青年風で返そうと思ってさ」
「あ~あ」
「なんだよ?」
「断言してもいいけど、ゼッタイに返事こない!」
「エッ」
「すぐに返さないとダメですよ。どんなメール打ってんですか? ちょっと、見せてください」
「なんだ、オマエ、エラソーに」
「じゃあ、もう、教えないです」
「あぁ、すみません。先生、お願いします」

ヒロシが、i-modeの出会い系サイトに凝っていて、全国区でメル友ができている。
返事が携帯に届くと調子がいいヒロシは、「コイツら、ホント、ウゼ~よ」と言いながらも、せっせと返信してる。
すでに何人も食っている。
下は女子高校生から上は40代の主婦まで。
高校生はともかく、人妻好きの自分は40代の主婦という響きによろめいて、あまり使ってなかったi-modeにここ数日、挑戦していた。
携帯を手渡すと、画面を見てヒロシがいう。

「あ~、これじゃダメ、堅すぎる。それにオレだったら10秒で返信できますよ」
「・・・」
「田中さん、中国人に送るんじゃないんだから、こんなに漢字使っちゃあダメだって。ダラダラ書きすぎ。絵文字を交ぜてさ、楽しそうにつくらないと」
「・・・」
「内容なんてどうだっていいんですよ。反応しとけばいいんですよ」
「・・・」
「ったく、センスねえな~」
「ウルセーよ」
「あっ、じゃあ、止めますか?」
「まあ、そういわずに」
「最初に定型文をいくつも作っておくんですよ。それで時間があるときにセットしておいて・・・。田中さん、28でいくんですか?」
「うん」
「で、絵文字は、こんな風につかって・・・。これは・・・。それで・・・」
「・・・」

画面を凝視するヒロシ。
素早く親指を動かした。
そうして30秒足らずで、1文を作り上げた。

「田中さん、今度からこれ使ってくださいよ」
「おぉぉ、スマン。さすがヒロシだな!」
「また、聞いてくださいよ」
「おぉぉ、たのむよ!」

ヒロシは、自慢気に携帯を手渡す。
画面を見ると、こんな1文ある。

ウィース<絵文字>ケンイチ@28でーす<絵文字>性格はアホ<顔文字><絵文字>かなー<絵文字>よろしこー<絵文字>ふるい!(笑)<絵文字><絵文字>

「オマエ、バカにしてるだろ」
「いや、ホントにそのぐらいがいいんですよ。オレなんかもっとすごいですよ。これだったらゼッタイいけますって」
「そういうものか・・・」
「ちょっとは感謝してくださいよ」
「・・・」
「田中さん!」
「・・・」
「田中さん!40代主婦が待ってんですよ!」
「・・・」

期待が大きかっただけに、脱力感に打ちひしがれていた。
世の中は、これで盛り上がっているのだ。
人には向き不向きがある。
自分は路上のスカウトが合っているのかも。

屈折してるほうがスカウトできる

今日は智子とメシを食べる約束をしていた。
ヒロシと別れた。
都営新宿線に乗り、葛西に向かう。
智子のウチに行くと、今日は外に食べにいきたいという。
たまにはいいかと外に出ると、智子は目尻にシワをつくって笑顔になってる。
駅前の通り沿いのおもちゃ屋の前にクリスマスツリーがある。
どこかの親子の笑い声が聞こえる。

「ほんと、葛西を歩くとイライラする」
「エッ、どうして?」
「小さなコ連れている、お母さんが多いから」
「フフ・・・。また、そういうこと言って・・・」
「やっぱり性格ひねくれているのかな」
「そんなことないわよ」

智子はこんなことを言っても、ニコッと笑って応える。
あと自分がくだらない話をしても、フンフンいって聞いてニコッと笑って応える。
そんな笑みをするときは「あなたは、ホント、ウチのコに似てるわ」とか「あなたはやさしいコだからね」とかいって子供扱いするようなことをいう。
付き合いはじめた頃は、智子がそう言う度に「ふざけるな!」とか「バカにするな!」とムキなって言い返した。
もう30歳になって大人のつもりだし、いくら智子が子持ちの年上でも、自分を子供扱いしやがってと腹も立った。
しかし、それが智子の抱擁力とでもいうのだろうか。
最近は一緒にいて気持ちがいいなと、感じるようになった。
2人の子供と接している時も、自分が脇で見ていて驚くような母性が全開になる。
付き合い始めたころは、そんな智子の剥き出しの母性が、自分にはある種の狂気にも見えて、それに触れるのがおっかなびっくりだった気がする。
何故、このときはイライラしたのだろうか?
クリスマスは、気分がどことなく楽しくなるのが関係してるのか?
何故か、なにかが欲しくなるのも関係してるのか。
そう考えると、自分の両親にはクリスマスプレゼントという習慣はなく、母親に我慢しなさいと言われて素直に我慢していた。
それに限らず、3人兄弟の中で一番母親の言いつけをよく守ったし、母親が言うことは絶対に正しいと信じていた。
母子と言うよりは、絶対的な親があり、オマエはその子供だ、という関係で教育された。
それが数年前まで当然だと思っていたし、普通のことだと自分では思っていた。
しかし、大人になると正直になっていく部分がある。
今、正直に言うと、家族や親子という関わりが窮屈に感じてならない。
そうはっきりと思えるようになってきてから、女性に対しても違う面で考えるようになった。
例えば、女性に対して酷いことをしてきたが、今までは、自分は性格が悪いからだ・・・という簡潔な理由に自身で納得していた。
しかし、こんなことも思う。
母親への屈折した想いが、コンプレックスになり、女性を困らせることにつながっているのではないのか?
智子と付き合ってから、智子の親子関係を見て、そのような気がしてならない。
そして他のスカウトマンや、風俗やAVの関係者には、無自覚のうちに母親に対してなにかしらのしこりを擁いている者が多い、という事実にも気がついた。
しかし普段はこんなことを、他人、とくに女性には話したことはない。
とにもかくにも、智子との付き合いが長くなるにつれて、スカウトの方法は変わってきていた。
智子の機嫌という制約ができて、大分やりずらくなったが、方法は変わってきていた。
真っ当というか、少なくとも騙してお金をとるといった詐欺師のようなことはしなくなった。

忘れることはいいこと

メトロ商店街を歩く。
角を曲がったところで男を見かけると「あら、●●くん!」と智子は立ち止まった。
「こんばんわ」と挨拶をした相手は、20歳くらいだろうか。
しばらくの立ち話から、近所の知り合いというのが伝わった。
別れたあと、智子は表情を曇らせて言う。

「あのコ、1人で飲んでるんだって、・・・寂しそうに」
「そう」
「この前、話したお友達のコよ」
「・・・自殺した?」
「・・・うん」

1ヵ月くらい前だったろうか。
近所の奥さんのことを、智子が自分に話したときがあった。
そのダンナは会社を経営していたが倒産し、負債は保険金でという遺書を残して自殺。
それでも奥さんと息子には借金が残り、あと処理もつらいとのこと。
どうにもならず、息子と共に自己破産申請をしたとのことだった。

「息子はまだ若いね。オヤジは何屋だったっけ?」
「貴金属」
「卸し?小売?」
「ううん。アクセサリーを造っていた」
「製造か・・・。負債はどのくらい?」
「・・・そんなこと詳しくは聞いてない」
「何で息子に借金がかぶるの?」
「・・・なんか役員だったらしいけど」
「役員にしてもさ。・・・個人保証を付けたとは思うけど。そんなもの相手を泣かせればいいんだよ!」
「・・・」
「身内にかぶせて親父は自殺かよ。そんなのカッコつけだよ」
「・・・死んだ人のことは、いろいろ言ってもしょうがないでしょう」

自分でもこんなことは言うべきではない、とは分かってる。
ムカムカしてしょうがなかったから、つい言ってしまった。

「そう思うよ。あー、ムカムカするな。残された奥さんや子供はどうなるんだよ」
「・・・」
「いちばん信頼して付いてきたのは身内だろ?どんな事情であれ防衛処理をしないと」
「・・・」
「カッコつけだよ、商売を失敗して自殺なんて」
「もう、やめてよ!」
「・・・ゴメン」

ヘコんだ人間だけは、沢山見てきた。
会社を潰したり、追い込みかけられたり、裁判係争してたり。
億単位の負債があって一家離散したり。
だけどその手の連中は、力強い生命力を持っている。
図太く智恵もある。
再起も狙っていた。

「ただね、・・・あのコ、お父さんにそっくりで。・・・ホント、そっくりなのよ」
「・・・」
「あのコ、・・・あなたにも似てるのよ」
「・・・」

智子の声は震えていた。
パッ顔をみると目が潤んでいた。
ハンカチをとりだして涙を拭いていた。
しばらく黙って歩いていた。

「最初に2人で飲みにいったの覚えてる?」
「・・・ウン」
「3年前の今日なのよ」
「よく覚えてるなぁ・・・」

智子は努めて明るくしてるのがわかるような口調で言う。
そういえば、そうだった。
あの頃は、自分も商売がヘコんでエリにも逃げられ、半ば狂ったようにスカウトしていたときだった。
スカウトという生業も、智子との付き合いも、まさか3年も続くとは考えてなかった。

「忘れていた。ゴメン」
「ううん」
「そっか、そっか、今日だったのか」
「忘れるっていいことなのよ」

智子はすごくやさしそうな表情で、自分を諭すような口調で言った。
だから日記に書いて、ややこしいことは忘れようと思った。
それからクリスマスはどうしようかという話をしていたら、目的の小料理屋に着いた。

– 2003.6.24 up –