歌うキリスト教の一団に負けた気がした
平日の夕方。
日も暮れて暗くなる頃。
昼過ぎから歩きっぱなし立ちっぱなし。
気合の割りには収穫ゼロ。
けっこう声はかけた。
100人は超えている。
足を止めて話を聞く女のコもいた。
けど、これはという感触はなかった。
こんな日もある。
といっても、実は昨日もこんな感じだった。
2日連続して必死こいてダメかと、アルタ前広場の脇の鉄柵に腰をかけ、騒がしい人通りを眺めていた。

アルタ前広場では、よくわからないキリスト教の一団が歌ってる。
皆、見た目は真面目そうな人達。
『ハレルヤ~』という歌うボニュームが、騒がしさを底上げしている。
横断歩道で信号待ちしている通行人の脇には鉄柵があり、その鉄柵の前には道路標識が立っている。
1人のキリストが、その道路標識の柱を掴みながら、鉄柵によじ登った。
道路標識の柱を片手にして、体を支えながら、鉄柵の上にすくっと立った。
見た目は好青年という感じの若者。
好青年は、信号待ちで立ち止まってる通行人に鉄柵の上から語りかけた。
「キリストは永遠のいのちを・・・」と、言ってることは同じことを繰り返してるだけだが、彼は今まで見かけたキリストとは話しかたが違っていた。
声の張り、手の振り、言葉の昂揚、・・・などの熱心さが違う。
通行人はほとんどムシを決めこんでいたが、彼の勢いに何人かは見上げている。
前を通りかかった男子高校生の一団が「永遠のいのちなんておもしろくねーよ!」「そうだよ、死ぬからおもしれーんだよ!」「そーだよ!」なんて話ながら通りすぎる。
こいつらかわいいな・・・なんて思うのは、自分がオヤジになったからなのだろうか。
しばらくすると若い女のコが、スタタッと小走りでキリストの一団に近づき、小冊子を受け取り歌をきいてる。
近づいた女のコが可愛かったのが、鉄柵に登ったキリストに負けたようで、軽くショックを受けた。
これはこれで反応があるのだ。
なんせ、2日連続で収穫ゼロの自分よりも反応をとっているのだから。
そのまま1時間程、目の前を通り過ぎる女のコをボーと見ていた。
スカウトのやる気はなくなって、鉄柵からは立ち上がれない。
2日間も一生懸命に動いたのに。
無視され続け、断られ続けて、立ち去られて続け、それでも動いたのに。
なんだか気持ちが孤独。
いや、孤独なんてのは通りぬけている。
わびさび状態か。
空虚か。
諸行無常か。
いや、そんないいものではない。
もうどーでもいい・・・という感じだ。
今だったら、キリストの一団のまん前で『ハレルヤ~』と感情を込めて歌えるし、アルタ前広場の隅にいるホームレスのオヤジの隣の地べたにも寝れる。
当然だけどはっきりしない断り
脱力して、うなだれて、そのまま鉄柵に腰をかけていると、手にしていた携帯が鳴った。
ディスプレイを見ると、今日、会う約束をしていた女のコからだった。
この電話を待っていた。
「もしもし」
「ミキですけど」
「どーも」
「いまどこですか?」
「アルタの近くだよ」
「いま、ナオと新宿にいるんだけど」
「この前、言っていたコ?」
「うん。田中さんの話聞いてから考えてみるって」
「じゃ、ケーキでも食べない?」
「エッ、ハハハ」
なぜか自分がケーキと言うと笑われる。
ケーキが似合わないのだろう。
「ミキは今どこ?」
「南口のあたり」
「それじゃ、東口交番わかる?」
「うん」
「その辺にいるから、着いたら電話ちょうだい」
「ハーイ」
ミキは18歳。
今年の4月に高校卒業したばかりだ。
スカウトしたのは3月。
渋谷のAVプロダクションに、スカウトバックを受け取りにいったついでに、久しぶりにセンター街の入口あたりをうろついて声をかけたのだった。
そのとき彼女は、4月に予定していた専門学校の入学を両親に反対され、コンパニオンのバイトをしていた。
パーティーコンパニオンだ。
ホテルなどの宴会で飲み物や食事をセットする。
最初は「AVなんてしない」といっていた。
それは当然な断りだけど、はっきりしない断りかただった。
実家は杉並区。
1人娘。
両親は厳しいとのこと。
家にいるときは、長電話してるだけでも注意されるから、1人暮しをしたいと言う。
反対された専門学校にも自力で行きたい、とも。
なんの学校かは忘れた、というより聞いてない。
結果、1ヵ月程するとAVプロダクションで宣材(プロフィール写真)撮りがOKになった。
宣材撮りまでいけば、もうAV嬢の完成となる。
黒髪の彼女は、松たか子に似ている。
いや、松たか子よりも、もっと可愛いらしい。
で、脱ぐとDカップで形がいいおっぱいをしていた。
乳首がピンク。
色が白くて、スベスベ肌。
165cmの身長は、健康的な肉付きで張りがある。
18歳にしては、落ち着いた表情をする。
印象に残っているのが、こちらを見る彼女の目。
18歳にはない色気を感じた。
売れるタイプだったが、惜しいことにAVは本番が抵抗あるというのでNGになった。
AVメーカーへの営業は保留したまま、雑誌と撮影会を8回ほどしたが、「バレたらまずいから」ということでAVプロダクションを辞めた。
前後してパーティーコンパニオンのバイトも辞めた。
帰りが遅くなり両親に怒られることもあるし、先輩同士の派閥争いもイヤだとぼやく。
このとき「風俗しようか?」と冗談っぽく言ってみたが「ぜったいやらない」と、ぜったいを強調する言い方ですんなりとかわした。
それから「規則正しいバイトがしたい」と、コンビニのバイトをはじめた。
このコは根は真面目なのだろう、とあまり変な道に誘うのも気が引けた。
本当にそう思った。
しばらくすると「カレシができた」という。
カレシにベッタリになっている。
スカウトできなかったとあきらめていたら、このまえ久しぶりに電話で話していたときに「友達が風俗しようかなって言っていたよ」とサラリと聞いたのだった。
その中学からの友達の名前がナオ。
高校卒業と同時に高収入求人誌をみて、すでにAVプロダクションに所属していた。
ところが、そこの社長がドンくさかった。
すぐに辞めて、今は何もしてないと聞いた。
風俗店は経験がないという。
「2人で新宿くるときある?」と聞くと「水曜日に買物で行く」というので、来たときに電話ちょうだいという約束をしてた。
ジェネレーションギャップを感じて凹んだ
新宿駅東口の交番前で、うろうろしているとミキの姿が見えた。
友達のナオは予想より可愛いくて、ミキと同じくらいの身長と胸の大きさ。
2人とも、体のラインがくっきりしている着衣。
そんなスタイルがいい2人組みが笑顔で現れたものだから、内心ではちょっとビックリした。
なんてたって、こっちは2日間も、ありとあらゆる女の子から無視され断られ立ち去られ続けたあとだったから。
さっきまで暗かった気分が、すぐに明るい気分になった。
「どーも。あやしい者です」
「アハハハッ」
「でも、実はいい人なんで」
「アハハハッ」
元気ある明るさ。
パッチリした目は妙にキラキラしている。
キャッキャした笑いは、飛び跳ねるくらいだった。
アルタの裏のイタトマは、この時間なのに空いていてよかった。
そこで驚いた。
注文するのにレジに並ぶのだが、前にいた若いカップルはドリンクを割り勘にしているのだ。
男は平然と手の平を差し出して、女のコも普通に財布から100円玉を取り出している。
昭和生まれは、こんなときは男が払うのが通常である。
もちろん、世の中に割り勘が定着しているのは知っている。
が、1杯200円か300円だから2人でも600円ほど。
100円玉のやりとりなんてみみっちい気がするが、割り勘が当然のように、ミキとナオも財布を出している。
もう、若い世代とは感覚がちがうんだ。
内心で動揺していると、イタトマの店員が注文を聞いてきた。
「ご注文どうぞ」
「チーズケーキセットください」
「アハハハッ」
「エッ、どうしたの?」
「だって、アハハハッ」
「・・・・」
なぜか、ナオは笑う。
多分、自分にチーズケーキが似合わないのだろう。
冷やっこのほうが似合いそうな、こんな顔なのだから。
ああ、自虐はだめだ。
そう念じながらテーブルについてからは、なにかの拍子で夜遊びの話になる。
「オレ、こう見えてもブイブイいわせちゃうんだ」
「アハハハッ」
「え、おかしい?」
「だって、ブイブイって、アハハハッ」
オヤジッぽいところがおかしのか。
若いと思っているのは自分だけで、10歳離れていればオヤジなのか。
そんな話だったらいくらでもある。
「今日さ、新宿駅の改札で、イオカードを自動改札に入れて通ろうとしたら、ピーコンピーコンって鳴って通れなくてさ」
「うん」
「カード見ると残高あるし、入れ方が違うのかなって入れては鳴り、入れては鳴りで。5回ぐらい改札機のなかでウロウロしちゃって」
「うん」
「後ろは迷惑そうな顔するし、アタマきてハアハアしちゃって」
「アハハハッ」
すでにナオは、元気よくキャッキャと笑っている。
ミキがどれほど落ち着いた18歳なのか実感した。
「飛んできた駅員になんで使えないんだ、と言ったのよ」
「うん」
「そしたら迷惑そうな顔でね、これ地下鉄のメトロカードですよって」
「アハハハッ」
「鼻で笑いながら、空いてますよって下を指差すのよ、こんなふうに」
「アハハハッ」
「パッと下を見たらチャック全開で」
「アハハハッ」
「いや、それが見事な全開。こんな円形で。パンツ見えていたんじゃない」
「アハハハッ」
「思い込みだよね、もう。こっちが駅員に謝っちゃった。申し訳ないって」
「アハハハッ、申し訳ないって、おじさんがよくいってる!」
もう。
早いうちに。
風俗の話をしたほうがいいかもしれない。
ミキから用件は聞いているだろうし。
両立しているキャッチセールスとスカウト
同席してるミキからは、用件を切り出す様子はない。
会話が途切れたところで、自分から風俗を切り出した。
「それでさ、知り合いの店長に頼まれていて」
「うん」
「エッチな店なんだけど。ま、いわゆる風俗っていうの?ちょっとやってみよ」
「アハハハッ」
「忙しくて、女のコ足りないって困っていてさ、ナオだったら1日10万は稼げる」
「ホント!」
「うん、朝から夜まで仕事だけどね。毎日だと疲れちゃうから金土日中心に仕事して月100万は楽勝だよ」
「エー」
「100万くらいバーンと稼いでさ、そしたらオレにマックおごって」
「アハハハッ」」
「店長も面白い人だし、店員もみんな若い人だから。もし、雰囲気的にちょっとというのなら、断ってもらってもそれは全然かまわないから」
「うん」
もう、ナオはやる気らしい。
あまり考えさせずに、このままノリで話すほうがいいみたいだ。
「明日の昼すぎにさ、一緒にいこ」
「明日?」
「うん。でさ、店長の話きいて、田中がいいかげんなことをいってないというのを確かめて、よかったら体験入店しよ」
「いーよ。ねえ、ミキ、一緒にやろうよ」
ナオは隣に座ってるミキの腕に手をかけゆさぶっている。
「でもな・・・」とミキはうつむく。
ナオがミキを誘うのは以外だった。
とりあえずナオだけでも入店すれば、仲が良い2人のことだからいずれミキも動くだろう、とは考えていた。
以前にミキは言っていた。
「高校のときは援助交際してるのはほんの一部だったよ。わたしは友達が援助やろうかなっていったら止めたから」と。
ナオから後で聞いた話では、ミキはバレーボール部の練習をがんばっていて、男女交際も奥手で付き合った経験もほとんどないらしい。
そんなミキは、風俗で働こうとしてるナオを止めはしなかった。
逆に一緒に風俗やろうと誘われて「やらない」と言わない。
『やってもいいんだけど・・・・』という気持ちはある様子だ。
以外だった。
この場合、2人とも店に連れていけば入店するだろう。
そして、その日のうちに5万でも稼げば、その後は風俗が本業となるのではないか。
「ミキさ」
「うん・・・」
「明日、一緒においでよ。ナオの付き添いでいいじゃん」
「うん・・・」
「もしさ、店にヤクザのおじさんとかいたらどうする?オレの話がまるっきり大ウソで。ま、そんなことはないけど」
「うん・・・」
「じゃ、明日、13時くらいにまた東口で。店長にも電話しとくから」
「うん・・・」
女のコから「風俗やります」とは言いづらいときは、店長に合わせたいと店に連れていく。
そして、店長の口から「がんばりましょう」と言わせると、ほとんどのコが入店するものだった。
あと、ミキは理由を欲しがってる。
今回は田中さんに言われたから、ナオに誘われたからということになるだろう。
ナオは、風俗で貯金をしたい。
1人暮しをいたいと笑顔でいう。
ミキは、秋に友達と旅行の予定があるので、お金が少し必要とうつむく。
エステのローンがあるのでそれを早くなくしたい、ともいっていた。
今日は、そのエステサロンに行ってきたという。
3ヵ月前に、渋谷でキャッチされて契約したという。
月々2万程のローンの支払いがキッカケで、風俗をするコは多い。
キャッチセールスがローンを組ませ、スカウトが仕事を紹介する。
うまく両立してる。
高校卒業世代は話の組み立てが簡単で良い。
18歳、19歳というだけでポイントを少しつかめば動かしやすい。
「この仕事すればすぐだよ。今のうちだけだからできるのは」
「うん」
「しっかり貯金しなよ」
「うん」
しかし、貯金して風俗をあがる女のコなんて、まず聞かない。
1回稼ぐと辞めれなくなる。
そして、ズルズルと風俗から離れられなくなる。
風俗店の面接の前に彼氏とデートしていた
そして翌日。
新宿駅東口交番。
13時前にナオから電話がきて待ち合わせた。
来たのはナオだけだった。
「あのね、ミキが少し遅れるんだって。今、カレシのクルマで池袋にいるんだって」
「そう。今日はムリかな」
「ううん。こっちに向かってるって」
「少し待とうか」
「うん。もう一度電話してみる」
15分程で着くということだった。
彼女と2人で交番前の鉄柵に腰掛けて待つ。
おそいなと思ったころ「アッ、来た。あのクルマ!」とナオがいった。
パジェロがロータリー脇に止まり、ドアが開くとミキがストンと降りた。
運転する彼氏は、まだ若い20代前半だろうか。
さわやかなスポーツマン風だった。
何か2、3言ほど、ミキは彼氏と言葉を交わしてからドアを閉めた。
お互い手を振りながらパジェロは発進して、アルタ前の信号に向かうのをミキは見送る。
ミキが手に持った携帯のディスプレイを見ながら交番側に歩いてくるのと、ナオが「ミキ、ここ!!」と手を振って呼びかけたのが同時だった。
3人で歌舞伎町に向かって歩きながら、ナオが「ミキ、おそいよ」といった。
「ごめん、ごめん。田中さん、すみません」
「いーよ、いーよ。カレシと一緒だったんだ」
「ウン」
「ひょっとして、カレシ、今日のこと知ってるの?」
「知ってる訳ないじゃん。友達と遊ぶといってある・・・」
「それがいい」
「バレたらまずいよ・・・」
「ラブラブなんだ」
「うん・・・。結婚したいって言ってる」
「そう」
しかし女のコはわからない。
女のコが言う「カレシ」だとか「付き合ってる」だの「結婚」だのという意味が、こんな時には理解ができなくなる。
普通の女のコが、結婚を考えているカレシとデートの後、ウソいって風俗の面接にいく。
バレさえしなければ、他の男とキスをしたりフェラチオしたりシックスナインもする。
こういうパターンは何度も見ているので、特に今更なんとも思わない。
現に、自分の以前の彼女も内緒でAVに出演した。
しかし今回は「ぜったいに風俗をしない」といっていて、自分もこのコはやらないだろうと思っていたミキだっただけに少し心にズンときた。
すこし好感を感じていたミキだったのに。
彼氏が結婚したいというのも、わかるくらいの好感があったのに。
自分の本心は「風俗をしたらカレシの信頼を裏切ることになるだろ」とミキに言いたい。
なんのかんの、自分は真面目な性格なものだから。
すべては表情に出ていないだろうけど、気分は沈んだ。
そんな女だったのかというあきらめ
靖国通りの横断歩道を渡る。
歌舞伎町に入った。
そのときには『このバカ女をさっさと店に入れてしてウチに帰ろう』と苛立ってきていた。
セントラル通りをしばらく歩いた雑居ビルに、性感ヘルス『●●●●●』はある。
お客の入りはいい店だ。
入れ込んでいる女の子は今は3人。
スカウトバックは、1出勤3000円かける出勤日数分で、月末締めの5日払いで受け取っていた。
エレベーターで5階で降りた。
店の入り口からはJ-POPが流れる。
店員に挨拶して、奥の事務所に2人を連れていく。
しばらくして現れた店長は、やはり少し驚いた顔をした。
2人ともスラッとしていて、それにけっこう可愛い。
風俗未経験らしいキラキラ感がある。
正直、店長でも驚くだろうなという気がしていた。
店長はチカラが入ったようだ。
付け回し(客を女のコにつけること)のノートを持ってきた。
2人に見せて「このコは昨日5万、このコは4万もって帰って・・・」なんて説明をはじめた。
今までにない説明だった。
しばらくて、2人はプロフィールに必要事項を記入した。
やはり、ミキも入店するつもりだったのか。
チラッと自分を見たのがわかった。
視線を向けると、目が合う前に反らしたミキだった。
どうやら自分がいると、店長と話がしづらいようだ。
もう店長にまかせよう。
事務所を退室して隣で待ってると、しばらくして店長が来る。
今から、ミキとナオは講習をして働くことにすることになったとのこと。
そして、先月の3人分のスカウトバックが入った封筒を受け取り、バッグに常備している領収証を切った。
ミキとナオはもう支度してるというので、声をかけず店を出た。
エレベーターに乗ったところで封筒を開け、中の万札を数える。
この万札は、少し前まで客のサイフの中に入っていたのもあるかもしれない。
いや、おそらくそうだ。
そう考えると妙に生々しい。
自分が入れ込んだ女のコがフェラチオして、客は射精して満足し、女のコは稼げたと喜ぶ。
そうして自分の手には万札が手に入る。
セントラル通りの天下一品を食べて、その万札で支払うと正当な収入の気がした。
食べ終わったあとは、靖国通りを渡り、人の流れに合流して東口に向かう。
講習してるミキは、今ごろはシャワーで体の洗い方をしてるあたりか。
自分で風俗店に入れ込んでおいて勝手なことになるが、ミキのような例が度々あるから女のコと付き合いたいという気持ちがなくなる。
ミキもそんな女だったと思うしかない。
これからスカウトしようか。
帰ろうか。
どうしようかと、アルタ前広場まで歩いて鉄柵に腰掛けた。
行き交う通行人を眺めていた。
いつものように騒がしい。
アルタビジョンが、恋愛ドラマの宣伝をしきりに流してる。
企業が一般大衆に金を使わせたいから恋愛をしよう、キレイになろう、楽しいことしよう、遊ぼうと宣伝している。
だからテレビ番組は無料で見れるわけだし。
若者対象の深夜番組なんてホントうさんくさい。
夢がどうだの、恋愛がどうだの、音楽があーだの。
オヤジになったせいか、なんだかしらける。
しかし、それほど生きることを楽しむ必要があるのだろうか?
失業者が300万人以上いるのに民放の株はあがってる、というニュースも、つい先日見かけた。
いやいやいや、これはもう、巨大システムなんだ。
自分ではどうにもならない、巨大システムなんだ。
ミキが風俗で働くのも普通だ。
あのミキの形のいいDカップだって、自分だって、あのホームレスだって、昨日のキリストの一団だって巨大システムの1つ。
無学な自分は、そんなことを突飛もなく考えていた。
どんどんと女のコたちは楽しそうに歩いてくる。
さてスカウトを始めるかと、真面目な自分は鉄柵から立ち上がった。
2人も面接に連れていけのだから、スカウトの流れは変わるはずだった。
– 2002.11.24 up –