林優子、23歳、音大出のピアニストに声をかけてから


すんなりと足が止まるのもよくない

時間は17時過ぎ。
人通りが多くなる時刻。
今日はスクランブル交差点でスカウトをしていた。

アルタ前広場
夕方のアルタ前広場

人の流れは騒がしい。

1人でスカウトしていると、騒がしさに呑み込まれるというのか。
なぜか沈んだ気持ちになる。

人通りは多いが、スカウトも多い。
パッと見でキレイな女のコの1人歩きはほとんど声がかかる。

当然、ほとんどが無視状態。
特に自分の場合は、うさんくさいオヤジ風なので警戒される。

人の流れがきれた。
前からは、赤いニットを着た女のコが歩いてきた。

目が合ったわけじゃないが、前方に立ってる自分を意識しているのがわかる。

間を計ってゆっくりと歩を進める。
そして彼女の前に軽く手を差し出した。

「ちょっと、いい?」
「ハイ」

すんなりと足が止まる。
この場合すぐに止まりすぎる。

会社やバイト帰りの通行人ではないだろう。
これからどこかにいく途中か。

「これから仕事?」
「そうじゃないんですけど」
「・・・あのさ、ここ邪魔になちゃうから、ちょっと端にいこ」
「ええ」

丁寧な話し方や、落ち着いた服装からは、良識ある女のコと見える。

表情には警戒は浮かんでないし、なにも言葉は出てこない。
こちらの言葉を待っている。

ここでAVや風俗をぶつけたら警戒されるように感じた。
道の端に寄った。
もう3分位は話せる。
用件より先に、新宿には何しに来たかだ。
あせらず話そう。

「今日は歌舞伎町にいくの?」
「ハイ。面接で来たんです」
「エッ」
「ハイ」
「どこのお店?」
「これからなんですけど」
「あっそう」

すこーんと話が早い。
彼女の名前は優子。

キャバクラの面接に来たとの事。
それだったら、ストレートにキャバクラを紹介し入店させたほうが早い。

自分が新宿で直接知っているキャバクラは3軒程度だ。
あまり多くの店や事務所と提携するのは得策ではない。
違う業種づづ2、3知っていれば十分だ。

その3件は、いずれも高級店になる。
だからレベルと品がよくないとつれていけない。

細面の彼女は、品のよさそうな話し方と仕草をする。
客受けもいいだろう。

ただ、落ち着きすぎていて地味に感じるところが気にかかる。
おそらく面接は通るだろう。

アルタ裏のイタトマで

以前は赤坂のクラブでピアノを弾いていたという。
そこで店内の様子を見ているうちに接客もできそうな気がして、今日の面接にきたという。

なぜ、歌舞伎町のキャバクラなのかは聞きそびれた。

「面接は何時から?」
「これから電話するところです」
「そう、だったら他の店に面接に行く前にウチの店を見てくれない?」
「・・・」
「やるやらないは別にして店長紹介して、店の雰囲気を見てもらって、もし気に入らなかったら断ってもらっていいから」
「ハイ」
「それで断りずらかったら、僕に言ってくれれば、オレのほうが理由を付けて店長に言って断るようにするから」
「ハイ」
「それで、場所は新宿で?」
「ハイ」
「そう、時給なんだけど条件で変わるんだよね。例えば、全くの初心者の場合は、2,500円からだけど、経験者で客持ってる場合は5,000円からですとか、店によって様々だから、条件が合うところを選んで面接にいこ」
「ハイ」
「それで、この仕事はレギュラーで?それともバイトで?」
「バイトです」
「そう、何時から何時まで店に入れるの?」
「9時から12時まで」
「終電帰りだね、それで、週何日の予定?」
「3日です」
「赤坂の客は持ってるの?」
「ないです・・・」
「そう、店終わったら送り(送迎)がつくから、2時まではできるでしょ」
「家が厳しくて・・・」

実家住まいか。
融通がきかない。

「だったら、仕方ないね。週4日はどう?」
「ピアノの習い事があって・・・」
「うーん。ウチの店は、クラブ調の店だからバイトだと条件が厳しいね。それがなかったら面接はバッチリ通るけど」
「そうですか」
「●●●グループって知ってる?」
「キャバクラで大手だけど、●●●●っていう店は?」
「アッ、知ってます」
「そこも、バイトだと断られると思う」
「そうですか」
「それで●●●グループの担当者に、いいコいたら紹介してくれないかって頼まれていてね、いま電話してみて、それで条件OKだったら、オレの話なしにして改めて会ってみてよ」
「ハイ」
「ちょっと、かけるね」

佐々木に電話する。

六本木の店から、歌舞伎町の店のスカウトとなっていた佐々木だった。
紹介して入店が決まれば、スカウトバックは折半していた。

「ハイ」
「田中です」
「おつかれでーす」
「今女のコと一緒なんですけど」
「あー、お願いしますよ、イタトマに20分でいけますよ」
「それで、週3日のバイトで、21時から24時までなんですけど」
「経験者ですか?」
「そうですね」
「客は持ってます?」
「いや、赤坂のクラブでピアノ弾いていたそうです」
「レベルはどうでしょう?彼女近くにいたら、ウンかアアで」
「ウン」
「細いです?」
「ウン」
「色気は?」
「品がよくて、落ち着いた雰囲気です」
「だったら、なんとかいけますよ」
「そうですか、じゃあイタトマで」
「それで田中さん、バックですけど、今回、店にメンツ立つんでみんな取って下さい」
「それは、まかせますよ」
「じゃあ、すぐ行きます。10分くらいで」

スカウトは、店に女のコを連れて行かないとカッコがつかない。
だから、女のコのやり取りをしたり、情報交換をする。
仲間同士あまりツメを伸ばさず、借りを作らずやっている。

ピアノが特技イコール脱がせられる

イタトマとはアルタ裏にあるカフェ。
「ココアでも飲もうか」と向かった。

ふけている・・・、というのではないが、落ち着いた感じからは23歳には見えない。

見た目は大人のお姉さんという雰囲気なのに、少しブリッコしたような話し方をする彼女だった。

プライベートのことを根掘り葉堀り聞いても、全てを応えてくれもする。

音楽の大学を出て、ピアノの先生をしたり、レッスンを受けたりしてしている。

オペラがどうのとか言ってたが、全く分からない分野だったので、たぶん生返事だったと思われる。
無学な自分がちょっと恥ずかしい。

杉並区の実家にはグランドピアノがあるという。
どうりで品のあるお嬢様、と言う感じがしたわけだ。

躊躇することなく応える彼女に、もっとぶつけてみたい事が一つあった。

彼女の性癖だ。
このあと佐々木にタッチするので、多少エロ話に脱線しても問題はない。

彼女も新宿でうろついているあやしい者と、オペラの話しで盛上がるほうが不思議に感じるだろう。

キーワードはピアノだ。

AVプロダクションに女の子が所属するとき、プロフィールを作成する。

そのとき、女の子は特技を記入する。
珠算、書道とかカラオケ、とかフェラチオやらパチンコと記入する女の子もいる。

そして案外と、ピアノと記入する女の子が多い。
10人中3人強はピアノではないかと思うほどだ。

どのくらい、ピアノを習っている女の子がいるのかは分からないが、それほど多くがピアノを習っているとは思えない。

今はピアノを習っている女の子が多いみたいだが、家にピアノがあったり、スラスラと弾けたりする女の子は少ないのではないか?

素直で健気な女の子がピアノを習うのではないか?と勝手に想像している。

看護婦イコールスケベが多いと連想する男が多いように、ピアノが特技イコール脱がせられるコが多い、と自分は勝手に想像している。

こういう先入観があるから、ピアノを習っていると聞いたときからもう、彼女に突っ込みたくて気になっていた。

「新宿はスカウトやキャッチが多いからね」
「おおいですね」
「声かけられた?」
「はい」
「オレは、最初は何のスカウトかと思った?」
「やっぱり・・・」
「AVとか風俗とか」
「ハイ」
「多いからね、AVなんてカレシに怒られるからね」
「わたしはちょっと・・・」
「いや、やってみない、とか何も言ってないじゃん、オレはそういうAVとか関係ないから」
「はい」
「でもね、結構多いよ、バレなかったらやりますっていうコ」
「そうですか」

正直そうに返答する彼女。
素直なのは確かなようだ。

「それでなんでできないの?」
「エッ、友達だったら紹介します」
「友達はいいから。ね、何でできないの?」
「エッ、いいです」
「あー、不思議だな、あぁ、気になる。何で?」
「エッ、できないです」
「教えてくれるだけでいいから」
「・・・体にキズがあって」
「アッ、そうなんだ。どんなキズ?手術したの?」
「・・・すぐ消えるんですけど」
「ひょっとして、SMとかやっちゃうんだ」
「エッ・・・」
「え、SMしてるの!」
「カレシが・・・」
「いや、ごめんなさい、最近、オレ、バカになったみたいで」
「・・・」

彼女は否定をしないで真下にうつむいていた。
SMはあてずっぽうだったが、ずばり図星か。
自分で言ったのに以外だった。

ピアニストは変態ばかり

やはりピアニストはスケベなのか。
こうなったらオナニストの自分は止まらない。

「でも、以外だね。冗談で言ったのに」
「カレシが・・・」
「オレも普段はこんな話しないけど、優子さんがSMしてるっていうから」
「エッ、それは・・・」
「ごねんね、でも気になっちゃって。だって教えてくれないんだもん」
「・・・」
「で、どんなプレイしてるの?」
「・・・」
「浣腸とかしちゃうんでしょ?」
「エッ」
「ごめんね、バカなこと言っちゃって」
「カレシが・・・」
「やっぱ、スカトロとかやっちゃうんだ」
「エッ」

スカトロの意味を知っている彼女だった。
言ってみた途端に、びくっしたのだ。

「ごめんなさい、いろいろきいちゃって」
「はずかしぃ・・・」
「いやいや、おしゃれだよ、マニアだけど」
「はずかしぃ・・・」
「でもスカトロなんて、すごいプレイしてるね。なかなかいない」
「はずかしぃ・・・」
「変態なの?」
「はずかしぃ・・・」
「変態なんでしょ?」
「はずかしぃ・・・」
「ねえ、変態カップルでしょ?」
「はずかしぃ・・・」

うつむいたまま、手で顔を覆い「はずかしぃ・・・」を連発する。

このリアクションにハアハアして、公衆の場でソフトな言葉責めをしてしまった。
すでにカウパーが出てしまっている。

そうこうしてるうちに佐々木が来て、手で顔を覆う彼女を見て「どうしたんですか?」聞いてきた

「いや、なんでもない。ね?」
「・・・はい」
「おしゃれだねって話してたんだよね?」
「・・・はい」

佐々木はテーブルに座り、彼女は少しだけ話した。
それから2人で店に向かう。

自分はカウパーを拭くためにトイレへ。
あの品の良さで、本当に恥かしがるリアクションが良い。

あんな女の子と言葉責めプレーをしてみたい。
優子は今日のオナニーのおかずにしよう、と息をついた。

気負いは空回りする

佐々木の店に、彼女は入店した。
入店したその後も、キチンと出勤してるという。

スカウトバックは月末の支払いになる。
佐々木いわく、あの落ち着いた控えめな雰囲気が自然に出てる女のコは、絶対に年配のお客に人気が出るとのこと。

ちょっと首を傾げた自分に、ああいう女のコこそ見逃しちゃダメとも佐々木は力説する。

「わたし、頑張ります!」とか「バンバン稼ぎます!」っていう女の子は空回りすることが多い、と気がついたのはもう少し後になってからだった。

それから1ヶ月後ほどして。

イタトマで、佐々木とサボリ茶をしていたとき。
アレッといった顔で佐々木が言う。

「アッ、この前のコだ、優子だったけ?」
「エッ」
「あの、ピアノのコ」
「はい、はい」
「上にあがっていったよ。男と一緒だった。こっちに気がついたみたい」
「男?」
「おじさんだったから、お客さんだね」

しばらくして彼女が1人で降りてきた。
顔合わせたので挨拶にきたとのこと。
音楽家は礼儀正しいのだ。

「さっきの男は同伴?」
「ハイ」
「そう、がんばってね。なにかあったら電話して」
「ありがとうございました」
「いえいえ、どういたしまして。それで・・・いろいろがんばってね」
「エッ・・・」
「だから、いろいろあるでしょ?カレシと」
「エッ、ハイ・・・」

急に恥ずかしそうな表情になり、彼女は戸惑ったように見えた。

そして「では・・・」としなやかに頭を下げて、3階に上がっていった。

– 2002.6.15 up –